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昼⑤ 蟹美味しいよね

فول سوداني


 バトルロイヤル2回戦、モンスターハント。


 俺、小間竜騎と紅クレア、天上ミコトのチーム6はスライム21匹と木人もくじん1人を倒し、森の奥へと進んでいた。


「スライムと木人で合計31点か。いや、平均点で競うから実際は3人で割って10点か」


 ちなみに平均点を算出する際の小数点は切り捨てるらしいので、ここでは特に考えない。


「数えてたんですか? 竜騎君」


「一応な。まぁ点数を把握していても、していなくても、やることは変わらねえけど」


「おー。アンタ、そういうところは抜かりないわね」


「まぁな。お前にはできない足し算と割り算っていう計算だ。もし来世人間に生まれ変われたら役に立つから覚えといたほうがいいぜ」


「色々言いたいことはあるけど、そろそろ本気で殴るわよ」


 え。今までの本気じゃなかったんですか?

 衝撃の事実に若干漏らしかけた。


「しかし、全然出てきませんね。モンスター」


「そうだな。あ、いいこと思いついたぜ」


「なによ」


 俺はとっさに思いついた画期的な作戦を提案することにした。


「さっき、森の木に化けてた木人ってモンスターがいたろ。だったら、ここら一帯の森を焼くかなぎ倒すかして一網打尽にしちまおうぜ。見晴らしもよくなって一石二鳥だろ?」


「竜騎君。それは……」


「自然破壊……アンタ本当に最低ね」


 なんか、ドン引きされてる気がする。


「気にすんなよ。ここ地球じゃねえし。てかこの世じゃねえし」


「まっ。確かにそれもそうね」


「クレアちゃんまで!? ま、まぁ私はおふたりの意見に従いますが……」


 こうして、俺たちはとりあえず近場の森を破壊することにした。


「ドラゴンブレス!」


「パンチパンチパンチ!」


「黄金の炎!」


 俺とミコトの炎で森を焼き、クレアのパンチで木々が次々とへし折れていく。


「ギョエ!」(木人が燃える音1)


「キェェ!」(木人がへし折られる音)


「ギャァ!」(木人が燃える音2)


 俺の予想通り、森を破壊する過程で眠っていた木人を大量に仕留めることができた。

 そして、森を破壊し突き進むこと数十分、俺たちは川原かわらのような場所へと辿り着いた。


「のどかだねぇ。キャンプでもしたいもんだぜ」


「ホントね~。まぁ、さっきまで自然破壊しまくってた私たちに、自然を楽しむ権利なんてないけどね~」


「痛いところ突くなよ。ははは~」


 川のせせらぎを聞いて、ついのんびりとした口調になってしまう俺とクレア。

 さっきまで能力を使いっぱなしだったからな。多少疲労が溜まっていたのもあるのだろう。


「竜騎君。クレアちゃん」


「どうしたんだミコトー。ちょっとだけ休もうぜ。お前も疲れてるだろ?」


「どうやら、休んでいる場合ではないみたいですよ」


 ミコトが指を指す方向に目を向ける、俺とクレア。

 そこには、10メートルを超える巨大な蟹が暴れている光景が映し出されていた。


「なんだあのクソデカい蟹は!?」


 巨大な蟹の頭上には「川の主 : Lv30」と表示されていた。


「レベル30? 急に上がったわね」


「レベルが高いなら好都合だな。高得点ゲットのチャンスだぜ」


「でもあの蟹、誰かと戦っていませんか?」


「え?」


 確かに、巨大ガニはその巨体に似合わぬ速度で動き回り、誰かに攻撃している様子だった。


「どうやら、蟹さんは他チームと交戦中みたいだな」


「苦戦してるみたいね。加勢しにいきましょう!」


 何やら意気込むクレア。……このアホ女、今やってるのがチーム対抗戦だってこと忘れてんのか?


