獣復活
「実はですね。旅に出ようと思うのですが」
「却下するわ」
宴も終わり、家に帰り、向かい合わせに座り、開口一番ぶっちゃけた俺の提案は一瞬でスッと払われた。
一大決心して思いきったのだが……。
「理由があるのです。母上」
「理由があろうがダメ。あなたまだ子供じゃない」
「子供……なんですかね?」
立派に伸びた鋭い牙と爪、突きだした口元、前世と変わらぬほど威圧的な目。
こんな子供いるのか? 獣族がどうなったら大人なのか俺にはわからない。
「話を聞くだけ聞いてください」
「よろしいでしょう」
両腕を組んでふんっと鼻を鳴らすルドリーシャ。
本当に何も聞きたくないときは耳を畳むので、文字通り聞く耳は持ってくれているのだろう。
「……実は」
俺は話した。前世に地球という世界にいたこと、極悪人だったこと、そして最後の最期に一度だけ人の命を救えたと思ったのにその少女は死んでしまったということ。
「……で、私は神にこの世界に転生させられ、同じくこの世界に転生させられた少女を探さなくてはならぬのです」
「そんなことより。アビー。あなたもそろそろ集団行動を覚える時期が来たと思うの。ホルピィにある学校に通いなさい」
「……そんなことよりって。母上。私の言ってることを信じていませんね? 確かに信じがたいかもしれませんが……」
「信じてるに決まってるわよ! 息子の言うことを疑う母親がいるものですか! 信じた上でダメっていってるの!」
「えっ……えぇ?」
そんな無条件で信じられてもむず痒いというか照れるというか……。
えっ? 信じるの? こんなとんでも話。
「まずはこの世界のことを知り、社交性を身に付けるために学校に行く……それからでも遅くはないんじゃないかしら? それにがむしゃらに捜したって見つかるものじゃないでしょう?」
「うっ!?」
ガキだガキだと思っていた女にド正論で返された。
確かに山奥の小屋でエルフの母親と二人きりで暮らし、知り合いはネズ耳のショタガキだけ……学校に行くべき……なのか?
「それにほら。学校にその助けられなかった女の子がいるかもしれないじゃない?」
「……」
ぐうの音もでない。そうかそうだよなぁ。
「……学校に行きます」
「よしっ! いいこ!」
ルドリーシャは右手で俺の頭を、左手でアゴを撫でた。
「……やめてくださいよ」
そう言いながら俺の尻尾は揺れている。
犬科の悲しい性だ。
「さて……アビーが一生懸命告白してくれたんだから私も勇気を出さないとね……」
「はい?」
ルドリーシャは椅子に座り直し、うつ向いて……泣いてる!?
「ど……どうされました? 母上?」
「私はあなたを愛している……そのことだけは疑わず聞いてほしいの……」
「は……はい」
どれほど深刻な話なのだろうか? もしかしたら俺よりも遥かに凄まじい過去を持っているのか?
「実は……あなたと私は血が繋がってないの……私が森で拾ってきたのがあなたなの……」
「……はい」
まずはジャブだな。ここからどんな話になるのやら……
「えっ? そんな軽い感じ?」
「えっ? それで終わりですか?」
「えっ? えっ?」
……まさか、これで話が終わりなのか!?
「……母上。私たちが本当の親子でないのはとうの昔に気がついていたのですが……」
「ええっ!? なんで!?」
「なんでもなにも……まず種族が違うじゃないですか……」
「……アビー。あなたとても賢いのね……」
むしろバレていないと思っていたことに驚きだ。
「詳しくは訊きません。あなたの過去がどうだろうとあなたが私を育ててくれた恩は変わりませんからね」
「……アビー」
うわっ……マジ泣きされるとは。
号泣じゃないか。ルドリーシャは泣いて泣いて、泣き止むと夜食にと俺の好物の豆のスープを作ってくれた。
そういえばこれがおふくろの味っていうのかなぁ……。
「……」
今日は俺とルドリーシャが本当の親子になれた記念すべき日だ。
いい気分で寝れると思っていたのに台無しだ。
俺はゆっくりとベッドから出て立ち上がった。
「……くせぇ」
久しぶりに嗅ぐ『悪党』の臭いだ。
壁に背中をつけて耳を済ました。
(……女がいる)
(……犯しちまおうぜ)
(もちろんそのつもりさ)
(お……俺に最初にやらせてくれよ)
「グルッ……グルルッ……」
自然と喉がなってしまう。その女ってのはルドリーシャのことか? 犯す? はぁっ!?
(……鍵を壊せ)
(そんなことして起きたらどうすんだ? 慌てんな……いま外してるから……)
「……グルッ……グルルッ!」
ツヴァイたちが作ってくれた野菜とキノコの料理は旨かった。
ルドリーシャが作ってくれた豆のスープももちろん最高だった……が。
「……久しぶりに肉が喰いたいな……」
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まっいいか……で済ませられるか!六年目やで!ほなな!