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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
56/61

fuck Police

憎むべき悪。貫くべき正義。

すべてが反転し、均衡を見失う。

「コンプトンは死んでる…?どういう事だ?」

 

俺はカールの言葉を繰り返した。

 

「…もう手遅れかもしれん…。分かった。すべてを話そう…」

 

カールは何度も深く頷きながら言った。

俺には『手遅れ』の意味が気になったが、まずは話をきかせてもらう事にした。

 

「今…お前達はギャングスタクリップのランドとか言う奴と抗争中なんだろ…?」

 

「…あぁ。やっぱり知ってたのか」

 

「もちろんだ…できれば俺は止めたかった。たくさんのギャングが死ぬのは悲しい事だからな」

 

という事は、やはりランドの手回しによって警察は動きを封じられていたのだろうか。

 

「ランドが警察に対して動かないように指示をしたのか?」

 

「何…?ランドが警察に…?そんなことが出来るのか?」

 

「違うのか…!?」

 

俺は驚いた。

ランドが警察を動かしていないのなら、なぜサツがここまで俺達の邪魔をしないのかが分からなくなる。

 

「俺は…抗争の情報をきいた時、いち早く署長に進言した。『すぐに止めるべきだ』と…だが、コンプトン署の警官が動く事は無かった。

ギャング抗争は…終わってしまって、生き残った方を捕まえればイイ…それが答えだった」


「…ヒドいもんだな。まぁ、俺達にとっては止められても困るんだが」

 

ガイが言った。

そして俺が続ける。

 

「そりゃそうだ。

…ん?という事は…カール、まさか警察官達にこうやって痛めつけられたのかよ…!」

 

「そうだ。俺だけでも動くと上司に伝えたらこのザマさ」

 

カールは悔しそうな表情になった。

 

「信じられない…」

 

「カールさんよ。それは変じゃないか?」

 

ガイがまた口を開いた。

 

「コンプトン署が動かないだけなら、さっきアンタが言ったように署長の指示だけでも充分ありえる。

だがそうまでしてアンタを止めようとしたんだ。絶対に動いてはいけない理由があるに違いない」

 

「…ランド…だな?」

 

ずっと黙っていたエミルが言った。

そうだ、とガイが返す。

 

「これでやはりランドが絡んでるのは確定だ。奴が警察をどうやって従わせているのかは分からないがな」

 

 

「…ところでカール。署に誰もいないのはなぜだ?」

 

俺は話題を変えた。

 

「…それが『手遅れ』という意味だ。もうここは警官隊に囲まれていると思う…」

 

「なんだと!抗争が終わるまで手は出さないんじゃ…!」

 

俺達は戦慄した。


エミルがドアと対面にある窓へと素早く近寄る。

そしておそるおそる外を覗いた。

 

「…?何もおかしな様子はないぞ」

 

俺もエミルの横へと移動して窓の外を見る。

確かに何も変化はない。俺達が乗って来た車は道路沿いに停まったままだし、署の駐車場内に数台停めてあったパトカーにも動きは見られなかった。

 

「…見えないだけだ。この建物を出たらすぐに分かるさ。どこからともなく警官隊が飛び出してくる」

 

カールが言った。

 

「しかし…どうしてだ?さっきも言ったが、まだ抗争は終わったわけじゃないぞ!」

 

「…サム。俺達はハメられたのさ。この警察の動きは、何も『お前達を挙げる』のが目的じゃない。

ギャングと警官隊の衝突の間に、殉職に見せかけて俺を消すのが目的だろう。

お前達が言うようにランドとコンプトン署が繋がってるなら尚更つじつまが合う。俺が死んだら、適当にお前達を逃がすつもりなんだろ。だが少なからず犠牲は出る」

 

「なに?じゃあ、カール一人の口封じの為にこんな大掛かりな芝居を?」

 

「ま…ただの憶測さ。それだけ今回の抗争には裏があるって事なんだろ?俺が動けばいずれその裏側が浮き彫りになるからな。

…命令に従わないハミ出し者は叩かれる。なんとも嫌な世の中だ…」

 

カールは力なく笑ってみせた。


「ということは、警察は俺達がここに来る事を見越してたのか?」

 

ガイがカールにたずねた。

 

「そうだな。手は出さなくともお前達の動きは常に監視していた」

 

