シーン04「東京ドーム約二個分(当社調べ)」その1
再び廃コンビニ、ユウのアジト。時間はそろそろ深夜と呼んでも良い頃合。
「……話はわかったよ。俺が『それ』を使うのは、本当に最後の切り札、って事でいいんだな?」
ヨーコの話が終わり、充は確認の意味で言った。彼女いわく、死にはしないけど死ぬほど苦しいそうだ。
「ああ。そしてその手段にすがる時には多分、そうしないと奴らに殺されるとか拉致られるとか、そんな感じだろうな。まあ、そこまで切羽詰まったら使ってちょ」
それにしても濡れた水着は寒いな、倉庫に着るものなんかないのか、とユウに聞く。
「ないけど……ボクの服着る? お姉ちゃんならギリギリ着れるかも」
「それはスレンダー、あるいはスマートという褒め言葉と受け取っておこう」
そうして、フリルとリボンの装飾のついたブラウスにサスペンダー付きのスカートという、コスプレ感を漂わせた服装へ着替える。ほんとに着れたね、小学生の服。
「まあ、明日どっかで服買えばいいや……さて、僕らはどこへ行けばいいのか聞いてみよう」
と、シルバーカラーのスマホを取り出す。どこから、というのは愚問。
「おい、誰に何を聞こうってんだ? それ、なんか特殊なスマホなのか」
いいや、と首を振る。
「昨日こっち来てすぐに駅前のショップで買った。ホントはピンクゴールドが良かったんだけど、シルバーと黒しかなかったんだ」
そげん事どうでもよか。
「……誰に聞くかって? もちろん、アリスをさらった奴らにさ」
と、画面をたたた、と操作する。
「……あ、もしもしピエロ? それともジョーカーって呼んだ方がいいの」
おいおい本人って……、なんで敵のボス的なやつに普通に電話してんだよ!
「……うん。それはこっちも同じ。あんたがあんな事聞えよがしに言うからさあ。本部を頼れなくなっちゃったよ。あれわざと? ……やっぱりか。性格悪いって言われるでしょ。あんた」
気軽な口調で話を進めるヨーコ。充とユウは呆然と見ているしかない。
「……なーにがお互い様だよ。僕はみんなのアイドル的存在だからね? ……まあいいやそれは。で? 僕らをどこにおびき出そうとしてんの?」
うん、と短く言ったあと、マイク部分を手で覆って充に聞く。
「隣町のショッピングモール、わかるか?」
それなら、何度も行った事がある。複合型の大型ショッピングモールで、小学生の時は親が自動車で休日によく連れて行ってくれた。今はバスに乗って勝手に行くが。
「でも、あそこって確か今は閉店してるぞ。秋頃にリニューアルオープンするって」
それには答えず、ヨーコは再び通話に戻った。
「うん、わかった。こちらの確認したいことはひとつだけだ。アリスは無事なんだね? 身体的にも、精神的にも……え? ……はは、そうか。それは申し訳ない。うん。じゃあ明日」
通話を終え、ヨーコはスマホをしまう。
「ヨーコ! なんであいつと直に電話してんだよ! ここ、なんとか結界になってんじゃないのか? それになんだ、ショッピングモール? 一緒に買い物でもする気か」
やれやれ、と眼鏡をはずし、テーブルにコトッと置き、コバルトブルーの瞳で充を見据える。
「君は本当に成長がないな。質問はひとつずつにしろ。僕は天才だからいっぺんに答えてやれるが、受け取る側の理解が遅れるだろう」
おい少女Aお茶くれとユウに命じる。
「今は少年なんだけど……まあいいや」
素直にやかんをコンロにかける。
「まず、電話か。 ……こんな瑣末なこと聞きたいのか本当に? さっきSNSで連絡があったんだよ」
は? 充は開いた口がふさげなくなった。えすえぬえすってなにー? とユウが声をあげる。
「何でピエロはお前の番号とかIDとか、そのへんがわかったんだ?」
「先ほどのバトルシーンを思い出してみろ。僕は現場に制服を脱ぎ捨ててきた」
