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幕前 田丸袋カスケード


 俺と島袋春佳は、アニメや漫画が好きという一点のみで言えば、間違いなく同士と呼べるほどに気が合っていた。

 実際、小学校低学年の間までは、俺とあいつは親友と呼べるほどには仲が良かったし、お互いの性別なんて全く気にせず、放課後に遊んだり、互いの家でアニメ鑑賞なんかもしていた。

 しかし、ある日のことだ。

 同じクラスのヨシヒコが放った、ある一言が原因で、俺達の間に溝ができはじめた。


「やーい、玉袋コンビがまたイチャイチャしてるぞー!」


 俺の「田丸」とあいつの「島袋」という姓――それは、小学校男子の間において、まさに絶好と言える標的(えもの)だったのだ。

 ヨシヒコがつけたその悪魔のようなコンビ名は、瞬く間に俺のクラスで流行語大賞筆頭候補となった。


 中休みの間に、俺と島袋が話しているだけで、近くの男子は「玉袋」と連呼し大爆笑していたし、放課後一緒に帰ろうものなら、次の日には、悲惨な替え歌がクラス内に広まっていたほどだ。

 黒板に玉袋という文字を入れた、相合傘が描かれていた、なんてこともあった。


 それは『女子と遊ぶ男子はださい』という小学校特有のミームによるものか、はたまた、島袋の容姿が無駄に整っていたせいなのか――とにかく……俺はその時からクラス内男子の間で、軽く『はぶられる存在』となってしまっていたのだ。


 休み時間になっても「ださい奴はいれてやんねー」とドッジボールにも入れてもらえなかったし、体育でペアを組もうとしても「もう一個の金玉とやれよ」と意味不明な理由で避けられてしまっていた。

 かくして――その境遇に耐えかねた俺は、いつしか島袋と接触することを避けるようになっていた。


 それからというもの、あいつとは稀に一言二言話すことはあっても、放課後遊ぶということは全く無くなった。

 俺から話しかけることもないし、あいつから話しかけてくることも無い、そんな関係。

 廊下ですれ違っても、目は合うものの、話すどころか挨拶すらしない。


 ――そんな微妙な距離感を保ったまま、俺達はいつしか高学年になっていた。

 幸いなことに、その時は既に不名誉なコンビ名は鳴りを潜めていた。

 玉袋と呼ばれなくなったのは、俺と島袋の関係が希薄になったのもあるが、周囲のやつらの精神年齢の成長によるところが大きいと思う。

 皆、大声で下ネタを言うことに多少の恥じらいを持ちはじめる年齢だったのだ。

 この時俺は、コンビ解散と共に、このままあいつとは疎遠になっていくのだろうと漠然と感じていた。


 ところが、6年生になった始め頃からだろうか。

 半年に一度ぐらいの頻度で、島袋が俺に妙な紙切れを渡してくるようになったのだ。


 ――放課後の廊下で最初に紙を渡されたとき、俺もあいつも無言だった。

 その時、島袋は髪が伸びてツインテールになっていた。



 最初に渡された紙に書いてあった内容は以下の通りだ。


アドレス

〇〇〇-×××_haruka0621@codomo.jp


面白かったの

・『赤ずきんチャチャチャ』

・『夢のクレヨン帝国』

・『マジック魔女ルカ』


ps.感想書いておくって。



 その紙切れには、端正な手書きの文字で、あいつのアドレスとアニメのタイトルがいくつか載っていた。

 何故だか、妙にそわそわして、無性に照れくさかったのを覚えている。

 少し頬が赤くなっていたのが見えたから、それはあいつも同じだったと思う。


 俺がこの紙を見た時、どういう表情をしていたかは自分でも覚えていない。

 ただ、思ってもいなかったのは確かだ――。

 ここから、『玉袋コンビ』の関係は、さらにこじれ、悪化の一途をたどることになるとは――


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