表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
61/61

B.K.B 4 life

あるギャングスタの物語。

十年程前のある日。

 

……………………………………

 

「あぁ!!タッチダウンされちまった!何やってんだよ!」

 

バンバンとテーブルを叩き、ツナギを着たコリーがバージニアコーラの缶を口元にグイッと傾けた。

 

「おい、コリー。それは俺のコーラだぞ」

 

ウィザードがつまらなそうに言った。

奴はコリーや俺とは、テーブルを挟んで向かい側のソファに座っている。

 

コリーの実家。

少し前まで俺達三人はすぐ隣の工場でポンコツなシビックの下に潜っていたのだが、レイダースの試合が始まる時間になると、バタバタとコリーの自室に駆け込んだのだ。

 

「え?あぁ…ごめん、ウィズ」

 

コリーがウィザードの方など見向きもせずに謝った。

 

「まだまだ点差は少ない。試合をあきらめるには早いぜ」

 

俺はタバコに火をつけて言った。

 

「確かにな」

「当然だ!勝つに決まってる!」

 

ウィザードとコリーから、言葉が同時に返ってきた。


だが、結局試合は我らがレイダースがデンバー・ブロンコスに敗れる結果となった。

 

「クソ!ブロンコスめ!

じゃあ…やっぱ今年も西地区の一位はチャージャーズかな…プレーオフまで行っちゃうんじゃないか!?」

 

コリーが乱暴にテレビのスイッチを切り、リモコンを放り投げた。

 

「コリー、シビックの修理の続きをやろう。もうちょっとだよな?」

 

ウィザードの提案で俺達は隣りの整備工場に戻り、再びポンコツなシビックの下に潜った。

 

 

予定通り作業はすぐに終わり、ジャッキから車を下ろしていると、工場内で仕事をしていたコリーの親父さんが叫んだ。

 

「コリー!ちょっといいか!」

 

コリーの顔色が一気に悪くなる。

 

「ヤバイ!何か手伝わせる気だ!」

 

奴は俺達をそそくさとシビックに押し込むと、自らもその運転席に乗り込んだ。

 

「ごめん!用事があるんだ!」

 

俺の記憶ではそんなものは無い。

シビックが直ったら、またコリーの部屋でダラダラするつもりだったのだ。

 

車は勢いよく工場を飛び出した。


「どこに行くんだよ、ドッグ?」

 

しばらくそのまま黙ってぶらぶらと走っていたが、ついにウィザードが口を開いた。

 

「それを考えてるんだけどね」

 

やはり、出たのはよかったものの、コリーにも行く当ては特に無いらしい。

 

「そしたら公園は?」

 

「三人で何をするんだよ?」

 

「えーと…うーん…あ!…バスケ!」

 

コリーは『イイ提案をした』と上機嫌だ。

 

「あ、ライダーだ」

 

だが、その提案は俺のこの一言で無視される事となる。

 

たまたまライダーがライムグリーンのカワサキで俺達の車に並走してきたのだ。

奴がピースサインを出したので、俺達は手を振った。

 

路肩に二台を並べて停車させる。

人通りも車の交通量もそんなに多くない道だ。

 

「よう、ニガー!三人でどこに行くつもりだったんだ?」

 

車から降りた俺達に、バイクをサイドスタンドで立てたライダーが近づいてくる。

一人一人と拳をぶつけて挨拶をしてくれた。

 

「どこにも。何をしようか考えてたとこだ」

 

ウィザードがライダーにそう言うと、コリーが驚いた表情を見せた。

奴が『バスケ』と答えなかったからだろう。


「そうか。俺も暇してたところなんだ。

一勝負どうだ?」

 

ライダーが財布を見せながら言った。ドミノの事だ。

 

「あぁ、いいぜ。やろうか」

 

俺がそう返事をすると、ウィザードも頷いた。

コリーは決して乗り気とは言えないが「分かった」と了承した。

 

