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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
6/61

Wizard

B.K.Bの心臓。ブツの仕入れを担当するウィザード。奴のいないB.K.Bなんて、考えもしなかった。

全員でバラバラに逃げた後は、アジトに戻る奴、家に帰る奴とさまざまだった。

 

次の日の昼ごろ。

マークの家にいた俺は、昨日ウィザードと話し合った通り、メンバーをハスラーとウォーリアーにふり分ける為に全員の家に電話して、アジトに集合するように呼び掛けていた。

 

 

ウィザードとコリーだけは連絡がつかなかったが、おそらくすでにアジトにいるのだろうと思った俺は、マークと一緒に歩いてアジトに向かう。

 

「サム、昨日のドンパチは激しかったなぁ。みんな無事でなりよりだぜ」

 

「あぁ、だがクリップスもいつまた攻め込んでくるかも分からねぇ。気をつけないとな」

 

俺達がアジトに着いた時には新入り六人全員と、シャドウ、ジミーがいた。

 

「よう、ホーミー!みんな元気でよかったな!」

 

ジミーがニコニコしながら言った。

妙に機嫌がイイ。何かあったな、と俺は思ったがあえて訊かなかった。

 

シャドウは静かにタバコを加えたままテーブルに足を乗せてソファにふんぞり返っている。


俺達がアジトについてしばらくすると、ぞろぞろと他のみんながやってきた。

しかしウィザードとコリーはいない。

 

連絡がつかなかった事をみんなに伝えると、とりあえず待ってる間に一杯やろうという意見がクリックから出た。

 

「確かに昨日は色々あって大変だったからな。よし、二人が来るまで楽しもう」

 

みんなから、うぉぉ!という歓声が上がると、すぐにビールが新入り達の手により冷蔵庫からやってきた。

 

「B.K.Bに!」

 

「B.K.Bにー!!!」

 

瓶がぶつかり合い、みんなは楽しく飲み始めた。

 

 

しばらくすると車の音がして、コリーが勢いよく部屋に入ってきた。

息をきらしている。

 

「よう、コリー!お前もやれよ!昨日のクリップスを追い返した事で一杯やってたとこだぜ!」

 

マークが気さくに話かける。

しかし、コリーからは意外な言葉が出てきた。

 

「みんな!やべぇよ!ウィザードがパクられた!」

 

盛り上がっていたみんなは一気に静まりかえった。


「本当か、ニガー?」

 

「あぁ、間違いない。カラシニコフを大事そうに抱えて走ってるところを見つかって…」

 

「クソが!マジかよ!」

 

俺は机を叩いた。

 

「トニーがいないと話にならねぇ!どうすりゃイイんだよ!」

 

「落ち着け、サム。ウィザードの罪状は何だ、コリー?奴は警官を撃ったのか?」

 

この冷静沈着な声は、もちろんガイのものだ。

 

「いや、聞いた話じゃ発砲はしてない。かなり抵抗はしたらしいけど…」

 

「じゃあ未登録の銃の不法所持と、せいぜい悪くて公務執行妨害だな。それにまだ未成年だ」

 

ガイはみんなを見渡した。

 

「長くて二か月だな」

 

みんなから落胆の声が上がる。

 

「二か月も奴が入れられたら俺達の資金が底をついちまうぜ、ガイ!」

 

スノウマンが叫んだ。

みんなもそうだそうだと叫んでいる。

 

「じゃあ高い保釈金を払って、奴をすぐに仮釈させるか!?誰が払うんだよ!」

 

驚いた。ガイが叫んだのだ。

みんなはシンとしてしまった。

 

「B.K.Bの心臓が返ってくるまで、力を合わせてどうにか稼ぐんだ」

 

ガイはいつもの静かな口調に戻った。


すぐに話し合いが始まる。

みんなにウィザードの考えを伝えなければいけない。

 

「…ウィザードと二人で話したんだが、俺達をハスラーとウォーリアーに分担するぞ」

 

「なるほど…サム、イイ考えだが、ウィザードが戻ってくるまでは誰かが別のブツを仕入れないといけないな」

 

これはライダーだ。

 

「あぁ、だがまずは振り分けからだ。ウィザードからこの間、預かったリストがある。奴がハスラーとして頑張ってもらいたいと思ってる奴の名前が書いてある。まだ俺も見てない」