「…じゃあ、もし俺達がここに来ていなければ…もしくはアンタの言ったとおりにすぐにこの場から離れてれば…?」

 

ガイは普通では見過ごして気がつかないような点に注目した。

 

「いや、例え形は変わっても俺は消されるだろうさ。もうすでにこうしてお前達が来る以前に暴行を受けてるからな…いまさら後には引けないだろ」

 

カールは顔のあざを指でさすりながら言った。

俺が提案をする。

 

「でも黙って死ぬわけにはいかないだろ…カール、一緒に逃げよう」

 

「はは…サム、気持ちは嬉しいが警察を追われた俺に生きる道なんてないさ」

 

カールは肩を落とした。

 

「バカ言え。家族はどうする?友達は?」

 

「俺は独身だ。地元のダチはほとんどが死んじまったか塀の中だよ。俺だって、警官やってなかったら同じようなもんさ。警察に嫌われた今、俺はもう生きていけない」

 

「…じゃあ俺達みたいなクソッたれには最初から生きてく資格なんてないんだな」

 

皮肉まじりに俺は言葉を吐いた。


「サム…案外そんな事も言うんだな」

 

カールが笑った。

 

「…だってそうだろ?俺達ギャングスタは警察に好かれる存在じゃないんだ。アンタが言う通りならば、俺に生きてる資格なんてハナから無いぜ」

 

「ふ…分かったよ。俺が悪かった。

俺にだってギャングとして生きていた友人は大勢いる。彼等の存在を否定できる程、俺も立派な人間じゃないからな」

 

カールは俺の意見を認めてくれた。

 

「お前達もよく知ってるだろうが、すでに事実上消滅した『コンプトンブラッズ』…あの頭だったファンキーは無二の親友だった」

 

「ファンキーか…あの人はすごい男だった」

 

「アイツのセットがお前達を可愛がっているって事、よく聞いたよ。トニーってのがレイクの従兄弟なんだったな?」

 

カールは驚く程よく俺達の事を知っていた。

何度となく俺の事を助けてくれたのにも、ようやく納得できる。

 

「レイクやウィザードの事まで…よく知ってるな」

 

「そりゃアイツらのテリトリーが俺の地元だからな。あの辺りの連中はみんな顔馴染みだ…」

 

カールがドアの方へと歩く。

 

「さて、おしゃべりがすぎた…行こう」

 

まず、やるべき事が決まった。


「おーい!みんな!ちょっと集まってくれ!」

 

俺達が署長室を出ると、エミルは大声でみんなを集め始めた。

 

どうした!といった返答があり、色んな部屋から仲間達がぞろぞろと俺達の方へ向かってくる。

一階の玄関前に辿り着く頃にはちゃんと一人も欠ける事なく全員が集合できた。

もちろんマークもいる。

 

「よし…みんないるな?ここにランドはいないようだ。だがちょっとした問題が…」

 

「ちょっと待て、サム。その警官は?」

 

俺が言い終わる前にマークが言った。

ボロボロの制服で俺の横に立っているカールがいたからだ。

 

「ん…?カール巡査?」

 

「おい。このおまわり、カールじゃねぇか」

 

他の連中から声が上がる。どうやらカールはコンプトン市内であれば、他のギャング達の間でもちょっとした有名人らしかった。

 

「お前達、彼を知ってるのか?じゃあ話は早い。マーク、彼はカール。俺の知り合いだ」

 

そうか、とだけ言ってマークは黙った。

 

「コイツはギャングに甘い、ふぬけの警察官だぜ」

 

ケリーパーククリップのメンバーが言った。

確かにそういう見方をされても仕方が無いのかもしれない。


「まぁ、そういうな。彼にも色々あるのさ。

別にギャングにびびってるわけでもない」

 

エミルがケリーパークのメンバーに向かって言った。

当のカールはというと、誰にどう思われているかなんて気にしていないのか、黙ったまま突っ立っていた。

 

「あーっ!」

 

その時、突然誰かが何か思い出したように叫んだ。

 

「ん…?どうした、ニガー?」

 

俺が言う。

声を上げたのはマークだった。

 

「思い出したんだよ!この警官、昔にサムが捕まった時の!面会の時に後ろのドアから入ってきた奴だろ!」

 

「おう、そうだ」

 