「じゃあ、サムの家に行こうぜ。牌、持ってるよな?」

 

ライダーがポンと俺の肩を叩く。

 

「構わないけど、牌が一つ足りないんだよな」

 

「無くしたのか?まぁイイじゃないか、一つくらいなら」

 

「その足りない牌が『6・6』の牌でもか?」

 

ライダーはそれまで笑っていたが、俺の一言で驚いた。

 

「何!?それは痛いな…でも、まぁイイさ!早く行こうぜ」

 

ゾロ目の牌は、ドミノを遊ぶ上で勝負の命運を握る。

 

 

ライダーがバイクのエンジンをかけ、一足先に俺の家へと向かった。

 

「さぁ、俺達も行こう」

 

首に巻いていた赤いバンダナを口元に結びなおしながらウィザードが言う。

今度はコリーに代わって奴が運転席に座った。


 

「おかえりなさい、可愛いサム。ニックは先にあなたの部屋で待ってるわよ」

 

家に到着すると、母ちゃんが玄関先で待ち構えていた。

ライダーのカワサキはキーが挿さったままで庭に停まっている。奴を迎えたので、彼女はそのまま外にいたのだろう。

 

「ただいま。コリーとトニーも一緒だよ」

 

「えぇ、どうぞ」

 

母ちゃんはニッコリ微笑んだ。

 

「おじゃまします」

「こんにちは」

 

二人が挨拶をして、家の中に入る。

 

俺の部屋に到着すると、低いテーブルを囲んで全員座ったが、俺は一度立ち上がって窓を開け放った。

 

外はどんより曇っている。雨を降らすような重たい雲では無かったが、あまり気持ちがイイわけではない。

 

「さぁ、始めよう」

 

俺が座ると、ジャラジャラと牌をテーブルの上でかき回しているライダーが言った。

全員、ポケットから持ち金を出す。

するとコリーが思い出したかのように言った。

 

「あ!1ドル勝負だよ!俺は金がないんだからね」

 

手札を五枚、全員が取ったところでゲームは始まった。


 

それからしばらくドミノが続き…

結局、ゲームは俺の一人勝ち。

みんなには悪いが、俺にとってはイイ小遣い稼ぎになったわけだ。

 

「あぁクソ!だからバスケにしときゃよかったんだよ!」

 

コリーが悪態をつく。

 

「負けたぁ…!しかし、なんだか腹が減ったな」

 

ライダーが俺のベッドに仰向けに倒れて言った。

ウィザードが、すかさず俺の手元にあるドル札を指差す。

 

「サム、ずいぶん羽振りがイイみたいじゃないか?」

 

「あぁ。おかげさまでな」

 

ニヤニヤと俺が返す。

みんなから落胆と怒りの声が上がった。

 

「分かった分かった!仕方ないな。貧乏人の為にメシでもおごってやるよ」

 

俺は金を掴んで立ち上がった。

 

「よっしゃ!負けた分はチャラみたいなもんだ!」

 

コリーがはしゃいで車のキーをクルクルと指で回す。

 

「近くのレストランで肉を食おうぜ」

 

部屋から出て、俺は母ちゃんに「出かける」と伝えた。

 

そして玄関から車に向かう為にドアを開けた時…

 

「よう、サム!遊びに来たぜ!

ライダーやウィザードのアシが停まってるが、一緒にどこかへ行くのか?」

 

「マーク…!」

 

俺は戦慄した。


 

もはや勝ち分は俺の手元になど残らなかった。

もちろんマークは俺達についてきて、容赦なく食べまくったのだ。

 

「クソ…まったくお前は、なんてタイミングのイイ奴なんだ、ニガー!」

 

俺は隣りに座っているマークにそう言って毒づいた。

奴は長椅子に座って満足そうに腹をポンポンと叩いている。

 

「ガハハ!悪いな、サム!旨いステーキをありがとよ!」

 

「マーク。いくらなんでも食い過ぎだぜ。ゴリラだな」

 

