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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
52/61

hard core

美しくさえ見えた。

罵り合い、傷つけ合う姿が。

「さぁ、いよいよだ。みんな、周りに警戒してくれ」

 

俺は車内の三人にそう言った。

先を走るコリー達の車がスピードを緩めて、ゆっくりとした走り方になったからだ。

 

サウスセントラルのギャングスタクリップのテリトリー付近は穏やかだった。

だが、静まり返って不気味だというわけではない。

なぜなら夜中ではなく昼間なので、普通に一般人が出歩いているからだ。

 

広い大きな道路から、じわじわと奴等の居住区に入る。

壁や標識に描かれたギャングスタクリップのタグが確認できた。

 

スローモーションで流れていく景色の中で、奴等のタグの上からB.K.Bがタギングしている物もいくつか見つけた。

数年前の無残な敗北が思い出されて嫌な気持ちになる。

 

「ここは…今までで一番多くの仲間が死んでいった場所だったな」

 

前回、俺達が全滅した路地を走っていると、マークが胸で十字を切って言った。

 

「R.I.P.…ホーミー達」

 

俺も小さくつぶやいて両手を組んだ。


「しかし、シャドウの奴はギャングスタクリップの居場所を分かってるのか?」

 

テリトリー内をゆっくりと走る前の車を見つめながら、マークが言った。

確かにアジトとしてどんな建物を使っているのか、俺達には分からない。

それに、奴等がそこに集まってくれているのかも分からないのだ。

 

ガイが言った「真正面から行く」という提案で、これだけの人数を動かしている。

ただ、それだけだ。

 

さすがのシャドウも、奴等の現在の居場所が自信を持って分かっているとは言えないらしく、ブラックホールと共に怪しい場所を転々と見て周っているだけのようだった。

少なくとも後ろをついていっているだけの俺達にはそう見えたので、マークの言葉にも納得できる。

 

「そんなに広い土地じゃないんだから、すぐに見つかるさ。ガイが言う通り、ランドが兵隊を集めてドンと構えてるんならな」

 

俺は言った。

 

「そう焦る事はない。俺達がサウスセントラルに来てる事なんて、分かりきってるはずだからな。必ず奴は…どこかで待っている」

 

ガイが落ち着いた口調で言う。


前を行く車はひととおりテリトリー内をグルグルと周った後、急に何かを思い出したかのように進行方向を変えた。

 

「…?」

 

ライダーが不思議そうにゴルドバを見つめる。

 

「ガハハ、小便か?」

 

マークが冗談を言ったが、誰も笑わなかった。

住宅地から少しそれて、林のような場所を走っていたのでマークはそう言ったのだろう。

 

「こりゃ…」

 

ライダーが唾をゴクリと飲んで言った。

緊張してハンドルをきつく握り締めている。

 

「俺も同じ事を思ってたぜ。大丈夫だ」

 

ガイがライダーにそう言ったが、奴の緊張はほぐれない。

 

生い茂った林の中、一本道を走ると見えてきた大きな建物。

真っ黒焦げになった姿は、もはや骨組以外はすべてが焼け落ちてしまっていた。

 

…それは昔、工場だった。

俺達は知っていた。

 

初めてギャングスタクリップから大敗を喫したこの場所を。

まんまとランドの罠にハメられて、多くの仲間が殺されたこの場所を。


…とはいえ、今となってはただの廃墟。

またもやシャドウの山勘は外れたようで、ギャングスタクリップはいないようだ。

 

工場を含め、その周りを林に囲まれた土地は、全部の車を乗り入れても何の問題もないほどのスペースだった。

以前この場所がパトカーと消防車であふれかえった事が思い出される。

 

「ちょっと小休止するか?小便がしたくてよ」

 

マークが助手席のドアから降りた。

他の車からもメンバー達が何人か出てきて林に向かって立ち小便をしている。

 

しばらくするとマークは車内に戻ってきた。

他のメンバー達も再出発の準備はできたようなので、シャドウ達は再び走り出す。

 

 

工場を背にして、一本道を戻っていく。

 

「おい。何だか後ろが騒がしい…!あれは!」

 

ガイが振り向きながら言った。

俺も振り向く。

 

「なっ!?どういう事だ!」

 

俺達のすべての車が走り出してすぐに、廃墟は紺色に染め上げられていた。

 

