シーン04「東京ドーム約二個分(当社調べ)」その4
「なるほど。じゃあ、ゲームマスターさん。あんたも当然このルールを守るんだろうな?」
ヨーコが画面の中のピエロに問う。
もちろんです、と道化師はシルバーのブレスレットを自分の腕にはめた。すると淡い青い光が。続いて画面の中の灰色の石も同じような光を発する。
「ご納得いただけましたか?」
ふん、とヨーコは息をもらすと、
「確かに、同調したな。では、残りのメンバーもお願いしようか」
仰せのままに、とピエロは執事がするようなポーズで礼をし、ゴライアスはミス・ジャックのマフトでつくられるのでと注釈を入れる。画面にカウガール姿のジャック、モノクロの氷女ゲルダが現れ、ブレスレットを装着していく。
「さあ、こちらの準備は整いましたよ。あとは皆様のお心次第。囚われのアリス嬢を取り戻すために、覚悟を決めてください。 ……アー・ユー・レディ?」
ヨーコは無言でうなずく。充も、あごを引いた。やるしかない。
「よし、じゃあゲームを始めよう! ……アッシェンテ!」
ふ。一度言ってみたかったのだ。
「え、なになに今の。なんかかっこいい! ボクもいいたい」
「ミツル、今の謎の言語について小一時間詳しく!」
ふたり揃って食いつくな。恥ずかしくなるじゃないか。
「そろそろ、よろしいですか? まずは腕輪をはめていただいて……ああ、ありがとうございます。それでは公明正大、ルールに則ってゲームスタートです。まずはこちらのコーナー!」
コーナーって言うな。大型モニターに視覚効果付きで文字が現れる。
『運命と書いてフェイトに抗え! 魔術師に挑戦・占いの館!』
えー。なにこの楽しげな感じ……
『こちらへ向かってください』
モニターに館内見取り図が出る。その一部分がチカチカと点滅している。ご丁寧に現在地も示されているのでわかりやすい。
「えっと、同じ一階の……もっと奥のほうだな」
現在地、モール正面玄関入ってすぐの場所から見て左手の奥。確かゲームコーナーがあった所の手前になるはずだ。
「とりあえず、行ってみるか」
三人は移動を開始する。
館内の照明はすべて点灯して明るい。店舗内が空家のようになっていて人がいない事を除けば、見慣れたモールを歩いているだけだ。
足元のじゅうたんもそれほど古びてはいない。小さい頃、ここで寝転がって父親に怒られた記憶が蘇るが、そんな感傷に浸っている場合でもない。
「なあヨーコ、とりあえずはこのまま敵の言うとおりにしていていいのか?」
声を潜めて言う。
「……そうだな。あちらの出方を見よう。あのルゲル・ブッフェという石にマフトを同調させている限り、相手もルール違反はできない。つまり、相手の行動はすべて予測可能になるんだ。僕の頭脳に限界はない。よって、このゲームに負けることはない」
とんでもねえ自信だな。
「お兄ちゃん、おねえちゃんをしんじようよ」
「うむ、少女Aはいい子だな……いや、少年だった」
「あ。ここじゃないか?」
まだ遊具が残っているゲームコーナーの隣のスペースに、真っ黒い布で作ったテントのような怪しげな小屋が。
最近はこんなテナントが入ってたのか、それとも今回のために設置したのか。
小屋の看板には『占いの館・ルーンの導き』とある。安っぽいなあ。
入口部分の暗幕をめくって中に入ると、内部も当然、暗幕に四方を覆われた空間になっていた。間接照明のような淡い光が怪しげな雰囲気を演出している。
「……お入りなさい」
突然、女性の声がした。どうやら正面の暗幕の向こうから聞こえたようだ。近づくと、その奥にまだ空間があるらしい。
「……迷える者よ、お入りなさい」
声に従って幕の奥へ入る。そこもやはり黒一色の薄暗い空間であり、中央に丸テーブルが置かれ、その上に水晶玉があり、黒いフード付きのマントに身を包んだ人物が。
女性らしき黒マントがどうぞ、と丸テーブルの前に三つある椅子を示して静かに言う。
充たち三人は視線を交わし、素直に従った。
「えーと、何をすれば……」
静かに、と鋭い声で制された。黒衣の怪しいひとは両手を水晶玉にかざし、なんか呪文っぽい言葉を唱え始めた。やがて満足したのか、三人に語りかける。
「汝らの進む道は、ここよりはるかに離れた場所……希望も、光もない漆黒の闇と絶望に満ちた場所に続いておる……」
「僕らが負けて捕まると言いたいのか?」
ヨーコがふんと鼻を鳴らして言う。黒い人はゆるゆると首をふると、
「……運命、未来とは流転するもの。それは、その者の心次第で流れを変え、如何なるところへたどり着くかは定まっておらぬ……」
なんだよそりゃ、じゃあ占いなんて意味ないじゃんか。
「……占いは流れを示すためのもの。それを良き方へと導くのはあくまで汝自身」
ふーん。あっそ。
「……だが今回、ここでは占いはしない。行われるのは、クイズだ……」
占いの館なのに?
