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霜月燦短編集  作者: 霜月燦
2/4

独白

ある日君が僕の前から突然姿を消した。

だから僕は日記を書こう。


ジャンル:ホラー

7月10日 日曜日

 今日、君が僕の前から居なくなった。

 君が現れてから、僕の世界に色が着いた。よく聞く言葉だが、そんなことはないだろうと鼻で笑っていた。でも、本当だと知ったのは君と出会ってからだった。


 居なくなった、という事実はわかる。でも、僕の頭はそれを理解してはくれなかった。

 君を探して訪れたのは、君がよく行っていたところ。お気に入りのカフェ。お気に入りのブティック。


 どこに行ってもそこは色の失われた世界であった。このまま君がいない日々を過ごしたら君がいたことも、世界が色づいたということも忘れてしまうのかもしれない。僕にはそれが怖い。

 灰色の世界には戻りたくない。


 だからこそ、この日記を書こう。君がいたことを忘れないために。

 ここで、君に言えなかった愛の言葉を歌おう。恥ずかしがりやの僕たちが言えなかった言葉を忘れないために。


7月16日 土曜日

 日記を書く時間がようやくとれた。


 わかったことは、彼女はストーカーを苦に今回の決断をしたということ。彼女の友人たちがそう話していた。


 でも、僕はそのことを知らなかった。あんなに一緒にいたのに、知らなかった。多分、僕が知ったらそいつに突っかかっていくと思ったのだろう。確かにその通りだ。僕は確実にそのストーカーに文句を言いに行く。君を守るために。そのためなら命は捨てられる。


 だがこんな結果を招いてしまうのなら。僕を頼ってほしかった。


 確かにここのところ彼女は思い詰めていたと思う。ため息も多かったし、肌が荒れていたのもストーカーによるストレスからだったのだろう。僕は肌が荒れていた彼女を心配して化粧水を贈ったが、贈るべきだったのは大丈夫かという言葉だったのだ。

 今となってはその事が悔やまれる。


7月17日 日曜日

 料理をしていたのだが、ふと君が好きだという歌を口ずさんでいた僕に気がついた。。君と居る時間が多いから自然と覚えた、君の好きな歌。他にも幾つか知っている。その全てが今は悲しい。


7月20日 水曜日

 仕事で忙殺されたら君がいなくなった事実が少しでも薄まると思っていた。だが、手帳に予定をどれだけ詰めても空虚さは埋められなかった。君が居ないことは、やはり大きい。


 だからアルバムを作った。君の写真は沢山ある。その中でも君が君らしい一瞬を切り取った写真を選び出す。カフェでの物憂げな横顔。女友達とテーマパークに行ったときの弾けるような笑顔。電車で眠りに落ちたときの顔。色々な君がいた。色々な君を見た。

 電車で寝ている君の写真を見たら君は驚くかもしれない。早く消してと怒るかもしれない。

 居なくなった君の反応を空想する。でも、きっと君は幸せそうに笑ってくれるだろうな。


7月23日 土曜日

 お盆には帰ってくるのか、という連絡が母から来た。


 思い出したのは彼女のことだ。彼女は律儀な人で、毎年お盆には帰っていた。今年も帰るのだろうか。もしかすると、会えるかもしれない。そんな淡い期待を胸に、盆に彼女の実家へと向かうことにした。


 母さんには盆休みには帰れないがその少し前には帰省すると伝えた。亡くなった父は少しせっかちなところもあったから、多分少し早めでも問題ないだろう。そう信じている。


8月1日 月曜日


 彼女がいなくなってからは、ついつい彼女の姿を人混みの中から探してしまう僕がいる。でも、今日でそれもおしまいにしようと思う。


 彼女に似た人はいても、それは彼女ではないからだ。その人は君の代わりにはなれない。

 彼女は僕にとってただ一人の人。ここまで人を好きになれると教えてくれた人。


 君は君だからこそ、僕は好きなのだ。君以外の人を好きになることは、もうできない。考えられない。


8月10日 水曜日

 帰省の道中、ふと彼女に会えたら何を話そうかと夢想した。


 別れを告げずにいなくなるなんて悲しいじゃないか。そっちはどうだい。色々な言葉が浮かんでは消える。


 もし、また会えたのなら運命の相手なんだろうな、と子供のようなことを思う。


 運命を信じるような性格ではなかったが、彼女と出会いそれを信じるようになったことを思い出す。


 気がついたら眠りに落ちていた。


8月12日 金曜日

 実家を出て彼女の実家へと向かう。その道中、明日に向けての準備をした。準備は万全に、忘れ物のないように。昔からの僕のモットーだ。


 多分、バッチリだろう。これで安心だ。彼女に会えるだろうか。淡い期待を胸に夜行バスに乗る。


8月13日 土曜日

 早朝にバスを降りる。そして、レンタカーを借りる。彼女の実家は田舎にあるためどこに行くにも車が欠かせない。


 駅舎にあるコーヒーショップでコーヒーとサンドイッチを頼み朝食にする。彼女の好きな甘めのコーヒーとハムサンドを頼み、彼女に会えるよう願掛けをしてみた。


 やはり、僕たちは運命だったのだ。駅を出ると彼女がそこにいた。僕は、思わず走った。そんな僕のことを彼女も気づいたようだ。彼女も駆け出そうとする。

 彼女を強く抱き締める。そして、彼女は僕に身を委ねてくれた。


 僕はそんな彼女を車に運んだ。準備万端だ。


8月14日 日曜日

 昨日は彼女と近くの廃キャンプ場に行った。そこで彼女と僕はひとつになった。もう、彼女と離れることはない。彼女が僕の中で生きているから。そう考えると力が湧いてくる。幸せだ。満たされる。


 カーラジオを点けた。ニュースか。

 昨日、一人の女性が行方不明になったようだ。ストーカー被害に遭っていて一月ほど前に転居をしたらしく、今回帰省した際に駅で行方不明となったという。娘を心配した両親が車で駅に迎えに行ったのだが到着が遅れたそうで、その間に連れ去られたのではないか、というのが警察の見立てだとか。


 危ない。でも、だからこそやっぱり僕たちは運命の相手だったのだと思った。二人を裂くことはできないのだから。


 さあ、二人で一緒に僕の家に帰ろう。

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