昼⑥ 狂気
これまでに登場した異能をざっくりと書いていきます。
小間竜騎
異能:伝説の竜
体の一部を伝説の竜に変化させることで力を使えるようになる。
異能、魔術を無効化できる。(竜に変化した部分のみ)
半径2メートル以内の攻撃をオートガードする。(クレアの攻撃は何故かガード不可)
紅クレア
異能:超人化
身体能力、五感が飛躍的に上昇する。
使用者が強ければ強いほど、能力がより引き出される。
伝説の竜のオートガードが何故か効かない。
天上ミコト
異能:黄金の不死鳥
黄金の不死鳥を召喚し、操る能力。
不死鳥が纏う黄金の炎は攻撃手段としてだけでなく、
使用者を含めたあらゆる生物の体力の回復、傷の再生にも使用可能。
俺、小間竜騎と紅クレア、天上ミコトのチーム6は、松笠剛平のチーム2と合流し、レベル30の巨大ガニを撃破した。とはいっても、ほとんどクレアが無双しただけだったが。
さて、そんな俺たちはというと……
「クレアちゃん。助けてくれてありがとうな! 俺、栗原悟! もし生き残ったら、今日の夕飯一緒にどう?」
「い、いやぁ。私は……」
「僕は宮本鉄也といいます。ミコトさん、貴方のような素敵な女性との出会いに乾杯したい気分だ。どうかな? 今夜、僕の部屋に来ないかい?」
「え、えーっと……」
松笠のチームメイトである栗原と宮本という男2人が、我がチームの美少女2人を全力でナンパしていた。
「何やってんだコイツら」
「ほ、本当でやんすよねぇ……」
そういう松笠も、クレアとミコトと話したそうにしていたが、童貞の血が邪魔して、仕方なく顔見知りの俺と話しているといった様子だった。どうでもいいが、童貞の血ってすげぇ言葉だな。童貞が血縁によって決められるのだとしたら、一体松笠はどうやって生まれてきたのだろうか。謎は勝手に深まるばかりだ。
「それにしても小間っち、なんで少し濡れてるんでやんすか」
「あそこの赤髪の女に、湖に向かって投げ飛ばされてな」
「なにしてるでやんすか。もういっそ下だけじゃなくて上も脱いじゃったらどうでやんすか?」
「それは恥ずかしいだろ」
「小間っちの羞恥心の基準が分からないでやんす……」
こんなくだらない会話を交わしていると、今がバトルロイヤルの2回戦であることをどうしても忘れそうになる。こんな場所じゃなければ、こいつらとも普通の友人になれたかもしれない、なんてありもしない考えが俺の頭を巡った。
「くっだらね」
俺はポケットから例の香水を取り出し、3回ほど自分に吹き掛ける。
「おーいい匂いでやんすね! そんな香水どこにあったでやんすか?」
「昨日、女神とSMプレイしてたら、女神のケツの穴からこれが出てきたんだよ」
「女神さんと……SMプレイ……ゴクリ」
ツッコミどころは腐るほどあるはずなのに、俺の適当な冗談に興奮して生唾を飲む松笠。バカだなこいつ。
……本当にバカなヤツだ。
俺は改めて、2回戦開始前に考えていたことを思い出す。まず蟻道冷人と勇者の件。2回戦が始まってから、初めて他チームと接触したが、松笠たちチーム2の誰かが蟻道冷人か勇者であるとは考えにくい。といっても、特にシロだと断定する証拠があるわけではない。ぶっちゃけただの勘だ。
そして、もう一つは……
「松笠。少しいいか」
「どうしたでやんすか?」
クレアやミコトたちからは会話が聞こえない距離にいることを再度確認し、会話を続ける。
「お前に話したいことがある」
「話……でやんすか」
「あぁ、それは……」
俺は2回戦のルールを聞いたときから考えていたとある作戦を松笠に話した。
「た、確かに勝つ確率は上がるでやんすが……。鬼でやんすね、小間っち」
全てを話した松笠は驚愕の表情を浮かべた。
「でも、なんでそれをおれに話したでやんすか? 小間っちにメリットはあるでやんすか?」
まぁ当然そうなるわな。俺は少し寂しげな表情を自分の顔に貼り付け、松笠の問いに答えた。
「まだ知り合って1日だが、俺はお前を友達だと思ってる。このバトルロイヤルの結末がどうあれ、お前と少しでも長くバカやっていたいんだ。どうしても戦いを避けられない状況になったら仕方がないが、それまではお前にも勝ち残って欲しいんだよ」
「小間っち……」
