gang study
知識、経験から得る、どんな世界にも存在する『常識』。
もちろん俺達の世界にも。
アジトに帰ってくると、早速俺達の宴が始まった。
「さぁ!飲もうぜ、ドッグ!!」
みんながウィザードに酒をすすめる。
ウィザードが立ち上がって音頭をとった。
「俺の出所と最高なホーミー達に!」
みんな立ち上がって乾杯した。
今更だが、俺達がよく使う言葉の中に「ニガー、ドッグ、ホーミー」と言う言葉がある。
これらはすべて「仲間、相棒、ダチ」などを表す。
この中でも「ニガー」は黒人同士だけに使う事が許されている。
他の人種が俺達黒人に使うと差別用語になる。
逆に俺達が黒人以外の人種に使う場合は、同じく「仲間」という意味になるが、使用頻度はかなりまれだ。
「ドッグ」はかなり気のしれた古い付き合いの仲間に対してのみ使う。
「ホーミー」は地元が同じ仲間。つまり地元のダチすべてをホーミーと呼ぶ。
このように名前やニックネームで呼ぶ以外にも俺達は様々な形で仲間を呼ぶのだ。
「さぁ!今日は話し合いなんか無しにして、とことん飲もうぜ!」
俺がそう言うと、みんなから大きな歓声が上がった。
クリックがまたクロニックと酒でハイになっているようだ。
下手なラップでみんなを笑わせている。
「下手クソ!くたばれ!マザーファッカーが!」
毒舌ジャックが笑いながら叫んでいる。
クリックは聞こえていないらしく、体を左右にゆらしながらビートを刻んでいる。
これも今更だが、「クロニック」とは、簡単に言えばマリファナの事。
「マザーファッカー」はクソッタレという意味だ。
ちなみにルークの「クリック」というあだ名は俺達の方言で「拳銃」全般を意味する。
他にもよく出てくる「ハンドサイン」は、手で作るサイン、俺達ブラッズは頭文字の「b」、クリップスの奴等は頭文字の「c」を手で作る事が多い。
ブラッズやクリップスはロサンゼルス中には俺達以外にもたくさんいるわけで、みんな地元に誇りを持って暮らしている。
例外も多々あるが、基本的にブラッズは赤を基調とした服装、クリップスは青を基調とした服装だ。
しかし同じブラッズ同士やクリップス同士でも仲が良いわけでもない。
同じ色を着ていても地元が違えば仲間ではないのだ。
全米中の構成員数ではクリップスは約三万、ブラッズは約一万とも言われている。
別にどこかのチームがブラッズやクリップスのトップという決まりもないので、みんなチームごとに地元の仲間を集めて好き勝手やっているわけだ。
そこがギャングとマフィアの大きな違いかもしれない。
しかしほとんどのブラッズとクリップスはだいたい「B 対 C」みたいな感じで敵対している。
同じブラッズ同士、クリップス同士での抗争は数えるほどらしい。
チームによっては他の同じ色のチームと連携をとるような奴等もいるらしいが、俺はドコとドコが仲良しか、だなんて知らない。
シャドウの奴に聞いたら分かるかもしれないが。
俺達がブラッズギャングと名乗っている以上は、もちろんクリップスと戦わなくてはいけないし、もしかしたらこれから先、他の地域に住む同じブラッズの奴等と付き合っていかなければならないかもしれなかった。
この他の色でも、白を基調とした服装を着る「ホワイトフェンス」と呼ばれる奴等や、黄色を基調とした服装を着る「ラテンキングス」なんてギャングも存在している。
コイツらは大多数が黒人のブラッズやクリップスとは違って、メキシカンの移民が構成員のほとんどを占める。
「そういえばよ、いつブツの仕入れに連れていってくれるんだ?」
俺は宴会の中、近くにいたウィザードを外に連れ出して、二人きりになったところで話を切り出した。
「そうだな…明日でも大丈夫か?」
「あぁ。場所は?」
俺はタバコに火をつけた。
「コンプトンだ」
「なに!?」
