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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
57/61

soul

形などない。ゆえに決して消えない。

「カールっ!!」

 

「おい!カール!!」

 

俺達は叫んだ。

エミルが強引に警官を振り切ってカールに駆け寄る。

俺とガイもそれに習った。警官達もさすがに止めるわけでもなく、ただ黙っている。

 

「クソ!なんて事だ…!」

 

エミルが嘆いた。彼とカールは非常に短い時間しか一緒にいなかったのだが、それでもエミルはまるで古くからの友人を亡くしたかのように悲しんだ。

 

「カール…」

 

俺の目から涙が自然とこぼれる。

ホーミーや他のセットの知り合いのギャング、それから家族以外の人間の死をこうやって悔やむ事は俺にとって初めての経験だった。

 

「ふふ…死んだか」

 

悲しみの次には必ず相手への怒りが生まれる。

俺達も例外ではなく、すぐに署長に掴みかかる為に立ち上がろうとした。

 

その時だ。

 

「おやおや…本当に…予定外の事をしてくれたな…」

 

「…?」

 

いつの間にか一人の男が、周りを囲む警官達に紛れて立っていた。

 

「バカが!」

 

「…ぐっ!」

 

なんとその男はいきなり署長の顔面に一撃を入れて蹴り倒した。


 

ソイツは高級そうなブランドスーツに身を包み、上等な革靴、洒落たハットを被っていた。

瞳は濃いサングラスで隠し、ハットの内側に紺色のバンダナが巻かれている。

 

着替えたらしく、服装が少し変わっていたが…ソイツはギャングスタクリップのドンだった。

 

「…ランドぉぉ!!」

 

俺は叫んだ。

だがその怒鳴り声に反応する事もなく、ランドは地面に倒れていた署長の腹を踏みつける。

 

ぐっ!と唸り、署長が嘔吐する。

 

「ランドか!!どうして…!」

 

「クソ!殺してやる!」

 

ガイとエミルも口々に叫んでいる。

 

「のこのこと出てきやがったな、マザーファッカー!…うわっ!」

 

エミルが立ち上がってランドに殴りかかろうとしたが、警官におさえつけられた。

 

『こんなチャンスはない!』そう思った。

だが手が出せない。

 

ランドが一人でこんなに近い距離にいるなんて、奴と初めて顔を合わせた病室のベッド以来だ。

 

 

ランドは俺達の声は無視したまま、署長をじっと見下ろしていた。

 

「…早く立ってくれ。言い訳があるなら聞こうじゃないか。署長殿?」

 

優しい口調だったが、その声は冷たい。


すぐにはランドを殺せないならば、と少し冷静になって俺は考えてみた。

 

まずは…なぜここに奴がいる。いや、それは置いておく。

瀕死のクリップス達がサウスセントラルで話してくれた通り、奴がここに出入りしているというだけだ。

 

…ではなぜ危険な真似を嫌うランドが一人で出歩いているのだ。

警察がいるとはいえ、近くには逃げ出した俺の仲間達もいる。

さらに奴は、警察を利用するだけならまだしも、署長に手を出した。

そこまで警察はランドのいいなりなのか。ギャングスタクリップと警察は対等に利用し合っているというより、ギャングスタクリップが優位な立場にある気がしてならない。

 

…なぜ平気な顔をしている。

ランドも…警察も。

 

 

よろよろと署長が立ち上がった。

咳き込み、ツバを吐きながら悪態をつく。

 

「…言い訳も何もあるものか!まったく!」

 

「ほぉ…?」

 

「見てみろ!署内の裏切り者を一人消しただけだ!…たまたまこのガキ共が居合わせた!それだけだ!手を出しちゃいないだろうが!」

 

署長はカンカンに怒った様子でランドに怒鳴った。これでランドが警察に出していた指示の内容も明白になった。


「ところで…サム」

 

ランドが署長から目をそらし、ようやく俺を見て話し掛けてきた。

署長が無視された事に腹を立てて、フンと鼻を鳴らす。

 

「こんなに早くここまでやってくるとはな。正直、私も驚いているよ。

サウスセントラルのアジトでもう少し苦戦してくれてもよかったんじゃないか?」

 