「ああ、そうだな。それで?」
「ポケットに、名刺が入ってたんだ」
「……はい?」
「名刺だ。昨日ゲームコーナーの機器で作った。クラスのみんなに配るためにな」
……マメなんだな、お前。俺もらってないけど。
「えーだってぇ、ミツルくんにはアリスちゃんがいるじゃなーい? 僕がけっこんしてって言っても嫌だって言うしぃ」
イラッとくるキャラで返された。まあいい、話を進めよう。
「次に結界内での通話か。スピーゲルウェルドの技術は全てマフトを根本にしているので、電波による通信を阻害しない。よって、ここは通話圏内だ」
充は自分のスマホを取り出してみる。ホントだ。母親に中村の家に泊まるとメールを送っておく。すぐに返信が来た。結界って、なんじゃろね……。
「それと、最後の質問か。自分で言っただろう充。もし忘れているなら成長しないどころか退化だぞ」
「ああ。つまり閉店中の無人のモールで対決、ってわけなんだな?」
「そういうわけだ。さて、質問は以上か?」
再び眼鏡をかける。ひょっとして伊達なのか? 充は心中疑惑を抱く。
お茶ですよー、とユウがカップを持ってくる。お兄ちゃんもいる? というのを断る。
「いや、一番気になる項目がある。アリスの安否を聞いてたよな? 無事、なんだな?」
充の言葉に、ヨーコはカップの湯気に曇った眼鏡を外し、
「無事だ。というより向こうが手を焼いているそうだ」
え?
「既に、あの巨人……ゴライアスを二体殺したらしい」
は?
「いわゆる牢屋に入れられているらしいんだが、見張りに立たせていた巨人くんを鉄格子越しに絞殺。こりゃ油断ならんと手足を鎖でつないでおいたら、作り直した巨人が食事を持ってきたところを、今度はその鎖を巻きつけて再び絞殺。で、現状こうなってるらしいデス」
と、スマホ画面を示す。そこにはいかにも牢屋、という場所に入れられたアリスの姿が。手足は手錠のようなもので縛められ、そこに繋がった鎖には巨大な鉄球が繋がっている。手と足、それぞれに一つずつ。黒光りするその表面には、『100t』と書かれている。
……計二百トンか。
「ま、そういうことでアリスは元気だ。さてもう寝るぞ、夜ふかしはお肌に悪い」
小学生の服のままヨーコはさっさと横になる。
「おいテーブルの上で寝るのか?」
呆れた充が聞くと、
「僕は軍人だ。どこでも眠れる訓練を受けている……」
言葉の途中で、ぐごー、という盛大ないびきと共に眠りについてしまう。
改めて休憩室内を見回してみる。軍人さんがいびきをかいている長テーブルに、パイプ椅子が四つ、給湯スペースが隅にあり、ブラインドのおりた窓の外は闇夜。
こんなにど真ん中で寝られると、俺はどこで寝たらいいか……。
壁に無地のカーテンがかかっている場所があり、その奥にもスペースがあるようだ。
「あれは?」
ここの主に聞いてみると、カーテンの奥は更衣室として使われていた小部屋で、布団を敷いてユウが寝床にしているという。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝たい?」
上目遣いの無邪気な笑顔で言う。絶対わざとだコイツ。
「も、って何だ。も、って! あの時はお前が勝手に忍び込んだんだろうが」
「いいじゃーん、照れなくってもさあ。僕よりユイの方がよければ代わるよ?」
「んな事言ってねえし! ……ああ、そうだ明日学校どうしよう? 母さんは電話でごまかせるけど、無断欠席したら学校から連絡行くよなあ……」
「……お兄ちゃんって、大物だね。この状況でそんな細かいこと気にするなんて」
……明日、死ぬかも知れないのに。ユウはその言葉を飲み込んだが、何故か充と一緒なら何とかなるんじゃないか、という気になってくるのが自分でも不思議だった。
世の中、そんなに甘いもんじゃないのに。そんなこと、わかってるのに。




