シーン01「炎の転校生(かわいい)」その5
「マフトは錬成の仕方によってあらゆる事に使用できます。こちらの世界での電気……あるいは化石燃料と思ってもらえば良いでしょうか」
ふうん。ファンタジーぽく言うと、魔気とかマナとか、そんな感じなのかな。
「……で? 一番気になる項目はさ、なんで俺が殺されなくちゃならないのか、だよ。こんな平凡な高校生をわざわざスピンなんとかって異世界から殺しに来るなんて」
「平凡……。こちらの世界ではそうでしょう。ですがイケダミツルさん。貴方はマフトのアックなのです。それと、スピンではなくスピーゲルウェルドです」
あっく? なんか水陸両用っぽい単語だな。
「アックというのは……ああ、そうです。バッテリーです。マフトを体内に大量に貯めることのできる、大容量モバイルバッテリーなのです貴方は」
充の頭の中にコンビニに並んでいる四角いプラスチックの箱が浮かぶ。
あれが俺?
「わたし達もこうしたものは使用しますが」
と、戦闘服のポケットから手のひらサイズの箱状のものを取り出す。紋章的な感じのそれっぽい装飾のついた石だ。なんともファンタジーチックなアイテム。
「おお、カッコイイ。これなら納得」
充の言葉にアリスはほんのちょっと鼻で笑うと、
「こんなものは、気休め程度です。これがコップ一杯の水とするなら貴方はダム……で通じますか? 巨大な貯水湖のことです」
へえ。すげえじゃん俺。こっちの世界では何の役にも立たんけど。
「これでお解りいただけましたか? 自分がどれほどに特殊で、貴重な人材であるかを」
「うん、まあ……。要は、マフトっていうエネルギーを貯めれるからすごい、って事なんでしょ? でも何でアリスは守ってくれて、あのユイ……じゃないのか、もう一人の人格の子供は俺のこと殺そうとしたんだろ」
憶測ですが、と前置きをしてからアリスは話す。
「あの暗殺者はプリングパトゥースの刺客と思われます。スピーゲルウェルドでは、各国が国家連合に加盟して足並みを揃え、恒久的平和を目指して様々な取り組みを行なっています。その中でも重要な項目の一つとして、マフトの平和的利用と、各国の備蓄量の取り決めがあります」
なんか社会の授業みたいになってきたけど。
「マフトは先程も言及したとおり、万能に利用できるエネルギーです。多く集めて軍事目的に合うように錬成すれば大量破壊兵器になりますし、暖炉に火をともす、農作業機器を動かす、その他あらゆる生活必需品がマフトによって賄われているわけですから、その備蓄量はそのまま国家の資産額と言い換えることもできます」
なんかすごい事になってきた。そんなモンをダムみたいに貯められるってのか、俺は?
「そうです。やっとご理解いただけましたか。イケダミツルさん一人が、試算によると一師団分の戦力に相当するマフトを貯蓄できるそうです。そしてプリングパトゥースは、連合に加盟せず、非合法な手段でマフトを貯蓄して独立軍事国家を宣言している、ならず者国家です」
「ならず者……ってあんまり聞かないけど、要は悪いやつらってこと? でもそのプリンなんとかは何で俺を殺そうとするわけ? 自分で言うのも何だけど拉致って利用すればいいじゃん」
充の言葉にアリスはほんのわずか目を見開いた。感心したのである。
「よく気づきましたね、イケダミツルさん。そうできれば、かの国にとっては最良なのでしょうが……」
いや、それくらい気づくだろ。馬鹿にされてる、俺? 充の思いをよそに彼女は、
「先程、アックはバッテリーだと申し上げましたが、あれは嘘です」
「嘘かよ!」