つまり突然、ギャングスタクリップのメンバー達であふれかえったのだ。

ホーミー達も全員停車して後ろを見ている。

 

まったくわけが分からず、俺は手品を見せられているような気分になった。


当然、こちら側には混乱が生じた。

バラバラと後ろの車からみんなが飛び出し、口々に叫びながらすごい勢いで工場の方へ走っていく。

もちろんB.K.B以外のセットの連中だ。

 

「まずい!ライダー!」

 

「分かってる!」

 

俺が叫ぶと同時に、ライダーは車をUターンさせて、列の最後尾へと向かった。

敵へ向かって走っていくギャング達を一気に追い越して、一番工場に近付いた所で車を停める。

 

ギャングスタクリップ達は廃墟からは一歩も動かずに、ただ沈黙していた。

ランドやクレイがいるのかは確認できない。

 

「止まれ!」

 

俺達四人は車から飛び出して、勢いづいた協力者達を止めにかかった。

 

「止まれ!!勝手に攻撃するな!!」

 

俺が再び叫ぶ。

まだ状況が読めない。

ギャングスタクリップが林の中から俺達の様子をうかがっていたのならば攻撃があってもおかしくなかった。

だが奴等は俺達が引き返し始めて姿を現したので、俺達を一度見逃している事になる。

 

攻撃をしてくる気配はないのでガイの言った通り、面と向かって対峙しても問題はないだろうと俺は思った。


 

みんなは勝手に攻撃を開始したりはしていない。

俺達四人が立っている位置よりは前に出なかったということだ。

だが、俺達に対して悪態をついたり、ギャングスタクリップに罵声をあびせている。

 

「何で止めるんだよ!OG-B!」

 

「奴等は俺達の背後をとって不意打ちをしようとしたんだぞ!」

 

「ギャングスタクリップは皆殺しだ!」

 

「早くこのクズ共を片付けるぞ!」

 

これは不意打ちではない。俺達との距離は限り無く近いにも関わらず、奴等はピクリとも動く様子を見せないからだ。

マークがみんなに向かって「いいから黙ってろ!」と吠えている。

ようやく他のE.T.やB.K.Bの数十人のホーミー達も俺達の所へ駆け寄ってきた。

俺が叫ぶ。

 

「ランド!いるのか!?クレイを解放しろ!ケンカは後からでも遅くはないだろう!」

 

 

沈黙。

依然としてギャングスタクリップは動かない。

 

「ランド!出て来い!」

 

…?

 

その時、紺色に染まった廃墟の中で何かが動いた。


パチ…パチ…パチ。

 

ゆっくりと小さな音がして、紺色のギャングスタクリップのメンバー達の一番後ろに奴は姿を現した。

何やら台か、足場のような物に乗っているのだろう。

上半身だけをのぞかせている形だ。

 

「ごきげんよう諸君」

 

拍手をやめて、ハットをわざとらしく手で持ち上げて挨拶する。

 

ガチャガチャと全員一斉に武器を構えた。

アイツがランドか、とこちら側からいくつか声が上がっている。

 

「ようこそ、私達のテリトリーへ」

 

ソイツは相変わらず高そうなスーツに身を包んでいた。

 

「間違ない…ランドだ」

 

俺もクリックの形見のグロックを奴に向けた。

俺の言葉で、みんなは一斉に雄叫びを上げた。

 

「ランドぉぉ!!」

 

「貴様だけはブッ殺す!!」

 

だが…うかつに撃ってはいけない。

俺は叫んだ。

 

「みんなまだ撃つな!!ランド!早くクレイを解放しろ!!」

 

そう。奴のすぐ横には手足を縛られ、さらに口にガムテープを貼られてぐったりしているクレイがいたのだ。ギャングスタクリップのメンバーが抱き抱えている。

やはりそうきたか、と俺は思った。


「まぁ、待ちたまえ。時間はいくらでもあるんだ」

 

ランドは落ち着き払ったように言った。

いちいちムカつくヤロウだ。

 

何年間も殺してやりたいと恨み続けてきた男が目の前にいる。

みんなに攻撃をしないように指示を出した俺自身、誰よりもコイツの頭を撃ち抜いてやりたいと思った。

 

