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鴉の死。

新装開店です。

 終わりはいつだって突然やってくる。

 どんな繁栄だって長くは続かないし、悪も正義もいずれは滅びるのだ。

 つまり永遠など存在しない。

 それは俺『後藤カラス』の命だって例外じゃない。

 ちなみに『後藤』も『カラス』も偽名な。

 本名なんて覚えてないよ。

 年齢は30を超えてからは数えていない。

 178センチ65キロ。

 髪はボサボサでもサラサラでもなく、長くも短くもない。

 上は無地の白シャツ下は黒のジーパン。

 ぱっと見その辺を歩いている通行人Aだが、問題は目だ。

 異常なまでに鋭く、見るものを震え上がらせる目は安物のサングラスで隠している。

 9歳の時、施設を飛び出し、それからありとあらゆる手段で生き残った俺は……話がそれたな。

 とにかく俺はいい人間ではないという事だけ理解しておいてくれ。

 色々やったけどドラッグと殺人には手を出しちゃいない。

 物語はそんな悪人の俺、カラスが死ぬ所から始まる。

『そんなんいいから早く転生しろ』?

 そう言うなよブラザー&シスター。

 結構俺、壮絶に死んだんだぜ?

 俺という悪が滅びる名シーン。

 案外にスカッとするかもよ?

 とにかく俺は自分の死についてあんたたちに知って欲しい。

 あんたらとは長い付き合いになりそうだからな。

 俺は決して『バナナの皮ですべって転んで死んだ』わけでもないし、『トラックに轢かれて死んだ』わけでもない。


 誤解は困る。


『回りくどい?』








 うるせーな!


 ブラバしろブラバ!


 こちとら慈善事業じゃねーんだよ。

 無理して聞いて(読んで)もらうことねぇんだよ。


 PCならバッテン押せ!バッテン!


 お前のスマホが日本製なら『←』を押せ!


 嫌なら聞くな!







 なんてね。


 俺は芸人でもテレビ関係者でもないがいまのは無し。


 そろそろ本編いくか。


 聞いてください。







『極悪人にも五分の優しさ』









俺が死んだその日は暑かった。

『ササミならしばらく置いとけば白なるわっ!』ってぐらい暑かった。

 俺はこの日、タイトなジーンズに襟突きのシャツに1500円のサングラスというカジュアルないでたちだった。

 小さめのバッグには財布がたんまり。


 スッた。


 俺にとってスリなんてもんはゲームみたいなもんだ。

 無課金プレイヤーの俺に向こうが課金する。

 スマホの普及によってスリは各段にやりやすくなったよ。

 みんな現実より手元のヴァーチャル世界に夢中だ。

 おっとそこの君、スマホに夢中になってポケットの大事なものが無くなってないかい?

「うるせぇし……あちぃ……」

 人混みを抜け、パチンコ屋の前を通りかかった俺は耳を塞ぎながらそこを通り過ぎようとした……

 が、何を思ったか気がつくとパチンコ屋の駐車場をうろついていた。

 俺にはたまにこんなことがある。


『放っておいてはいけない何かがそこにある』


 第六感的なものだな。

「……」

 黒い車に目が止まった。

 この車が気になる……

 これは第12感ぐらいか?

 スモークガラスの向こうで何かもぞもぞ動いている……ような?

 犬だろうか?

「こんな炎天下のなか車にペットなんて置いていったら……」

まぁ……死ぬだろ。



 そう思いながら俺がガラスに近づいて車内をよく見ると……それは犬ではなく 上半身と助手席を紐で固定されたガイジンの女の子だった。

 青い瞳、金髪の両おさげ(ツインテールっていうのかい?)。

 着ているのは恐らく男用の上下灰色のスウェットだ。

 アホかっ! 車内温度は40度は越えているだろう。

 誘拐だかなんだか知らんがこんな厚着で放置していたら死ぬぞ! 人質は大事な交渉道具。

 大切に扱うのがスマートな悪人ってもんだ。

 素人……もしくは拷問屋の仕事だな。

「おいおい! 大丈夫か!? うごけないのか!? 早く車からでろ! 俺は何をしてるんだ!?」

 他人の車の窓をガンガン叩くグラサンの男……通報さてもおかしくはない。

 もし俺が捕まったら10年や20年じゃでてこれない……

 俺はどうかしていた。

「ちくしょう……」

 ピッキング? ……駄目だ。

 道具がねぇ! 何をするにも時間がねぇ!

