女神の気まぐれ
ゴスロリ邪神ちゃんが女神やってたときのお話です。
それは何千年も前。
異世界と呼ばれている世界に、まだ魔族が存在していない時の事。
そこは下界の者では立ち入れない、神のみが存在する事を許された場所。
女神の名を持つゴスロリ少女は、退屈そうに異世界を眺めていた。
「はぁ、来る日も来る日も異種族間での低レベルな争い……本当、下界の種族は愚かっすね~」
当時の女神の役割は下界の監視。ただそれだけ。
そんな呆れるほど退屈な日々に、女神は辟易していた。
「大体、監視って言っても、下界で何か起きたところで女神が手を出すことは禁止されてるし、マジなんの意味があるんすかこれ~。見てるだけなんてつまんねっすよー」
思わず愚痴をこぼす女神だったが、直後にハッとなって口を大げさに手で塞ぐ。
「やっべ。今のガチ神に聞こえたら消されますね。けど、まぁいいか。どうせ喋らなくても筒抜けだろうし」
女神がガチ神と呼ぶ存在。
女神、邪神……ありとあらゆる神の生みの親。
真の神という意味を込めて、女神はガチ神と適当に呼んでいる。
「けどあの神、適当に神様作り過ぎなんすよねぇ。女神とか邪神とかならまだしも、ヒザ神とか肘神とか最早何の神だよって感じっすよねー。いや、それでいったら女神も大して変わらないっすけど」
自嘲気味に溜息を漏らしながら、不満を口にする女神。
ただ下界を監視するだけの存在の意味に、女神は疑問を抱いていた。
「ちょっと刺激が欲しいなー。……あ、そうだ。いい事考えたっす」
女神が指をパチンと鳴らす。
すると、女神に瓜二つのゴスロリ少女が光の点滅のように姿を現した。
ただし、瓜二つと言ってもその姿は全身モノクロ、瞳の色は黄金ではなく赤だった。
「いや~客観的に見ると私ってめっちゃ可愛いっすねー。ってそんな事はいいか。今からアンタには下界に降りて世界を滅茶苦茶にしてもらうっすよ~」
先ほどまでとは打って変わって、愉快そうな笑みを浮かべる女神。
人差し指をご機嫌に振りながら、何かを口にし始める。
「邪神……だと名前が被るから、そうだ、魔王にしよう。名前の響き的に属性は闇……真っ黒な翼を生やすのもいいっすね~。でも天使みたいなのじゃなくて……そうだ、下界の蝙蝠とかいう生き物の翼みたいな感じにして~あ、角も生やそっと」
女神が何かを呟くたびに、「魔王」と名付けられた女神に瓜二つの少女の外見が変わっていく。
その様子はさながら、ゲームのキャラクターメイキングのようだ。
「ほいできた! いいっすね、中々悪そうで~」
真っ黒な翼、黒い2本の角、赤き瞳を持つ女神に瓜二つの魔王。
その姿を見て、女神は満足そうに笑った。
「さて魔王。今からアンタの悪意を限界まで増幅させるっす。下界でその悪意を撒き散らして、全部ぶっ壊してやってください!」
心底愉快そうにそう言った女神に対して、魔王が初めて口を開く。
「我は……一体、何の為に生まれて」
そんな口調だったんだ、と一瞬驚いた表情を見せる女神。
だが、すぐにその表情に笑みが戻る。
「あーそんな事考えなくていいんすよ。魔王はとにかく下界で暴れまくってくりゃいいんすよ。余計な事考えられるとあれだから、ここでのやり取りはあとで記憶から消しときますねー」
平坦な声でそう言った女神。だが突然、思案顔を見せ頭を悩ませ始める。
「なーんか、魔王だけだとしっくりこないっすねー。女神とか、邪神みたいな感じで役職名で呼ばれるのって、機械的でいやっすねー」
機械的、という表現で、女神は自分より早く生み出された神の事を思い出す。
女神にセンパイと呼ばれているその神は、美の神……なんて呼ばれているが、その心は作り物のように無機質だった。一瞬、そんな事を思い出した女神だったが、すぐに魔王へと向き直す。
「そうっすねー……。魔王サタン! そうだサタンにしよう! 今からアンタは魔王サタンっす!」
嬉しそうにはしゃぐ女神。
「さぁ魔王サタン! 今から下界に降り立ち、破壊と殺戮の限りを尽くすのです! それでは、いってらっしゃ~い! ぶははっ!」
何が面白いのか、女神は大袈裟に笑って見せると、指をパチンと鳴らす。
直後、サタンの姿が眩い光と共に消えた。
「さぁて、これで少しは面白くなりそっすねー。共通の敵であるサタンが現れれば、今まで敵対していた異種族たちも手を取り合って協力するだろうし。そしたら争いも無くなりますねー。あれ? もしかして私、女神としてめっちゃ有能?」
自惚れもいいところの自画自賛を満足げに漏らし、女神は下界へと目を落とす。
「おぉーサタンの奴、暴れてる暴れてる(笑)。この調子だと一週間くらいで下界全体が火の海っすねー。まぁそれもそっかー。下界に落とす為に大分出力を下げたとはいえ、腐っても私の分身っすもんねー。下界の奴らじゃ束になっても勝てないかー」
すると再び、何かを思いついた様子の女神。
「流石にパワーバランス悪いっすねー。2日くらい経ったら適当に神器でも落としてやりますか。そうだなぁ、火力最強クラスのドラグ・アテナでいっか。まぁ下界の種族にあれを使いこなせる奴がいるかは甚だ疑問っすけど」
そんな独り言を呟きながら、女神はにまりと笑う。
「楽しみっすねー。魔王サタンと聖剣ドラグ・アテナに選ばれし者の対決。どっちが勝つんすかねー」
心底愉快そうな女神。
だが女神のこの気まぐれな行動が、人間と魔族の何千年にも渡る因縁を生み出すという事は、女神自身もまだ知らなかった。
お読みいただきありがとうございました。
次話で完結です。




