シーン02「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ(嘘)」その6
結局、その日はそれで終了。アリスは充を自宅まで送り、それではまた明日、と深々と頭を下げて帰っていった。
疲労は、かなりあった。加えて充は眠りが深いほうだ。音や光などの刺激で目を覚ます事は滅多にない。
だからだろう。
ここまであっさりと侵入を許してしまったのは。
何かに気づいた、という感覚ではない。ふと、夜中に尿意をもよおした時のように自然に目が覚めた。
すると、自分のベッドに幼女が一緒に寝ていた。
「わわっ! ……な、なん……あ、ユイちゃん?」
充の枕を抱き枕のように抱えて眠る、ハーフのような外見の少女。
先日、学校帰りに殺そうとしてきた小学生だ。
正確に言うと彼女は多重人格者で、ユウという人格が殺し屋として充を殺しに来たのだが。最初に出会ったユイという人格は無害そうだが、ユウには逆らえないらしい。
「……ということは、だ。これが夢でないなら今俺は、自分の命を狙う殺し屋と一緒に寝ている、てことになるな」
しかし。もしここで寝ているのがユイの方なら別に問題は……いや、ないのか?
条例とか法律とか、主にそういう方面で!
「う……うん……むにゃむにゃ」
わざとじゃないかと疑いたくなるような寝息を立てて眠る少女。起きているときも可愛かった彼女が自分の枕を抱えて寝ている姿が可愛くないはずがない。
「……どうしよ。起こすべきなのか? このまま……ってわけにもいかんよなあ」
ベッドに頬杖をついて、横を向いた体勢で充は思う。
すると、パチっという擬音が聞こえそうな勢いで幼女は目を覚ました。
「あ、オハヨー。おにいちゃん」
ユウだ。口調でわかった。
よいしょ、と言いながらユウはベッドの上に女の子座りをする。胸には充の枕を抱えたままで。
「うん。ボクだよ。その節は大変お世話になりました。お陰であのおっかないお姉さんに殺されなくて済みました」
こくん、と可愛らしく頭を下げるが、絶対わざと可愛く見えるようにやってるだろコイツ、と充は確信する。相変わらず人を食った奴だ。
いやいやマジで、とユウは正座する。その姿はうさちゃん柄のピンクのパジャマを着た少女であり、思わず頭をなでなでしたくなるような可憐さなのだが。
「マジでそれは感謝なんだけどぉ、殺し屋的には大失敗なわけじゃん? 今更どの面下げて帰れるか、ってな感じで」
まあ、そうだろうけど。
「わかる? まあ、そういうわけだからボクも帰るに帰れなくって。こっちの世界でうだうだしてたらマフトなくなってきちゃって」
全く悪びれずに言う、少年殺し屋。
「……で? 俺のところにマフト取りに来たってわけか」
充もベッドに座り、向き合う。
「そーいうことー!」
うん、子供は素直なのが一番だね。
「しょうがねーな。じゃ、もう俺を殺そうとはしないんだな?」
「もちろん! だってもう依頼はキャンセルします、って伝えたし」
大丈夫なのか、そんな事して?
「わかんないけど。まあ、ボクは元々そんなに成功率の高い殺し屋じゃないから。向こうも安いしダメもとで頼んでみよっかなー、くらいの気持ちだったんじゃないかな?」
殺し屋って、そんな軽いノリで頼んでいいもんなのか?
「だってボク、まだ子供だし」
まあそうだけど。
なんだかなあと充は手を出す。その手を小さな手が握る。
「ああ、生き返るなあ。ほんと助かる」
しばし、美少女の姿をした悪ガキの殺し屋へマフトを恵んでやる。
じゃ、と言いながらユウは立ち上がった。
「これで、報酬は先にもらったから」
なんのことだ? 充が不審な表情でいると、
「ちゃんと、仕事はするよ。これから先、お兄ちゃんが危なくなったらボクが助けてあげる。それで役に立ったら、またマフトちょうだい」
にこっと、少年だか少女だかわからない、綺麗な顔の子供は微笑んだ。
「しょーがねーな。 ……しかし、よく忍び込んだな。ここ、結界だかバリヤーみたいなのがはられてるはずだぞ?」
よくわからないながらも言うと、
機械はしょせん機械なんだよ、とユウは言う。
「機械で展開するマフトは一定の周期で規則正しく放出されるから、その隙間を見つけるのは簡単なの。大縄跳びでせーの、って入るようなもんだよ」
何というたとえを。
「じゃ、そういうことでまた。今は眠ってるお子ちゃまのユイだけじゃなくてボクも、お兄ちゃんのこと気に入ったからさ」
じゃあね、と言いおいて窓を開けて去っていくユウ。近所の家の屋根の上をしゅたっ、しゅたっ、と飛んで去っていく後ろ姿を見送る。
「……味方が増えたってことで、いいのかな」
窓を閉め、再びベッドに潜り込む。こどもの甘ったるいにおいが残っていた。
アリスには、ユウ(とユイ)の事は黙っていようと決めた。多分、危機感がどうとか味方のふりして懐に潜り込んだ上での自爆テロの手口とか、そんな事を言われそうな気がしたからだ。