「加勢してどうすんだよ。蟹のライフが尽きるギリギリまで待って、最後にあいつらごと焼き払えばいいだろ」


「アンタ本当に最低ね!」


「ですが竜騎君。他チームへの攻撃はあまりオススメしません」


「んまぁ、それは確かにな」


 モンスターと他チームを同時に攻撃して、仮にモンスターにトドメを刺せたとしても、他チームの奴らまで倒せるとは限らない。その後、他チームが俺たちに敵意を示し、無駄な交戦を生むかもしれない。それに他チームを仕留めるからには、確実に3人全員を倒さなければならない。最後に計算されるチーム毎の平均点は、2回戦終了時点で生き残っている人数で計算される。2人生き残っている場合は総合点の半分、1人生き残っている場合は総合点を総取り……といったように、敵チームの人数を中途半端に減らすことは、逆に相手の高得点に繋がってしまう。


「加勢して獲物を横取りしても、面倒な揉め事になるかもしれない。かといって、あいつらに点数譲るくらいなら、そもそも加勢するメリットがねーし……。しゃーねー。他のモンスターを探すか」


「そうですね」


「う、うん。仕方ないけど……」


 俺たちは他チームの戦闘にはノータッチの方向で行くことにした。

 ……のだが。


「あーーーーーっ! 小間っち! 助けてくれでやんすぅ!」


 聞き覚えのある声の方に目線を向けると、そこには、巨大ガニと交戦している松笠剛平とそのチームメイトと思われる見知らぬ男2人の姿があった。


「あれは、松笠君ではありませんか」


「お友達? アンタの名前呼んでたけど」


「オトモダチ? 蟹のエサか何かか?」


「アンタ……そこまでいくと逆に清々しいわね」


「小間っちぃぃぃぃぃぃっ!! 聞こえてるでやんすよね!? おれたち親友でやんすよねぇ!?」


 しつこい野郎だな。しかも勝手に親友認定されてるし。ごちゃごちゃ騒いでないで、さっさと蟹に食われるんだな。


「竜騎君。流石に可哀想では……」


「別にいいんだよ。ここはサバンナだ。全てが弱肉強食なんだよ」


 1秒未満で考えたことを適当に喋る俺。我ながらクソテキトーだなと思いました。


「小間っちいいいいいっ!!」


 未だに叫び続ける松笠。しぶといな。残念だがお前を助けてくれるやつなんてここにはいないんだ。

 華々しく散ってくれ。


「こまっちいい!! 昨日一緒に女湯を覗きに行こうとした仲でやんすよねええええっ!!?」


 なっ!? あのバカ野郎なに叫んでやがる!

 死ぬなら一人で死ねよ!


「……え、覗き? 今、覗きって聞こえた気がしたのですが……」


「……小間。あれどういうこと?」


「説明している暇はない! 目の前で人が死にそうになってるんだぞ! まず助けるのが仲間だろうがあ!」


 俺はダッシュで巨大ガニと交戦している松笠の元へ向かった。


「松笠ぁ! 助けに来たぞ!」


「小間っち! 信じてたでやんす!」


「あぁ。だからもう喋るな。傷に障るぞ!」


「え? おれは1発も食らってな……」


「喋るな!」


 頼むから、これ以上余計な事言わないでくれ!

 お前が余計なことを言うたびに、未来の俺の傷が増えていくんだよ! 女湯を覗いたなんてクレアにバレたら、最悪の場合、俺は2度目の死を迎えることになっちまう! え、ミコト? あいつは優しいし、おっぱい大きいから許してくれんだろ!(謎理論)