黒魔術師っぽい人は再び水晶玉に手をかざして、再び呪文っぽいことを唱える。
すると、水晶玉が淡い光を発した。
「おおっ。 ……と思ったけど、もっとすごい事たくさん見てきたもんな。これがどうし」
「それでは第一問!」
急に声を張るな!
「二股をかけている男とかけまして、人気画家と解きます。その心は?」
……は?
三人ともに、固まってしまった。なにこれ、こんな感じのクイズなの?
「……それでは、シンキングタイム……」
水晶玉に手をかざして呪文。すると玉は強く輝き、点滅を始めた。次第に明滅の間隔が早まっていく。
「え、えーと。これアレだよな? 大喜利的な、どちらも何とかでしょう、とか言ってジャケットの襟を引っ張るやつだよな?」
「なにそれー?」
「落ち着けミツル。ジャケットプレイは必要ない。両者の共通点を見つければいいんだ、確か。えーと、フタマタ? 何だったっけ? 猫が酔うやつか」
そりゃマタタビだ。異世界人に日本語の言葉遊びはキツいか。ここは俺が……
ブーーーーーッ。
水晶玉から音がして、光が消えた。
「……不正解。では次の問題です……」
さっさと第二問に移ろうとする黒い人。
「いやちょっと待てよ! 今の正解なんだったんだ?」
充の抗議に黒の人は残念そうな声をもらす。
「……過去に囚われるのは愚者のする事。常に前を向き、その時の自分にとっての最良と思われる選択をしなさい。さすれば自ずと道は示されるでしょう……」
いやいやいや。
「なんかいいこと言ってるっぽい感じにされても、気になるんだよ! 普通こーいうのは正解を発表するもんだろうが!」
「……愚かな」
水晶に呪文。するとその中に何やら黒い霧のようなものが揺らめいた。それは次第に形をとり、やがて文字になった。
『どちらも、かくしごとが得意でしょう』
「隠し事……描く仕事か! なるほど」
おースッキリした。
「……良いか? では次に行くぞ。 ……それでは第二問です!」
だからなんでそこだけ声張るんだよ。
「太郎くんは三百円持って駄菓子屋さんへ買い物に行き、税込百円のお菓子を買いました。お釣りは何円でしょう? ではシンキングタイム……」
なんだ、今度は算数か? ユウが指を折って、えーとえーと、と考えているが、大人には簡単すぎる問題だ。税込って言ってたし、日本にチップを渡す習慣はないし……。
水晶玉の点滅がゆっくりしているうちに充は手をあげた。
「簡単だ! 三百引く百は……」
「待て、ミツル罠だ!」
え? ヨーコの声に口を閉ざす。
「答えは、なし……いや、ゼロ円だ。百円玉で支払うだろうからな」
ピンポーーーーーン。
「おお、ナイスヨーコ! 危なかったぜ」
「ふん当然だ、なにしろ」
「それでは第三問!」
「だからそこだけ声張るな!」
その後、そんな調子でなぞなぞは続き、結果九問中正解が五つ。最初のハウンドドッグの数が決まると言っていたけど、今のところ可も不可もない感じか?
