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昼① 伝説の竜現る

竜っしょ。

今回はそんなお話です。


「異世界に転生できるのは、戦いを勝ち抜いた者のみ! さぁ、バトルロイヤルの始まりです!」


 美しい銀髪の女神がそう告げてから、真っ白な空間にしばしの静寂が流れる。女神も含めて55人もいるとなると、静けさがより際立つ。


「……バトルロイヤルって具体的には何するんだ?」


 俺は沈黙に耐え切れず、女神にそう質問した。


「戦いは何回かに分けて行いますが、基本的には異能力バトルになります」


「異能力だと? おいまさか、俺たちは死んだ時点で既に異能力に目覚めているとか?」


 俺の一言で他の死者たちがざわつき始める。中には自分の掌を見つめて、どこか悟りを開いたような表情をする者もいた。すげー受け入れるの早いな。


「いえ、皆さまはまだ異能力には目覚めておりません」


 女神の一言で、皆が一斉に俺のほうを見つめてきた。とても冷ややかな視線だ。……え、これ俺が悪いの? なんか、勘違いさせてごめんね皆。(白目)


「ですので、まず皆さんの能力を決めるところから始めましょうか」


 パチン。女神が指を鳴らすと、何もないところから白く丸いテーブルが現れた。テーブルの中央には、カードの束らしきものが置いてある。


「今から皆さまには、このテーブルのカードを1枚ずつ引いていただきます。引いたカードに書いてある異能力が、皆さまがこのバトルロイヤルで使っていく能力になります。能力の詳細は全てカードに記載されております」


 なるほど。引いたカードに書いてある能力を使って戦っていかなきゃいけないのか。これはもう運ゲーだな。まぁ、もしかしたら使い方次第なところもあるかもしれないが。


「では、この神の間に来た順にカードを引いていただきましょうか。皆さま、順番に並んでいただけますか?」


 いや、そもそもまだやるなんて言っていないんだが。と思ったが、俺以外の全員がテーブルに向って並び始めた。皆、適応力すごいな。まぁかくいう俺も死んでしまって行く当てなどないので、とりあえず並ぶことにした。女神によると俺は最後に来たらしいので、全員が並び終えてから最後尾に並ぶ。


「はぁ、なんでこんなところに迷い込んじまったんだか」


 思わず独り言を言ってしまった。確かに俺はまだ高校2年生で、もっと生きていたいという気持ちはあったが、こんな面倒くさいことに巻き込まれるくらいなら、異世界転生などせずに社長令嬢の犬にでも生まれ変わりたかったものだ。なんて考えていると……


「本当だよね。私、異世界とか異能力とかよく分からないし」


 俺の前に並んでいる女の子が、俺の独り言に反応してきた。うお、すげえ可愛いなこの子。俺と同い年くらいか? 肩につくくらいの長さの赤みがかった髪に、くりっとした目。細身だが、華奢というよりはアスリートのような引き締まった体型をしていてスタイルもいい。……正直、女の子のキャラが登場する度に外見の特徴を羅列していくのは、我ながらキモいし、心の中であっても面倒だが、まぁそれくらい可愛かったのでよしとしよう。神様、俺をこの世界に導いてくれてありがとう。


「だよな。こんな世界本当にあったんだなって感じだ」


「ねー。あ、名前なんていうの? 私はくれないクレア。よろしくね。……ってこれから戦うことになるかもだから、よろしくっていうのも変かな? えへへ」


「かわ……じゃねえ。俺は小間竜騎こまりゅうき。よろしく」


 あぶねぇ。最後の笑顔が可愛すぎて心の声が漏れるところだった。


小間竜騎こまりゅうきくんか。珍しい名前だね」


「いや、紅クレアって名前も中々珍しくね? ハーフ?」


「違うよ。純日本人だよー」


 クレアはえっへん、とでも言わんばかりにドヤ顔でそう言った。何が誇らしいのかさっぱり分からないが、とりあえず適当に愛想笑いをしておいた。美少女は大体何を言っても許される生き物だからな。これは俺の持論だ。


「そう言えば小間君って……あっ、次私の番か」


 雑談をしていると、いつの間にかクレアがカードを引く番になっていた。時の流れって早いな。できればバトルロイヤルなんてやらずに、ずっとこの子と話していたいくらいだ。


「ふむふむ……私のカードは……なるほど」


 クレアはカードを引くと何も言わずに列から離れていった。まぁ列といっても、あとは俺しかいないわけだが。


「カードが1枚しか残ってないと、何故か損した気分になるな」


 引く順番が決まっている以上、決してそん(損)なことはないのだが、なんか余り物を掴まされている気分になるんだよなぁ。 by こまを㋙

 

