昼② ひと狩りいこうぜ
基本的に利用規約は大して読まない派です。
「2回戦の対戦内容は……『チームで協力! モンスターハントバトル!』です!」
女神が高らかにそう叫んでから数秒、俺たちは静寂に包まれていた。
どれくらい静かかと言うと、そよ風の音がめっちゃ聞こえるくらい。
「こほん。というわけで、今からルールをお伝えします。こちらをご覧下さい」
女神がそう言うと、見覚えのあるモニターのような映像が、数メートル上方に映し出される。
映像には、長ったらしい文がつらつらと記載されていた。内容は以下の通りだ。
〜 チームで協力! モンスターハントバトル! ルール説明 〜
① 3人1チームの合計9チームで、ステージ上のモンスターを討伐していき、点数を競っていく。
② 制限時間は5時間。2回戦終了時に算出する平均点が高い上位4チームが3回戦進出。
※平均点が0点となったチームは脱落扱いとなる。
③ 平均点の算出方法
平均点(小数点切り捨て) = 総合点 / 2回戦終了時点でのチームの人数
④ モンスターを倒したときの得点はモンスターのLvの値と同じであり、点数は個人ではなくチームに加算される。
⑤ ライフが0になったプレイヤーは脱落となるが、チームのメンバーが全滅しない限り、チーム単位での脱落扱いとはならない。
⑥ 他チームとの戦闘行為は認められている。ただし、他チームのプレイヤーを倒したとしても、自チームの得点に影響はない。
⑦ 他チームと協力して、モンスターを討伐する行為は認められている。ただし得点は、そのモンスターを倒したプレイヤーが所属するチームにのみ加算される。
⑧ 2回戦終了時点で、1~4位までのチームが5チーム以上存在していた場合、チーム数に関わらず、1~4位までのチームが3回戦進出となる。
⑨ 2回戦終了時点で、生存チームが3チーム以下の場合、得点に関わらず、生存チームは3回戦進出となる。
「随分と細かく書かれてるな……」
こういうルール説明を読むのは、正直あまり好きではないが、一応全ての文に目を通す。
……なるほど。大体理解したが、やはり気になるのは、順位を決める基準となるのが、チームの総合点ではなく平均点であるところだ。何故、わざわざ面倒な比較基準を設けたのだろうか。女神なりに何か狙いがあるのか、それは定かではないが、やることは至ってシンプルだ。制限時間以内にステージ上のモンスターを片っ端から倒していく、それだけだ。
「よろしいでしょうか。よろしければ、早く先に進めたいので、質疑応答は省きますね」
女神が綺麗な声で淡々とそう告げた。いや、質問は受け付けないって……あいつ、ゲームの進行とか向いていないんじゃないか? いや、もっと言うとだ。プレイヤーに対する気遣いのようなものを微塵も感じない。本当に俺たちに興味がないんだろうな。人々が抱く一般的な女神のイメージとは、随分かけ離れているように思う。
「では、今からチーム分けについてお伝えします。引き続き、映像をご覧下さい」
女神がそう言うと、先ほどまで細かくルールが記載されていた映像が、チームの詳細が記載された映像に切り替わった。内容は以下の通りだ。
チーム1
海藤咲夜 A-12
砂肝汐里 C-03
出部栖マキナ D-04
チーム2
松笠剛平 B-09
栗原悟 A-02
宮本鉄也 C-05
チーム3
イリス C-11
エリス A-10
西園寺孝明 C-08
チーム4
空木勇馬 B-01
桃木瞑亜 D-13
葉山健 B-11
チーム5
土井恭平 D-06
山下トミカ D-07
唐沢和也 B-05
チーム6
小間竜騎 E-02
紅クレア A-03
天上ミコト A-13
チーム7
斎藤連 C-12
渡辺亮 C-02
塩浜聖 D-01
チーム8
万丈龍之介 D-10
鳥皮好実 B-04
高本慎太郎 A-07
チーム9
白崎祥吾 D-09
レックス A-06
終始 B-08
俺はざっと各チームのメンバーを確認する。俺はチーム6に振り分けられており、クレアとミコトと同じチームだ。ミコトはともかく、クレアと同じチームになるとは。まともにチームプレイができるか不安だが、ここは美少女2人と同じチームになれたことを喜ぶべきか? いやいや……これが仲良しこよしのレクリエーションならともかく、実際行うのは生死を賭けたデスゲーム。使える能力さえ持っていれば、顔の造形など整っていようが崩れていようが知ったことではない。そう考えると、クレアの強さは戦力となること間違いなしだろう。
さて……。メンツのことは一旦置いておくとして、やはり気になるのは……
「女神様よ。プレイヤーの隣に書いてある枝番にはなんの意味があるんだ?」
俺が女神にそう質問すると、他のプレイヤーたちが少しざわつき始めた。まぁ当然気になるところだよな。1回戦のときは、あんな枝番はなかったからな。
「その番号は……こっちの方が見やすいという話だったので」
「見やすい?」
「いえ、なんでもありません。規則なので答えられません」
出たよ、女神様の十八番。この規則オバケが。