「あースッキリしたぜ!どっかで見た事があるような気がしててよ。

さ、問題とやらを早くきかせてくれよ、サム」

 

ドッと笑いが起きた。

何て自分勝手な奴だと言う声が上がっている。でもマークの事は憎めないから不思議だ。

 

「じゃあ本題に入ろうか。

ひとまずみんな、ランドのクソッたれの事は忘れてくれ」

 

「何でだよ!」

「ここにいないんなら、すぐに別の場所に移ろうぜ!」

 

みんなが騒がしく口々に叫ぶ。

 

「…今、俺達は警官隊に囲まれてる」

 

声は一瞬でやんだ。


「よし…じゃあ今の状況をさらに詳しく説明する。

黙ってきいてくれ」

 

俺がそう言うと、みんなはコクリと頷いた。

 

「まず、このカールは俺達の抗争を止めようとしていた。彼はたとえギャング連中だろうと、その命を重く見てくれる素晴らしい警察官だ。

だがコンプトン警察は抗争を止める事を許さず、こうして彼を痛めつけた」

 

「仲間にやられたのか!」

 

たまらずマークが叫んだ。

 

「そうだ。もちろん警察がカールにこんなことをしてまでも俺達に手出しができないのには理由がある。

おそらくランドがコンプトンポリスに命令してるんだ。抗争の邪魔をしないように…って感じだろうな」

 

誰も何も言わずに俺の言葉を真面目に聞いていたので続ける。

 

「で、今警官隊が俺達を囲んでいる理由は、俺達との衝突でどさくさに紛れてカールの口封じをする為だけだ。奴等はランドから俺達に手出しするなと言われてるからな」

 

「でもカールを置いていきたくはない…だろ?」

 

またマークだ。奴は俺の言いたい事を分かってくれていた。


「そういう事だ。ランドの手掛かりが掴めなくなるが…まずはここから全員無事に出る事を考えよう」

 

「サム、ちょっといいか?」

 

「なんだ?ニガー」

 

ガイが手をあげたので俺が返す。

 

「手掛かりが掴めなくなるわけじゃないぞ。カールは色々と情報を知ってそうだし…第一ここは死にかけのギャングスタクリップが教えてくれた場所なんだろ?彼等を信じたからここに来たんだよな?」

 

「それはそうだが、何が言いたいんだ?」

 

「ここから出る事に異存はないが、ランドの手掛かりはまだ消え失せちゃいない。警察と奴の繋がりが確定し、サウスセントラルのアジトが潰されたんなら…必ずここへ現れるような気がしてるんだよ」

 

ガイの言葉に俺は混乱した。

 

「だったらここから出ないで待ってるのがイイって事じゃないか?俺にはそう聞こえるぞ、ガイ」

 

「それじゃあ奴は姿を現さない。危険な場所には近付かない主義なんだろ?

警官隊が空っぽの署を囲んでるんだからな。一度この場を離れるのは絶対条件だろう」

 

ガイは最後に「だが判断はすべてお前に任せるよ」と付け加えた。


 

俺達は一気に飛び出す準備をしていた。

ただ一気に車まで突っ走る。そして逃げる。それだけだ。

ガイの言葉も気になったが、まずは逃げるということだけはガイも賛成してくれたので特に意見が割れたわけではない。

 

「この上着を着ろ。警察は俺達がアンタをすでに殺していると思ってるかもしれないからな」

 

エミルが紺色のディッキーズの作業着をカールに手渡した。

確かにその方が警官の制服を着ているよりは俺達に溶け込む。

 

カールはその作業着を羽織りながら「ありがとう」と返した。

バンダナで口も覆わせてあげたいところだが、さすがにそれは他人に貸すわけにはいかない。もちろんエミルはバンダナをカールに渡したりはしなかった。

 

カールは上着のすべてのボタンを閉め終わると帽子を捨て、手帳、腰についたままだった手錠や警棒、拳銃もすべて床に投げ出した。

 

「俺にはもう必要のない物だからな…」

 

その様子を見ていた俺に、カールはそう言って笑いかける。

 

「そうだな。よし、それじゃあ…行くぞ…!」

 

俺はみんなを一度見回すと、玄関の扉を開け放った。


「走れ走れ!」

 

「車まで突っ走れ!」

 

口々にホーミー達が叫んでいる。

 