テーブルに足を乗せているウィザードが言った。

 

「おう!お前は俺みたいに食わないからチビなんだよ!栄養が足りてねぇのさ」

 

マークは大きなゲップをしてゲラゲラと笑った。

 

「体が重すぎて足が遅いのも嫌だろ」

 

ウィザードがフン、と鼻を鳴らしてタバコに火をつける。

その時。

 

「よう!ホーミー達!」

 

カラン、とレストランのドアが誰かの入店を告げると同時に、そんな大声が聞こえてくる。

 

そのままこちらへ近付いてきて、俺達のいる隣りのテーブルにドスンと音を立てて座ったのは、アフロのジミーとハッパ中毒のクリックだった。


「よう。調子はどうだ、ドッグ?

お前達もメシかよ?」

 

マークがジミーとクリックにタッチで挨拶した。

二人がすぐにナプキンで手を拭ったのを見ると、マークの手がそうとうベタベタしている事がわかる。

それは奴がさっきまで脂のしたたる牛肉や、揚げたてのポテトを手づかみで食い荒らしていたからだ。

 

「メシならさっき食ったぜ~」

 

ベースボールキャップを被っているクリックが、チリチリになったパーマの後ろ髪をいじりながら言った。

 

「窓の外からお前達が見えたからさ!

…これを見せたくてなー!」

 

俺達五人は椅子から身を乗り出して隣りのテーブルを見た。

 

ジミーがそのテーブルの上にドンとカメラを置いた。少し前の型に見える。

みんなから「おぉ」といった驚きの声が上がった。

 

「俺の新作だ!直したから、まだまだ使えるぜ!」

 

「よし!じゃあ俺様のハンサムな顔を撮ってくれ!」

 

マークが自分を指差して言った。

 

「うわぁ冗談キツいぜ~!」

 

「俺の方がマークよりハンサムだよ」

 


クリックとコリーがそう言ったせいで、マークは二人に頭にゲンコツを食らわせ、俺達はドッと笑った。


「しかし、せっかくこんなに集まったんだ。他の連中にも連絡しようぜ」

 

ライダーが立ち上がってみんなに呼び掛ける。

もちろんだ、と俺達からの返答があると、奴は席を離れてレストランの電話を借りに行った。

 

「じゃあ十一人で記念撮影か!」

 

「何の記念だ?」

 

「あん?えーと、カメラ記念だな!」

 

ウィザードの質問も気にせず、ジミーがはしゃいだ。

 

「こうはしちゃいられない!」

 

その横で突然コリーが立ち上がって、慌て始める。

 

「よう!どうした、ニガー?」

 

車のキーをポケットから取り出して今にも外へ出て行こうとするコリーを、俺が呼び止める。

 

「服だよ、服!ウチの工場のツナギ着たまんまじゃ、写真になんか写れないよ!」

 

コリーは入口まで進んで、ドアを開けた。

カラン、と音が鳴る。

 

「すぐに戻るから!」

 

コリーは最後にそう言って、消えていった。

 

「…服?写真くらいでそんなに、かしこまるか?」

 

マークが笑った。

コリーに洒落っ気があるというよりは、親父の作業着であるツナギを借りたまま写真に写るのが嫌なのだろう。


「あーっ!」

 

今度はウィザードが立ち上がって叫ぶ。

 

「あぁ!次はなんだよ!」

 

マークが面倒くさそうに言った。

 

「コリーの奴!勝手に俺の車を使いやがって」

 

「なんだ、ウィズ?そのくらい。さっき車を修理してもらったんだから、貸してやれよ」

 

「修理は三人でしたんじゃないか、サム?

クソ!さっきから、俺のコーラも、車も勝手に…まるでマークだ」

 

ウィザードが放った最後の皮肉な言葉が終わらない内に、マークは立ち上がっていた。

 

「おう!ウィザード!今日はヤケに機嫌がイイみたいだな!