やはり、いざ奴を目の当たりにすると理性なんて吹き飛んでしまいそうになる。

 

「早くクレイを…解放しろ…!!」

 

俺は自分の唇を強く噛み締めて言った。

歯が刺さり、血が溢れてくる。

 

「それにしても…よくもまぁ、色とりどりのお友達ができたじゃないか!素晴らしい成長だ!」

 

奴は俺を無視して演説を始めた。

ランドと俺以外は、敵も味方もすでにそれぞれのセットのチームカラーのペイズリー柄バンダナで口を覆っている。

戦闘態勢というわけだ。

 

「おっと…!これは驚いた。ビショップやケリーパーク・クリップがいるのかね…」

 

「あぁ。みんな、お前に死んでほしくて集まったんだよ」

 

俺が返すとランドはクックッ、と肩で笑った。


「偉大なるセット…由緒あるセット…歴史あるセット…!!

そんなもの。何の役にも立たない。

ただの老いぼれギャングセットだろうに」

 

ランドがせせら笑う。

 

 

パァン!パァン!

 

 

銃声。

ビショップのメンバー達が空に向かって発砲したのだ。さすがにこれには黙っていられなくなったらしい。

 

「てめぇに何が分かる!ひよっこのニュージャックが知った口をきくんじゃねぇ!」

 

「俺達はお前がまだよちよち歩きしてる頃からギャングスタの世界を生きてきたんだぞ!」

 

他に名指しされたケリーパーク・クリップも中指を立てたり、親指を地に向けて怒りを露にしている。

さらに、発砲があった事でギャングスタクリップ側からも怒号や罵声が飛び始めた。

そんな中、ランドが叫ぶ。

 

「これからの時代は!ギャングもスマートであるべきなのだよ!

もっと頭を使い、力を増やし!ギャングが『薄汚い連中』と蔑まれる時代は終わるのだ!ギャングスタこそが、どんな政治家やマフィアよりも力を持つ世界…その象徴がビッグトライアングルなのだ」

 

奴の演説はヒートアップしたが、俺にはまったく共感できなかった。


「能書きはいいから早くクレイをこっちに渡せ!」

 

俺はイライラと叫んだ。

間違いなく、あんな所にクレイがいては危険だ。

それにクレイを見た感じ、ぐったりしている事が気掛かりだった。

 

「どうして…渡す必要がある?」

 

「なんだと!!」

 

俺はランドの言葉に耳を疑った。

 

「この子を助けたければ、そうすればいい。だが…私がわざわざ解放してやる理由など無いぞ。違うかね?」

 

「くっ…きたねえぞ!てめぇそれでも男か!」

 

「あぁ。生理学的には男だ。

『男は汚い真似をしてはいけない』なんて方程式が存在するとは知らなかったな」

 

まったく見当違いの答えが返ってくる。

どこまでも人をバカにするコイツとは、まともな会話すらできそうにない。

ただ、頭がキレるというだけのつまらないヤロウだ。

同じ切れ者でもリスペクトできるウィザードやガイとは大違いだった。

 

「ところで…サム」

 

ランドが思い出したように切り出した。

 

「試練は…楽しかっただろう?」

 

…!

 

「ふざけやがって!」

 

楽しかっただと…仲間の死…悲しく辛い経験の連続が。

気付くと俺はグロックを構えてランドの方へ駆け出していた。


ガッ!

 

俺の視界が突然真っ暗になった。

 

「バカヤロウ!」

「サム!」

 

二人の声が聞こえた。

どうやら俺は押さえ込まれて地面に突っ伏したらしい。

すぐに俯せの状態から仰向けへと、身体を無理矢理反転させられた。

 

俺を倒したのはマークとライダーだった。

他にもホーミー達が何人か近くに立って俺を見下ろしている。

 

「何をするんだ、マザーファッカー!いきなり押し倒すなんてよ!」

 

俺は地面から二人に叫んだ。

 

ガン!

 

「…ぐっ!」

 

マークが俺の腹に蹴りをいれた。

 

「それはこっちのセリフだろうが、ニガー!お前の指示は何だった!」

 

マークが叫ぶ。

ライダーは俺が手から落としたグロックを拾い上げ、やれやれと首を左右に振っている。

 

「お前の指示は何だった!?言ってみろ!」

 

マークがもう一度言った。

 

「…」

 

「お前が下した決断にみんなは従ってるんだぞ!それを一番に無視してどうするんだ!アスホールが!