俺は驚いて大声を出してしまったおかげで、火をつけたばかりのタバコを地面に落としてしまった。
「冗談だろ!ウィザード!?」
「いや、マジだよ」
ウィザードは呆れたように苦笑いしている。
だが、信じられなかった。
コンプトンと言えばカリフォルニアでもっともヤバイ地域。
ギャングの巣窟。
全米でも第四位の治安の悪さを誇る…クソみたいな町だ。
殺人事件なんか毎月何十件も起きるような有り得ないほどリアルなゲットー地域だった。
ゲットーとは貧困の激しいスラム街の事だ。当然、犯罪発生率が半端じゃない。
「マジかよ…」
俺は力なく笑い返した。
「おいおい、その様子じゃあ俺の部屋にあった取引き先のメモを見てないな?」
ウィザードが笑っている。
確かにメモの事はすっかり忘れていて、いつの間にかズボンを洗った時にくしゃくしゃになってしまっていたのだ。
「あぁ、すまん…少し前、確かマークのウチに泊めてもらった時にズボンのケツに入れてたの忘れてて…そのまま洗っちまった」
しかしさっきまで笑っていたウィザードも急に真面目な顔になる。
「行き先なんて俺が頭に叩きこんでるからどうにでもなる。だがな、サム。ブツの取引きでは失敗しても『ごめんなさい』じゃ済まねぇぞ」
ウィザードは俺に顔を近付けた。
「ギャングの取引きは命掛けだからよ。ある意味ウォーリアーよりもハスラーの世界の方が厳しい時もある」
「分かった。気をつけるぜ」
するとウィザードは少しは安心したのか、俺から顔を遠ざけた。
「ところで、コンプトンにいる取引き相手ってのは?」
「明日、行きの車の中で話すよ。少しは話題を残しておかないとな、サム。おっと、今日の宴会の主役がいないとみんな冷めちまうぜ」
ウィザードはアジトの部屋に戻って行った。
ウィザードと俺は、奴のポンコツシビックに揺られていた。
コンプトンまでは三十分ほどかかる。
「ヘイ、ウィザード。昨日の話の続きだ。取引き相手ってのは?」
「ギャングだ。ブラッズだよ」
「そうなのか…」
「最高にヤバイ連中さ。俺はB.K.Bが結成されてからしばらく経って、取引きを始めた。それまでは盗んできた物をみんなに配ってたが、当然足りなくなってな…確か14くらいの時だったかな?忘れちまった」
俺は驚いた。
しかし今になって考えてみると、昔俺がブツをどうやって手に入れているのか聞いた時、奴が「死にたいのか?」と言ってニヤリと笑ったのも納得できた。
しかし、こんな大変で危険な仕事を若い時から一人でこなしていたのかと思うと、ウィザードの働きには感心させられる。
「どうやってそんな危険な奴等と?」
俺はきいた。
「実はな、イトコがいるんだ。コンプトンのブラッズメンバーの一員さ。歳は今25、6だな。それで俺達の旗揚げを陰ながら応援してくれてな。以来、ブツを安く回してくれてるんだよ」
ウィザードはハンドルを片手で握りながらコーラを一口飲んだ。
「それで一人で取引きをやってこれた。でも今となっちゃ俺も危ない身だし、まずリーダーのお前くらいは顔合わせが必要だと思ってさ。
もし俺が取引きできなくなってもお前が引き継げるだろ?それからいずれ、ハスラーは全員連れて行こうと思ってる。ブツを直接売るのは俺達ハスラー全員だからな」
「今日俺がお前と行く事は伝えてあるのか?」
俺は内心、ビビりながらウィザードに質問した。
「あぁ。伝えた。楽しみに待ってるとさ」
俺は少しだけ安心した。だがそうは言っても、場所はコンプトン。
市内のありとあらゆる場所にブラッズとクリップスが点在する激戦区だ。
その街でギャングとして生き残ってきた奴等なら、みんな筋金入りのギャングスタに違いない。
「気をつけろよ、サム。町中にワルが溢れてる。ゾンビみたいに取って食われるぞ!」
そう言ってウィザードは笑っているが、俺は冗談が冗談には聞こえなかった。
『Compton City』