「は!あのくらいでくたばるかよ!…お前をブチ殺すまではな!」

 

もちろんあのアジトではこれ以上無いくらいの痛手をこうむったのだが、俺は強い口調で返した。

だがランドの言葉から、俺達がここまで嗅ぎつけてやってくる事はお見通しだったという事が分かる。

 

「まぁ、まだ試練は終わってないんだ。楽しんでくれたまえ」

 

「ふざけやがって…!」

 

俺は唇を強く噛んだ。

奴は一人。俺達が警察におさえられていなければ、すぐにコイツをボコボコに出来るのに。

 

 

ランドが袖を捲り上げて、腕時計をチラリと見る。

当然のように高級ブランドの時計だ。

 

「…さて、そろそろだな」

 

「なに…?」

 

ランドがそう言うのと同時に、遠くからいくつかの車のヘッドライトがこちらに向かって近づいてくるのが見えた。


その車は俺達の目の前で停車する。

 

黒塗りのラム・バンだ。

数は二十台近い。すべての車が気持ち悪いほどに同じ年式、同じ色、同じ装備だった。

 

「ランド一人かと思ったが、近くに部下がいたのか」

 

「何だ、一体?」

 

「…気味が悪いな」

 

俺達三人がそれぞれつぶやいた。

この車に乗っているのがランドの部下だとすれば、ギャングスタクリップ以外の他のセットの連中だろう。

ギャングスタクリップそのものは、サウスセントラルでほぼ壊滅させたはずだったからだ。

 

バン!

 

その真っ黒なラムのスライドドアが次々と開け放たれた。

 

「おら!出ろ!」

 

車内から怒鳴り声が聞こえて、違う誰かが外に押し出された。

すべてのバンから数人ずつ、同じように外に人間が出される。

 

「クソ!」

 

「いてぇだろうが!触るんじゃねぇ!」

 

ソイツらが叫ぶ。全員が両手両足を縄で縛られて捕らえられていた。

 

「そんな…!みんな!?お前等、上手く逃げたんじゃ…」

 

「すまねぇ、サム…!お前達を助けようとしたら、逆に捕まっちまった…」

 

マークが悔しそうにそう言った。


「ん…カール…?まさか…警察に殺られたのか!」

 

そしてすぐに、奴は倒れているカールに気付いて叫んだ。

俺は黙って頷く。

 

「クソったれが!本当に警察は腐ってやがる!仲間を何だと思ってるんだよ!

てめぇらなんざ、ランドのクソったれと同類だ!」

 

マークが吠える。

周りにはランドの手下共と警察だらけだが、そんなことはお構いなしだ。

他の仲間達も様々なことを叫んでいたが、マークの低い声は一番響いていた。

 

「警察が私と同類…ね。褒め言葉として受け取っておこうか」

 

「ランド!?てめぇ、いたのか!

ブッ殺してやる!かかってこい!」

 

マークはランドに気付いていなかったようだ。

その事をランドが気にしている様子は無かったが。

 

「…かかってこい?随分おかしな事を言う。

両手両足を縛られてよくそんな台詞が出てくる。

…君はたしか、一度病室で私と会ったな?ふふ…いつも動けない状態なんだな」

 

「おう!俺がB.K.Bのマーク様だ!覚えとけ!

…動けないのは毎回てめぇのせいだろうが!クソ、こんな縄!

…ぐ…うぅぉぉぉ!!」

 

なんとマークは雄叫びを上げながら、両手の縄を引ちぎった。

 

その場にいたすべての人間が目を見開いた。


続けてマークは自由になった両手で、足の縄を素早くほどく。

 

「バカな!引きちぎるなど!」

 

「うぉぉ!!くたばれ!マザーファッカー!」

 

「おい!取り押さえろ!」

 

全員が唖然とする中、ランドへ向かってマークが突進する。

一瞬だけ、ランドの顔が引きつったのを俺は見逃さなかった。

 

ガッ!