 

みんな息を飲んだ。

 

「読むぞ。まず…ウィザード」

 

おいおい、という小さな声が何人かの口から出てきた。

 

「悪い悪い。次に…ジミー」

 

「オッケー!ウィザードなら多分俺を指名すると思ったぜ!」

 

「しっかり頭を使って頑張れよ」

 

みんなから小さな激励があり、すぐに静まりかえった。

 

「次…ライダー。お前だ」

 

「俺か?分かった。やれる事は精一杯やるぜ」

 

ライダーはひらひらと手をふっている。

そして再びみんなは俺に注目した。


「次は…ガイ。お前だ、ニガー。…お前もやはりハスラー向きだと奴に見込まれたようだな」

 

ガイはうつむいたまま返事をしない。

みんなはガイを一斉に見た。

 

「サム、俺はハスラーになるのに何の異義もないが、お前達が俺のいないところで無茶しないか心配でよ…」

 

「おいおい!何を母ちゃんみてぇな事言ってんだ、ガイ!てめぇがいなくても、俺達は何の問題もなく敵をブチ殺してやるぜ!」

 

ジャックが吐き捨てた。奴は相変わらず口が悪い。

 

「ガイ、心配するな。ウォーリアーも常にハスラーと連携をとる。

次が最後の一人だな…ん!?」

 

俺は目を見張った。

見間違いではないかと思ったが、間違いない。

 

「どうした?何をもったいぶってるんだよ、サム!早くしろよ!」

 

マークが言う。

 

「あぁ、すまない。最後の一人は…」

 

全員が再び息を飲んだ。

 

 

 

 

 

「俺だ」

 

俺と同じようにみんな驚いた様子だった。


だが、ウィザードが俺をハスラーに選んだ事には何か理由があるように感じる。

俺は、乗り気ではないが了承することにした。

 

「よし、ジミー、ライダー、ガイ、そして俺とウィザードがB.K.Bの頭脳になる。他のみんなはB.K.Bの剣となるんだ。頼むぞ!」

 

みんなから口々に様々な頼もしい叫びが上がった。

そんな中ジミーが切り出す。

 

「ヘイヘイ、ホーミー達!聞いてくれよ!」

 

みんなは「なんだなんだ」とジミーの方を向く。

 

「実はな…新兵器を持ってきたぜ!見ろよ!」

 

ジミーの手にはなんと、十一個のポケベルが握られていた。

 

みんなから「うぉぉ!」と声が上がる。

ポケベルはかなり高価なので入手は難しかった。

しかし、家に電話をかける必要がなくなるので非常に役立つ。

 

「ジミー!どうしたんだよ!しかもそんな数!」

 

「へへ…サム、聞いて驚くなよ!実は、壊れて捨てられてるのをコツコツ拾って回って、全部直したんだ。

そんで、十一台とも契約してきたぜー!本体は高くても利用料は大した事ないからな!みんな使ってくれー!」

 

みんなから再び雄叫びが上がった。


これでようやくジミーが妙に機嫌がイイ理由が分かる。

早速、新入りを外した十人にポケベルを渡して、残った一つ(ウィザードの分)はアジトに予備として置いておく事になった。

 

「ウィザードが帰ってくるまで、みんなで力を合わせて頑張ろうぜ!」

 

ジミーが叫んだ。

 

「よし!もう一回飲み直そうぜ!」

 

新入りがまたビールを持ってくる。

しかしそのウチの一人が言った。

 

「大変だホーミー達!ビールがなくなりそうだ!」

 

「なに!?おい誰か仕入れて来いよ!」

 

スノウマンが舌打ちをしながら言った。

 

「じゃあ俺が行く。みんな楽しんでてくれ」

 

「サム!俺も行くぜ。一人じゃ持ちきれないだろ?まだ右腕も完全じゃねぇだろうしな」

 

マークがすぐに引き受けてくれて、俺と二人で買い出しに行く事になった。

 

「一人5ドルずつだ」

 

そうマークが言い、みんなから金を預かる。

 

「コリー!車、借りるぞ」

 