 つい感傷に浸って、詩を適当に書いてしまった。たった今できた俺の悪い癖だ。


「はぁ。くだらないこと考えてても仕方ねえか……どうか、少しでもマシな能力が当たりますように」


 もしも炬燵こたつを爆破する能力……とかだったらどうしよう。その時は女神に土下座でもして、ドブネズミでもいいから生まれ変われるように打診してみよう。そんなことを考えつつ、俺は引いたカードを確認する。カードの中央には、滅茶苦茶強そうな白いドラゴンの絵が描かれており、絵の下に能力の詳細が描かれていた。


「伝説の竜の力を使役できる……。え? 普通にすごくね?」


 これは、かなり当たりを引けたんじゃないだろうか。他のやつがどんな能力を引いたのかは知らないが、少なくともハズレではないことは確かだろう。俺は引き続きカードに書かれた説明を読む。


「なになに……能力は、伝説の竜と融合することで使用可能。カードを持ちながら最初に口にした体の部位が、竜に変貌する。……マジかよ」


 思っていたのとは少し違かった。てっきり竜を召喚して戦うのかと思ったが、まさか自分の体の一部を竜に変えて戦うとは。これは慎重に考える必要がある。うっかり変な体の部位を口にしないようにしないとな。


「ウェーイ! 皆テンションあがってっか? フゥーーー!!」


 俺が体のどの部位を竜に変えるか悩んでいると、何やら軽薄そうな大きな声が聞こえてきた。声のする方を向くと、茶髪のチャラそうな男が、他の連中に馴れ馴れしく話しかけたり、肩に手を回したりしていた。外見は高校生くらいだろうか。それにしてもうるせえな。考え事をしているときにうるさい奴ほど目障りで耳障りなものはない。俺はチャラ男を黙殺し、引き続きカードの説明に目を通した。


 だが、ここで予想外の出来事が起こる。


「異世界転生とかマジまんじ! おにいさんもよろしゅう! ウェイ!」


 チャラ男がいつの間にか俺に接近しており、いきなり声をかけてきた。この時、驚いてしまった俺は、すごい勢いでチャラ男の方を振り向いてしまった。そして、少し小走りしながら俺に近づいていたチャラ男の膝に、自分の股間をぶつけてしまった。……まさか、この出来事が俺の今後を大きく変えることになるとは、この時は思いもしなかった。


「ほぐぅああ!! ()()()いてえええっ!!」


「わり! 大丈夫かおにいさん!」


「くっ……大丈夫なわけねえだろ。ぶん殴るぞてめぇ」


「わぁぁ! おにいさん!! やっべぇチ〇コ腫れてるって!」


「あ? 誰のせいだと思ってんだよ、マジでころ……うおっ!? なんだこれ!!」


 自分の股間を見ると、生物学上あり得ないレベルでチ〇コが大きくなっていた。しかもまだまだデカくなってやがる。てか、このままだとズボンが破れる!


「うおおおおお! やべええええ!! 何が起きてんだマジで!」


「お兄さん! こうなったら俺が蹴り飛ばして痛みを与えるしかないっしょ! そうすりゃチ〇コも大人しくなるっしょ!」


「何がしたいんだてめぇ! 俺のためを思うならどっか行け!」


「大丈夫! 俺サッカー部だからよ! じゃあ行くぞおにいさん!」


「サッカー部ならなおさらやべえだろやめろおおおおおっ!!」


 俺の願いは届かず、チャラ男はあざやかなサッカーボールキックを俺の股間めがけて放ってきた。だが、チャラ男の蹴りが俺の股間に届くことはなかった。いや正しくは、俺のチ〇コ()()()ものがズボンを突き破り、チャラ男の蹴りをガードした。


「ウェ!? おにいさんなんスかこれ……ヴェッ!?」


 そして、チャラ男の蹴りをガードした俺の()()()は、チャラ男を一瞬で数メートルほど吹き飛ばした。


「……おいおい、嘘だろ」


 俺のズボンを突き破ったモノは、神々しくも温かい光に包まれていた。そして、光はやがて落ち着きを見せ、ついに姿を現した。その姿は……


「はぁぁぁぁん! 竜が! 竜がぁぁ!」


 俺は思わず叫んだ。


 その姿は、俺が引いたカードに描かれていた、伝説の竜……の首から上そのものだった。


「ギャオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 俺の股間から生えてきた伝説の竜の咆哮が、白い空間中に響き渡ったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

次回からようやく戦います。

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