「……それではいよいよ次がラストクエスチョンです……」
そうなのか。
「では第十問!」
黒い人は最後までそこだけ元気だった。
「公園でABCDEの五人が鬼ごっこをしています。園内に他の人はいません。Eくんが鬼になりました。これで通算七回目の鬼です。自分の運の悪さを嘆く間もなく勝負は始まりました……」
余計な情報入れるんじゃねえ。
「まずAくんがすべり台の影から、次にBくんが植え込みの中から見つかりました。さて、捕まっていないのは何人でしょう?」
なんだ、また引っ掛けか? でもどう考えたってあとはCとDの二人だよな……? 捕まる、ってのがもしかして警察に逮捕されるとかそういうことか? それとも七回目の鬼とかそんなのが関係してるのか……?
問題の裏を読もうとする充。
恒例のシンキングタイムだが、水晶玉の点滅がいきなり早い。
「……言い忘れたが、最終問題が不正解の場合、今までのポイントがすべて没収されます……」
何い! ありかそんなの!
「……そして、シンキングタイムはあと五秒です……」
「ちょ、ちょっと待てずるいぞそんなの! ミ、ミツルどうだ? この問題どこかにひっかけが」
「俺も考えたんだけど、わかんねー!」
「……あと一秒」
わーーーー!
「五ひく二は三。こたえは三人!」
指を折って数えていたユウが迷いなく答えた。
ピンポーーーーン。
おおっ! 子供の素直な心の勝利! そうか、鬼のEも捕まってない!
「……見事だ。当クエストの勝者たる汝らには、光に満ちた道が開かれた……」
黒い人の声とともに、周囲が眩い光に包まれた。思わず閉じた目を再び開くと、占いの館はなくなっていた。
ブツッ、と小さな音がして、あーあー、マイクテスマイクテスと声がした。
「本日は晴天なり……プレイヤーの皆様聞こえますか? クエストクリアおめでとうございます! 只今の結果、最終問題での大逆転で開始時のハウンドドッグの数は一匹、となりました!」
おおっ。最終問題以外いらないじゃん、ていうパターンだったのか。まあ結果よければ。
「そこからも、ご覧いただけますね? 中央通路に、たった今ハウンドドッグが召喚されました。 ……ああ、ご安心を。猟犬はまだ、檻の中で息を潜めています。これよりカウントダウンの後、ゲームスタートと共にフィールドへと解き放たれます」
ピエロの言葉どおり、通路にいつの間にか鉄格子のはまった頑丈そうな檻が。
「あれが……。 ていうか、デカくね?」
恐る恐る近づく三人。人なら十人くらいは優に入れる大きさだ。近づくにつれて、明らかに猛獣らしい唸り声も聞こえてきた。嫌な予感しかしない。
「サーベラス……この国ではケルベロスの方がメジャーな呼び方だな。地獄の番犬が猟犬役というわけか」
ヨーコが言う。目の前の檻の中に居る『猟犬』は、三つの頭をもった巨大な犬……というか、こんなに大きな獣を犬と呼んでしまって良いのか……?
凶暴そのものといった唸り声が三つの口から漏れる。その全てに鋭い牙が見え隠れし、確実に捕まったら食い殺されるだろうという不安がわきおこる。本当に捕まえるだけなんだろうな?