あいよ。と短い返事があって、キーが飛んできた。

リンカーンのロゴが彫り込まれたキーだ。


「なに!?リンカーン!?コリー!マジかよ!」

 

マークが叫び、ガレージに二人で行くと、そこにはピカピカのパールホワイトのコンチネンタルの新車が停まっていた。

 

「すげぇ…アイツ、こんなもんまで盗んでくるのかよ…」

 

「すごいだろ?」

 

俺が感嘆の声を上げていると、いつの間にかコリーが俺達の後ろに立っていた。

 

「今日はコイツで来てたのを忘れてたよ。お前達が傷つけたりしないか心配でね。俺が買い出しの運転に付き合ってやるよ。乗りな、ホーミー」

 

三人は車に乗り込んで近くのマーケットへ向けて出発した。

運転はもちろんコリーだ。

 

「俺に盗めない車はない。みんなが望めば戦車でも大統領専用車でも盗んできてやるよ!」

 

「頼もしい言葉だな!」

 

マークが言った。

すぐにマーケットに到着する。

 

適当にビールとスナックを買い、車に戻る。

 

すると車をじっと見ている若い白人の二人組がいた。

 

「なんだてめぇら?」

 

マークが早速奴等を威嚇している。

相手はチラッとこちらを見ると「ハッ」と鼻で笑った。


「イイ車だったからよ。どこのお偉いさんが来てるのかと思えば…なんだよ。汚い黒人どもかよ」

 

白人二人組は大声で笑い出した。

マークは持っていたビールケースを地面に下ろした。

ポケットから赤いバンダナを取り出し、口に結んでいる。

みるみるウチに白人どもの顔色が悪くなる。

 

「人種で差別するのはよくねぇな!くたばれ、カスが!」

 

言い終わる前にマークは一人に掴みかかって投げ飛ばした。

ソイツは隣りの車の屋根に勢いよく落ち、盗難警報器が鳴り響く。

追い討ちをかけるように、マークはソイツの顔面に拳を叩きこんだ。

奴はのびてしまった。

 

もう一人は逃げようとしたところをコリーに掴まれ、地面に頭から倒された。

 

「す…すまねえ!お前達がギャングだって知らなかったんだ!許してくれ!」

 

「おい、俺達がギャングスタだったからどうだってんだ!差別するのにギャングもクソもねぇだろうが!お前達は黒人全体を差別したんだからよ!」

 

マークが怒鳴りつける。

奴はヒィ!と小さな悲鳴を上げた。


「助けてくれぇ…!頼む!」

 

「吹っ掛けてきたのはそっちだろ。

…俺達はB.K.B!!Big.Kray.Bloodだ!覚えとけ、俺達とは違って『キレイ』な白人さんよ!」

 

そう言ってマークは奴のあごを蹴り上げた。

骨が砕ける音がして、仰向けにどっと倒れる。

 

「あーあ…ひでぇツラだな…どっちが汚いか分からねぇよ」

 

俺は最後にそう言葉をかけてやった。

 

「行こうぜ」

 

コリーがみんな乗ったのを確認すると、車を出した。

 

「嫌な奴等だったな。それよりやっぱ、この車は目立っちまうぜ、コリー」

 

「あぁ、コイツは知り合いの車屋に闇でさっさと流しちゃおう。かなりの金になるよ、ニガー」

 

マークとコリーのやり取りを聞いていた俺は、ふとある事を思った。

 

「おい、コリー。車ドロで稼げるんじゃねぇか?お前もハスラーになるべきなんじゃねぇかな?」

 

俺の言葉にコリーは後部座席を振り返った。

 

「サム、確かにそうだけど。車は仕入れがヤクとは違って定期的には無理だ。毎回高い車が見つかるはずもないし、買う奴も少ないだろう?俺の知り合いの店だって、月に何台も買い取ってはくれないよ」


 

俺達がアジトに着くと、残っていた連中はテーブルを囲んでポーカーをしていた。

 

「よっしゃ~!俺の勝ちだ!ほらほら~みんな1ドルだぜ~!