「竜騎君。とりあえずこの蟹を倒しましょう」


「あぁ。今夜は蟹鍋だ!」


 心の中で噂をすればなんとやら。

 少し遅れて加勢しに来たミコトと、俺はアイコンタクトを交わす。


「食らえカニさんよ! ドラゴンブレス!」


「いきます! はぁ!」


 俺とミコトは、それぞれドラゴンブレスと黄金の炎を巨大ガニに向かって放つ。

 巨大な蟹が凄まじい勢いで焼かれていく。だが……


「おい、ライフが全然減ってねぇぞ!」


「小間っち! そいつに炎は効かないでやんす! 俺の仲間が実証済みでやんす!」


「ちっ……めんどくせーな」


 こうなったら、俺の竜で直接殴りつけるしか……


「皆! 避けるでやんす!」


 松笠がそう言った直後、巨大ガニが高速で腕のハサミを振り下ろしてきた。


「はっ! んなもん効かねぇな!」


 俺は、巨大ガニの一撃を竜のオートガードで軽々と受け流す。


「すげぇでやんす小間っち!」


「これが竜堂寺拳法りゅうどうじけんぽう、柔の技、無空むくうだ……」


 ありもしない架空の拳法をドヤ顔ででっちあげる俺。一回こういうのやってみたかったんだよな。聞かれてもいないのに技名を説明する、みたいなの。


「何言ってんのアンタ。今のはアンタの竜が勝手にやっただけでしょ。格闘技に関しちゃずぶの素人でしょうが」


 俺の冗談をガチ訂正するクレア。こいつマジで空気読めないな。一周回って天才なんじゃないかと思えてきた。


「つかお前、俺を勝手に素人って決めつけんなよ」


「動きみりゃ分かるっての。いいからどいてなさいよノロマ!」


 クレアはそう言うと、桁違いのスピードで巨大ガニの元へ移動していった。巨大ガニは高速移動するクレアに向かってカウンターの要領で腕のハサミを放つが、クレアは最小限の動きで楽々それを躱す。そして、一瞬で蟹の頭上へ跳躍した。


「いくわよ!」


 クレアはそう言うと、残像ができるほどの速度の連撃れんげきを巨大ガニの頭に叩きつける。まるでガトリングガンのような勢いだが、一発、一発、拳を放つたびに大気を震わすほどの衝撃音が走る。ある程度距離を取っているこちらにまでビリビリと伝わるほどの衝撃だ。

 そして、怒涛の連撃れんげきの直後、ついに巨大ガニの甲羅部分がバキバキと音を立てて割れ始めた。


「蟹味噌みっけ! これでトドメよ!」


 クレアは連続パンチを止め、甲羅で覆われていた蟹味噌の部分に踵落としを放った。

 ドォン! ……と、まるでミサイルが着弾したかのような轟音と共に、巨大ガニがバラバラに砕け散った。

 クレアはバラバラになった巨大ガニから飛び降り、そのまま華麗に着地した。


「よっしゃぁ! どんなもんよ!」


「……お前、ゴリラ通り越してバケモンだな」


 どうやら、今まで俺に食らわせていた攻撃はマジで本気じゃなかったらしい。これがクレアの本気……。人間離れした強さ……どころか、これじゃ人間兵器だ。なんて考えていると、クレアが衝撃の一言を放った。


「いや~レベル30のモンスターだから30パーセントくらいの力で攻撃したけど、意外となんとかなるものね~」


「は!? 今の爆撃みてぇなのが30パーセント!?」


「……そうだけど?」


 あっけらかんと言うクレア。……流石に冗談だと思いたいが、クレアがそんな冗談を言うとは思えない。きっとマジなんだろうな。こいつが本気で戦ったらどうなってしまうのだろうか。あまりに底なしのクレアの強さに、恐ろしい想像が止まらない俺だった。

 というか全然関係ないけど、今のこいつのセリフってなんか……


「自分の力をパーセントで表現するのって、なんか主人公っぽいよな。少年漫画とかライトノベルとかの」


「確かにそうでやんすね……」


 俺の独り言に横槍を入れてくる松笠。どうやら松笠も、クレアの常軌を逸した強さにドン引きしているらしい。まぁ当然と言えば当然だが。


「しっかし、それを聞いた小間っちのリアクションは完全に脇役のそれでやんしたねぇ!」


「あぁそうだな……ってうるせぇよ」


 なんて余計なことを言うんだコイツは。普通に殴ろうかと思ったわ。というか、語尾にやんすとか付けてる奴に脇役とか言われたくねぇ……。

 先ほどまでの激しい戦闘が嘘のように、川のせせらぎだけが聞こえてくる静寂の中、松笠を助けたことを少し後悔した俺なのだった。


お読みいただきありがとうございました。

次回は、あるチームが頭角を現します。

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