俺が何だって?おい!」

 

「意味が分からなかったか?何でも人の物に手ぇ出すのは…」

 

ガッ!とマークの太い腕がウィザードのディッキーズの襟辺りを掴んだ。

 

「よう、マザーファッカー!てめ…」

 

「よーし、そこまでだ!」

 

二人はぶつかる寸前だったが、電話を終えて席に戻ってきたライダーが奴等の間に入った。

 

「マーク、カリカリするな。

ウィズ、何かあったか?冗談にしてはトゲがあるな」

 

ライダーは、他の連中への連絡の話よりも先にそう言った。


「いや…悪かったな、マーク。気を悪くしたのなら」

 

ウィザードがマークの腕を払って席に座る。

 

「おう」

 

マークも短くそれだけ言って座った。

 

ウィザードが刺々しい言葉を吐いた理由は分からなかったが、ライダーはそれ以上、詮索するような真似はしなかった。

本人が何も無いと言うならそれでイイという事だろう。

 

「さて、みんな。シャドウとガイは一緒にガイの家にいたぜ。

ジャックは一人で自宅にいた。

でも、スノウマンと連絡が取れなくて…」

 

「よーし!それじゃ、まず三人と合流しますかー!それからみんなでスノウマンを探そうぜ!」

 

ジミーがバン!とテーブルを叩いた。

 

「コリーが戻ってきたらな」

 

ライダーが言った。

 

 

コリーは宣言通り、すぐに着替えを済ませて戻ってきた。

レイダースのフットボールシャツだ。

 

「ごめん!みんな!

ごめん!ウィズ!車を借りちゃって!」

 

コリーは誰に言われるわけでもなく、自然とウィザードに謝った。

ウィザードもイイさ、と穏やかに答えた。


 

まずはガイの家へ向かう。

 

シャドウとガイは、二人でビデオゲームに熱中していた。

任天堂の『スーパーマリオ』というゲームソフトで、プレイヤーが主人公のマリオを操って数々のステージを冒険していくというアクションゲームだ。

俺も何度か遊んだ事がある、馴染み深いビデオゲームだった。

 

「よう、ホーミー。こりゃ大勢だな!」

 

ガイの部屋に入ってきた俺達を見て、シャドウが笑う。

ガイはコントローラーを握り締めて、テレビ画面をにらみ付けたまま「空いてるところに適当に座ってくれ」と言った。

 

「スーパーマリオか~!ガイ、俺にもやらせてくれよ~!」

 

「ちょっと待て。もうちょっとで…あ!

おい!クリック!よせ!」

 

クリックがガイからコントローラーをもぎ取ろうとしたが、ガイがそれを必死で阻止している。

 

「ちょっと待ってろって!画面が見え…あぁ!」

 

「あ~あ!穴に落ちた~!」

 

「お前のせいだろ…」

 

ガイはガックリと肩を落としてクリックにコントローラーを手渡した。


クリックはその後何度かチャレンジしていたが、結局ゲームオーバーになってしまった。

 

「よし、もうイイだろ。ジャックの家に行こう」

 

俺がそう言うと、ガイが反応した。

 

「ジャック?じゃあスノウマンとも合流して全員集合するのか?」

 

「あぁ、ライダーから聞いて無かったか?ジミーがカメラを仕入れてきたから、みんなで写真を一枚撮ろうって事になったんだ」

 

「そうなのか。じゃあ行こう」

 

ガイはビデオゲームのスイッチを切り、テレビ画面を消した。

 

 

ジャックの家に到着した時、奴は裸で庭に出してあるバーベルを使ってベンチプレスをしていた。

息を大きく吐きながらゆっくりと持ち上げ、ゆっくりと下げる。

 

一体どのくらいの重量をかけているんだ、というぐらいの重りがバーの両端に取りつけられていた。

 

「よう。調子はどうだ、ジャック」

 