ビショップやケリーパークの連中を見ろ!カッとなっても手出しはしてねぇだろうが!」

 

俺はマークの言葉で、ハッと我にかえる。


「くそっ…」

 

俺は立ち上がって、ライダーから拳銃を受け取った。

だがクレイは力づくで取り戻す他ない。ランドはわざわざクレイを返す気なんてさらさらないのだから。

 

「さて…美しい友情ごっこを見ているのにも飽きた。じゃあそろそろ始めようか?」

 

ランドが上からそう言った。

 

「もちろんだ。お前がクレイを返そうとしない以上、俺達はお前を殺して助け出すまでだからな!」

 

「そんなにこの子が大事なのか?それじゃあここに置いていってあげよう」

 

「なに!?おい待てよ!どこへ行く!?」

 

俺が叫ぶ。ランドは身を翻してどこかへ行こうとしたのだ。

言葉の通り、クレイを抱えているギャングスタクリップのメンバーは動いてはいなかったが。

 

「おい!ランド!」

 

奴がチラリとこちらを振り返った。

 

「サム…忘れたか?私は我が身に危険が及ぶ場所には顔を出さない主義なのだよ。

今回は特別に挨拶をしに来たまでだ」

 

「逃げるのか!」

 

「好きに解釈してもらって構わない。では、ごきげんよう」

 

奴は再び紺色の中に消えていった。


ランドの行動にこちら側の人間から様々な罵声が上がった。

それは当然の事だろう。

 

奴をこの場で取り逃すのは非常に惜しいが、カッとなり行動するのは得策ではないと俺は思った。

身をもってマークとライダーに引き止められた俺だからこそ、この答えが出たのだ。

 

「全員きけ!作戦は変えない!まず、クレイの奪還!ランドを追うのはその後だ!」

 

うぉぉ!と雄叫びが上がった。

みんな異存はない、と俺は理解した。

 

「手前の敵から突き崩す!クレイに危険が及ぶ攻撃はするなよ!」

 

まずはリルクレイに近付かない事には助け出せない。

彼と俺達の間にはかなりの数のギャングスタクリップ。それを倒す以外に道はないのだ。

 

奴等は俺達よりもいくらか人数は多いように見えるが驚く程の数ではなかった。

サウスセントラルの他の配下セットは出てきていないに違いない。

 

つまりまだまだランドは本気を出していない。これは、ほんの前座にすぎないということだろう。

 

だが裏を返せば、奴はまだ俺達を潰しにかかってはいない。この場を切り抜ければまだチャンスはある。そう確信した。

 

「みんな!いくぞ!!」

 

ついに二つの勢力が激突した。


パァン!パァン!

 

銃声が鳴り響き、廃墟から続々とギャングスタクリップ達が飛び出してきた。

俺の後ろに控えていたギャングスタチームも、一斉に走り出した。

マークが大声を上げてみんなの志気を高める。

 

「よっしゃあ!みんな、やっちまおうぜ!」

 

今まで抑えていた感情が爆発する。

銃を持っている者は発砲し、そうでない者はバットやナイフ、素手で攻撃している者もいた。

 

「よし!一気にたたんじまおう」

 

俺も拳銃片手に進み始めた。

絶対に負けない。俺達と人数の差はあっても、奴等は無理矢理にランドの力で従属させられている人間。

自分達の意志で結束した俺達と比べては、まるで心の強さが違う。

劣勢になれば奴等は簡単に尻尾を巻いて逃げ出すだろうが、俺達は引き下がらない強い気持ちがある。それぞれのセットにとって大切なものを守り、取り返す為の気持ちが。

 

「待て」

 

後ろから誰かに呼び止められた。

 

「ん?…ガイか。どうしたんだ」

 

ガイが俺の肩に手をのばして立っていた。

 

「ちょっと乱戦になりすぎてる。今、突っ込むと危険だ。

お前が動くのはランドに一発撃ち込んでやる時だけでいい」


俺はガイの手をふりほどいた。

そして笑いかける。

 

「みんなは命かけて頑張ってるんだぞ?確かにランドがいないこの場でまだ俺が死ぬわけにはいかないが、無茶はしないからよ」

 

