シーン01「炎の転校生(かわいい)」その6
「……いえ、嘘というか正確な説明ではありません。スピーゲルウェルドにはマフトを吸い込み、貯蓄できる鉱石があります。先ほどの小さな物もそれを加工したものですが……そうした石こそがバッテリーに該当すると言えます。そのお陰で気温や気圧、その他もろもろの条件で変化する大気中の量を調整し、わたし達は安定してマフトを使用することができています。
……先程マフトの錬成についてお話したのを覚えていますか?」
「ああ。戦闘用に、とか体内で作り変えるみたいな?」
「そうです。人間が体内に取り入れた時点でマフトは組成を変化させてしまうので、もう自然の物質とは違う物になってしまいます。その人の個性がついてしまうのです。良くも悪くも」
充は無言で先を促す。
「そして一番大事なのが体外へ放出する時で、その時の精神状態によってマフトはいかようにもその性質を変化させます。怒っている時には攻撃的に、悲しい時、弱気になっている時には力を弱めてしまいます」
「ふうん。結構デリケート、っていうかあやふやなんだな」
ええ、と正座を続けるアリスは答える。きっとマフトで足が痺れないようにしているに違いないと充は思う。
「イケダミツルさんはマフトを錬成する訓練を受けていませんので、そのまま体外へ放出してしまうと、使い物にならないクズを垂れ流すことになります」
「え」
なんか、一気に自分がしょうもない存在に。
「いえ、それが普通なのです。だれでも体内に取り入れることはできますし、こちらの世界にも微量なマフトはあります。それを吸って、そのままゴミのように吐き出しているのです、みなさんは」
「じゃあ、俺はその量が多いってだけ?」
やっぱすごくねーじゃん、俺。
「それだけではありません。先程から測定していますが、イケダミツルさんは一切マフトを体外へ出していません。普通、個人差はあれどマフトは自然に排出されるものなのです。そして、この室内はマフトの含有量をスピーゲルウェルドの半分程度まで高めてあったのですが、既にその全てが貴方の体内へ取り込まれてしまっています」
いつのまにか実験されてたのか。
「気を悪くされましたか。イケダミツルさん」
「いや。別にいいよ、注射とか打たれるんでなければ。それとさ、俺がアリスって呼ぶんだからミツルでいいよ。さっきから長ったらしい」
アリスは意外そうな表情を浮かべた。
「了解しました。ミツルさんは変わった人です」
「何が?」
炎の剣を振り回す異世界人に言われたくないけど。
「何というか、こんな話を普通に聞いて受け入れているように感じたので。そういう人だから、キ○ガイじみた量のマフトを平気で受け入れてしまうのでしょうか?」
こっちの世界では言っちゃいけないこと言ったよキミ。
「話を本筋へ戻しますと、ミツルさんは延々とマフトを蓄えるだけで、一切体外へ排出していないのです。いくらアックとは言え、これは異常です」
さっきから言い方が……。
「……で、結局なんなの。俺はひたすらマフトを吸い込んで貯めてるだけなの?」
「現状は、そのような認識で正しいです。アックは単独ではそうしたものですから。蓄えたマフトは錬成技術のある者が吸い出してやらないと使えません」
吸い出す。
充はその単語で思い出したことがあった。