コリーが声を掛けたが、ジャックはすぐに返事をせずに数回バーベルを持ち上げた。

そして乱暴に芝生の上にそれを落とす。

 

それからタンクトップを着て、近くに置いてあった瓶入りのミネラルウォーターをごくごくと飲んだ。


「まあまあだな」

 

ジャックがようやく言ったのは、それだけだった。

 

だが特に機嫌が悪いわけでもなさそうだ。

少しトレーニングをやりすぎたらしく、奴はくたびれたように大きなため息をついている。

 

「で?みんな揃って何かやるのか?何にも聞いてねぇが」

 

「写真だ!写真を撮るんだー!」

 

ジミーが自慢げにカメラを見せびらかす。

ジャックもガイやシャドウと同じく、ライダーからは何の用か聞かされていなかった。

 

「写真か?まぁ何だってイイけどよ。スノウマンがいねぇじゃねぇか」

 

「今からみんなで探すところさ」

 

辺りを見回すジャックにウィザードが答えた。

 

ところが、それはすぐに意味の無い事になる。

 

「よう!B.K.B!」

 

大声で俺達を呼ぶ声がしたので俺達がそっちを向くと、マウンテンバイクに跨がったマーカスが手を振っていたのだ。

 

「よう~!マーカス~!」

 

「マーカス!調子はどうだ」

 

クリックとライダーがそう答えると、スノウマンの弟であるマーカスは俺達に近付いてきた。


俺がマーカスの頭を軽く叩く。

 

「よう、マーカス」

 

「やぁ、サム」

 

マーカスはお返しに俺の腹を小突いた。

 

「元気そうだな。スノウマンがどこにいるか分かるか?」

 

「兄ちゃんなら、さっき家に帰ってきたよ。その後すぐに俺は家を出たから、今もいるのかどうかは分からないけどね」

 

「そうか!助かった」

 

マーカスのおかげで無事に全員が集合できそうだ。

 

「みんな!すぐにスノウマンの家に行こう!」

 

ジミーが叫んだ。

みんなバラバラと走り始める。

すぐ近くなので、車もバイクもジャックの家の前に停めたままだ。

 

「ねぇ、何かやるの?」

 

歩き出した俺の手を、マーカスが取ったので振り返る。

 

「あぁ、みんなで写真を撮ろうと思ってな」

 

「…へぇ!そりゃ楽しそうだ!じゃあ、俺がシャッターを押してあげるよ」

 

俺はハッとした。

確かに全員が写りたいならば、誰かに撮ってもらわなければならない。

ジミーが持っているカメラにタイマー機能がついているならばどうにかなるが、誰かに撮ってもらう方がイイだろう。

 

「そうだな。じゃあ行こう、マーカス」

 

「オッケー!」

 

マーカスはマウンテンバイクで、勢いよく俺達全員を追い越した。


 

「おう!なんだなんだ!みんな揃ってるじゃないか!」

 

スノウマンはマーカスの言ったとおり家にいて、庭先の椅子で日向ぼっこをしていた。

みんな奴の周りに集まる。これで全員だ。

 

「よう、スノウマン」

 

俺は右手を出したが、奴はその手を握らずにハグをしてくれた。

わずかに汗の臭いがする。

 

「ったく、どこに出てたんだよ~?探したぜ~?」

 

クリックがそう言ったが、実際にはスノウマンを探すのにそんなに苦労はしていない。

 

「はぁ?どこに行こうと俺の勝手だろう。

ていうか今日は集合かかってたか?」

 

「いや」

 

スノウマンがガイにふったので、ガイは短く答えた。

 

「だよな?で、みんなで何かやるのか?…飲むんだな?」

 

スノウマンはニヤニヤと上機嫌になって上着を羽織った。

赤いチェック柄のボタンシャツだ。マーカスに貰った物に違いない。

さらに奴は頭をバンダナで覆い、前結びした。

 

「今日は飲むわけじゃないぜ」

 