こうなると、番号の意味は自分で考えるしかないのか……。正直、さっぱり分からない。強いて言うなら、気になる部分はなくもないが……まぁ女神が言及しないということは、2回戦にはあまり関係ないということなんだろう。そういうことにしておこう。
「では皆さん。映像のチーム分けの通りに集まって下さい」
女神がそう言うと、プレイヤーたちがそれぞれ声を掛け合って集まっていく。俺も、クレアとミコトのところへ行くとしよう。
「竜騎君!」
俺が探し始める前に、ミコトの方からこっちへ来てくれた。しかし、本当にすげぇおっぱ……じゃなくて美人なおっぱいだな。
「おーミコト。とりあえず一緒に生き残ろうぜ。よろしく」
「こちらこそです! 正直、誰とチームになるのか不安でしょうがなかったのですが、竜騎君と同じチームでよかったです」
あー癒される。美人だし、金髪綺麗だし、優しくて、なによりおっぱいがデカい。こんな男の理想みたいな女の子、この世にいるんだな。
「なに鼻の下伸ばしてんのよアンタ。キモいんだけど」
俺がミコトの女子力に感動していると、赤髪の美少女の皮を被った脳筋メスゴリラこと、紅クレアが現れた。
「出たなリンゴリラ」
「誰がリンゴリラよ! ……え、どういう意味?」
「林檎みたいな髪色してるゴリラ、だからリンゴリラだ。一から説明してやれなくてごめんな。ほら、バナナやるよ」
俺はそう言うと、股間の竜をクレアに向けて突き出す。
「こんなバナナいるか!」
クレアはそう言うと、俺の竜をビンタした。普通にいてぇ……。やっぱゴリラだわこいつ。
「皆さんチーム毎に集まったようですね。それでは、今から皆さんをそれぞれのスタート地点へ転送します。転送が完了したら、2回戦開始となります。モンスターをじゃんじゃん倒しちゃって下さい」
「はぁん。チームによってスタート地点が違うんだな」
「では最後に、私から一つアドバイスをさせていただきます」
わーい。安定のガン無視だーい。
「時間が経過するにつれて、出現するモンスターのレベルはどんどん上がっていきます。ですので、最後までチームでちゃんと協力して戦うことをお勧めします」
女神はそう言うと、一瞬だけ俺の方に目線を向けた。
……なるほどな。俺はその一瞬で女神の意図を汲み取り、女神にアイコンタクトを送る。
「(夜、寂しいんだろ? 今夜、抱いてやるよ)」
「(違います。死んでください)」
俺の愛のメッセージは、冷酷な死の宣告となって返ってきた。
まぁ冗談はさておいて、今のは全員へのアドバイス、と見せかけた俺への忠告だ。
時間が経過するほどにモンスターが強くなる……つまり、蟻道冷人が時間経過と共に力を取り戻していくことを、遠回しに俺に再確認しているように聞こえる。まぁ端的に言えば、依頼した件忘れんなよ……ってことだろうな。
いや、それだけじゃないか。もちろん時間経過につれてモンスターのレベルが上がっていく……というのは嘘ではないだろうが、おそらく女神が伝えたかった意図は別にある。回りくどい言い方だったが、これはアドバイスというより忠告に近いな。この情報をどう活かすかも、2回戦を勝ち残る上で重要なポイントとなってくるだろう。
「では転送します! 2回戦……スタートです!」
女神がそう叫んだ瞬間、目前の景色が一変した。そこには日差しを遮るほどの高々とした木々と、透明度の高い湖が広がっていた。どうやら、森の水辺みたいな場所に転送されたらしい。なお、クレアとミコトも無事に転送されてきたようで、俺と同じように目の前の景色を唖然として眺めていた。
「しかし幻想的な景色だこと。5時間くらい昼寝したいもんだな」
「それじゃ2回戦が終わっちゃうでしょ」
適当な冗談に、真面目に返すクレア。
「分かってるっての。とにかく、ここがチーム6のスタート地点ってわけか」
「モンスターを倒していく……という話でしたが、一体どこにいるのでしょうか」
「さぁ。適当に探すしかないんじゃねーか?」
俺はどんな姿をしているかも分からないモンスターを探すために辺りを見渡した。そのとき、視界の右上に1回戦と同じように緑色のバーが表示されていることに気が付く。そして、クレアとミコトの頭上にも同じように緑色のバーが表示されていた。
「1回戦と違って、他のやつのライフゲージも確認できるんだな」
「みたいですね。自チームだけでなく、他チームのライフも確認できるんでしょうか?」
「遭遇してみないことには分からないな」
「ねぇ! ちょっと!」
俺とミコトが話していると、クレアが何やら慌てた様子で遮ってきた。
「んだよ。そんなウホウホ騒いで。好みのオスゴリラでも発見したか?」
「天上さん! あれ見て!」
わはは。ついに黙殺されちゃったぞよ。
だが、そんなイジメに屈することなく、俺はクレアが指を指している方向を確認する。
そこには……
「……なんだあれ。み、水?」
そこには、透明に近い空色をした水の塊……のような生き物 (?)がぽよん、ぽよんと跳ね回っていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、あの有名なモンスターが跳ね回ります。