そう標記した看板をシビックが通りすぎる。
俺はついにコンプトンに足を踏み入れた。
しばらく走り、俺達は大通りから反れて狭い路地へと入っていく。
ヤバイにおいがプンプンする。
「見ろ。この辺りが俺のイトコのチームのシマだ」
周りには人影は少なかったが、ありとあらゆる壁に赤いスプレーで「bloods 4 life」というタグか書き込まれている。
タグとは俺達も大事にしているが、縄張りを表す落書きの事だ。
この地域は俺達のものだ、と主張していることになる。
少し前にクリップスから俺達のタグを塗り替えられる事件があったが、もし上から他のチームが塗り替えようものなら、宣戦布告となるわけだ。
ちなみに「bloods 4 life」「B.K.B 4 life」などに含まれている「4」は数字を表しているわけではない。
「4」は「for」の略語として、発音が同じなので用いているだけだ。
つまり普通に書けば、「B.K.B for life」。
「B.K.Bの為の人生」ということだ。
その他にも略語は存在する。
例えば簡単な言葉で言うと「Happy Birthday to you」。もちろん誕生日を祝う言葉だが、俺達の場合「Happy Birthday 2 U」と書く。
これも俺達の中では常識だった。
…
人影がちらほら見えはじめる。
そいつらに近付くに連れて俺は驚いた。
裏通りとはいえ、道行く人すべてが赤いバンダナを右腰にぶら下げている。
つまりギャングメンバーだ。
数が半端じゃない。まるでこの町自体がブラッズのテリトリーだ。
俺達のようにこそこそとアジトに引きこもってなんかいない。
町の住民がブラッズ一色という印象だった。
「すげぇ…」
「コンプトンではギャングは堂々と暮らしてるんだぜ。市警には数が多すぎて取り締まれねぇんだ」
道行くギャングスタの中にはウィザードの顔見知りらしく、手を振ったり、ハンドサインを向けてくれる連中もいた。
俺は少し恐怖感が和らいだ。
ちなみに、右腰にバンダナをたらすのはブラッズの特徴だ。
反対にクリップスは青いバンダナを左腰にたらすため、一目でどちらのギャングか分かる。
「そこがイトコの家だ」
ウィザードは家の前の道路に車を停めた。
俺達は車を降りて、玄関へと向かう。
庭にはキャデラックのローライダーが停まっている。イトコの愛車だろうか。
ウィザードがチャイムをならす。
俺は緊張してウィザードの後ろに立っていた。
ガチャリと扉が開く。
「あら、トニー!こんにちは!」
「ハーイ!おばさん!会いたかったよ」
ウィザードはハグをして、頬にキスを受けている。
出てきたのはイトコの母親のようだ。
「さぁ、上がって上がって!レイクなら二階よ」
「ありがとう」
そう言ってウィザードは家に入っていった。
俺も続いて入ろうとしたところをおばさんに止められる。
「あら?トニーのお友達?珍しいわね!こんにちは」
「こんにちは」
すぐにおばさんは俺を抱き締めて、頬にキスをした。
「どうぞ入って!」
なんだか緊張していたのもすっ飛んでしまった。心が温かい。
「サム!来いよ!」
ウィザードが手招きしているが見えたので、おばさんの頬にキスのお返しをすると、俺は中へと入った。
階段を上がっている途中で、おばさんが玄関のドアを閉める音が聞こえた。
イトコの部屋のドアの前に着いた。
ドアには真っ赤なバンダナが張り付けられている。
コンコン…
「トニーか?入れ」
中から低い声が聞こえた。
一人の男がイスに座り、テーブルの上で葉っぱを計りに乗せている。
重さを計ると「よし」と言って、小さなビニール袋に詰めた。
マリファナだ。
「ちょうど今全部終わった所だぜ」
男が指をさす方を見ると、ビニール袋に入った大麻がたくさんあった。
「全部お前にやるよ。金はいつもの通りでイイ」