少し痛みがひいていたとはいえ、俺は左腕をかばうように右手を当てて走った。

 

その時。

 

「出て来たぞ!包囲しろ!」

 

どこからともなく拡声器からの怒鳴り声が聞こえてきた。

武装した警官隊だ。カールが言ったように隠れていたらしい。

 

「マジで出てきやがった!サム!手を貸そうか!?」

 

俺の前を行くマークが振り返って叫ぶ。

手負いの状態の俺は、鈍足のマークに劣る程の速度でしか走れなかったからだ。

 

「…大丈夫だ!お前も…早く行け!」

 

俺が返すとマークは前を向いた。

 

「…チッ。サム…こりゃ逃げるだけでも厳しいな…クソが…」

 

俺の真横にもまた、思うように走れずに悪態をついている奴がいた。

 

「はぁ…はぁ…大丈夫か…ガイ?」

 

それはガイだった。

俺と同じくゼエゼエと息を切らしながら必死で走っている。

 

「逃がすな!」

 

警官隊の包囲がみるみる内に縮まる。

俺とガイ以外のメンバーはすべて車に乗り込んだ。

 

「おい!急げ!」

 

エミルがフリートウッドの運転席から俺達に向けて叫んだ。


次々と仲間の車が発進していった。

 

俺とガイは、待ってくれていたエミルの元にようやくたどり着く。

タイヤを鳴かせ、路面との摩擦で白煙を上げながら、後部座席に俺達が乗り込んだフリートウッドも急発進する。

 

「クソッ!」

 

その直後に、突然運転席のエミルが叫んだ。

 

「OG-B!間に合わない!」

 

先に発進して行った仲間達はどうにか警官隊の包囲から抜け出した。

だが最後尾だった俺達は横道から飛び出してきた二台のパトカーに道をふさがれてしまったのだ。

 

「下がるぞ!」

 

すぐにギアシフトをRに入れてエミルがキャデラックをバックさせる。

運転席のエミルとは違い、シートベルトをしていなかった俺とガイは、大きく体を前に揺らされた。

 

ガシャン!

 

大きな音と振動が車内に広がった。

 

「止まれ!」

「動くな!」

 

バタバタと警官達が走ってくる男が聞こえる。

 

「畜生…」

 

エミルがハンドルに頭をついて両手を上げた。

バックした時にはすでに後ろ側にパトカーがついていて、それに衝突して停車したのだ。

 

銃を構えた警官隊が俺達を囲む。

 

「これはまずいな…」

 

俺もつぶやき、両手を上げる。

 

…キャデラックの助手席にはカールが乗っていた。


ガン!とドアが乱暴に開けられ、俺達四人は車内から引きずり出された。

 

「後ろを向いて両手を車につけ!」

 

偉そうな口調で一人の警官が怒鳴った。

その間に続々と他の警官が集まってくる。数十人のおまわりに囲まれてしまっては、もう逃げられない。

 

「銃を持ってるな。悪い子だ」

 

俺をボディチェックしていた警官が俺の腰からグロックを抜き取る。

ライダーからクリックに渡された大事な銃だ。それを取り上げられたのだから俺は悔しかった。

 

「チッ…クソが…」

 

俺がつぶやいていると、すぐにガイのマグナム銃も他の警官に見つかって没収される。

カールとエミルはすでに銃を携帯していなかったようだ。

 

そして俺達は振り向かされた。

 

「…おやおや…カール巡査。逃げるなんて許さないぞ。

それに…まさかお前を助けるギャング連中がいるなんてな」

 

恰幅のよい白人の男が一歩前に出て話し始める。おそらくお偉いさんだろう。

 

「…お前、このゴロツキ共と仲良しなのか?警察官として、それはあまり関心しないな」

 

「それはアンタだろうが…!」

 

カールは怒りを露にして叫んだ。


「はぁ?私にギャングみたいな汚らわしい連中との繋がりが…?」

 

お偉いさんはわざとらしく首を振ると「ふふ…」と笑った。

それから周りの警官達に徐々に笑いが広がっていき、すべての警官を巻き込んでの大爆笑が起こる。

 

「はーっはっは!みんな聞いたか…!?私がギャングと癒着しているんだと!