お?サム達が帰ってきたぞ!みんな~飲み直しだ~」

 

クリックがかなり勝っているようだ。奴のもとには大量の1ドル札がたまっている。

みんなはカードをやめて、テーブルに酒を置くためにスペースを作った。

 

「さぁ始めようぜ~!」

 

クリックはいつにも増して気分がハイになっている。

クロニックに加えてポーカーにも勝っているからだろう。

 

酒とスナックが並び、みんなはより一層騒ぎ始めたが、俺は一人外に出てぼんやり空を眺めていた。

 

「何か…売れるブツの仕入れを…どうするか…」

 

「ヘイ、サム!どうしたんだ?みんな盛り上がってるのによ。ほら、ビールだ。飲めよ」

 

俺がいない事に気付いたらしく、ビールを持ってきてくれたライダーが横に腰掛けた。

自分のビールも一本持っている。

 

「ウィザードの事か?それともブツの仕入れの事か?」

 

ライダーが俺にたずねた。


「しいて言えばどっちも…だな」

 

「そうか…確かにウィザードがいないのはB.K.Bにとっては大きな痛手だ。だが奴は今まで一人で知恵を絞って俺達の資金をやり繰りしてきたんだぜ?ハスラー全員で協力すればなんともないさ!」

 

俺の肩をポンと叩き、ライダーはビールを一口飲んだ。

俺も栓をあけて口にビールを流し込む。

 

ライダーには悩んでいる人間を包み込むような温かさがあった。

バイクに乗っている姿を除けば、ケンカもあまりやらないようだし、とりわけ俺達のメンバーの中で目立つわけではない。

しかしメンバー内で一番、誰かが悩んでいるのを察してくれるし、親身になって考えてくれた。

 

「そうだ、サム。明日ジャックの奴も誘って六人で遊びに行かないか?」

 

「六人?」

 

ライダーはニヤリと笑った。

 

「そうだよ。決まったガールフレンドがいるのは俺達三人だけだぜ?他の奴等はたまに適当な女と遊んでるだけだしよ」

 

リリーの事をすっかり忘れていた俺は、たまには女もイイか、と了承することにした。


次の日の朝、ジャックが親父からサバーバンを借りて、ライダーの家に迎えにきていた。

俺は昨日からライダーのウチに泊まっていたのだ。

 

俺達三人以外のメンバーは、今頃昨日の酒が回ってアジトで寝ているはずだ。

俺とライダーは宴会の時には外で二人で話していたし、ジャックは酒を飲まない。当然昨日も一人だけコーラだったわけで、トリプルデートの誘いには快くのってきた。

 

「ようホーミー。わりぃが後ろに乗ってくれ」

 

ジャックが親指を立てて後部座席を指している。

助手席にはジャックの彼女がいるからだ。

 

 

俺とライダーは後ろに乗り、ジャックが車を出した。

 

「さて、ライダーのプッシーちゃんはどこで拾うんだ?」

 

「セントラルパークに待たせてある。頼む、ジャック。あと俺の女をプッシーと呼ぶな」

 

「おう、じゃあセントラルパークな。ライダー、冗談だぜ、悪かったな」

 

四人はライダーの女との待ち合わせ場所に向かった。


ライダーは持ち前の優しさで、仲間だけでなく、女にも同じように接しているようだ。

 

俺達の仲間は俺も含めて基本的には女の扱いがヒドい。

みんなは女と連絡なんて頻繁に取るわけもなく、暇な時に遊ぶくらいだった。

 

しかしライダーは紳士的に女ともしっかりと付き合う。

 

奴は背が高く、スタイルもスラっとしている。おまけに顔立ちもクールで性格も優しいとくれば、メンバー内で一番の女ウケも納得できた。

 

「さて…着いたぜ、ライダー。ビッチはどこだ?」

 

「ジャック!てめぇ!」

 

「あぁ、わりぃわりぃ」

 

ジャックの毒舌は毎度の事なのだが、ライダーも自分の女に関する事だけはジャックを厳しく非難した。

 

車からライダーが降りると、すぐに一人の女がライダーの元へやってきた。

奴に飛び付き、抱き締めながらキスをしている。

 

「ニック!会いたかった!」

 

「そうか、ハニー。俺も会えて嬉しいよ」

 

物凄い数のキスを浴びながらもライダーは楽しそうだ。

 

ライダーと彼女がようやく車に乗ると、ジャックは再び車を出した。


「次はサムの女だな」

 

「あぁ、リリーは家にいるはずだ。すぐそこだよ、ジャック」

 

リリーの家に着くと、俺は車から降りて家のチャイムをならした。

するとすぐにリリーが飛び出してきた。

 

「サム!しばらく連絡くれないから、昨日急に連絡もらった時はビックリしちゃったよ!

