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常連さんは、近所の主婦

   

 カランコロンと鳴り響く、軽やかなドアベル。その音と共に、陽気な声が店に入ってくる。

「ヤマモトさん、こんにちは!」

「ああ、ベチュヴァーシュの奥さん。いらっしゃい」

 赤い長髪をなびかせた彼女は、アレクサンドラ・ベチュヴァーシュ。俺の店から数えて、三軒隣に住んでいる。

 俺の偏見かもしれないが、名前だけ聞けば、ローマやエジプトの美女とか北欧美人のようなイメージだ。ところが外見は、ごくごく平凡。その実態は、くたびれた一人の主婦に過ぎない。

 実際に今も、声の調子とは裏腹に、顔にはドップリと疲労の色が浮かんでいた。

「相変わらず、大変そうですね」

「そうなのよ、ヤマモトさん。またウチの主人ったら、仕事もしないで、昼間っから酒場に入り浸って……」

「まあまあ、奥さん。ご主人の仕事は、冒険者でしょう? ならば、酒場で情報収拾するのも仕事のうちですよ」

「そうは言ってもねえ……」

「俺だって、この店を開く前は、冒険者でしたからね」

 そう、この俺も、ここレナトゥス・ワールドに来た当初は、よくわからないまま『冒険者』などという職業に就いていたものだ。

 とはいえ、ベチュヴァーシュ家の旦那さんは、生粋のレナトゥス人。現地人なのだから、下手に夢や憧れさえ持たなければ、危険な冒険者なんてやる必要のない身分だった。

「あら、ヤマモトさんも昔は、酒場の常連客でしたの?」

「いや、そこまでじゃありませんが……」

「ほら、ごらんなさい。やっぱり、ウチの主人がグータラなだけですわ。昨日だって……」

 と、アレクサンドラの口からは、亭主の愚痴が次々とあふれてくる。

 こうした話を聞くのも、俺にとっては、仕事のうち。

 そう割り切って、適当に相槌を打ちながら、主婦の長話に耳を傾けるのだった。

   

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