表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

幸せな夢に、いざないます

   

 二人の客が帰った後。

 棚に並んだ小瓶に目を向けて、あらためて俺は考えてしまう。

 そもそも、この『幸せになれる魔法薬』オベク・アルプとは……。


 元の世界には、初夢のおまじないという話がある。

 一年のうち最初に見る夢を、縁起の良いものにするために、ちょっとした工夫をする。それらしき文言の記された宝船の絵を、枕の下に入れて眠れば良いという。

 子供の頃に初めて耳にした時は、純粋に「凄い!」と感じたが……。

 大人になって考え直してみると、当たり前の話ではないか、と思った。

 だいたい夢なんてものは、心配したり執着したり、頭の中を大きく占めている件が、眠っている間にも思い浮かぶ、ただそれだけだろう。ならば、宝船のような縁起の良いものを強く念じながら眠れば、夢の中に出てくるのも不思議ではない。

 だからこれは、おまじないというより、思い込みに近いものだと俺には思えた。


 人間の『思い込み』には凄い力があって、それこそ『病は気から』という言葉もあるくらいだ。

 いや『病は気から』と言ってしまえば、少し胡散臭く聞こえるかもしれない。だが、薬学の教科書にもバッチリと書かれている概念なのだ。

 薬効成分の含まれていない薬でも、本物だと信じて飲めば効いてしまう、という話として。

 プラシーボ効果、という用語として。


 ……こうした前世知識を踏まえた上で、俺が販売しているのが、『幸せになれる魔法薬』オベク・アルプだ。ちなみに名前の由来は、Placebo(プラシーボ) を逆にした Obecalp から。

 ごたいそうに『前世知識』などと言わずとも、おそらく似たような理屈は、この世界の詐欺師も既に利用していることだろう。

 でも、他人は他人、俺は俺。俺としては、このオベク・アルプが売れて、買った人も満足してくれるのであれば、万々歳なのだ。

 そもそも効能は「幸せな夢を見られる」という程度だし、しかも販売時に「100%効くわけではない」とも謳っているのだから、詐欺には相当しないよなあ? たとえ、その中身が、単なる水だとしても。




(「山本ポーション店では、幸せになれる魔法薬を販売しております!」完)

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 薬の正体を聞いて、ああ……という気持ちですが。 でも、考えてみれば、幸せなどというものはそういうものなのかもしれませんね。その人の心の中が何かで満たされるならば、それはたとえただの水であ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