えーと、あれが友達の車?さぁ!早く行こ!」

 

「お、おぅ」

 

リリーは俺の手をぐいぐいと引っ張っている。

二人が車に乗り込み、ようやく六人揃った。

 

「よし、揃ったな。まずはメシにしようぜ、ホーミー」

 

ジャックがそう言って、近くのマクドナルドに入った。

 

 

注文を終え、しばらくするとバーガーが出てくる。

 

「そういえばよ、こんな風にデートらしい事を女にしてやるのは初めてだ。いつもメシなんか家だしよ。滅多にドコにも連れて行かねぇからな」

 

ジャックがバーガーをほおばりながら話す。

やはり女の扱いがヒドいようだ。しかもメンバー内でもダントツで。

 

「そりゃヒドいぜ、ジャック!もっと可愛がってやれよ!」

 

ライダーはさっきからガールフレンドにべったりだ。

かなり対照的なカップルだな、と俺は思った。


「さて、腹もいっぱいだし、海にでも行こうか?」

 

ジャックは海へと車を走らせた。

のんびりと六人で浜で雑談をする。

タバコをふかしていた俺にリリーが話しかけてきた。

 

「サム、私あなたが撃たれた事も昨日知って…本当に連絡もなかなかくれないし…」

 

「あぁ、連絡しなくてすまない。今、俺達は大変なんだよ」

 

「分かった…無茶しないでね…」

 

悲しそうな瞳で俺を見つめている。

俺はリリーを抱き締めた。

 

 

「さーて、久々にのんびり出来たし、そろそろ女を送ってアジトに戻ろうぜ」

 

昼過ぎくらいになって、ジャックがケツについた砂をはたきながら立ち上がった。

みんな車に乗り込む。

 

 

「ジャック、止めてくれ。二人で食事して、それから帰るよ」

 

「そうか。分かった。」

 

しばらく移動したところで、ライダーと彼女は車を降りていった。

ライダーの家は目と鼻の先なので、二人の帰りは歩きでも大丈夫だろう。

 

ジャックは次にリリーの家に向かった。

 

「それじゃあ…またねサム…今日は楽しかった。今度は二人きりで遊ぼうね」

 

「あぁ」

 

別れのキスをして、リリーは家へと消えて行った。


次にジャックのガールフレンドを家の前に下ろす。

 

「じゃあな、ビッチ」

 

「もうお別れなの?」

 

ジャックのガールフレンドも、久しぶりにジャックと会えたので別れは寂しいようだ。

 

「今から仲間の待つアジトに帰る。お前とはここまでだ。

俺にとっちゃ女よりも仲間が大事なんだからな。勘違いするなよ、ビッチ」

 

「それは分かってるけど、週末くらいはきちんと相手してよね!じゃあまた」

 

ジャックのヒドすぎる態度にも驚いたが、ここまで言われても奴と付き合うガールフレンドにはさらに驚いた。

ドアが閉まり、車は走り出す。

 

「ジャック、お前等よく付き合ってられるな」

 

「あぁ?知らねぇよ。別にアイツの事は愛してねぇ」

 

ここまでくると悪魔だ。強すぎる。

 

しばらく車がアジトに向けて走っている間、俺はある事を思い出した。

すぐにジャックに伝える。

 

「ジャック、ちょっと寄り道を頼んでイイか?」

 

「どこだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…刑務所だ」


 

俺はジャックを車に残し、面会室のガラスを挟んでオレンジ色の囚人服を着たウィザードと対面していた。

 

「…すまない」

 

まずウィザードが沈黙を破った。

 

「いや、イイんだ。心配するな、ニガー。お前が帰ってくるまで、みんなで力を合わせてやっていく」

 

「メンバーはウォーリアーとハスラーに振り分けたか?」

 

「あぁ。ウィザード、なんで俺がハスラーなんだ?」

 

奴はふぅ、と大きく息を吐いて答えてくれた。

 