「とはいっても、実行に移すかどうかはお前次第だけどな。じゃあ、俺たちはそろそろ行くわ」
「分かったでやんす。助けてくれてありがとうでやんす!」
俺はクレアとミコトに声を掛けて、先を急ぐように伝える。栗原と宮本が残念そうにしていたが、正直どうでもいい。
「ごめん小間。あの栗原って人、めっちゃしつこくて……。正直助かったわ」
「私も、何度も夜のお誘いが……」
「そうか。もっと早く呼んでやればよかったな」
もっとも、松笠にあの事を話し終えるまでは2人を呼ぶつもりはなかったが。
「ところで竜騎君。先ほど、松笠君とは何を話していたのですか?」
「あぁあれか。ちょっと種を蒔いておいた。芽が出るかどうかは分からないけどな」
正直言うと、松笠たちチーム2には巨大ガニとの戦闘で脱落してもらいたかったが、それが叶わない以上、あいつらには別の形で役に立ってもらうとしよう。まぁ作戦というよりただの保険みたいなもんだから、あまり期待はしないが。
「ところで小間。さっき松笠くんが言ってた覗きってどういうこと?」
「私もそれを聞こうと思ってました」
クソこいつら。覚えてやがったか。松笠の野郎マジで許さねぇ。
「実は、俺もあいつが何言ってるのかよく分からなくてな。次会ったら松笠に聞いてみるといい」
次があれば、の話だが。
「……ふぅん」
「まぁ、とりあえずは不問ということにしておきましょうか」
全然納得がいっていない感じの二人だったが、気にせずに2人の少し先を歩く俺なのだった。
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一方、小間たちチーム6から数キロほど離れた草原にて。あるチーム同士の戦闘が行われていた。
戦っているのは、チーム5の土井恭平とチーム5の唐沢和也だった。
一見、仲間割れのように見えるその戦いだったが、土井の様子が明らかに普通ではなかった。
肌は浅黒く変色し、生気が感じられないほどに乾燥しており、目は真っ赤に充血していた。その姿はまるでゾンビのようだった。
「どうなってやがる! おい土井! なんでトミカちゃんを喰っちまったんだよ! 俺たち同じチームだろうが!」
唐沢は必死に叫ぶが、その声は土井には届かない。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!」
「くそ完全にイカレてやがる! こうなったら俺の能力で……」
言葉もロクに通じない土井に対して、何らかの能力を発動させようとする唐沢。しかし……
「なんだ!? 能力が使えねぇ! どうなってるんだよ畜生!」
「あーっはっはっはっはっ!! 無駄だ無駄だ! お前の異能はもう奪っちまったよ」
土井と唐沢から少し離れた場所で、2人の戦いを見て大笑いする、白人の青年がそう言った。
「いやぁ~傑作だな。ゾンビ映画のワンシーンみたいだぜ。なぁ? 白崎」
「さぁな。大して興味がない」
白人の青年に白崎と呼ばれた40代後半ほどに見える男は、気だるそうにそう答えた。
「っておいおい! あいつをゾンビにしたのはお前だろうが! あっはははは!!」
「あの唐沢という男から異能を奪ったのはお前だがな。レックス」
「そりゃそうでした! 残念! ぎゃはは!」
そうしてレックスと白崎が会話している間に、逃げ回る唐沢が土井に追いつかれてしまった。
ゾンビのような姿になった土井は、まるで数日ぶりの食事かのようにがっついて、唐沢に噛みついた。嚙みちぎった肉片を美味しそうに飲み込む土井。誰の目から見ても異常な光景だった。
「ありゃりゃ! 唐沢ちゃん追いつかれちったな!」
「当然だ。私の『血の惨劇』でゾンビ化した人間は、超人的な身体能力を手に入れる。反面、知能は低下してしまうがな」
「異能も持たねー人間が逃げ回っても、捕まるのは時間の問題ってわけだな! つか唐沢喰われたから、あとはゾンビ化した土井だけだな! オーイ! 終さぁん!」
レックスが大声でとある男の名前を呼ぶ。終と呼ばれた端正な顔立ちをした少年は、レックスと白崎から少し離れたところで、地面に何かを書いていた。
「大丈夫だよレックス。もう書き終わったから」
終がそう言った直後……
「ギャァオオオアアアッ!!!!」