「ありがとう、レイク」
レイクと呼ばれたウィザードのイトコは、マークと同じくらい大きい巨漢だった。
身長は二メートルより少し低いくらいで、体重は120キロくらいあるに違いない。
「お前がB.K.Bのリーダーだな?サム、話は聞いてる。俺達は同じブラッズの兄弟分だ、気楽に接してくれ」
急にレイクは俺に話しかけてきた。
「あ…あぁ。よろしく、レイク」
俺がそう言うと、レイクは無理やり俺の手をとり、握手をしてくれた。
痛い。彼の力が強すぎるのだ。
「さて、せっかくサムも来てくれたんだ。俺達のリーダーにも会わせないといけないな」
ウィザードがマリファナを集めて大きな袋に詰め終わり、奴から金を受け取ると、レイクが言った。
「マジかよ?いきなりファンキーに?」
ファンキーというのがレイクのチームのリーダーらしい。
おそらくニックネームだろう。
おばさんに別れの挨拶を済ませ、庭に出た。
ウィザードはシビックのトランクにブツを投げ入れている。
レイクがキャデラックのドアを開けてハイドロのスイッチを打つと、キュンと高い音がして車高が上がった。
「サム、トニー、乗れよ。俺の車で行こう」
キャデラックの外装はシンプルなホワイトカラーだったが、内装は、シートやドアの内張り、ダッシュボードやメーター回り、ステアリングまで真っ赤だった。
見事な仕上がりだ。
改造には相当手がかかっているように見える。
2ドアのクーペなので、助手席を倒して俺は後ろに乗り込んだ。
ウィザードが助手席に座る。
レイクがエンジンをかけるとドォンと低い音と共に車が目覚め、ギャングスタラップがオーディオから流れてきた。
キャデラックが発進する。
よく見るとリアガラスの内側にゴールドのプラークが立てられている。
プラークというのは、ローライダーが自分のカークラブの名前を表す金属製の看板のようなものだ。
自分の所属カークラブの象徴なので、絶対に汚したり傷をつけてはいけない。
誇りに思っているのだ。
ローライダー以外の車好きの間ではステッカーをガラスに貼るのが定番なので、プラークはローライダーの象徴とも言える。
ギャングとカークラブは必ずしも繋がっているわけではない。
つまりレイクはギャングのメンバーであると同時に、どこかの車のチームにも別に所属しているという事だ。
「Rockets c.c.か…」
プラークにはそう書かれていた。
「c.c.」とは当然、カークラブの事だ。
俺の声が聞こえたらしく、レイクがミラー越しにニヤリと笑った。
「サム、ローライダーに興味があるのか?」
「ん?いや、分からない。車にはあまり詳しくないし」
「そうか…」
レイクは少し残念そうだった。
しばらくして、レイクは車を停めた。
三人は車から降りる。
レイクが歩き出したので俺達はついて行った。
…
道路脇に座りこんでダイスをやっている集団がいた。
サイコロを二つ振って、一番大きな目が出た奴が掛け金を総取りできるというゲームだ。
そのうち一人がレイクに気付き、ハンドサインを出してきた。
レイクもハンドサインを返す。
「ようホーミー!調子はどうだ!」
そう言ってレイクと力強いハグをしている。
すぐにウィザードもソイツの元へ走って行った。
「ファンキー!」
「おぉ!トニーぼうや!元気だったか!」
頭はスキンヘッド、全身真っ赤な服、右腰にはバンダナ。
両腕はタトゥーだらけの大男だ。レイクよりもさらに少しデカい。
これが、コンプトンにあるブラッズのドン、ファンキーだった。
ウィザードの頭を軽く叩いている。
「ファンキー、B.K.Bっていうトニーのチームの話を覚えてるか?そこにいるのが、B.K.Bのリーダーのサムだぜ」
ダイスをしていた他の数人のギャングメンバー達もこっちを見ている。
「あぁ、覚えてる。サム…まだ若いな。こんなに若いのによくやるぜ!