俺はジミーのカメラの事や、マーカスが撮ってくれる事を説明した。

ジミーが『しまった、そうだった』という顔をしたので、やはり誰が撮るのかは考えていなかったのだろう。


「じゃあ、みんな集まって!」

 

ジミーから受け取ったカメラをマーカスが構えて言った。

俺達全員が写るように、彼は少し離れている。

 

「おい!ここで撮るのか!何にもないぞ。俺ん家の前だしよ!」

 

スノウマンが驚いて俺の肩を叩く。

 

「場所なんてどこでもイイんじゃねぇのか?ほら、サムは真ん中に屈めよ」

 

ジャックがそう言うと、みんなが俺を引っ張って真ん中に移動させた。

そこに片膝を立てて屈む。

 

「じゃあ俺はサムの横にー!」

 

「俺も~!」

 

ジミーとクリックがはしゃいで俺の両サイドに屈もうとしたが、マークの左右の腕に一人ずつ首根っこを掴まれて引き止められた。

 

「な、なんだよ!マーク!」

 

ジミーが怒って声を荒げる。マークの行動の理由は『すでに先客がいるから』だった。

俺の横には先にシャドウとガイがいて、ジミー達はその二人を押し退けようとしたのだ。

 

「ガハハ!並びなんて気にするなって!なぁ、ライダー?お前らもそこに立ってろよ」

 

「「えー!!」」

 

ジミーとクリックが同時に不満を漏らした。

奴等は巨漢のマークや長身のライダーがいる辺りに立たされてしまったのだ。


ジャックが服を脱いで上半身を露にする。

そしてシャドウの横に屈み、ツナギから着替えてすっかりめかしこんだコリーはガイの横に屈んだ。

 

ウィザードは別に写らなくてもイイとでも言うようにバンダナで口を覆って一番すみに立ち、チェックのボタンシャツを着たスノウマンがその隣りに立った。

 

「さて、準備ができたみたいだぜ」

 

俺が言うと、マーカスはカメラを構えてファインダーを右目で覗きこんだ。

 

「オッケー!じゃあ撮るよ!」

 

みんな身構えたり、ハンドサインを作る。

 

 

パッ!と弱々しいフラッシュが光り、マーカスはカメラを下ろした。

 

「はい、終わり!」

 

ドッとみんなが力を抜く。

 

「やべぇ~!」

 

そんな中、クリックが情けない声を上げたので、みんな一斉に奴を見た。

 

「どうした?」

 

ライダーがたずねる。

 

「俺…目ぇ瞑っちゃったかも~」

 

みんなから笑いが起きる。

 

「ガハハ!お前の目にかかってるのは一体なんだよ?」

 

マークがバシンとクリックの胸を叩く。


「え?あぁ~!」

 

クリックの右手が自分の目の前にある、色の濃いロークに触れる。

 

「ガハハ!目なんか瞑ってても誰もわからねぇだろ!」

 

「みんなそんなに笑うなよ~!…あはは!」

 

一人だけ笑っていなかったクリックからも、ついに笑いがこぼれたのだった。

 

 

……………………………………

 

 

俺は写真をじっと見つめる。

 

みんなの元気な姿が鮮明に写っている。

 

もうじき、俺はこの狭苦しい部屋から解放されるだろう。

もっとも望まない理由で。

 

「…?」

 

何気なく写真の裏を見ると、走り書きが記されていた。

ぼんやりしていれば見逃してしまいそうなほど、小さな文字が。

 

「ア…イツ…ふざけた事しやがって…」

 

あまりにも意味を持ちすぎたその一言に、俺の目からボロボロと涙がこぼれてくる。

 

最後となる、このノート。

その一番最後のページに、俺は写真を挟んだ。

 

「B.K.B 4 life…」

 

これで、俺達の描いた物語は幕を下ろす。

 

滝のようにせわしなく、目から溢れ出てくる涙。しかし、それとは裏腹に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の心は穏やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