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キス×バッテリー!  作者: 和無田 剛
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シーン05「勝利の法則は決まった(本文とは関係ありません)」その1

 とりあえず次の会場へ行ってみようと三階へ移動した充とヨーコ。HDレーダーは、ケルベロスがまだ一階のゲームコーナー付近に居ることを示している。これがあれば相手に見つかることなく距離を取れる。

 だが……。たった今、嫌がらせのような手口でユウが脱落させられたばかりだ。このレーダーも鵜呑みにしてよいものかどうか。

「それは、大丈夫だと思うぞ」

 ヨーコは言う。

「ルゲル・ブッフェにマフトを同調させている限り、嘘はつけないはずだ。うっかり、とか忘れたとか言い逃れができるような状況で騙すくらいだろう」

 それでも注意しないとな。これ以上人数が減るのは避けたい。

「ああ。 ……あれだな」

 シネマ・アヴェニューという名の施設。このモールには映画館もあるのだ。中には五つのホールがあり、それぞれで映画を上映している。もちろん今は閉館しているが。

「見たところ、特に異常はないな。また時間が来たらマフトで変化させるんだろう」

 さて……それまではケルベロスから逃げ切らないと。

「なあ、ヨーコ。このゲームどう思う?」

 充の言葉に小首をかしげる。

「どう、って何がだ? まともに戦いたくないからこんな方法をとってるんだろう。それと、お前のアックとしての潜在能力の観測。奴らは戦闘用のマフトが欲しいから、こうした危機的状況において試してるんだろうさ」

 うん……と充は表情を曇らせる。

「それだけ、かな」

 それはどういう……ヨーコの言葉は途中で止まる。

「見つけた! この、成長ホルモン分泌障害娘!」

 カウガール姿のジャックが通路の向こうから叫ぶように言う。

「やれやれ、必死に考えた悪口がそれか。いい年して恥ずかしくないか?」

 あっさりと見透かされたジャック。練習の甲斐あって、噛まずに言えたのに!

「う……。こ、この!」

 顔を真っ赤にしてカウボーイベストから取り出した笛を吹く。何も聞こえない。

 ……いや。

「まずい! 逃げるぞ」

 充もほぼ同時に理解していた。犬笛だ。人間には聞こえない周波数で鳴る笛。振り向かずに全力で走る二人の背後でケルベロスの吠える声が聞こえた。

「もう一度、階段だ!」

 階段室に飛び込もうとした二人の目の前に巨大な影が立ちふさがる。

「こっちもか! こうなったら……いや」

 背中から槍を取り出しかけたヨーコは動きを止めた。ジリ、と後退。絨毯敷きの通路へ戻る。

「攻撃は、できないはずだ。むしろこっちが攻撃したら反則で失格……」

 ずうん、と足音を立てて巨人が迫ってくる。

 左手からは三頭の猟犬が近寄ってきた。六つの目が二人を見据え、獲物への距離を測るようにゆっくりと歩を進めてくる。

 巨人の脇を抜けて階段へ走るのは難しい。どちらか一人は捕まりそうだ。となると、ケルベロスと反対の方向へ通路を走るしかない。だが、身を隠す場所がない通路を追いかけっこしたら確実に捕まる距離だ。

「まさに八方塞がり……と、思っただろうミツル。だが天才は」

 背中からハルバードを抜き出す。振り向きざまにそれを吹き抜けに投げた。

「凡人とは、発想が違うっ!」

 一階の床に刺さった槍はぐんぐんと如意棒のように伸び、斜めに二人の居る通路のすぐ近くまで届いた。三階から一階まで、細い棒でできた滑り台。まさかこれで降りろと?

「グズグズしないで……」

 ヨーコは充の背を思い切り突き飛ばす。通路の手すりまで吹っ飛ぶ。

「行けっ!」

 背後からドロップキックをくらって空中に投げ出された充。必死にハルバードをつかむ。そのまま腕を絡め、滑らせて地上まで降りる。摩擦で焦げそうだ。

「あちちちち! でもまさかの無傷! ……こらヨー」

 てっきりすぐ後から降りてくると思って振り向いたが、彼女の姿はなかった。

「おい、ヨーコどうした! まさか」

 三階の通路。

 充に続いて飛び降りようとしたヨーコは脚を滑らせて転倒した。いつの間にか足元の床が凍りついていたのだ。

「痛……っ。ひざ擦りむいたじゃないか」

 ケルベロスとは反対側の通路。モノクロの少女がシロクマのぬいぐるみを抱えて立っていた。

「あ……けがさせちゃった。ざんねん」

 呟いた彼女の姿が消えた。足元を凍らせて転倒させる、というのが攻撃行為として判定されたのだ。やはり、敵にもルールは厳格に適用される。

「くそっ」

 立ち上がり、手すりを越えようとした彼女の前に巨人が立ちふさがる。ただでさえ巨大な体を、両手を広げて通せんぼのポーズで。

 まずい。すぐ近くまで猟犬は来ている。今から階段室へ走っても身を隠すのが間に合わない。巨人に対して下手に手出しすると攻撃と判定される危険がある。

 なんとか相手の目を眩ませないと……。必死に考えるが、成功確率の低い策しか思いつかなかった。

「またイチかバチかか!」

 なんて日だ、今日は。

 ヨーコはペットボトルを自分とケルベロスの間の空間に放った。

 マフトを集中させ、ボトル内の水を分子レベルで振動させて急激に熱を発生させる。

 要は、電子レンジと同じ原理だ。本来なら電気属性のマフト使いが得意とする事。彼女には不得意分野と言えるだろう。できなくはないが、間に合うか……。

 だが、ついさっき充と一体になってマフトを使用したおかげか、ヨーコのマフトは普段以上の効果を発揮した。

 熱せられた水と空気は膨張し、密閉されたボトルを破裂させる。

 ばああああぁぁん!

 派手な音を立てて湯が飛び散る。巨人も猟犬も反射的に目をかばい、一時的に獲物を見失った。

 今だ!

 濡れた眼鏡を捨て、吹き抜けへ飛び降りようとしたヨーコの姿が消えた。

 ゴライアスの厚い胸板に貼り付いた物がコロン、と床に転がる。それは破裂させたペットボトルのキャップだった。普通の人間なら怪我をしそうな勢いでぶつかったそれが、攻撃と判定されたのだ。

 残り時間あと三一分、プレイヤーは池田充一人となった。


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