シーン03「ウォーターフロント・ラブアフェア(仮)」その11
「そこの少女か少年かわからないA! すぐ近くまで来ている雨雲を、風を起こしてここの真上に持ってくる事はできるな? さっきからずーっとミツルの手を握ってマフトを溜め込んでいるのはわかっている。もうすでにオーバーゲージなんじゃないか?」
あ。バレてた? と舌を出すユウ。
「面白いこと考えるねお姉ちゃん! ボクもやった事ないけど、これだけマフトがあるならできる気がする!」
雲を、動かす? まさかそんな事……
充が思う間もなく、突風というべき風が吹いた。その場の全員が思わず目をつぶるくらいの。
そして、空が先程よりも暗くなった。
ポツ、ポツ、と天からの水滴。
「マジか! 本当に雲動かしたのかよ」
ザアっと、すぐに本降りになる。
「さあ、覚悟はいいかい? 水の中の僕は、かなり手ごわいよ」
ヨーコは、いつの間にか武器を手に持っていた。
それは槍であった。彼女の身長よりも長く、先端についた刃の部分が少し変わった形をしている。通常の槍先の横に、小さな斧がついているような。
「水の槍斧、ハルバード。君たち全員、貫いてあげよう」
余裕の笑みを浮かべるスク水メガネ。充たち二人は下がって見守る。
「この、幼児体型が!」
真っ先に仕掛けるカウガール。
「ふん、攻撃が直線的すぎるし、あまりにヒネリがない」
無造作にヨーコが突き出した槍は途中で水の中に消え、ジャックの頭のすぐ横にその先端を出現させた。
「ぎゃあっ!」
小さな斧のついた刃がカウガールの顔を傷つけた。槍はヨーコの握る後ろ半分だけになり、残りが異次元のトンネルをくぐって敵のすぐ近くに出てきたような格好だ。
ちっ、誤差が出ているなと小さく呟いたあと、すぐに余裕の顔になり、
「ハルバードは水の中では神出鬼没。どこからでも串刺しにするよ」
おお、なんつーチートな武器だ。
名状しがたい唸り声と共にゴライアスが襲いかかる。その手に持った巨大な斧が届く距離に達するまでに、ハルバードが巨人の腹を貫いた。またしても、槍の上半分だけが宙からいきなり出現している。
「やっぱり死体だな。まるで手応えがない」
ズボッ、と槍を引き抜くが、巨体にあいた穴からは血も流れない。
「じゃあ、こうしようか」
ぶんっ、と今度は槍を横にはらう。宙から現れた先端の刃がスパっとゴライアスの首を刎ねた。狂った巨人は動きを止め、土くれのような無形物になってその場に崩れた。
「このクソガキが……! 顔に傷を! ふざけんじゃないよ!」
顔半分を血まみれにしたジャックが馬ごと突進してくる。ヨーコの繰り出す槍の攻撃を、今度は豆のツルを巻き付かせて防いだ。宙に浮いた槍の先端は緑の縄によって動きを封じられてしまった。
「二度も喰らわないっての!」
馬の前脚がヨーコを襲う。しかし、スク水メガネは余裕の表情を崩さなかった。
「あ、そう」
言うや、ハルバードの先端が姿を消した。まるで、それまで凍っていたものが一瞬にして水に戻ったかのように。
そして次の瞬間、槍は深々と馬の胴体を貫いていた。
苦しげな悲鳴をあげる馬。 ……シルビアだったっけ? ちょっと可哀想だと充は思ったが、それはマフトによって作り出された兵器の一種である。致命傷を受けた馬は掻き消えるように姿を消した。
「水の槍斧の真髄は水のように流れ、いかようにも姿を変えることにあるのさ」
決まった。服装がスク水で、しかも足元は紺のスクールソックスにローファーという、ある種のマニア垂涎のものであることを除けば、だが。
馬から振り落とされ、地面に転がるカウガール、ジャック。
「や、やられた……ばたっ」
あからさまにわざとらしいセリフで路面に倒れる。
そちらへ哀れむような視線をおくり、ヨーコは最後に残った敵に向き合う。これまでの戦闘中、ずっと傍観を決め込んできたピエロ、ジョーカーだ。降り続ける雨にメイクが流れてしまうこともなく、不気味でありながらどこか滑稽でもある道化師は、変わらない口調で、これはこれは、と言った。
「大したものです。流石は連合軍きっての天才。これはこちらも奥の手を出さざるを得ませんねえ」




