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キス×バッテリー!  作者: 和無田 剛
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シーン01「炎の転校生(かわいい)」その11

 結果、クラスメイト全員の敬礼に見送られて、充たち三人は寄り道という名の任務へ赴くことになった。

 なんなんだよ、このクラスのノリの良さは?

「さてと。じゃあアリスにこっちの世界……じゃない、我が国が誇るサブカルチャーの専門店を紹介しよう」

 と言って出向いたのは、昨日も来た地元のゲームショップである。新品中古を問わず、店内は現行品からディスコンのハード、ソフトが所狭しと棚や壁を埋め尽くしている。

 店舗のBGMも流れているが、いくつものモニターでゲームのプレイ画面やPVが流れ、実に雑多な音と光が混じり合っている。

「これは……なんというか、無秩序という名の秩序が感じられます」

 店内に入って、アリスの第一声がそれであった。

「哲学的なこと言うね。さすがちゅう……」

「やめとけ、中村」

 充は友人の言葉を止める。アリスがどう思うかはわからないが、とりあえず今の状態で収まっているならそれでいい、と思ったのだ。

「ああ、そうか。本人的にはそうだよな」

 中村は、何だか無意味に納得したような訳知り顔で頷いている。

「ミツルさん。この店舗の裏口は?」

 真剣な表情でアリスは言う。

「裏口?」

「正面出入り口以外の、脱出路です」

 ああ……。あれじゃないの、と非常口の緑色のマークを指差す。

 無言でアリスはマークの示す方へ。しばらくして戻ると、

「出ましょう。ここは危険です」

「はあ? 何で」

「非常口、という扉の前に商品らしき物体の詰まった箱が大量に重ねられていました。入口から催涙ガスでも投げ入れられたら逃げ道はありません。ドアから出てきたところを狙い撃ちされます」

「そ、そんなゲリラ的な攻撃してくるの? 異世界人なのに」

 どうせ他の人には妄想扱いされるだろうと、充も堂々と言う。

「昨夜、本部より分析結果が来ました」

 片手で髪を後ろに払って言う。あーあの都合悪い時には通信できなくなる本部ね。

「昨日の敵は結界を張るのに最小限のマフトで済むよう、せいぜい人払いをする程度の簡易的なもので済ませていました。そして使用武器はこちらの世界でも使われるような機関銃……つまり、相手はマフトをあまり使いたくない、あるいは」

 アリスの瞳が店内を油断なくぐるりと見回す。そうだ、店内でゲームソフトやモニターに目を輝かせている子供(じゃない人も多いが)たちの中に殺し屋が混じっているかもしれないのだ。

「……あまり、マフトがない?」

「あくまでも状況からの推測ですが」

 うなずくアリス。急に、充は恐怖を感じた。そんなマフトを、自分は身体に蓄えている……。いくら護衛してくれても、背中から撃たれでもしたらおしまいだ。それに、アリスの言うように毒ガスや爆弾でやられるかもしれない。

「おい中村、今日はもう帰らないか?」

 既にPCエンジンのソフトのジャンク品の山を漁り始めていた友人に言う。

「はあ? 何言ってんだよ。 ……ははあ。火野さんと二人になりたいのか?」

「何言ってんだ! ちげーよバカ! この店はあぶないから……」

 はっと気づいて声を落とす。営業妨害と思われて出禁になるのもゴメンだ。

「と、とにかく俺は今日はもう帰るからな」

「どうぞ。お前がリア充になるなら俺は二次元に生きる」

 だから違うっての。

「じゃーな。 ……アリス、行こう。他の人を巻き込んだら大変だ」

「的確な状況判断に感謝します」

 足早にゲームショップを出る。なんてこった。よく考えたら俺のせいで誰か無関係な人が怪我したり、下手したら命に関わるかもしれないじゃないか。

「アリス、どうしたらいい? これじゃ俺、自分だけじゃなくて周りも危険な目に……」

 そこまで言いかけて気づいた。

「なあ、母さんは大丈夫かな? 人質にされたりとか」

 プリンなんとかは、そういう手段をとるのか?

「お母様は専業主婦、でしたか。家庭内の雑事を行なう以外に仕事を持っていらっしゃらない……特に趣味や習い事もないので在宅していることが多いと聞きました」

 そんなこと聞き出してたのか。

「今朝、ミツルさんのお宅に結界を展開してきました。機械仕掛けの、分かりやすく言うとバリヤーをはってきたのです」

「え」

「あ、バリヤーという言い方はおかしいですか? ええと、防護膜でしょうか」

 いやわかるんだけど、いつの間に……そうか。

「それで、朝飯食いに家に入ったりしたのか。その仕掛けをするために」

 ええ、とまるで悪びれずにうなずく。

「失礼ですが、ミツルさんの自室のベッドの下に結界展開用の機器を設置させていただきました。貴方が毎晩その上で眠ることにより空気中のマフトが集まってきますので、機器にも補充されるはずです」

「え。ベッドの下?」

「はい。もっとも効率的にマフトの補充が行われるという点を最優先に判断しました。何しろ、どれだけの期間必要になるかわかりませんので」

 淡々と、業務報告のように言う。

「じゃあ、母さんは家にいれば安心ってわけか」

「ええ。実質的にご自宅はセーフハウスとして機能していると考えていただいて、構いません。外部からマフトによる探知はされませんし、侵入者は逐一本部に情報が行きます。万が一結界内でマフトが使用されればすぐ、わたしに伝わります」

 そっかあ。そりゃいいや。……いや、ていうか。

「その……ベッドの下に、潜ったの?」

「ええ。機器取り付けのために」

「何か……見なかった?」

 オトコノコのベッドの下には、秘密があるものなんだよ。スマホの中だけじゃあ、ないんだよ?

「何か、と言いますと?」

 真顔で首をかしげるアリス。

「い、いや! いいんだ。見てないならそれで! ありがとう。俺だけじゃなく母さんの事も守ってくれてさ!」

 ふっと、アリスの瞳に影がさした。それはさびしさとか、悲しみの影のように充には見えた。

「……一宿一飯の恩義がありますから。いえ、宿はありませんが」

 なぜか、その時充は思った。彼女もきっと、生まれた世界が違うだけで自分と同じ、ただの人間なんだな、と。

「……ああ、そう言えばベッドの下に」

「え! やっぱり何か見たの」

「……いえ、万一に備えて盗聴器も仕掛けておいた方が良かったかと」

「仕掛けんでいい! やめて下さいマジで」

 了解しました、とアリスは答え、それでは帰宅しましょうかと聞いてくる。俺はこれから学校帰りに寄り道もできないのか……少し悲しい思いにひたる充。

「寄り道が、そんなに重要ですか?」

「いや、と言うよりなんか、平凡な日常がなくなってしまうというか。まあ、贅沢は敵……なんだよな」

 自分の命もかかってるし、周りの人を巻き込んでしまう可能性もある。それに、せっかく守ってくれている人が居るのに、その人を困らせるのも心外だ。

「……極力面積が大きく、出入り口が広い、見晴らしの良い場所。人の密集していないところであれば。先に狙撃に適したポイントをチェックしておけば護衛も容易いと思います」

 急にアリスが言った。妥協案を出してくれたのだ。

「たとえば?」

「そうですね、大きな公園とか」

 よし。それなら意地でも寄り道してやるぞと充は決心した。


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