シーン03「ウォーターフロント・ラブアフェア(仮)」その2
「……で? 何がどうなっているか説明してもらおうか。ヨーコ、でいいんだよな」
池田家のリビングのソファに、充と向き合って座るアリスとヨーコ。
アリスは背筋を伸ばしたセーラー服姿、ヨーコはタオルを肩からかけたスク水銀縁メガネで、ソファにあぐらをかいている。
「ああ。こちらの世界では水樹ヨーコという偽名を使用する」
と、薄い胸をはる。そこには確かに『2年C組 水樹』と書かれた名札が。悪い予感しかしないが、とりあえず話を進めようと充は自分を鼓舞する。
「で、何しに来たんだ」
はあっ、と大きくため息をつくヨーコ。
「だから最初に用件は伝えているだろう。記憶力が悪すぎるぞミツル。お前と結婚するために来たんだ」
リビングに沈黙が流れた。充の母親がお茶を持ってきた。
「あら、今日はもう一人見えたのね。アリスちゃんのお友達なの?」
「ええ。いきなり押しかけてすみません。わたしの知人がこの近所で溺れかけまして、急遽こちらで休ませていただくために参りました」
無茶苦茶な嘘をつくアリス。
「あらそうなの」
母親、まさかのスルーである。
「じゃ、ごゆっくり休んでいって。えーと?」
「水樹です。末永くよろしくお願いします」
ソファの上で正座をして頭を下げる。
「あらご丁寧に。こちらこそ」
よろしくしないでいいよ、と充は思う。
お盆を手に出て行く母親の背中を見送り、
「……母さんに、何かしたのか」
充の言葉にヨーコは、
「だってさ。ナニかしたのぉ? アリスちゃん」
ヨーコを横目でにらんでから、
「お察しのとおりです。わたしの言葉を信じやすくするためのマフトを少々、展開しました。ですが体調や精神に悪影響はありませんのでご安心ください」
ならいいや。しかし本当に話進まないな。
まったく、とアリスは腕を組み、
「最初に聞いていたのから検査の種類が増えるし、結果が出るまでもう少し待てとか、気になる数値があるからもう少し調べようとか、やけに長引いていると思っていたのよ。ヨーコ、貴女の仕業ね?」
言われた相手は、ぽんぴーん、と肯定する。
「護衛に関しては」
と、眼鏡を指でくいっと押しあげ、
「及第点、といったところかな。流石はフェルドウェベルだ。だが、君に課せられた任務はそれだけではない」
「わかってるわ。マフト供給量の最高値の測定でしょう。でも、前回戦闘時の供給量をもって、おおよその推定は可能なはずよ。あの状況であれだけのマフトが」
言いかけるアリスの言葉に、
「甘い!」
と、ソファの上に立ち上がるスク水。
「君に何がわかる? この男は、明らかに我々の知っているアックとは別次元の能力者だぞ? まだまだ、あんなものじゃないはずだ。気持ちの高揚、相手に対する心からの愛、そしてその相手を守りたいと思う強い気持ち……そうした」
ばさっと、タオルを天井に向けて放り投げる。濡れたもんを放り出すな。
「最高の条件でミツルが放出するマフトは、もしかするとプリングパトゥースをまるまる滅ぼすくらいの威力を発揮するかもしれない」
びしっと、タオルを床から拾っている充を指差す。
「そんな……。国をひとつまるごと、なんて。いくらなんでも……それに、もしそうなら」
アリスは否定的だ。
「なぜ、そう言い切れる? 可能性はあるぞ。だからこそ、作戦を立案するだけでなく実行することにかけても天才である僕が、自らやって来たんだ。人生の伴侶を手に入れ、愛するヨーコちゃんのためにミツルがプリングパトゥースを滅ぼそうと本気で……!」
拳を握りしめ、ソファに仁王立ちして力説するスク水に充は言う。
「ちょっと待て。ないから。俺、人の入ってる風呂からいきなり出てくるようなヤツの事好きになったりしないから」
冷静に。しかも、確信を持って。
「なん……だと? お前はこんなに魅力的な女子からプロポーズされて何とも思わないというのか?」
「うん」
俺、ロリ好きじゃねーし。
「ぐはああっ! ……なんという事だ。ウォーターフロント・ラブアフェア(仮)作戦は失敗したというのか? ……いや、まだだ。まだ終わらんよ……!」
いやもう終われ。ていうか(仮)の作戦実行してんじゃねえ。




