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キス×バッテリー!  作者: 和無田 剛
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シーン03「ウォーターフロント・ラブアフェア(仮)」その8

「あ、ちょっとコンビニ寄っていい? ノド乾いた」

 充の提案にアリスはうなずく。このコンビニには彼女のお気に入りのミルクティーが売っている。さっきカラオケでも色々と飲んでみたが、やはりこれに勝るものはない、という結論を彼女は得ていた。

 店を出て、充は炭酸水、アリスはミルクティーのペットボトルを手に再び歩き出す。

 朝と昼が長いこの時期にも、夜の闇が迫ってきた。周囲が薄暗くなっていく中でもアリスは警戒を怠らない。すでに空になったペットボトルを、どこに捨てようかと手に持ったままで。

「どうだった、アリス? 初めてのカラオケは」

 すると彼女は、満更でもない顔をした。

「ええ。意外に楽しかったです。また行きたいと思いました」

「そう。良かった」

 それこそ意外であった。それなら軍歌以外も覚えたほうがいいな。じゃあ最近のアニソンを覚えさせようかと心中に策略を巡らせる充。

「週に一度くらいでしたら、行っても良いと思いました」

 そんなに?

「……しっかし、ヨーコは異常に歌うまかったな。普段どんだけ練習してんだ、って話だよな」

 話題をそらす世間話のつもりで言った言葉に、

「ヨーコは、以前軍楽隊に居ましたので」

 アリスは簡単に言う。

「え。作戦指令部に居たって……」

 普通、軍の音楽隊って音楽家が入るところで戦闘とかはしないし、そこから異動はないんじゃないのか?

「彼女が自分で天才だ、と言うのもあながち誇張ではないのです。これまで開発部や諜報部、調理部にも居たことがあります」

「はあ……。何でもできるんだな」

 アリスは、小さく息を吐く。

「昔から、興味を持ったものは何でもやってきましたから……。移り気なのです」

 それでできるなら大したものだ、うらやましいと素直に充は思う。

「じゃあさ……」

 何の気なしに振りかえった充が見たもの。

 アリスの背後に迫った巨大な影。忘れもしない、公園で襲われたあの巨人だ。

「ミツルさん? どうしま……」

 まったく気づいていない彼女に、巨人は無言のまま巨大な斧を振り上げた。

「危ない!」

 とっさに飛びつき、斧をかわす。二人でもつれるようにして道の脇へ転がる。

「……どうして? まったく気付かなかった……本部、応答を!」

 困惑の顔になりながらも何とか体勢を立て直し、充をかばう。即座に背中から炎の剣を引き抜く。

「あの時の巨人……いや、別の個体か。また死体を見繕って操ってるのね」

 どうやら本部との通信が途切れているらしい。そして何故か、すぐ後ろに迫られるまでアリスは巨人の接近に気付かなかった。

 何がどうなっている……? いや、考えている場合じゃない。半袖セーラー服の戦士は既に戦闘態勢に入っている。正気をなくした巨人が、暗くなりかけの空に向かって獣じみた雄叫びをあげた。

「ミツルさん、わたしの後ろに。何故か周辺の警戒のために張り巡らせていたマフトがなくなっています。本部との通信もシンド・ニヒトメヒール……ディース・イスト・ワルム?」

 突然、アリスがわけのわからないことをしゃべり始めた……と思ったら、フランベルジュの炎が消えている。

 またマフト切れだ! でも、今日はそんなに使ってなかったはず……?

「アリス! 補給を……」

 彼女の手を取ろうとした充の手に鋭い痛みが。

「痛っ、な……」

 彼の右手の甲を撃ったもの、それは小ぶりなステッキであった。それを振り下ろしたのは、道化。いわゆるピエロである。

 白塗りに、目や口の周りに原色で施したメイク。赤いトンガリ帽からはみ出たオレンジ色の髪は巻き毛で、派手な柄と色のパッチワークの服を着ている。

「何だ、お前……!」

 痛む手を押さえながら、いつの間にかすぐ近くに立っていたピエロに向き合う充。アリスはもうひとつの敵、巨人に向かって剣を構えている。顔半分だけ振り返って何か言うが、相変わらず充にはわからない。

 ふむ、とわざとらしい動作でピエロは顎に手を当てる。

「何だ、と問われれば……ピエロです。ご覧の通りね。ここではそうした役割になるようです」

 とりあえず日本語で返答があったのは良かったが、内容はいまいち意味不明だ。

「それで? 俺を殺しに来たのか、それともプリンに連れていくつもりか!」

 何とか時間を稼いで、隙をついてアリスにマフトを補給しなければ、とピエロに声をあげる。

 薄闇の中に佇むその姿はなかなかに不気味で、子供の頃に読んだ本に出てくる怪人のようであったが、少なくともアリスが対峙している巨人よりはマシだし、言葉も通じている。マフトがなければアリスはただの(?)常人離れした戦闘力のある女子に過ぎない。いくら何でもあんな巨大なアンデッドに勝ち目はないだろう。ここは俺ががんばるべきだ。

 すると、巨人が再び不気味な雄叫びをあげた。セーラー服の美少女に巨大な斧を振るう。後ろに充がいるからだろう、彼女は避けずに炎を失った剣で受け止める。

「くうっ……!」

 明らかに力負けだ。彼女はこらえようとしたが、剣を抱えたまま吹き飛ばされた。頭でも打ったのか、そのまま倒れて動かなくなってしまった。

「アリス! 大丈夫か」

 充の呼びかけにも、彼女は倒れたまま答えない。

「アリス? ……ああ、この娘ですか。なるほど」

 ピエロは片手をあげ、倒れている彼女に襲いかかろうとしていた巨人を制した。

「ゴライアス、待て! この、ミスキャストに甘んじている娘は殺してはなりません」

 ゴライアスと呼ばれた巨人はおとなしくなった。今回はマスター付きというわけか。前回のようには行かないぞ、これは。

 充は必死で頭を回転させようとする。

 どうする? アリスに近づかない限りマフトを補給することはできない。ピエロの戦闘力は未知数だが、その言いなりになる巨人に充が対抗できるはずがない。

 あとは……もう一人の異世界人に頼るしかないか。でもアイツは友達とどっか行ってしまったし……。何故か軍本部とも通信が途切れているらしい現在、ヨーコがここの異変に気づいているかどうかもわからない。

 ジジッ、と小さく音がして街灯がついた。空は暗闇に染まろうとしていた。


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