シーン01「炎の転校生(かわいい)」その9
「それではお母様、行って参ります」
直角に頭を垂れて挨拶するアリスに母親は、
「これからも充のこと、よろしくね。アリスちゃん」
「はッ。命にかえても!」
かん、と敬礼する。
「……アリスちゃんて、面白いわね。でも、いい子じゃない?」
声を潜めて息子に自分の評価を伝える母親。
もういいよ、行ってきます……。
女子と二人で登校する……それも、道行く人が男女問わずに振り返るような超絶美少女と。
普通であれば、胸躍る最高のシチュエーションである。普通……普通って、なんだっけ。
充は隣を歩く黒髪セーラーの美少女を見る。その目は鋭く周囲をうかがい、敵襲に備えた殺気を放っている。
なんだかなあ……。
「ね、ねえアリス。そこまで気を張ってもらわなくても……昨日の今日だし、そんなすぐに敵も出てこないんじゃないかな?」
ちらと、視線を寄越して小さく鼻を鳴らす。
「なぜ、そう言い切れます? 予断は禁物です。常に最悪のシナリオを想定し、備える。そうでなければ生き残ることはできません。戦場での油断は死を招きます」
「いや、戦場じゃねえし。ずっと張りつめてたら疲れちゃうしさ」
その言葉にアリスは小さなため息をつく。
「護衛対象自身に危機感がないと、それだけ生存可能性が低下するため言っておきますが……ミツルさん。貴方はスピーゲルウェルドでは国家規模での重要人物です。昨日の襲撃によってプリングパトゥースの意向もはっきりしました。はっきり申し上げて、いつ殺されてもおかしくないのです。現在人員調整中ですが、やがて護衛の増員もありますので。正直、わたし一人で護りきれるのか……」
増員? じゃあそのうち俺、ゾロゾロと異世界の軍人引き連れて登校しなきゃならなくなるのかよ……。
充は自宅のダイニングルームに戦闘服姿の男たちがズラリと並んで朝飯を食っている場面を想像し、げんなりした。
「……ま、仕方ないか。俺だってまだ死にたくはないし……って、うごっ!」
言いかける充の詰襟を後ろから掴まれた。
「な、何す……」
目の前を横道から出てきたオートバイが猛スピードで横切った。そのまま歩いていたら轢かれるところだった。
「……い、今のわかってて?」
当然です、とアリスは無表情にうなずく。
「そっか。ありがとう。もう二度も命助けてもらったね」
一瞬だけ目を丸くして、再び表情を消す。
「……任務ですから。気にしないで下さい」
その後は特に危険もなく無事、南校の門をくぐった。




