シーン01「炎の転校生(かわいい)」その10
その後は特に危険もなく無事、南校の門をくぐった。
二人で揃って教室に入ると少しだけ騒ぎになったが、たまたまそこで一緒になって、という説明で「そうなんだ」と、納得されてしまった。
……君たち、もうちょっと二人の仲を疑うとか、そんなこんなはないもんかね。
「おー充。今日は付き合うぞ。バイト休みだからな」
ごく普通に中村も声をかけてくる。俺にデートの約束が入っていたらどうするつもりだ。
……まあ、俺の放課後なんて寄り道と命を狙われるくらいしか予定(?)はないが。
そう言えば、俺と一緒に行動していたら中村も危険なんじゃないだろうか?
で、放課後である。授業中や休み時間にも、アリスの常識知らずによる小事件はちょいちょいあったのだが、キリがないので割愛して放課後なのである。
「それでは、帰宅しましょう。ミツルさん」
カバンを手に席を立つや、断定的に言う。一瞬、周囲の時が止まる。
沈黙が他の生徒たちにも伝わっていく。何しろ二人は、朝は一緒に教室に入ってきたものの、それから一日一言も口をきいていなかったのである。
ごく当たり前に、一緒に帰る……だと?
しかも今、名前呼びだったよね……?
小声が段々に大きくなっていき、耐え切れなくなった女子がアリスに問う。
「ね、ねえ火野さんは、その……池田君と何か……あるの? 実は遠い親戚だったりとか」
昨日からアリスによく声をかけてきている北村という女子生徒だ。
ところでなぜ俺との関係には血縁が必要なんだ? まあわかるけど。充は納得しつつも複雑な思いを胸に抱く。
「親戚?」
アリスは形の良い眉を片方だけ上げる。
『そういうことにしとけ。その方が丸くおさまるぞ!』
充は必死にアイコンタクトを送るが、アリスは彼が顔面神経痛でも起こしたかと訝るような顔をしただけで、
「いいえ。ミツルさんの護衛任務のために同行するだけです」
……普通そういう事って隠さなきゃならないんじゃないのか?
「え……ええと。池田君のゴエイって、ボディガードって事?」
「英語ですと、そういう単語に変換されますね。なぜ言い換えたのかは理解に苦しみますが」
若干の時が流れ、教室内に理解という名の雪解けが訪れた。
「ああ。そういう事……で、池田君は誰に狙われているの?」
アリスの病気……趣味の設定だと思われたらしい。無理もないな。
「詳しくは秘匿事項になりますが……さる国家の殺し屋、とだけ申し上げておきます。みなさんも、ミツルさんと一緒に居る際には身辺にお気をつけ下さい。巻き添えを食う場合がありますので」
おいおい俺をぼっちにする気か。
「おっけー、わかったわ。では任務頑張ってください。お勤めご苦労様です!」
北村はアリスに敬礼をし、やさしい目をした。
生暖かく見守っていこうという優しい気持ちが他の生徒たちにも伝わっていく。
そうだ、みんな違ってみんないい。
「え……えっと、充?」
おそるおそる、中村が声をかけてくる。なぜか充はホッとする思いだった。
「まあ、そういう事なんだよ」
どういう事だ、と内心自分でも思いつつ、
「アリス、どうかな。帰りにちょっと中村と寄り道していきたいんだけど……護衛の都合とかは」
護衛の都合ってなんだ? 充は自分でツッコミを入れる。アリスは片眉をあげ、
「寄り道……ああ、目的地に着く前に他の場所へ行って無為な時間を過ごす行為ですね。
ナカムラさん……と、おっしゃいましたか」
「は、はい! 中村ですが」
正面から見つめられて緊張するナカムラ。
「あくまでも、わたしの護衛対象はミツルさんです。有事の際の優先順位は二番目以降、ということになりますがよろしいですか?」
「は……はい? えーとその」
アリスの、赤い炎を宿した瞳に正面から見つめられ……というか睨みつけられて動揺する。
「はっきり申しますと、命の保証はしません、という意味です」
そこで彼女は、微笑んだ。どういう意味があったのかはよくわからないが、それで中村は彼女が冗談を言ったのだと勘違いしたらしい。
「はっ。了解であります!」
敬礼した。
手の角度が違いますね、などと指導をするアリス。中村は満面の笑みを浮かべ、ほかの生徒は、『ああ、やっぱりそっちの人なんだ』と納得した空気になった。
……丸くおさまったな。まるで違う方向性でだけど。




