シーン01「炎の転校生(かわいい)」その3
それから休み時間のたびに火野アリスの席の周りには人だかりができる人気ぶりで、彼女は質問に対して妙な受け答えばかりをし、それで更に周りが盛り上がるといった光景が続いたが、充がその輪の中に入っていく事はなかった。
意外に親しみやすそうな人柄らしいが、女子は女子。しかも美少女となれば、充の交友関係に今まで存在したことのない人種である。
見れば、あれほど騒いでいた中村も遠巻きに見ているだけで話しかける様子はない。さすが、我が友人。安定の対女子コミュ障っぷりである。
そうして、放課後。昼休みは用もないのに教室を出て校舎内を徘徊するという行動で時間を浪費し、結局美少女転校生とは一言も口をきかないまま充の一日が過ぎた。
「中村、今日ひま?」
「すまん、今日はバイトだ」
という会話で放課後の予定がすべて白紙となった充は、とりあえずまっすぐ帰宅してもヒマなのでいつものゲームショップに寄ってから帰ろうと決める。
そして、子供の殺し屋に命を狙われていたところを、アリスに助けられたのである。
「……結局、なんだかわかんねーじゃんか! 何なんだよ一体」
わかったことといえば、火野……いや、アリスが単なる軍事オタクではなく『本物』っぽい事か。それも、異世界の……?
「どうやら」
と、アリスは口を開く。場所は商店街の裏路地である。
「対象が、現状把握のための説明を求めているようであります。許可を……ヤー(はい)。では、秘匿事項を除く項目についての説明を開始します」
「何それ、さっきから独り言かと思ってたら、どっかと通信してんの?」
アリスは黒髪を片手で払い、充に目を向ける。
「はい。スピーゲルウェルド連合軍本部内の作戦司令部にリアルタイムで通信しています。今、回線は一時的に切断していますが。こちらの世界ではマフトの消耗が早いので」
また色々と思わせぶりな単語を。
「えっと、説明してくれるって言ったよね? じゃあ立ち話もなんだし、どっか店に入ろうよ」
充は全力疾走を久しぶりに、それも生きるか死ぬかの瀬戸際で火事場の馬鹿力的にこなしたので、実はもう立っているのも辛かったのである。
「場所を? 了解しました。では、どちらへ向かえばよろしいでしょうか」
アリスは聞く。充はそんなこと考えてなかった。基本、ノープランな男である。
「えっと……喫茶店かな? こういう時は」
女子と二人、サテンで茶をしばく。まるでデートのようじゃないか。彼女は戦闘服だが。
「喫茶店……ああ、飲料や軽食を提供する店舗ですね。そこは、個室はあるのですか?」
「個室? さあ、どうかな。ないんじゃないかな」
子供の時に母親に連れられてパフェを食べに行って以来なので、最近のことは知らないが。
「では、わたしの部屋へ行きましょう」
アリスはさっと身を翻し、さっさと歩き出した。充は真っ黒なその後ろ姿を追う。
そう言えば、さっきの炎の剣はどこにやったんだ? という小さな疑問を胸に。