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キス×バッテリー!  作者: 和無田 剛
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シーン04「東京ドーム約二個分(当社調べ)」その3

 約束の時間の七分前、充たちはモール前に着いた。

 目の前にバス停があるので交通の便は非常に良い。ただし今はモールが閉店中であり、平日の昼間ということもあって降車客は他にはいなかった。

 学校をサボっている引け目を感じて他人の目を警戒していた充だったが、

「堂々としていれば大丈夫だ。僕らは既に高校を卒業した一九歳だと思え」

 俺はともかくお前は見えねえよ、ていうかユイちゃんかユウはどうしたって無理だろうが。

「ふん、小学校の創立記念日に大学生のお兄ちゃんお姉ちゃんが付き添いで遊びに来ている。そう思え」

 はいはい、わかったよ。

 で、結果確かに何も起こらなかった。補導とか、職質とか。

「ふあぁぁぁ、おはよーお兄ちゃん」

 バスの中で熟睡していたユウがのんきに言う。いや寝ていたのはユイの方だったのか?

 今日は柔らかい髪をポニーテールにまとめて、スポーツブランドのTシャツにハーフパンツで少しアクティブな雰囲気。

 ちょっと久しぶりに来たが、広い駐車場には一台の車もなく、人の姿がないモールは、見慣れた場所とは思えないほどのよそよそしさと、そっけない冷たさが漂っていた。

「……超・高度結界じゃないか。あいつら国家予算を使い切るつもりか? ……いや、ひょっとしたらあの情報が正しいのかもしれないな」

 ブツブツとつぶやいている水色頭に、さあ入ろうぜと充は声をかける。

 正面入口には鎖がかけられ、閉店中の文字が。モールの看板にも『今秋リニューアルオープン予定、ご期待ください!』と貼り紙がされている。

 鎖をくぐって侵入した途端、周囲の空気が粘り気を帯びたような、妙な感覚がした。

「無神経なミツルにも感じられたか? 少し、『結界慣れ』したのかもしれないな。これが奴らの錬成したマフトだ。肌に合わないな」

 皮肉な表情でヨーコは先に立って歩き出す。モールの建物前の駐車スペースはあまり広くなく、左右と後方にメインのパーキングエリアが広がっている。建物の屋上も含めて、全部で三千台分あるらしい。

 白を基調にした、大きな直方体のような建物。壁面にはモールの名称が大きく書かれ、テナントとして出店している店舗の看板がズラリと並んでいる。もちろん今は休業中だが。

 アーチ状のエントランスの自動ドアはもちろん閉まっていたが、施錠はされておらず、手で開くことができた。

 ドアの内側にはスペースがあり、営業中はここにも屋台があって、ベビーカステラなどを販売していたのを思い出す。その奥のドアを開いてモール建物内に入る。照明が付いていないため薄暗いが、天井の一部が外の明かりが入るようにガラス張りになっているため、まっ暗闇というわけではない。

 正面には広い通路があり、左右の店舗は中身が全てなくなっている。がらんとした無人のスペースは広く、寂しく感じられた。それに気のせいか肌寒い。

 通路の真ん中に設置された、営業中は各店舗のセール情報や商品のTVコマーシャルを映していた大型の液晶モニターも当然、真っ暗なまま……と、思ったら。

 突如、店内の照明が次々と灯り、画面に映像が映った。

 道化の扮装に身を包んだ敵のボス、ジョーカーだ。

「ようこそみなさん! 本日は御足労頂き恐悦至極でございます!」

 やはり道化じみた仕草でうやうやしく頭を下げる。背景の無地の壁からは、奴がどこにいるのか予測がつかない。

「さっそくですが、本日は皆さんにゲームに挑戦していただきます」

 ゲーム?

「簡単に言いますと六十分間ハウンドドッグに捕まらずに逃げ切ってもらうゲームです」

 何か聞いたことあるような。

「ハウンドドッグ……猟犬か。ただ逃げるだけか? 攻撃をしてはいけないのか」

 ヨーコが聞くと、

「ええ。ただしハウンドドッグも皆さんに危害は加えません。こちらの世界の『鬼ごっこ』のように、ただ捕まえるだけです」

 ますます聞いたことあるような。まさか黒服サングラスの人が……?

「さらに、時間内に四つのクエストを用意しております。まずスタート前に第一クエスト。この結果によってスタート時のハウンドドッグの数が決まります。そして第二、第三のクエストが開始後三十分、六十分までに催されます。こちらも、結果によってハウンドドッグの数が増減したり、逃亡者……いえ、プレイヤーのみなさんが有利になるアイテムが手に入ったりします」

 まさにゲームだ。

「そして、見事六十分逃げ切った方はこちらへ来ていただき、私との最終クエストに臨んでいただきます」

 両手を広げ、芝居っ気たっぷりに言う。充は疑わしく思う。

「……本当に、ゲームなのか? なんで急にそんな、平和的っていうか」

 ピエロは目を見開くようにわざとらしい驚き顔をつくり、

「おやおや。アックボーイは戦いの方が良いですか? それでも構いませんが……はっきり申し上げて、我々は貴方のアックとしての能力を欲しています。そのためにプリングパトゥースへご招待しているのですから」