「仕方のない奴だな…分かった。じゃあ俺が援護してやるよ」

 

「よしきた。行くぞ、ニガー!」

 

俺とガイは大乱闘の中に飛び込んだ。

すでに戦いは、その場にいた全員を巻き込んだ巨大なものに発展していた。

俺達の一番近くで戦っていたのはワッツ地区のバウンティハンターの連中だ。

 

「おらぁ!」

 

「全員ブチ殺せ!」

 

バタバタとギャングスタクリップをなぎ倒していく。

さすがは武闘派で名を馳せたセットだ。

かなりケンカ慣れしてるようで、彼等は一気に二、三人ほどのギャングスタクリップを相手にしながら戦っていた。

 

「すごいな、アイツら。頼もしいよ」

 

俺は横にいるガイの方を向いて言った。

 

「サム!!あぶねぇ!」

 

だがガイは返事をせずにそう叫び、俺を強く突き飛ばした。


ガン!

 

「ぐぁぁ!」

 

ガイが叫びを上げた。

俺を突き飛ばしたせいで、かわりに敵からの攻撃を受けてしまったのだ。

 

「ガイ!!」

 

奴はギャングスタクリップからバットで肩を強く殴られて、ゆっくりと倒れ込んだ。

 

「クソっ!!」

 

俺はさらにバットを振り上げてガイにとどめをさそうとしているギャングスタクリップに駆け寄った。

デンと太った腹が目立つ大男だ。

 

「死ね!ブラッズ!」

 

「させるか!」

 

俺は走る勢いを目一杯利用して、回し蹴りを繰り出した。

 

バコッ!

 

「なにっ!」

 

見事にギャングスタクリップのメンバーの腕にヒットして、奴の手のバットをはじき飛ばした。

すさかず、顔にパンチを叩き込む。

 

「おらぁ!食らえ!」

 

「くそっ!お前…OG-Bだな…!」

 

だがこれは、奴の太い腕がガードした。

奴が反撃に出る。

 

「リーダーの首は俺がもらったぁ!死ねぇ!」

 

まずい。なんと奴は腰から銃を抜いて俺に向けてきたのだった。


ドォン!

 

一発の重たい銃声が俺のすぐ側で鳴った。

がくりと膝をつき、その大男が腹から血を噴き出してどっと倒れる。

奴の銃が火を吹く前に、倒れ込んだままの状態からガイが自分の持っていた大口径の拳銃を撃ち放ったのだ。

間一髪。俺は一度に二回も同じ仲間から命を守られた事になる。

 

「ぐ…」

 

肩を殴られていたガイは、発砲の反動だけで痛みを感じている様子だった。

銃を地面に手放し、その場で肩を押さえながら悶えている。

 

「ガイ!しっかりしろ!」

 

俺はすぐさまガイに駆け寄って肩を貸した。

もちろんケガをしていない方の肩に手を当てる形でだ。

 

「ガイ、すまねぇ。俺のせいだ…

お前は一度俺を止めたのによ…何てバカなんだ俺は!」

 

自分に腹が立ち、ついつい大声になる。

 

「だ…大丈夫だ。気にするな、B。別に俺は死んじゃいないんだし、まだ戦える」

 

ガイはそう答えたが、額にはじっとりと冷や汗をかいていた。

恐らく骨が折れているか、ひびが入っているに違いない。

 

「ダメだ。一度クレンショウに戻ったほうがイイ」

 

「大丈夫だと言ってるだろ!」

 

ガイは乱暴に俺の手をふりほどいた。


マークが少し離れた所で敵を吹き飛ばしている。

そのすぐ側にはコリーの姿があった。

シャドウとライダーの姿は見えないが、奮戦していることだろう。

 

この時にはすでに敵、味方共にほとんど銃を使っている人間はいなかった。

ここまで入り乱れてしまっては相当な近距離でない限り、誰に当たるか分からないからだ。

 

「かなりこっちが押してるみたいだな?」

 

ガイが言った。

 

「あぁ。このままいけば…勝てる」

 

俺達ギャングスタチームは敵をどんどん倒しながら確実にクレイの元に近付いていた。

 

ガイをクレンショウに戻す事はできないとしても、これ以上戦わせるわけにはいかない。

 