「それではカウントダウンを開始します。テーン、ナイーン、エーイト……」
三人は駆け出す。まず物騒な猟犬の檻から離れるために。
「どうする? とりあえず二階行ってみるか?」
「ポジティヴだ。距離をとりつつ対象を視認できる位置へ移動しよう」
背中にスピーカー越しのカウントダウンを聞きながら、動いていないエスカレーターを駆け上がり、二階へ。
こちらも照明はついているが無人の閑散とした空間だ。左右に通路が伸び無人の店舗跡が並ぶ。中央は一階からの吹き抜けになっている。
通路の手すり越しに下を覗くと、檻から猟犬・ケルベロスがのっそりと出て来るところだった。くすんだ白い体毛に覆われた身体は十メートルくらい。普通の犬よりも首が長く、それが三つもあってそれぞれにあたりを覗って動いている。ひとことで言うと、キモイ。あとこわい。
「そうだ。まずはアレ、確認しとくか?」
思わず目が釘付けになってしまうのを無理に逸らして、充が言う。
「ああ。僕は外で警戒していよう。猟犬が二階に上ってきそうなら知らせる」
おう、と返事をして充が向かったのはトイレ。別にもよおしたわけではない。手洗い場に手をかざす。水は出ない。続いて個室の便器を確認、水は貯まっていない。
「そこは抜かりない、か」
このモール内にまとまった量の水があれば、ヨーコに有利になるからだ。敵は先に手を打っていた。外に出て、ヨーコに首をふる。
「そうか。敵もバカじゃない。 ……ミツル、次だ。あそこにあるぞ」
がらんどうの店舗、看板を見ると雑貨屋さんだったことが分かる。
「お兄ちゃん、ここ。かたぐるまして!」
もと雑貨屋の天井に設置された小さな機器。火災報知機だ。その下で充の肩に乗ったユウがライターに火をつける。
「どうだ?」
「……だめみたい。うごいてない」
スプリンクラーが稼働したら簡単に全館を水浸しにできるのに。
「どういたしましたか、みなさん? お水をお探しでしたか」
スピーカーの声。お見通しだ。どうやらこちらの動向は見張られているらしい。
「走ると喉が渇きますからね……では、一階中央の自販機を稼働させますので、セルフサービスでご自由にどうぞ」
くそ、めっちゃなめられてる感が。下の方からぶうん、という音が聞こえた。吹き抜けを覗き込むと、確かに自販機に明かりがついていた。あれが使えるらしい。猟犬・ケルベロスが突然動き出した自販機に興味を惹かれたように近寄る。三つの鼻を近づけて匂いを嗅いだりしている。
その動きはまるで普通の犬のようで、離れているせいもあり恐ろしさは感じなかった。
あまり動きも早くなさそうだし、相手が一匹なら、こうして違う階に居て見張っていれば楽勝なんじゃないか? ……という充の油断が旗を立てたようだ。
自販機に興味を失ったケルベロスの首のひとつが振り返った。身体は向こうを向いたまま、首だけがほぼ真後ろを向いたのだ。そして、二階の通路に居る充たち三人の姿を捉えた。
「やばっ、隠れろ」
慌てて身を隠す三人。ケルベロスはぐるっと体を反転させ、四本の強靭な脚を屈め、そして……一気に跳躍してきた!
「うわあああああ!」
三人のすぐ目の前に着地する巨大な犬。凶暴な唸り声をあげる三つの首。鋭い牙が見え隠れする口に、赤く光る目。根源的な恐怖が全身を駆け巡り、身がすくむ。
「逃げるぞ!」
ヨーコの言葉で三人は走り出す。絨毯敷きの通路を全速力。左手に階段室が見えてきた。迷わず飛び込む。
三階へ上るのと、一階へ下りる階段。迷わずヨーコは飛び降りる。二人も続く。
派手な着地音を立てて三人は踊り場へ。すぐに身を隠す。
その直後、彼らを追ってきたケルベロスの唸り声が聞こえてきた。
階段室へ脚を踏み入れ、そこで止まっている。
しばらく無念そうに猟犬の声は響いていたが、やがて遠ざかっていった。本当に、視界から外れればそれ以上の追跡はしないようだ。
「はあ……。びっくりした」
