シーン02「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ(嘘)」その8
家に着いてみると、母親は不在だった。リビングのテーブルに「今日は同窓会で遅くなります」と書き置きが。そういや、そんなこと言ってたな。
「リビングでいいの?」
帰宅途中にアリスが言うには、護衛の不在を補填するために伝える事があるとの事。
「ええ。ではまず、これを」
セーラー服のスカートのポケットから使い捨てライターを取り出す。
「なにこれ」
「ライターです」
見たまんまか。
「危険な時、火をつけてください。わたしが跳躍してきます」
ちょうやく?
「以前、公園での戦闘時にお見せしたと思いますが、わたしは火から火へ瞬時に跳躍……ジャンプすることができます」
思い出した。自分で出した火の玉に瞬間移動していたな。
「なるほど。警備会社と契約してるようなもんか。なら安心」
「ミツルさん、油断は……」
「あー、わかったよ。戦場で死ぬんだろ? 気を抜かないようにするから、行ってらっしゃい。多少遅くなってもいいからさ、ご両親に元気な顔見せてきたら?」
充の言葉に、アリスは無表情で答える。
「ご配慮には感謝しますが、残念ながらわたしには親が居ません。昔、事故で」
それは知らなかったとは言え……充はうろたえる。
「いえ、本当に幼い時なので顔も覚えていないのです。それからは叔父に養子として育てられてきたので……義父にはちゃんと、顔を見せてきます。彼も、連合国軍に所属していますので」
なるほど納得の軍人一家。
「それと、これも」
と、手渡したのは黒光りする自動拳銃。
「ちょ! これは要らないよ」
慌てて押し返す。
「そうですか? 22口径ですからミツルさんでも扱いやすいと思うのですが」
いやそういう問題じゃないから! 俺が捕まるから!
「ではサバイバルナイフも?」
「却下!」
「せめてスタンガンだけでも……」
「いいから! 行ってらっしゃい!」
彼女の勧める凶器はすべて断り、ちゃんと注意するからと何度も言う。
それでは、とアリスは言い残して姿を消した。
姿を消したのである。池田家のキッチンのガスコンロを、ちちちと音をさせて点火したかと思うと、そのまますうっと消えた。
スピーゲルウェルドへ直行したのか、あるいはどこかへ移動した上で改めて異世界へと移動したのかはわからないが、とにかく。
「……しばらくは、一人か」
つぶやき、注意しとかないとな、と戸締りをして回った。
それからゲームをして、ちょっと本を読んで、あ勉強するの忘れたと思いつつ用意してあった夕食をレンジで温めて食べ、それからまたゲームをしてたら母親が帰ってきた。
「ごめんねー。みーくんもうご飯食べた?」
少し、飲んでいるようだ。
「その呼び方やめろって。 ……おかえり」
「ただいまー。お風呂入ってくるね、タバコ臭くなっちゃったから」
どうぞ、と充は自室へ引き上げる。部屋着にしているジャージのポケットには使い捨てライターが。見つかったら勘違いされるかな。
「みーくん、お風呂どうぞー」
だから呼び方……。
その日はそのまま、アリスからの連絡もなく、寝込みを二重人格の幼女に襲われることもなく過ぎていった。