 

「のわっ!?」

 

だが、マークがランドに殴りかかる事はかなわなかった。

すぐにラム・バンからランドの手下共がぞろぞろと飛び出してきて、数人がかりでマークを地面に押し倒したのだ。

 

「まったく…サム。君の友達はどれだけバカ力なのかね」

 

「ふん…!お前がマークを怒らせるような真似をするからだ」

 

「まぁイイ」

 

ランドは俺の言葉には反応せず、キョロキョロと辺りを見渡した。

 

「ふむ…少し予定と違うが…よかろう。試練のフィナーレだ」

 

「何…?」

 

「警察の邪魔が入ったり、君達の動きが予想より早かったりと、色々あったがな。

この…コンプトン署を君達の墓場にしようじゃないか」

 

ついに奴は、俺達を泳がせて楽しむのをやめ、「殺す」と宣言した。


「署長。申し訳ないが建物と敷地を使わせてもらうぞ」

 

ランドは署長にそう言ったが、奴は首を縦には振らなかった。

 

「またそんな勝手な事を!お前と仲良くなったつもりは無いぞ!」

 

署長は、これ程までにランドと繋がっている確たる証拠がそろってもなお、ギャングスタクリップに協力的な姿勢は見せなかった。

 

ランドから力づくでおさえられて反発しているのか…あるいは、他の警官達の前だから関与を認めたくなかったり、威厳を保ちたいのかは分からない。

少なくとも署長はランドを煙たがっているように見えた。

 

「…勘違いしないでくれ。私は貴様に頼んでいるつもりはない。命令しているのだよ。

さっさと警官共をまとめてこの場を離れろ」

 

「くっ…」

 

「…彼等の試練は私の楽しみの一つなんだ。ビッグトライアングルという大仕事の合間の娯楽。

私の描いた彼等の終幕に、警察は無用だ」

 

シッシッ、と犬を追い払うようにランドは手を動かす。

 

署長と警官達はランドを睨みつけながら全員パトカーに乗り込み、どこかへ走り去っていった。


 

「さぁ、行こう。連れてこい」

 

走り去るパトカーを眺めていたランドが、くるりと振り返って建物に向かい歩き出す。

 

マークは地面に倒されたまま、いつの間にか新しい縄で再び縛られてしまっている。それも今度は二重だ。

これではさすがのマークも力ずくでどうこうできる問題ではない。

もちろん俺達三人も縛られた。

 

暴れるマークを数人がかりでランドの部下が引き起こす。

そして俺達はカール巡査だけをその場に残し、ランドの手下共に無理矢理引っ張られて奴の後ろをついていく形になった。

 

「ランド」

 

「なんだね?」

 

「…色々と手回しして俺達をもてあそんだ割には、呆気ない終わり方じゃないか」

 

俺は捕らえられた仲間達を見ながら、すぐ前を歩くランドに話しかけた。

ブラッズ、クリップス、様々なセットのギャングスタ達が引っ張られている。

 

「不満かね?だが私もそろそろ遊んでいる暇が無くなってくるのでな。

悪いがここまでとさせてくれたまえ」

 

「クソが…必ず殺してやるからな…」

 

このまま奴の思い通りだなんて…考えただけで虫酸が走る。


「君も先程の彼と同じく、おかしな事を言う。どうやったら私が君に殺されるのかね?

まったく逆じゃないか」

 

ランドは俺に近付き、俺の首を手でクイッと上に向けた。

互いの息が肌に当たる程に、奴が顔を俺に寄せる。

 

「私が…君を殺すのだよ。私がな」

 

「…」

 

俺は首を横にふって奴の手をあごから払った。

フン、とランドが鼻を鳴らす。

 

 

先頭を歩いていたランドや俺が、署の建物の玄関に到着した。

マークや、他にも元気な奴等数人は暴れながらもこちらへ向かって少しずつ歩かされている。

 

「ぐずぐずするな!」

 

ランドが手下共に向かって叫んだ。その時。

 

奴等が乗ってきたバンの向こうから、何か光る物体がやってくるのが見えた。

また奴等の仲間がかけつけてきたのかもしれない。

 

「…?なんだあれは」

 

だが、ランドはそう口にした。

 

つまり…

奴にとっても…予想外。

 

キキィ…!プシュ!