 ご招待、ね。

「ええ。極力丁重におもてなししますよ。ただ、そのためには貴方やお仲間を傷つけては協力関係など築けないでしょう? 暴力は憎しみの連鎖を生むだけです」

「ふうん。妙にまともな事を言うじゃないか。 ……いくつか確認したい点がある。いいか?」

 ヨーコが片手を挙げて質問する。ピエロはどうぞどうぞと促す。

「まず、その猟犬に捕まった場合、プレイヤーはどうなる?」

「脱落者の部屋へ行き、ゲーム終了までそこに居てもらいます。敗者復活のチャンスはありませんので、そうなったらゲームオーバーです」

 あしからず、と一礼した後、ああ、と思い出したように付け加える。

「その際、不正に脱出したりしないように、マフトを全て、吸い取らせていただきます」

「何? そんな事……まさか」

 流石に察しがよろしいですね、とピエロは横に体をずらす。今まで体の後ろに隠れてた何か……灰色の石でできたような、四角い物体。道化師の腰の高さくらいの、何やら意味ありげな。

「ルゲル・ブッフェ……! そうか、そっち方面の技術は進んでいるんだな。いやむしろ『遅れている』と言うべきかな?」

 なんなんだ、と話についていけない充が問う。

「例えるなら、こっちの世界の黒魔術みたいなものだな。今ではとっくに廃れた、過去の遺物にして……禁忌の技術さ」

 ヨーコは嫌そうな顔を隠そうともしない。

「スピーゲルウェルドにある、マフトを貯めておける石のことは知ってるか?」

 ああ、アリスが言ってたな。

「アウフェンザルド・ステインのことでしょ?」

 ユウは当然知っている。なんかまた覚えにくい単語だな。

「ああ。ルゲル・ブッフェは、それに自己判断能力を与えたようなものだ」

 ? まったくわからん。

「日本人のお前に分かりやすく言うと……そうだな、ツクモガミのようなものだ。古い道具に神が宿り、悪さをするという」

 つくもがみ……聞いたことあるような、ないような?

「ええっと……もったいないおばけ、みたいなもんか?」

「まるで違うが、どうでもいい。肝心なことは、あの石にマフトを同調させた者は、石に刻まれた規則を守らないとマフトを根こそぎ吸い取られるって事さ」

 おお、と驚きの表情を浮かべるピエロ。私が言うのもなんですがと続け、

「よく、ご存知で。プリングパトゥースでも既にごく一部の者しか知らない事ですよ」

 ふん、とメガネをあげた水色頭は言う。

「ひとつ、教えておいてやろう。僕は天才なんだ。自他ともに認める、な」

 お見それしました、と恭しく頭を垂れる道化師。

「話が早くて助かります。それでは、そちらの腕輪を装着してください」

 見ると、大型モニターの横に丸テーブルがあり、その上にシルバーのブレスレットが人数分、置かれていた。

「それを通じて、マフトの同調が行われます」

「ちょっと待て。ルールの詳細な説明が先だ。そうでなければ公正じゃないぞ。その石に刻んである全文を見たいから、そこがどこか教えてくれ」

 ヨーコが言うが、

「ふふ、その手にはのりませんよ。ここに来られるのは、ゲームを勝ち抜いた者だけです。ですが公正さは確保しましょう。 ……カメラさん寄ってください」

 その言葉に応じて映像が怪しげな石に近づく。カメラマンいたのかよ。

「ふん……」

 眼鏡を外し、画面に見入るヨーコ。アルファベットに似た文字だが明らかに違うそれは、英語も満足に読めない充にはもちろんわからない。

「カメラ、そのままパンして。石のすべての面が見えるように。そのあとはティルト……え? わからないのか。上も写せって言っているんだ」

 石に刻まれた、ヨーコが確認したルールはこうだ。

 このゲームに参加する者は六十分間、ハウンドドッグに捕まらずに逃げ切らなければならない。捕まった者は体内のマフトをすべて抜き取られ、隔離される。

 時間内にすべて捕まった場合はゲームオーバー、参加者の敗北となる。その場合、全員がプリングパトゥースへと移動させられ、軍事用マフトの供給および錬成義務を負う。

 ゲーム中には三回のクエストがあり、その結果によって参加者にとって有利あるいは不利になる場合がある。

 六十分逃げ切った者全員に、主催者ゲームマスターであるピエロのもとへ行き、最後のクエストに挑む権利が与えられる。

 最終クエストに参加者のうち一人でも勝利した場合、アリスおよび参加者全員の身柄は解放される。

 注意事項

 参加者、ゲームマスター、ハウンドドッグならびに当ゲームに関わる者は直接相手を傷つける行為を禁じる。

 また、故意に嘘をつく事も禁じる。ただし相手の不利益とならない場合は除く。

 ハウンドドッグの五感に関する能力は通常の人間並みとし、視界から対象物が消えた場合、それ以上の追跡をしないものとする。

 当建造物の外へ出ることは禁止する。屋上および地上の駐車場も外に該当する。また、地下に穴を掘った場合もそこは外とみなす。

 マフトの使用・不使用に関わらず、直接的な攻撃以外の行動は自由とする。

 以上の規則に反した者はマフトを没収した上で隔離するものとする。


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