シーン02「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ(嘘)」その7
「お早う御座います! 登校に同行するため参りました!」
翌朝も、池田家の玄関には直立不動の黒髪美少女。三日目のログボはなんだろな。
初日以降、アリスは充が登校準備を終えてそろそろ行こう、という頃合にやって来るようになった。やはり朝食は遠慮するらしい。
「それではお母様、行ってまいります!」
かん、と敬礼。母親も敬礼を返す。もう少し肘を上げていただけますでしょうか、とアリス軍曹の指導が入る。
そうして無事学校に到着。クラスメイトも二人の事をすっかり受け入れており、毎朝机やロッカーに爆発物がないか確認したり、狙撃可能なポイントが常に視界に入るように斜めを向いて授業を受けていたりという、アリスの怪しげな行動にもいちいち構ったりしなくなった。
人間、どんな事にも慣れるものなんだな、と感心する充であった。
そうした平穏な一日が過ぎ、放課後の教室。部活や委員会、あるいは掃除当番など用のない生徒は下校する時間である。
「ミツルさん。お話が」
えらく深刻な表情でアリスが言った。
「な、何どうしたの」
実は……と話し始める。
「本部より呼び出しがありまして。これからスピーゲルウェルドに帰らなければなりません」
教室で堂々と言うが、若干寂しさを覚えるくらいに他のクラスメイトたちは気にしていない。
なんか改変とかされてないだろうなと充は心配になるが、もちろん彼女の心配はそんな事ではない。
「お分かりですね? つまり、護衛が一時的に居なくなるのです」
まあ、そういう事だよな。
「ですから! 危機感を持ってくださいミツルさん。貴方は……」
「重要人物なんだろ? わかってるけどさ。しょうがないじゃん。ま、たまには実家に帰るのもいいんじゃない」
はあ、とアリスはため息をついた。
「……家になど寄る暇はありません。すぐに戻ります」
「なんの用事なの? そこまでして行かなきゃならない、ってのは」
項目としては、と黒髪を片手で払う。
「定時報告及び今後の方針確認など事務的なものも含みますが、最重要事項はわたしの身体検査です」
しんたい、けんさ……?
「繰り返しになりますが、わたしはこの世界とは違う、所謂異世界から来ています。環境の変化、特に大気中のマフト濃度の違いで体調に不具合がないかを検査しなければなりません。体質によっては命に関わる病気になることも、あるそうです」
そりゃ大変だ。
「ええ。一度検査を受けておけば、当分は良いそうです。こちらの環境にどれだけ適応できているか、体質による差が大きいので、それを確認するそうです」
「わかった。行ってきてよ。それはだって、すごく大事なことじゃないか」
「……ええ」
アリスは表情を暗くした。
「わたしがいない間の代わりを申請したのですが……人員の手配がつかないそうなのです。どうも、あちらでもプリングパトゥースが不穏な動きを見せているそうで、それに裏から手を貸しているらしき大国の動きも……」
なんかニュース番組っぽくなってきた。
「という訳でミツルさん。これからご自宅にお寄りしてもよろしいですか」
どうぞ。 ……しかし、こいつらこんなセリフでも気にしないのかよ。若い男女が家に行くとか、そんな事言ってるんだぞ?
「お、悪いな充。今日は急ぎなんだ」
中村もごく普通に声をかけてくる。
「なんだ、バイトか?」
「いや。ショップ限定特典付きゲームの発売日だ。四種類コンプリートするために予約入れてあるから忙しんだよ」
そうかい。トラクターに轢かれんように気をつけな。
「では帰宅しましょう。ミツルさん」
アイ・マム。充はカバンを手にして立ち上がった。