 

「おい!B!みんな!」

 

目の前で停車したのは一台のトラック。

一人の男が叫びながら運転席から飛び降り、トイザラスのロゴが描かれたコンテナを開け放った。


「ブラックホール!?どうして…」

 

『ここにいる』

俺がそう言い終わる前に辺りはものすごい喧騒に包まれた。

 

コンテナから続々とギャング達が飛び出してきたのだ。

だがそれは、少し前にブラックホールが連れて帰ったケガ人達では無かった。

 

俺達の協力要請を受けてくれたセットの中でも、反対してついてきてくれなかった連中。

さらにはセット全体でケンカに加勢しないと言った連中。

そんな奴等がコリーのトラックから続々と顔を出したのだ。

 

「…これは、一体何が起こってるんだ!」

 

俺が叫ぶ。

そのギャング達は捕らえられている俺達には見向きもせず、一斉にランドの部下共に襲いかかった。

 

「おらぁ!」

「ギャングスタクリップの犬共が!」

 

しかしランドも一筋縄ではいかない相手だ。

 

「クソ…!みんな慌てるな!距離をおいて銃を使うんだ!」

 

すぐに応戦の指示を出し、自らは携帯電話を片手に建物の中へと走って行く。

 

「ランド!クソ…!」

 

他の仲間達を呼び出すに違いないと俺は思った。


だが、縛られた状態では奴を追いかける事など出来ない。

 

「…みんな!ランドが署内に逃げ込んだぞ!」

 

俺の声は騒ぎに書き消されて、なかなか届かない。

 

ブラックホール率いる新たなギャング達は、ランドの部下共と戦いながらも少しずつ、捕らわれている仲間の縄をほどき始めた。

 

しかし、ブラックホール達がこの場にいる敵をすべて倒して、俺達全員を解放してくれるまではまだ時間がかかりそうだ。

それでは遅い。

 

なぜブラックホールがこの場所へ助けにきてくれたのか、今まで協力してくれなかったセットがいるのか…とにかく質問をぶつけたり礼を言うのは後でイイ。

 

早くランドを追いかけないとすぐに新たな敵がやってきてしまう。

そうなればランドを殺すチャンスを再び見逃す事になるだけではなく、せっかくのブラックホール達の加勢が無駄になり、俺達がかなり不利な状態になる。

 

「サムか…?ヒドいカッコしてやがる」

 

不意に後ろから声を掛けられた。


「ん…?」

 

俺が振り返る。

ソイツはスラリとした両腕と両脚の細身の体系だった。

 

アスレチックスのベースボールキャップから出ている髪は、クルクルとパーマがかっていて往年のEazy-Eを思い出させる。

濃い色のギャングスタ・ロークでその瞳は見えず、茶色のタンクトップからはおぞましい程の蜘蛛のタトゥーが彫られた細い両腕。

 

いかにも怪しいその男は、セットのトレードカラーである『茶色』のバンダナで口を覆い隠していた。

 

「サム。動くなよ」

 

「…」

 

奴はバタフライナイフを取り出して、俺の四肢を縛っている縄を切った。

 

「俺はガキの頃から力が弱くてな。こんなに硬く結ばれてちゃあ、切らないとほどいてやれないのさ」

 

そう言ってナイフを二つ折りにして、ジーンズのポケットにしまう。

 

「マフィア・クリップも動いてくれたのか…ありがとう、スパイダー」

 

「俺らには俺らの歩く道がある。別にB.K.Bの為じゃねぇ」

 

ひねくれた性格のようで、コンプトン・マフィア・クリップのOG、スパイダーはそっぽを向いてそう言った。


ブラックホール達はまだまだランドの部下達と乱戦を繰り広げている。

スパイダーは銃を腰から抜いて戦いへと戻っていった。

 

 

「サム…!ランドは!?」

 

解放されたガイが肩をおさえながら走ってきた。

 

「中だ。今から追いかける」

 

「奴は一人か…?」

 

「あぁ。電話をかけようとしていた。

仲間を呼び寄せるつもりに違いない」

 

俺が玄関の扉に手をかける。

 

「俺も行こう…ホーミー、これを」

 

ガイは俺についてくると言い、何かを差し出してきた。

 

「ん?グロックじゃないか!どうして…」

 