一体どこからそんなデマを仕入れてきたのか!」

 

「あくまでもシラを切るつもりか…外道め…」

 

カールは汚い物を見るような目付きでソイツを睨み、地面にツバを吐いた。

 

「まったく。私が『動くな』と指示を出したのに…一人で勝手な事をするからこうなるのだよ」

 

という事は、コイツは署長か何かか?などと俺は考えていた。

 

「命令を無視した警官を痛めつける署もどうかと思うがな…

俺が動くとまずい事でもあるのかよ」

 

「黙れ!死ぬお前に教える事など何もない!

お前は今からそのお友達に殺されるんだよ、カール巡査」

 

俺は耳を疑った。

 

「何!?俺達が彼を殺すわけないだろ!」


「殺したかろうが殺したくなかろうが、お前達が殺すんだよ。

いや『殺した事になる』と言うとわかりやすいかな」

 

「ふん。やっぱりそんな事か。バカな警官の考えそうな事だな」

 

今度は俺ではなくガイが口を開いた。

 

「ちょうど…お前達が面白いおもちゃを持っていたから都合がよかったよ」

 

ソイツは俺とガイの銃を下っ端から受け取ってニヤリと笑った。

これを使ってカールを殺し、俺達のせいに仕立て上げるつもりか。

それでコンプトン署の警官すべてが口裏をあわせれば、いとも簡単にカール巡査の殉職という台本が出来上がる。

 

「おい、おまわり。俺達もその後に消すのか?」

 

エミルが言った。

こんな言葉を平然と吐くのだから俺は驚いた。普通なら声が震えてしまうところだ。

 

「いや…それは分からんな」

 

お偉いさんはきっぱりとした返事をしなかった。

やはり俺達には下手に手が出せないのか。ランドの存在が見え隠れする。

 

「そうか、じゃあ俺達が生きて誰かにしゃべっちまえば、アンタの悪事は世の中に広まっちまうな?」

 

エミルは挑発するかのように言った。

そんなことを言ったら遠回しに「殺してくれ」と言っているようなものなのだが。


「口を慎め。すぐにでも射殺できるんだぞ。『武器を所持していたからやむを得ず』ってな!」

 

「は!お前みたいな豚に説教される筋合いはないな」

 

エミルはさらに暴言を吐いた。

 

「…ガキが!お前達を生かして逃がそうが殺してしまおうが、どうでもイイんだよ!

誰もまともに話なんかきかない。警官とギャングの証言…どちらを信じる?お前達には人権なんて甘ったれたものは存在しない!」

 

「言ってる事がむちゃくちゃだ…署長!人権はすべての人間に平等に与えられる!

アンタは腐ってる!このコンプトン署もな!一番の悪党は警察だ!」

 

カールがエミルに代わって叫んだ。やはりこのお偉いさんは署長らしい。

カールは警察のあり方にも、署長の考え方にも「もう耐えられない」という様子だ。

 

「さっきまで自分がこんな奴等と働いていたなんて思うとはずかしいぜ…」

 

「そう言うなよ、カール巡査。それに『誰が悪党か』だなんて見え透いてる。

正義は…常に我々に付き従う。うっとうしい程にな」

 

 

プツリと何かが切れた気がした。

すぐに俺とガイ、エミル、そしてカール、四人の声が同時に響き渡る。

 

 

「「カスが!!」」


パァン!

 

「が…っ!クソ!」

 

銃声が響き渡り、カールが片膝をついた。

 

「すまんな。手がすべってしまった」

 

「おまわり!てめぇやりやがったな!」

 

エミルが歯をむき出しにして怒ったが、他の警官達に取り押さえられてしまった。

 

署長がカールを俺の銃で撃ったのだ。

俺もガイも怒りで肩を震わせたが、どうする事もできなかった。

カールは腹の辺りからどくどくと血を流して口からも吐血している。

 

「…署長…!ぐっ…アンタに正義なんか語れない!」

 

「まだ減らず口を叩くか!バカめ!」

 

パァン!パァン!

 

「…ぐぁぁ!」

 

「カール!大丈夫か!やめろ豚ぁ!ブッ殺すぞ!」

 

この時のエミルは少し前までと比べると人が変わったかのように凶暴になっていた。いつもはどちらかといえば無口でおとなしい男なのだが。

 

「く…サム…必ず警察を…」

 

「お別れだ。カール巡査」

 

パァン!

 

署長は最後にカールの胸を撃ち抜いた。

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