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悪党流交渉術

 女……ホルピィ学園の女教師クラミは俺をゴミを視るような目で視ていた。

 慣れてるけどね。事実俺なんかゴミみたいなものだ。

 ルドリーシャはいま、パニックになりながらもクラミのご機嫌をとるためにパイを焼いている。

 健気な奴だ。あの女をがっかりさせないためになんとかこいつを説得できるといいのだが……

「私はホルピィでも屈指の魔法使いであなたなんか相手にならないことだけは教えておくわ。暴力は通用しない」

「ふむ。僕は裏庭に生っている赤い木の実が大好物で、顔を拭くのも忘れて夢中になって食べてしまうことを知っておいて欲しいですね」

「……まるでさっき顔についていたのは血ではなかったと言いたげね」

「どうですかね?」

 ちょっと威圧すれば俺が萎縮すると思っていたのか? 女がどれだけ強いかわからんが、俺もここで引くわけにはいかない。

 こういうのは最初が大事だ。

 マウントをとるつもりでおくぜ。

「わが校は平和、正義、平等がモットーでね……あなたみたいな子がくるとすっごく困る……わかるかしらぁ~?」

 俺がビビらないことに相当腹をたてたのか今度は子供扱い作戦かい? 

「僕を入学させる前から差別しておいて平等ですか? それがあなたたちの平和と正義ですか? 矛盾がありますね。おかしいな。僕が子供だから理解できないのでしょうか?」

「区別よ!」

 クラミは木製の机をドンッッ! と強く両手で叩いた。

「ど……どうしましたぁ!?」

 台所からルドリーシャの不安そうな声が聞こえた。

「な……なんでもありません! 虫がいたもので!」

「そ……そうですかぁ。申し訳ありませぇん!」

「……フッ」

「!?」

 軽く笑っただけでそんなギロリと睨むなよ。

 こいつは多分理屈屋で過剰に自分が頭が良いと思っている。

 こういう奴は理屈で負かせば暴論で逃げたりはせず、歯ぎしりしながらも相手の意見を認めるだろう。

 相手が俺を舐めていたのが逆によかった。

 落ち着かせる前にできれば決着をつけたい。

「率直にいいます。私はあなたが生徒を食べるかもと思っているわ。だからあなたを入学させられない」

「僕を信用できませんか?」

「当たり前よ。あんなもの見せられて……」

「素晴らしい! あなたは素晴らしい教師ですよ! 聖人ぶって生徒を無条件で信用するなんて言ったら軽蔑するところでした! 信用なんて物はすぐに生まれるもんじゃあない!」

「えっ? あっ……ありがとう」

 ペースは完全に俺の物にした。

 それにここは文字通り俺のホームだ。

 負けるわけにはいかないな。

「しかし先生。信用を教え、信用を築き上げるのもまた教師のあるべき姿ではないでしょうか?」

「それとこれとは……」

「そもそも!」

 質問しておいて相手が何か反論しそうになったら自分で遮る。

 詐欺師みたいなやり方だが仕方がない。

「約束をしましょう。先生」

「や……やくそくぅ?」

「私はだれも食べません。ベジタリアンですから」

「ベジタリアン……本当に?」

「はい。僕の牙や爪が恐ろしいというのなら、全て先生に捧げましょう。どうぞ。切るなり折るなり」

 俺は口を開けて両手をクラミの前につきだした。

 やるわけないと確信しての行為である。

「ちょっと! そんな野蛮なことするわけないでしょ!」

 ほらな。

「じゃあ! じゃあ僕はどうすればいいんですかぁ!!」

「えっ? えっ?」

 今度は机に突っ伏して唸りながら泣いた……うそ泣きはお手のもの。

 冷静に考えれば今の俺は情緒不安定のヤベー奴でますます入学させるのは危険なのだが、そんなことを考える余裕はもうないだろう。

「友達が欲しい……勉強がしたい……僕にはその権利すらないのですか?」

「うっ!?」

「お願いしますぅぅ!」

 だめ押しの土下座、正直これで落ちてくれないと次の策はない。

 その時はルドリーシャにも土下座しよう。

 悪党でもない女相手に夜道で襲いかかって脅迫するわけにはいくまい?

「わーかった! わーかった! いいから! 入学させるから! そうよね……私どうかしてたわ。最初から子供を疑ってかかるなんて……学ぶ権利は平等なのに差別的発言を……恥ずかしいわ……ほらたって」

「せん……せぇ」

 ちょろいなぁ。心配になるくらいだ。

 あんたの感は正しいし、俺みたいな悪人は学校なんか行かせないほうがいい。

 その後、話がまとまったことを知って大喜びしたルドリーシャに「本当にこれでよかったのか?」という顔をしたクラミが書類に署名させた。

「じゃあ……アビー君。君もここに名前を……」

「えっ!? あの……」

 これは演技ではなく、本気の戸惑いだった。

 それを察したルドリーシャがフォローをいれてくれた。

「この子……まだ字が書けないんです。私が忙しくて……いいえ。そんなの言い訳になりませんよね……」

「……そうでしたか」

 ……やっ! やめろっ! 二人して憐れみの目で俺を見るな! くそっ! 最後の最後で負けた気分だ!

「学校で……たくさんたくさん学ぼうな。アビー君」

「頑張ってね? ぼうや?」

「……はい」

 クラミに「アビー」という字を手取り足取り教えてもらいながら俺は署名をした。

 チクショウ、結局マウントをとられたのは俺じゃないか。

 



アクセス100で安定狙う。出てくる若手は未来を担う(韻)

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