「さぁな。俺の銃は無かったが、これは地面に落ちてた。

…神の思し召しかもしれないぜ」

 

奴は銃をクルリと返して、銃口の側を握った。

俺にグリップ側が向く形だ。

 

俺達B.K.Bは銃を仲間に渡す際、必ずこうやって自分が銃口側を握る事で相手に銃口が向かない様にする。

 

ドミノやカードをプレイする時に銃をテーブルに置く際も、銃口は絶対に仲間の方には向けないようにしていた。

それが命を預ける仲間への最低限のマナーだ。


俺は一度グロックのマガジンを引き抜いて残弾数を確認した。

 

「二、三、四…。これだけ…か」

 

始めから目一杯弾をこめていたわけでも無かったが、署長が何発か撃ったのも関係して、弾はかなり少なくなってしまっている。

 

「仕方ないさ。早く行くぞ」

 

ガイが言い、俺は扉を開けて建物の中へと入った。

俺達は二人共、手負いの状態なので、いつもの様には走れない。

だが、それでもできる限りの力を振り絞って走った。

 

まずは一階。一つ一つ、すべての部屋を確認して周る。

 

奴は…いない。

 

「上だな…。急ごう」

 

俺達は階段へと向かい、のぼり始めた。

 

その時、ガン!と扉の開く音がした。

おそらく玄関だ。誰かが建物に入ってきたのだろう。

ガイが振り返り、つぶやく。

 

「…敵か…?」

 

 

「おーい!!サム!ガイ!いるか!?」

 

マークの声だ。

俺達がホッと胸を撫で下ろす。

 

「マークか!こっちだ!」

 

俺が返事をすると、マークはすぐに俺達の元へやってきた。

 

「無事だったか、ニガー!!外はヤバイぜ。敵が少しずつ増えてる」

 

「何!?遅かったのか…?」

 

いくらなんでも早すぎる気がした。


「コンプトンに、ここまで迅速にランドの指示に従う連中がいるとも思えないな」

 

ガイが言った。

当然ブラックホールが連れてきているだけがコンプトン市内のすべてのギャングではない。

 

コンプトンの各セットからならば、ここまでの距離は短いが、少し前にセットを周っていた時に感じたのは「B.K.Bの側につかないにしても、ランドにも積極的に協力するつもりはない」という態度だった。

 

「他にもサウスセントラルの奴等を、近くに待たせてたんだろうよ。

ランドの奴はビビリだぜ。いくら手下共を隠し持ってても不思議じゃねぇ」

 

マークがぶっきらぼうに言った。

 

「…確かにその線が強いな。どっちにしろ奴は次々に仲間を呼び寄せるぞ」

 

ガイが返す。

 

俺達は二階のフロアに到着し、再び一つ一つの部屋を調べていった。

 

 

いくつかの部屋を調べ終わった時。

 

「…だ…」

 

誰かの声が漏れている部屋があった。

 

「…!」

 

すぐに俺は手をあげて二人を止める。

不思議そうにマークが言った。

 

「どうした?」

 

 

「…シッ!何か聞こえる」

 

俺はその扉を指差し、腰から銃を抜いた。


「ランドか…?」

 

「分からない」

 

俺とガイがひそひそと耳打ちする。

署内に他の誰かが出入りしていないならば、ランドが電話で話している声だという可能性が高い。

 

ガン!

 

「…!」

 

「なに!」

 

なんと、扉が勢いよく開いた。

 

「チマチマやってても仕方ねぇだろ!ランドぉ!」

 

「マーク!?」

 

部屋の中からではなく、マークが扉を蹴り開けたのだ。

 

「ランド!出てきやが…っ!」

 

ドォン!!

 

「ぐはっ!」

 

マークが部屋に突入した瞬間、けたたましい轟音が響いた。

マークの巨体が宙に舞い、俺達がいる廊下側へと吹き飛ばされたのだ。

 

「おい!ニガー!」

 

俺とガイは急いでマークを引っ張り、部屋の中から見えないようにした。追撃を免れる為だ。

 

マークは顔から足までの全身に小さな銃痕ができ、そこからかなりの血を流していた。

 

「クソ…!ショットガンか!」

 

「…いてぇ…」

 

マークがうなる。

撃たれた距離がまだ近かったら、即死だったに違いない。

 

「…サム。ここは警官達の武器庫みたいだぜ…」

 

ガイが扉の上にあるプレートを指差した。


ガチャリ、とショットガンに次弾を装填する音が聞こえた。

 

ドォン!!