俺はあえて前へは進まず、その場から見守る事にした。

俺が出れば必ずガイもついてくるに違いないからだ。

 

「見ろよ。ギャングスタクリップの奴等、逃げてくぜ」

 

俺は言った。

バラバラと敵が林の中へ逃げ始めたのだ。

 

「なに…?少し早すぎやしないか?何だか不自然だな」

 

ガイが言う。

確かに押されているとはいえ、まだ奴等にはかなりの人数が残っていたのだ。


俺にも多少の不安はあったが、敵が逃げ始めた事で仲間はこれまで以上に勢いよく進んでいった。

 

そしてついに…

 

「サム!!クレイを取り返したぞ!!」

 

廃墟から声が上がった。

ライダーだ。片手にクレイを抱き抱えて、もう片方の腕を真直ぐ天に伸ばしている。

その手にはB.K.Bのハンドサインが力強く掲げられていた。

 

ライダーの言葉に、うぉぉ!とみんなから歓声が上がった。

それを聞いたギャングスタクリップ達は倒れている人間以外、全員が廃墟をグルリと囲んだ林の中へバラバラになって逃げていった。

 

「よし!まずは俺達の勝利だ!行こうぜ、ホーミー」

 

俺が言った。

ガイと共にクレイの元へと歩いていく。

ライダーが口のテープをはがし、縄をほどいている。

 

「クレイ…!大丈夫か!?助けに来たぞ」

 

ライダーがそう言いながらクレイの体を揺すったが、まったく反応がなかった。

 

「クレイ!おい、クレイ!俺だ!分かるか!?」

 

今度は俺が呼び掛けたが、やはり反応はない。

喜びも束の間、周りにいるみんなの顔色が曇った。


「ん…サム…?何で?」

 

「クレイ!」

 

クレイが目を開き、言葉を発した。

 

「一瞬、死んでるかと思ったぞ!よかった…!」

 

俺はかがんで、クレイを力いっぱいに抱き締めた。

みんなからも「よかったな」といった声が上がっている。

 

「ほら、大事な靴だ」

 

俺がクレイを放すと、近くにいたブラックホールがオールスターを彼に履かせた。

少し前にランドからのメモつきで俺達に贈られたあの靴だ。ブラックホールが預かっていたらしい。

 

「え…?ありがとう、ブラックホール」

 

クレイがコリーに礼を言うと、奴はクレイの頭をくしゃくしゃに撫でた。

 

 

「…ところで、クレイ。どうして捕まってたんだ?」

 

しばらくして俺はきいた。

 

「僕は…誰かに捕まってたの?

うーん…全然分かんない。覚えてないなぁ。

お友達と公園で遊んで、家に帰る途中までは覚えてるんだけど…いきなり目の前が真っ暗になっちゃったんだ」

 

クレイはそこで言葉を切った。

ケガはしていないようなので、さらう時に口に睡眠薬をあてられたとかそんなところだろう。

なぜ、今の今まで気を失っていたのかはよく分からなかったが、とにかく無事でよかった。


「なにがなんだか分からないけど…心配かけてごめんね、サム」

 

クレイがもごもごと、聞き取りづらい程のか細い声を出した。

 

「何言ってるんだ。『悪者』との戦いに巻き込んでしまった俺達が悪いんだよ。

クレイ、ママ達がきっと心配してる。早く家に帰らなきゃいけないな」

 

そう言って、俺はクレイを抱っこした。

 

「うん。すごくお腹が空いた…」

 

「あはは!そりゃそうだろ!

よし…ブラックホール。頼めるか?」

 

俺はブラックホールにクレイを家まで送り届ける指示を出した。

 

「もちろんだ。さぁ、クレイ!俺と帰るぞ!」

 

コリーは俺の腕からクレイを受け取ると、ネオンの方に歩いていった。

 

「そうだ!何か食べて帰ろうか!何がいい?」

 

段々と離れていく二人の背中を俺達は見送った。

ブラックホールが話し掛けていたが、クレイは返事をしていない。

 

その代わり、大声で泣いているのが分かった。ブラックホールは必死にメシの話を続けている。

 

みんなの前では涙を見せなかったが、やはり怖かったのだろう。

人質として誘拐されたという事実は、小さな子に恐怖を与えるのには充分すぎた。

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