昼④ 黄金の不死鳥と超人化
自撮り棒折れた
「ぶはぁ! あっちょんぶりけぇっ!」
紅クレアに湖に投げ飛ばされた俺は、股間の竜の重さに邪魔されつつも、なんとか地上に上がることに成功した。
「危うく溺れるところだった。てか、誰か助けに来いや……ってなんだこりゃ」
そこには、20匹ほどのスライムたちに囲まれたミコトとクレアの姿があった。
「あっ竜騎君! すみません。スライムが大量発生しまして、助けにいけませんでした」
「それはいいんだが……クレアのやつはなんで泣いてるんだ?」
「うぅ……スライムちゃんがこんなにたくさんいるのに、倒さなきゃいけないなんて~」
どうやら、スライムが可愛くて倒せなくて泣いているらしい。くだらない事この上ないな。
「仕方ねぇ。使えないメスゴリラは置いといて、さっさとカタを付けるか」
「竜騎君。ここは私に任せてください」
「いいのか?」
「えぇ。お二人に私の能力を知っておいてほしいので」
ミコトがそう言った瞬間、ミコトの体が黄金の炎に包まれていった。
そして黄金の炎は、ミコトの頭上に集まっていき、やがて巨大な翼を持つ鳥類のような姿を形成していった。
「これが私の能力。黄金の不死鳥です」
全長5メートルほどの火の鳥。その全身が、太陽のように輝く黄金の炎に包まれている。
そして炎の奥に見える鋭い眼光。伝説の竜にも引けを取らない圧倒的な威圧感だ。
「す、すげぇ……。これが不死鳥……」
「では、いきますね」
その瞬間、不死鳥は大きく翼を広げた。その翼から、先ほどまでとは比べ物にならないほどの巨大な黄金の光が、20匹ほどのスライムたちに向けて放たれた。
「「ギュェェェアアアアアッ!!!!!!」」
光を浴びたスライムたちは、一瞬で蒸発して消えてなくなってしまった。
「いやあぁ! スライムちゃんたちがぁ!!」
スライムたちの蒸気を見て、さらに号泣するクレア。
いつまで泣いとんねん。お前の涙も蒸発させてやろうか。
「クレアちゃん。いい子だから、泣き止んでください……」
「ぐすん。ミコトさん……」
辛辣なことを考える俺と違い、クレアに寄り添って慰めるミコト。
改めて、本当に優しいやつだな。その美貌も相まってまさに女神のようだった。もうこいつが女神のほうがいいんじゃね? とか思わなくもない。
「クレアちゃん。これをあげますから、元気出してください」
「ぐすっ。なんですか? それ……」
「先ほど散っていったスライムの目玉です。落ちてました」
「いやああああああっ!! スライムちゃあん!!」
前言撤回。こいつは女神失格だ。
というかミコトのやつ、これでアフターケアのつもりなんだろうか。天然もここまで来ると凶器だな。
「あらあら。クレアちゃんまた泣いちゃったので、この目玉は竜騎君にあげます」
そう言って、ほいっと俺のほうにスライムの目玉を投げつけるミコト。
「いや、いらんがな」
すると、俺の駄竜が投げられた目玉をモンスターの攻撃だと認識したのか、目にも止まらぬスピードで捕食してしまった。これもオートガードの一環なのだろうか。
「ピチャッ! グチャッ!」
「うわ、きたねー」
捕食された目玉は、砂よりも細かい粒子となって消えてしまった。
「散り際は鮮やかだったな」
「そ、そうですか? あれ竜騎君。ライフが少し減ってますよ」
「え? あ、本当だ」
ほんの僅かだが、緑色のライフゲージが減少している。
「どっかの赤髪クソゴリラにぶん投げられたからだな」
「なら、私が治しますよ」
「できるのか?」
「はい。じっとしててくださいね」
ミコトがそう言うと、俺の体に先ほどの黄金の炎が灯り始めた。
「なにすんだよ! あれ……あつくねーな」
「それは回復用の炎なので」
「回復もできるのか。黄金の不死鳥」
「そうなんです。あ、そうだ。折角なので、私の能力カードを見てください」
「……いいのか?」
「今は味方なので、大丈夫ですよ」
ミコトはそう言うと、能力が書かれたカードを取り出して俺に見せてきた。いくらなんでも不用心すぎる……とも思ったが、俺としてはいずれ敵になる者の能力を知っておいて損はない。俺はミコトが見せてきたカードを確認する。内容は以下の通りだ。
・黄金の不死鳥を能力者が視認できる範囲内で操る能力。
・黄金の炎を用いた攻撃、防御、回復・再生が可能。
・黄金の不死鳥はいかなる攻撃、能力を以てしても倒すことはできない。
「これは……とんでもない能力だな」
「そうかもしれないですね。能力には割と恵まれたかもしれません」
割と……どころか、大当たりもいいところだな。大きな弱点が一切見当たらない。ほぼ全ての状況に対応できる、オールマイティな能力だ。
まぁサシでやり合えば、異能の力を無効化する俺の竜に敵いはしないだろうが、もし今後、よりライフが重宝される対決が行われるとしたら、こいつは非常に脅威になる。
「はい、終わりました」
「サンキュー。本当にライフが回復してらぁ」
若干減っていたライフは、すっかり元通りになっていた。
「ぐすん。すごいね、ミコトさんの能力」
「やっと泣き止んだか。ゴリラの目にも涙だな」
「誰がゴリラよ。それじゃ性別が分からないじゃない。メスを付けなさいメスを」
「ついにゴリラであることを認めたか」
「あっ……。だ、誰がゴリラよ!」
「気付くの遅っ。頭の回転も猿並みだな」
俺がいつも通りクレアをからかっていると、森の奥で何かがガサガサと動く音が聞こえてきた。他チームの奴らが来たのか? そう思ったが、どうも違うらしい。
それは、約10メートルほどの木がまるで生き物のように左右に揺れている音だった。揺れる音は徐々に激しくなっていく。
そして、その木は地面を砕き、こちらに向かって走り始めた。
「うぉ! 木がこっちに走って来たぞ!」
「竜騎君、あれもモンスターみたいですよ!」
ミコトの言う通り、走ってくる木の頭上に「木人 : Lv10」と表示されていた。
Lv10ということは、あいつを倒せば10点入るってことか。
「随分でけぇがやるしかねぇか。俺のドラゴンブレスで燃やして……」
俺がそう言いかけた、その直後だった。
ゴウゥッ!!
木人が大砲のような一撃を食らい、森の木々をなぎ倒しながら、一瞬で森の奥へ吹き飛ばされていった。
「なんだ。Lv10っていっても、全然大したことないわね」
あっけらかんとした様子でそう言ったのは、先ほどまで俺の後ろにいたはずのクレアだった。
はは……今のこいつがやったのか。よく見ると、クレアの右の拳からほんの僅かに蒸気が上がっている。パンチ一発であの威力かよ。
ミコトの能力も極めて強力だが、俺にとっての天敵はやはりコイツだ。俺のオートガードが何故か効かない上に、この超人的な身体能力。とことん俺と相性が悪い。
「ナイスです、クレアちゃん!」
「ミコトさん! イェーイ!」
ハイタッチをする2人。可愛い外見の2人だが、決して侮れない。改めて味方でよかったと思う。
それと同時に、今後こいつらが敵に回った時のことを考えてしまい、少しゾッとする俺なのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回は蟹でやんす。