「イイか?お前はリーダーだ。最前線で戦うのもイイが、チームの長としてこれからは後方でドンと構えて、みんなを支えて欲しいんだよ」

 

チラリと周りを見て、誰もいない事を確認すると、ウィザードは言った。

 

「実は、今回パクられた事も考えて、今度からはお前にもブツの仕入れも手伝ってもらいたい。今、みんなが動けないのは、仕入れを俺一人でやってしまっていたせいだからな」

 

もう一度周りを確認して、ウィザードが小声で続ける。

 

「仕入れの取引き先のメモが俺の部屋にある。俺はあと二週間で出れるんだが、それまでに目を通しておいてくれ。最高に危ない仕事だぞ」

 

面会時間が終わった。


 

すぐにジャックと二人でウィザードの家に向かった。

ウィザードの家族には「彼に貸していた本があるので、探させて欲しい」と嘘をつく。

 

部屋でメモを見つけると、そのまま二人でアジトに戻った。

みんなに見せるわけにもいかないのでポケットに押し込む。

 

なぜかアジト内では再び宴会が始まっていた。

みんなすでに盛り上がりすぎて、酔っ払っている。

ジャックと俺は目を見合わせた。

 

「なんだこりゃ?」

 

「さぁ?何かイイ事でもあったんじゃねぇか?」

 

俺達が部屋に入っていくと、こちらに気付いたジミーが叫ぶ。

 

「ヘイ!サムとジャックだー!どこにいたんだよ!まあ飲めよ!」

 

みんなが俺達を部屋に招き入れる。

 

「何の騒ぎだこりゃ?」

 

俺がみんなにたずねると、みんながコリーをはやし立てた。

するとコリーはテーブルの上に勢いよく立ち上がる。

かなり酔っているようだ。

 

「これを見ろよサム!」

 

コリーの手には百ドル札の束が握られていた。

みんなから大きな歓声が上がる。


「どうしたんだよコリー!その金!」

 

俺は叫んだ。

 

「コンチネンタルを売ったらよ…なんと…一万五千ドルだよ!!

もちろん、両親に少しずつ分けたけどね」

 

「マジかよ!それでこんなに盛り上がってるのか!」

 

「こんだけあれば、ウィザードが帰ってくるまでは余裕だな!」

 

ガイが隣りで言った。

奴も今日ばかりは嬉しそうだ。

いつものクールなガイではなく、酔って陽気になっている。

 

「そうだな!みんなに俺からもう一つイイ知らせがあるぜ!

なんと…!ウィザードがあと二週間で出てくる!」

 

するとみんなが口々に叫ぶ。

 

「マジかよ!やったぜ!」

「意外と短かったな!」

「早くアイツにもビールを飲ませてやろうぜ!」

 

これが仲間を思う気持ち。

誰一人として仲間外れはいない。

これこそが俺達の結束の強さだった。

 

しばらくウィザードの事を全員で話した結果、奴の出所の日に全員で迎えに行くことに反対する奴はいなかった。


 

ウィザード出所当日。

俺達は刑務所前に堂々と赤いバンダナを口に結び、腰にぶら下げて整列した。

中にいる警官達がピリピリしているのが分かる。

 

だが俺達は警察にケンカを売りに来たわけではない。

たった一人の男を迎えにきたのだ。

 

奴はほんの少しの荷物を持って正門から出てきた。

俺達は雄叫びを上げる。

B.K.Bの心臓が帰ってきたのだ。

 

「ウィザード!!」

 

俺が叫ぶ。

 

「みんな…わざわざ迎えにきてくれたのか…心配かけてすまねぇ…」

 

みんなウィザードを囲んで、奴と一人ずつ抱き合った。

たまらず奴は泣き出してしまったようだ。

 

すぐにマークがウィザードにバンダナを差し出した。

ウィザードはバンダナを結んで口を覆った。

 

「B.K.B…俺は帰ってきたぞ!」

 

すぐにみんなはハンドサインのbを作り、ウィザードの出所を飾った。

 

ジミーはたまらず刑務所のまん前だというのにB-Walkを踏んでいる。

命知らずとは奴みたいな人間の事を言うのだろう。

 

行きもそうだったが、俺達は歩いてアジトに帰る事になった。


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