シーン02「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ(嘘)」その1
「バスで行くのが一番いいんだけど……危ないかな?」
駅前のバスターミナルで時刻表を前に、充は護衛役の美少女軍人に聞く。
「いえ。定期的に使用するのなら前もって爆弾を仕掛ける可能性もありますが……逆に、移動している車内では行動も制限されますし、電車などと比較して乗車可能人数の少なさから言っても、問題ないかと」
ないならいい。
「念のため、乗車寸前までどの路線に乗るのかわからないように偽装しましょう。ええと、この時刻に発車するのですね」
わざと隣の待合所に立ってそちらに乗るように見せかけ、発車時刻ギリギリに乗り込んだ。
プシュー、と音をさせてドアが閉まる。
「これで、大丈夫かな?」
なんだか楽しくなってきた充が言う。
「……おそらくは」
油断なく車内に目を配りながらアリスは言う。
平日の午後の路線バスの車内には老夫婦と主婦らしき女性、サラリーマン風の男性と小さな子供連れの若いお母さんが乗っているだけだった。
「じゃ、座ろうよ。 ……あ、どのへんに座ったほうがいいとか、あるの?」
すっかり乗り気の充である。
「いえ……ただ、わたしを窓側にしてください」
そう言って二人がけの椅子に座り込む。充はその隣に収まる。意外と車酔いしやすいのかな、などと脳天気に思っていたが、バスが発車してしばらくしてから気づいた。
……狙撃された時に盾になる気だ。
「な、なあアリス。こっちの世界ってどう? 遊びじゃないのはわかるけど、楽しい?」
わざと気楽な口調で言ってみた。
案の定、アリスは片眉をあげる。
「楽しくては任務になりません。ですが」
意外にも、彼女はこう続けた。
「ミツルさんのお母様の料理は、美味しかったです」
それも、少しだけ俯いて、ほんの少しだけ表情に感情をあらわして。
「それならさ! どうせ毎日一緒に行くなら朝飯も食っていけばいいよ。母さんも喜ぶと思うし……あ、ただしあんまり褒めると夕食も食ってけとか、泊まってけとかってエスカレートしそうだから注意が必要だけど」
良かれと思って誘ってみたが、彼女は視線を窓外へやって表情を曇らせた。
「いえ……遠慮しておきます」
そのまま、バスを降りるまで彼女は無言だった。
南が丘公園前というバス停で降りる。アリスはさっと周囲に目を配るが、あまり警戒はしていないようだ。
県営の、山の斜面につくられた大きな公園。バス停から少し歩いて丸太を地面に埋め込んだ階段を登って入場する。園内には芝生の広場や散策路、かなり大掛かりな遊具や展望台などがある。
「ああ、久しぶりに来るな。ここ」
初夏を感じさせる風と日差しに、おもわず深呼吸して充は言う。小学校の遠足以来かな。
「きれいですね」
アリスは静かに、それだけを言った。風が彼女の黒髪を揺らした。
遊具スペースには何組かの子供連れ。やってみる? と冗談のつもりで聞いてみたら、
「そうですね……。興味はありますが、任務を優先します」
真面目な顔でそう返された。
「ひょっとして、スピンには公園ってないの?」
「スピーゲルウェルドです。公園はありますが……遊具、ですか? ああした建造物は」
「そうなんだ」
じゃあ、やってみれば……アリスの横顔を見て思うが、セーラー服の美少女が子供にまじって楽しそうに遊具で遊ぶ姿を想像して、口を閉ざした。
多分……引くわ。
「ま、順当に経路に従って進もうか。園内ぐるっと一周すると、結構いい運動になるよ」
先に立って歩き出す。
「ところでさ」
充が振り返るとアリスの姿がない。周囲を探すと……居た。
「マジか! そんなにやりかったのかよ」
彼女は大きなアスレチック遊具の頂上に直立していた。
「アリス! 見えちゃうぞ」
その声に、高さにして五~六メートルはありそうなところから一気に飛び降りてくる。
「うおっ! 危ない」
「この程度の高さなら、問題ありません」
片手で髪を後ろに払って言う。
「そんなに遊びたかったの……って、そんな訳ないか」
ええ、と彼女はうなずき、周囲に狙撃ポイントになりそうなところはないと告げた。
「あそう。じゃあ、安心だね……行こっか」
周囲の視線が痛い、というより明らかにこちらを避けているのが伝わってきたので、早々に離脱しようとする充。
「前にも言いましたが、油断は死を招きます」
「ごめんわかったから。行きましょうアリスさん」
「はい。 ……ああ、それとミツルさん。何が見えるというのですか」
真顔で聞かれた。
「いや、その……なんだろうね。男の夢?」
「夢? 大丈夫ですか、昨夜は眠れましたか」
そう聞かれると言いにくいじゃないか。それにさっき着地の時にスパッツ履いてるの見えたし……。