突如、ゾンビと化した土井の体が業火に包まれる。ゾンビの肉体を焼き尽くす炎に、人ならざる声で苦痛に悶える土井だったが、炎の勢いが衰えることはない。
やがて土井の叫び声も聞こえなくなり、そこでようやく、土井の体を包んでいた炎が鎮火した。
「いや~。やっぱおっかねぇなぁ! 終さんの能力は! 同じチーム9で本当に良かったぜ!」
「レックスの能力だって、相当強いじゃないか。相手の異能を奪ってそれを使えるなんてさ。僕の異能よりよっぽど使い勝手がいいよ」
「そうすか? まーでもストックできる異能は一つだけなんで、そんなでもないっすよ!」
がはは! と、豪快に笑うレックス。そんなレックスとは正反対に、冷めきった様子で白崎が口を開く。
「さて終よ。とりあえずこれで1チームだが、どうする? 1時間ほど経過したが、まだ1チームしか倒せていないぞ。2回戦のフィールドは想像以上に広い。果たして他のチームを倒しきれるかどうか」
「逆だよ白崎。制限時間は5時間だったよね? 今、1時間に1チーム倒せたってことは、単純計算で残り4時間で4チーム潰せるってことでしょ? 僕たちならできるよ」
男性にしては高めの声で、終が淡々とそう言った。
そんな簡単な話じゃない。楽観的過ぎる……と白崎は思った。
1時間以内に1チーム倒せたのは、はっきり言って偶然だ。今できたからといって、残り4時間で同じことができることの証明にはならない。
だが、白崎が終の話に異を唱えることはなかった。
「(私はこの少年を……終始を知っている)」
白崎がこの神の間に来る前、つまり前世で、白崎は終のことを知った。
僅か13歳ほどの少年が連続殺人事件を起こし、その少年が警察から逃げ回っている最中に交通事故に遭い死亡したというニュースを見たときに。そして、その少年の名が終始だったのだ。
白崎が終に抱いているのは、純粋な恐怖心だ。故にこの少年に逆らうことは一切しない。
しかし、終が死亡したというニュースを見たのが2019年、白崎が死んだのは2020年だというのに、まさか同じタイミングでこの神の間に辿り着くとは。どうやら、死後すぐに神の間に行けるわけではないようだな……と、白崎は結論付けた。
終始と関わることになってしまった白崎は自分の不運を呪ったが、逆にこの悪魔のような少年と同じチームになれたことで、負ける気がしなかったのも事実だった。
「……そうだな、私たちならできる」
「そうそう! 俺たちの能力、割とチート寄りっぽいし、マジでいけるだろ!」
「じゃあ、他のチームを探しに行こうか。モンスターはそのついでに殺せばいいよ。うん」
そう言って、草原から少し離れた森へ向かおうとするチーム9だったが……
「なんだよ。お前ら他チーム狩りしてんのか? 俺たちも混ぜろよ」
「……君は確か」
「チーム3のイリスだ」
黒髪に赤いメッシュのイリスという男に声を掛けられたチーム9。
イリスの後ろには、マフィアのような大男と弱弱しい眼鏡の少年がいた。
「君たちがチーム3かぁ。昨日の夜のフェーズに色んな人に絡んでた怖い人たちだよねぇ? そっちの眼鏡の人は知らないけど」
「あぁ。昨日はちと人を探してたんでな」
「そうなんだぁ。で、見つかったの?」
「まぁな。だが夜は他プレイヤーを殺せないからな。今もそいつを探して回ってるってわけだ」
「そっかぁ。もどかしいよね。分かるよ」
脱力した様子で会話をするイリスと終。
「ちなみに僕は探し人見つかったよ」
「はぁん。よかったじゃねぇか」
「うん。他チームを探し回って殺そうとしてるときに、いいタイミングで来てくれたよ君たち」
終がそう言うと、レックスと白崎がイリスを囲むように移動した。
「へぇ。俺とやろうってか」
「君だけじゃなくて後ろの2人もね。中途半端に殺して高得点を与えるようじゃマヌケだからね」
「クハハハ! 面白れぇなテメェ! 来いよ!」
こうしてイリス率いるチーム3と、終率いるチーム9の激闘の幕が上がったのだった。
バトルロイヤル2回戦『チームで協力! モンスターハントバトル!』
残り4時間
脱落チーム:チーム5(土井恭平、山下トミカ、唐沢和也)
お読みいただきありがとうございます。
次回はチーム3とチーム9の対決です。