「ああ。あんなに跳躍力があるとは。あれじゃどこの階に居ても飛びかかってくるな」
とりあえずそのまま階段を下り、一階へ戻る三人。まだゲームは始まったばかりだ。
「どうする? 自販機は危険かな」
充の言葉にヨーコはしばらく考えていたが、
「……いや。いざという時のために水は携帯しておいた方がいい。警戒しながら行こう」
先刻稼働を始めた自販機は、中央通路のど真ん中にあるので、非常に目立つ。
三人は周囲を警戒しながら近づく。まだケルベロスは二階にいるはずだが、こっちの姿を見つければ飛びかかってくるだろう。二階の通路を見あげるが、猟犬の姿は見えなかった。
小銭の落ちる音やボタンを押す電子音、ペットボトルの落ちる音などにいちいちヒヤヒヤしながら三本のミネラルウォーターのボトルを購入。冷えてないが飲む予定はないので問題ない。
「さて……どうするかな。追っ手がどこにいるかわかんないのって、結構不安だな」
充のつぶやきに呼応するように、スピーカーの音声が。
「さあ、ゲームスタートから十五分が経過いたしました! ここまでの脱落者はゼロ、お見事です! それではお待ちかね、第二クエストを始めましょう!」
待ってねーよ。
「ああ、そんなに嫌そうな顔をなさらないで下さい。結果によっては、皆様の有利になるアイテムが手に入ることもあるのですよ?」
そうなのか。それはそうと表情までモニターされてるのかよ。嫌な感じだな。
「セカンド・クエスト! ゲームの館で目指せ遊戯王!」
じゃじゃっ、じゃー、という効果音。なんか世俗にまみれてるよな。
場所は、先刻消滅した占いの館のあった場所のとなり、ゲームコーナーだ。周囲を警戒しつつ近づくと、ゲーム機の全てが起動して賑やかな音を立てている。
「よく来たな、挑戦者ども! ワシがこの館の主ぢゃ!」
空手か柔道着のような服を着て下駄を履いたじいさんが腕組みをして立っていた。
「果たしてこの試練を乗り超えられるかの……。 覚悟は良いか?」
見事な禿頭に胸まで届く長い白ひげ。仙人みたいな風貌である。
「よし、ゲームなら任せとけ」
充のゲーマー心に火がつく。
「フン、生意気な小僧め。その言葉、忘れるなよ? ……最初の試練は、これぢゃ!」
ばばん、と示されたのはパンチングマシーン。ボクシンググローブを装着して、レバーで後ろに倒れるようになっている的をパンチしてその力を計るゲームだ。
その数値によって敵を倒したり、ランキングを競うのが基本だが……。
「……これは、ちょっと専門外だな」
困った。体力勝負は自信がないぞ。ユウは子供だし、ヨーコも一応女子だしな。
「ふん、ルールを聞こうか。じいさん」
不敵な目でヨーコが言う。
「……いい目ぢゃ。ワシの若い頃に似ておるわい」
「失礼なじいさんだな」
彼の目に寂しさの色が浮かんだのはスルーしてルール説明を促す。老人は職業意識で自らを鼓舞して声を上げる。
「ルールは簡単、明快ぢゃ! パンチ力が三百を超えれば敵を倒してお主らの勝ちぢゃ」
腰に両手を当てて胸と声を張るじいさん。
「……それだけか?」
「それだけぢゃ。何回挑戦してもええし、マフトを使っても構わんぞ」
「なんだ、簡単じゃないか」
グローブをはめたヨーコがゲーム機に向き合う。少し後ろに下がり、助走をつけて右こぶしを的の上方から振り下ろすように叩きつける。ヒットの瞬間、水しぶきがあがった。マフトによる増強も行なっているのだ。
……それにしても、なんでこのゲームで高得点出す方法知ってるんだ。
「おおっ、どうだ?」
画面には二四九の数字が。スゲーけど、画面の中の敵は倒れていない。モヒカン頭でパンクファッションに身を包み、いかにも悪役という顔を歪めて不敵な笑みを浮かべている。
「くそ。届かないか」
すると、ゲーム機から火災報知機のようなサイレンが大音量で響き始めた。おお、言い忘れとったとじいさんがとぼけた声を出す。