俺達は同じブラッズの兄弟分だ!気楽に接してくれ、ニガー!」
レイクとまったく同じ事を言って、ファンキーは俺と握手をしてくれた。
「コンプトンへようこそ」
「ありがとうファンキー、それにレイクも」
俺が答えるのと同時に、俺とウィザードのポケベルが鳴った。
マークからだ。
『またクリップスと揉めてる。急いで来てくれ』
俺とウィザードは顔を見合わせた。
「ポケベルなんて、イイもの持ってるなぁお前ら!」
ファンキーが笑いながら言った。
「レイク!ごめん、俺達急いで帰らなきゃ!俺のシビックがある所まで送ってくれないか?」
ウィザードが慌てて言った。
「構わねぇぜ。だが、どうしたんだトニー?」
「ウチの仲間が今、クリップスと揉めてるらしい。いつドンパチ始まるか分からないよ」
すると今まで笑顔だったファンキー達の顔が急に険しくなった。
「なに?可愛いトニーぼうやの仲間がクリップスに?おい、お前ら人数集めろ」
ファンキーが周りのメンバーに指示を出した。
「もう俺達は兄弟分だ。トニー、サム、加勢するぜ」
すぐにレイクがウィザードのシビックまで送ってくれた。
一分ほどして、ぞろぞろとフルスモークのダッジバンやサバーバンが3台やってくる。
おそらくどれかにファンキーも乗っているはずだ。
どのバンもボディはボロボロで、いたるところに銃痕がある。
今まで体験してきた抗争を物語っているようだ。
レイクはそのうちの一台に乗り込んでいった。
さすがに自慢のキャデラックを傷ものにしたくはないのだろう。
「ウィズ、出せ。みんなついてくるつもりだろう。道案内してやろうぜ」
「了解、リーダー。ケガしないようにな。俺達はチームの大事なハスラーだ」
ウィザードはシビックを発進させた。
コンプトンブラッズの車もついてくる。
…
かなり飛ばしたおかげで十五、六分で地元に到着した。
クリップスもB.K.Bのメンバーもすぐには見つからない。
「どこで揉めてるんだ?」
その時、微かに銃声が響いているのが聞こえた。
「あっちだ!」
俺達は音のした方へ向かった。
現場は裏通りだが、少し広い道だった。
クリップスはまた四台の車で来ていたらしく、車を盾に銃を構えている。
この間とは違い、道を挟んで対面している。
B.K.Bのメンバーは、ハスラー以外の全員が集まっていたが、新入りが一人撃たれたようだった。
腹を押さえて車の陰で苦しんでいるのが見える。
警察はまだ到着していないようだ。マークの連絡と俺達二人の行動の早さがものを言ったのだ。
俺達が到着して、車に銃弾を浴びながら仲間に駆け寄るとスノウマンが叫んだ。
「待ってたぜ!今回はこんな広い道だ。この間みたいに上手くはいかなくてよ!」
「そうか。よく持ちこたえたな。遅れてすまない」
俺は銃を腰から抜いて言った。
ウィザードが新入りを見ながら言う。
「新入りが撃たれたみたいだな?」
「あぁ。早く病院に連れていかないとヤバイぜ。腹に三発食らってる」
しかし思うようには動けなかった。
頭をフル回転させる。
「とりあえずまずはライダーかジミー、もしくはガイに連絡して迎えを呼ぼう」
しかし俺がその言葉を言い終わる前に激しい銃声がいくつも響いた。
マシンガンの音だ。
「くたばれ!マザーファッキン、クリップス!」
ファンキーが叫ぶ。
コンプトンブラッズだ。
俺達をかばうようにクリップスとの間に車を停め、車内から一斉砲火している。
マシンガンをいくつも持ってきているようだ。
弾は車を貫通し、クリップスはバタバタと倒れている。
すごい威力だ。
「お…おい、サム。お前ら一体誰を連れて来たんだ!?」
スノウマンが驚いている。
「コンプトンブラッズだよ!俺のイトコだ!」
ウィザードが興奮して叫んだ。