 えーい! スマートじゃねぇが仕方がねぇ!俺は小銭を靴下に入れてブラック・ジャックという武器を作り、そいつでガラスを叩き割った。

 破壊音に車の防犯ブザーの騒音。

 案の定、周りに野次馬どもが集まってきた。

 俺は腕を伸ばして車の鍵を開け、ジッポー・ライターの形をした(蓋を開けると刃が飛び出すようになっている)小さなナイフの刃で紐を切り、ガキを抱き上げた。

 服は汗でビッチョリなのに唇はカサカサで血が滲んでいる。

 脱水?


 熱射?


 日射?


 多分全部だろう。どれだかしらねぇけど早く体を冷やして塩分と水分をとらせねぇと……

「お水を……ください……」

「わかってる! 喋んな!」

 まずは冷房の効いたパチンコ屋に避難。

 自販機で飲み物を買って医者を呼んで……

 忙しいな!

「いやぁぁぁ! 誘拐よぉぉ! 誰かきてぇぇぇ!」

「てめー! うちの娘になにやってんだ!? おぉ!?」

「あんっ?」

 パチンコ屋から出てきた茶髪の化粧の濃い二十歳前後の頭の悪そうな女……と、これまたチャラそうなピアスだらけの顔の半袖半ズボンの男が叫んだ……こいつらがまさかこのガキの親か? ……似てないな。

「てめぇら! 子供を縛り付けてパチンコかよ……お前らそれでも……あっ!」

 汗でサングラスが落ちた。まるでコントだ。

「ひいぃぃっ! 殺人鬼ぃぃ!」

「通り魔だぁ!」

「しかも愉快犯!」

 俺の目を見て勝手なこと言い出す野次馬ども……確かに俺は目つきが『信じられないぐらい』悪い、怖いよ。

 だけど殺人鬼はないだろうよ。

 人殺しは誓ってしたことがない。

「お水をください……お水をください……」

 ガキは相変わらず水を求めている。

「そうだった! 安心しろ! すぐになにか冷たい物を飲ましてやるからな! おいコラッ!」

 母親を名乗る茶髪女にガキを渡した。

「早くこの子に水をのませてや……」

「いやぁぁぁ! みなさんみましたかー!? この人誘拐犯なうえに痴漢でストーカーで変態です! 今私のおっぱい触りましたよ!」

「はぁ!? さわってねーよ! 誰がババァの垂れ乳なんか……」

「はい侮辱罪追加! この外道! 鬼っ!」

  外道! 鬼!? それはないだろ……

「事情はあとで説明するから……グフッ!」

「もう我慢できねぇぞ! このクソやろう! 正義の鉄拳の痛みはどうだ!?」

 不覚だ。タンクトップのマッチョに強烈なボディをくらった。

 ……俺は悶絶して膝をついた。

 それをキッカケに数十人の男達が一斉に俺に殴りかかってきた。


殴る。


蹴る。


踏む。


叩きつける。


「ゴミやろうが!」

「クズが!」

「今日も負けた!」

「今月あと50円しかねぇ!」

「金かしてくれぇ!」

 おい……お前らパチンコに負けた腹いせしてるだろ……?

 どいつもこいつも目がギラギラしてやがる。

 自分が正義だと思い込んだ集団ほど恐ろしいものはない。

 意識が朦朧としてきた。

 痛みも感じなくなってきた。

 あっけねぇなぁ……

 ……でも悪党が死ぬときなんてのはこんなもんか。

 『ぶっ殺せ!』と叫ぶ茶髪女に抱かれたガキと目があった。

 ババァ早くその子を病院につれてけよ……キーキー叫んでないで……さ。

 糞みたいな人生を振り替える走馬灯が見えた。

 これあかんやつや。

 こうして俺は死んだ。


この作品がライトノベル作家への夢の扉を二ミリぐらい開いてくれたらなと思います。

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