「何度挑戦しても構わんが、一度失敗する事にハウンドドッグが一匹ずつ増えるから気をつけた方が良いぞ」
「な……汚ねーぞ! ちゃんとルール説明しろよ!」
「いやー、年をとると忘れっぽくなってのう」
韜晦する老人の言葉に重なるように、三つ頭の猟犬の唸り声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、あれ!」
ユウの言葉にゲームコーナー入口を見ると、そこには威嚇の声をあげるケルベロスが二匹。
「心配せんでも良い。試練の間は奴らはここに入って来れん。それに、ここでの試練をすべて乗り越えた者には六〇秒の猶予が与えられるのぢゃ。その間、猟犬は手出しをせん」
どうぢゃ、とでも言わんばかりのドヤ顔で言う老人。
「……つまり、何度も失敗したら、最終的に成功しても怪物だらけのフィールドに出て行かなくちゃならないわけか」
「おう。それとのう、試練の最中は残り時間は止まっておる。ぢゃから何度でも挑戦できるぞい?」
むかつく笑顔で言われた。つまり、ここでずっと挑戦を続けて時間が過ぎるのを待つ、というのも不可で、クリアしてからも四〇分ほどの時間が残っているわけだ。
ヨーコは頭の中で策を練る。多分ここで連中がしたいのは、充のアックとしての能力を図ることだ。以前にアリスがやったように体表面を接触させたままマフトを放出すれば現在の数値をはるかに超える力が出せるだろう。
だが……多分ここのゲーム機にはかなり詳細に数値を測定する仕掛けがされているに違いない。推測どおり充が単なるアックでなく、貯めたマフトをある程度錬成できるとしたら?
隠しておいた方がいい。そんな人間の事は。
「おい少年A。風を起こして僕の助走スピードを……」
「喝! この、愚かモンがぁ!」
いきなりじいさんが声を張り上げた。
「一人ずつの挑戦にせい! 二人がかりとは何事ぢゃ!」
「なんだと、そんなルール……また忘れたとか言う気か卑怯者!」
すると、やれやれ最近の若いもんは、とゲーム機を指差す。
『危険ですので、おひとり様でのプレイに限ります』
と、注意書きが。くそ。
「……困ったな。一人では不可能な数値だぞ、とんだ無理ゲーだ」
ユウが手をあげる。
「じゃあ、……ボクがやる。おねえちゃん、いっしょにやろ?」
と、ヨーコの手を握る。
「これ幼児! 貴様聞いてなかったのか」
再び雷を落とすじいさんに、
「ほごしゃ」
「……っ。た、確かに。小さなお子様のひとり遊びは危険ぢゃ……認めざるをえん」
意外にちょれえな。
「ぢゃが! あくまでも挑戦するのはその子供ぢゃ。青い娘は機械に触れることを禁ずる! よいな!」
じいさんの声に、
「いいよ」
と、水の槍斧ハルバードを取り出す。
「ハルバード、形態変更。ヒューマンキャノンモード」
え……ヒューマン……?
槍が姿を変え、巨大な大砲になった。なんと。
「さあ入れ。少女いや少年Aよ」
「……え。おねえちゃん、ウソだよね?」
「その手のやりとりは時間の無駄だ。大丈夫、僕の計算は完璧だ」
うそやだなにけいさんって、と騒ぐユウが大砲の砲身に放り込まれる。
「おねえちゃん、こわいよ! ムリムリこんなの!」
「発射!」
「きゃあああああああ!」
ゲーム機の的よりもやや上にむかってユウの体が射出される。それは自らの風のマフトできりもみ状の回転を開始し、急激に下降して正確に的に命中した。
「おおっ! まさか成功するとは」
おい。
画面の数値は軽く三百オーバー。
「むうっ! 見事ぢゃ。第一の試練、達成!」
ファンファーレとともにゲーム画面に文字が現れる。
第一の試練『無制限パンチング一本勝負』クリア!
第二の試練『ダンス! ダンス! ダンス! 天まで届け魂のステップ』が解放された!
ハウンドドッグが二匹になった!
おたすけアイテム「HDフード」×1を手に入れた!