 

「クソ…!なんで武器庫が開いてるんだ…!」

 

開け放たれたドアから拡散した弾丸が飛び出してくる。

俺は警察のがさつな管理体制を恨んだ。

 

弾が俺達に当たる事は無かったが、これでは部屋の中に踏み込めない。

それにもし中にいる奴がひょっこり銃身をこちらへのぞかせようものならば、俺達はなす術も無く撃ち殺されてしまう。

 

ドォン!!

 

カチャ…

 

ドォン!!

 

しばらく変則的に扉への発砲が続いた。

 

「…マーク、しっかりしろ」

 

ガイがマークの大きな頭を自分の膝に乗せて呼び掛けている。

 

 

一瞬、銃声がやんだ。声が聞こえる。

 

「…早く…数…集め…こい…!」

 

電話で話している…?そう思った時には俺は扉の前へ飛び出していた。

 

 

左手に携帯電話を握ったまま、小綺麗なスーツを着たソイツは目を見開いた。

右腕一本ならばショットガンなど…すぐには撃てない。

 

「く…!サム…!」

 

奴が携帯電話を手放す。

 

「ランド…!!くたばれ!」

 

俺はランドよりも素早く両手でしっかりとグロックを構えて、引き金を連続で引いた。

 

パァン!パァン!

 

パァン!


その内の一発がランドの右手の甲に当たり、奴は銃を地面に落とした。

 

仕留める事はできなかったが、奴に一発くれてやった事は大きい。

だがそれと同時に、この時ほど自分の下手な射撃の腕を呪った事は無かった。

もちろん俺が腕をケガしている事が少なからず関係しているに違いないのだが。

 

「…チィ!」

 

俺は舌打ちをする。

ランドの顔色が怒りの表情に変わった。

 

もう一度、銃を構え直してランドを撃とうとした瞬間。

 

「どけ!」

 

とっさにランドは俺へ向かって突進してきた。

俺は強く突き飛ばされ、手から離れた拳銃が床を滑った。

 

「…!逃がすか!」

 

奴が廊下へと出る。

 

「…何!?ランド!!逃げる気か!」

 

マークと一緒に部屋の外にいたガイが叫ぶ。

すぐにグロックを拾って俺も武器庫を出た。

 

「サム!無事か…!」

 

ガイが言った。

ランドは二人には構う暇もなく、何もせずにさっさと逃げたようだ。

 

「…あぁ。ランドめ…逃がさねぇぞ…!どっちだ?」

 

「向こうだ。俺も行く」

 

「いや、お前はマークを頼む」

 

ガイが階段の方を指差して立ち上がったが、俺はそれを手で制した。


「いや、二人いた方がランドを倒すのに都合がイイだろ。

ランドは上へ向かった。さあ急ごう、B」

 

だがガイは尚も食い下がった。

頭のキレるコイツにとっては『ランドを倒す』という結果が最優先なのだろう。

 

「…分かったよ。それならお前が行け」

 

俺はグロックのグリップをガイの胸に押し当てた。ガイが驚く。

 

「何?二人で行かなきゃ意味がないぞ…!」

 

「マークを見捨てるわけにはいかない!引きずってでも早く下へ連れていかないと!

…お前がどうしても行くのなら俺が残る…」

 

マークは俺達の会話の間も、体の痛みでずっと唸り声を上げていた。

 

 

ガイは少し考えた後、銃を俺に押し返した。

 

「一人で行く以上、何があっても助ける事はできないからな…」

 

「分かってる」

 

「…サム。お前に神のご加護を…」

 

ガイが右手で十字を切り、ポケットから小さなロザリオを出して俺の首にかけた。

俺は小さく頷き、クリックの形見の銃を腰のベルトにさす。

 

神がそうしてくれなくても、先に逝ってしまった家族…B.K.B…そしてカール巡査の様な多くの仲間達の魂が必ず俺を守ってくれる。

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