「コンプトンブラッズだと!?なんでそんなヤバイ親戚がいるんだよ!」
スノウマンが叫ぶ。
するとB.K.Bのメンバーもコンプトンブラッズの力強いアシストに後押しされて、全員拳銃でクリップスを撃ち始めた。
…
一瞬。この言葉が正しいのかもしれない。
辺りにはクリップスの亡骸。
俺達の「B.K.B!」「Compton Bloods!」の雄叫びと通行人の叫び声が轟いた。
だがここでついに警察が登場してしまう。
パトカー数台がサイレンを鳴らし、猛スピードでやってきたのだ。
「やべぇ、散れ!」
俺はB.K.Bのメンバーに叫ぶ。
仲間は逃げ始めた。
マークが撃たれた仲間を担いで走っていく。
しかしファンキーやレイク達、コンプトンブラッズは逃げない。
「あんたらも早く逃げろ!」
俺が叫んだ次の瞬間…信じられない光景を見た。
コンプトンブラッズは、パトカーに向かってマシンガンで一斉に撃ち始めたのだ。
一台のパトカーがエンジンに被弾したらしく爆発した。
それに巻き込まれて他のパトカーも次々に路肩に突っ込んでいる。
辺りには再び通行人の悲鳴。
そして、コンプトンブラッズ達の大爆笑が聞こえた。
「ファック、ポリス!よし…じゃあな、サム!またいつでも手を貸すぜ!気をつけて帰れよ」
そう言うと笑いながらファンキー達は去って行く。
俺はその場に一人でヘタリ込んでしまった。
奴等は警察殺しも簡単にやってのけたのだ。
奴等こそOG(オリジナルギャングスタの略語で『筋金入りの極悪ギャングスタ』を意味する)だと思った。
…
俺がアジトに戻ると、マークと撃たれた新入り以外は揃っていた。
十分くらい経って、病院からマークも帰ってきた。
「助からなかった…親御さんも駆け付けてくれたよ。葬儀は明日だ」
マークの言葉にみんなはざわついた。
しかし俺が手で制止する。
「明日、きちんとみんなで見送ろう…」
それ以上は誰も何も言わなかった。
ついに仲間から死人が出たのだ。
…
葬儀にはメンバー全員が参列した。もちろん現場に居合わせなかったハスラーもだ。
みんなは遺体にそっと、バンダナや銃弾を送った。
「R.I.P.…」
その日のウチにジャックの背中には仲間の名前が一つ増えた。
「R.I.P.」とは「Rest.In.Peace(安らかに眠れ)」の略語だ。
…
葬儀が終わり、アジトに戻る。
何気なくコリーがテレビをつけると、昨日の俺達の抗争がニュースで取り上げられていた。
クリップスの死者は23名らしい。
これは隣町のクリップスにとっては大きな痛手だろう。
警察の死者は6名らしかった。
だが当然、俺以外の仲間からは一つの疑問が出てきたようだ。
シャドウが代弁する。
「なぜ警察に死者が出てるんだ?」
「実はあの後、コンプトンブラッズがパトカーを撃ちやがったんだよ」
俺の言葉にみんなは再びざわついた。
「マジかよ!レイク達、やってくれるぜ!」
これはもちろんウィザードだ。
しかしガイが冷静な発言をする。
「まずいな。警察にはもちろんだが、他のワル達から目をつけられるぞ」
確かにニュースではコンプトンブラッズには触れていなかったので、俺達の仕業だと誰もが思うはずだった。
いろんな奴等から標的にされる危険性がある。
しかし現実は違った。
確かに警察は俺達を厳しく監視し始めたようだが、前にも増してB.K.Bに仲間入りを希望する奴等が増えたのだ。
三週間後…
B.K.Bはなんと30人を越す大ギャングへと成長していた。
この頃から俺達十一人の初期メンバーはE.T.(イレブン・トップの略で映画のキャラクターとダブらせた名前)と呼ばれるようになった。
今なら弱っている隣町のクリップスを叩ける。
『強い者が正しい』
それが俺達の新しい常識となっていた。
来たるべき決戦は…
明日だ。