first big bangin
戦う…俺達の地元を、家族を、仲間を、そしてクレイの誇りを守る為に。
俺達はその日から新しいアジトを探し回った。全員で町中をくまなく探し回ったがなかなか見つからない。
仕方がないので、その日は五対六に別れてマークの家とウィザードの家に泊まる事になった。
明日は朝から再びアジト探しだ。
俺はマークとスノウマン、クリック、そしてジャックと一緒に五人でマークの部屋にいた。他の連中はみんなウィザードの家に泊まりに行っている。
「なかなかイイ場所はないもんだな…まだ町の半分も見て回れてないぞ」
マークがぶっきらぼうにタバコに火をつけて、缶ビールを飲んでいる。
「そうだね~!なかなか見つからないね~!あはは~!」
クリックはいつものようにクロニックをスパスパ吸っている。ハイになっているようだ。
「くせぇ!クリック!こっちに煙を吐くなよバカヤロー!」
ジャックがイライラしながら叫んだ。
ジャックは俺達の仲間ウチで一番短気だ。悪い奴ではないが口は一番悪い。
おまけに体中タトゥーだらけのマッチョマンで、見た目だけで判断する奴なら「俺達の中で筋金入りのギャングスタは誰だ」と言う質問をすれば間違いなくジャックだと答えるだろう。
しかし腕や脚、腹や胸がタトゥーだらけでド派手なジャックも、背中にだけは「R.I.P.Kray」の文字以外は何も入れていない。
理由を聞くと
「これから死んでいく仲間がいるかもしれねぇ。そしたらソイツらの名前を全員俺は背中にしょって、ソイツらの分も生きていくんだよ、サム」
と答えてくれた。
俺はその話を聞いた時、あまりの感動に嬉し泣きしてしまった。
すると今度は
「泣く奴は男じゃねぇなんて言う奴がいるが、俺は泣きたい時に泣けねえ奴の方が男じゃねぇと思うぜサム。俺はてめぇのそうゆう、感情を押し殺さねえとこが大好きだぜ」
と言ってニカッと白い歯を見せて笑ったのだ。
これを悪い奴だと捉えられようか。
ジャックは俺達の仲間ウチで唯一、酒もタバコもやらない。もちろんクロニックも嫌いだ。
奴は常に自分自身の肉体の事を考えて日々筋トレに励んでいる。
当然体に悪い事はしないわけだ。
やりあった事はないだろうが、マークやスノウマンとケンカは同じくらい強いに違いないだろう。
おまけにこのタトゥーだらけの鍛えあげられた体だ。その辺の悪ガキなら一瞬で逃げ出してしまう。
マリファナ中毒で夜にやたらと弱いクリックが眠りにつき、四人での雑談が始まった。
「やっと寝たか、このクロニックバカは!服に臭いが染み付いちまうぜ」
早速ジャックが悪態をついている。
スノウマンとマークが二人でガハハと笑った。
今思えば、この時に集まっていた五人が事実上B.K.Bでケンカ最強の五人だった。
クリックも腕力がイマイチで、頭はバカな感じはあっても銃の撃ち方には独特なセンスと才能を持っていた。
「まあまあ、クリックはほっといて、景気づけに一杯やろうぜ、ホーミー」
マークが酒を飲まないジャックの為にもコーラを持ってきてくれて、小規模な四人での宴会となった。
室内にはギャングスタラップが心地よく流れて、みんなは上機嫌だった。
「おい、スノウマン!そういえばその服どこで買ったんだよ!」
マークがスノウマンの赤と黒のチェック柄のシャツを指して言った。
「さぁ?分からねえが弟が俺の15の誕生日に買ってきてくれたんだよ」
「ドッグ、イケてるじゃねぇかお前の弟!」
ジャックも話にのってくる。
「おうよ。何せ『ウチの兄ちゃんはB.K.Bのメンバーだ!ギャングスタなんだ!』って小学校で言い触らしてるらしくてよ。可愛いもんだぜ」
「そうか!デカくなったら仲間に入れてやらないとな!」
俺がスノウマンの肩を叩いて言う。
もちろんこれは本気で言ったわけでは無い。
「冗談じゃねぇぜ、ニガー!弟をこんな危ない所に置いておけるかよ!でも本人にそれを伝えたら大喜びだろうな」
スノウマンはまた大声で笑った。
そして、ごそごそとケツのポケットから家族の写真を出して見せてくれた。
「いつ見ても可愛いな。お前の弟はよ」
マークが言った。
俺達は全員地元が同じなおかげでメンバー内の家族とは、ほとんど顔見知りだ。
全員の家の場所と家族の顔をみんな把握している。
「あんまり可愛いからってカマ掘るなよマーク!」
「よう、ホーミー!俺は別にゲイじゃねぇぞ!」
また大きな笑いが起きる。
「そろそろ寝ようぜ。明日も早い」
俺の言葉でようやく四人は眠りについた。
…
次の日の朝、俺達五人が仕度を済ませると、赤いバンダナで口を覆ったウィザード達が車二台で迎えにきていた。
「おはよーさん!迎えに来たぜ」
俺達は車に乗り込んだ。
俺とスノウマンはウィザードのポンコツなシビックに乗り、マークとクリック、ジャックはもう一台のアストロに乗る。運転はコリーがしているようだ。
コリーが運転しているのを見て、多分アストロは盗んできた車だろうなと思った。
シビックの後部座席に俺達二人が座ると、ウィザードは車を出した。助手席にはシャドウがいる。
「おい、ニガー。どこに向かってるんだ?」
「さぁなぁ、適当にブラブラ…おっと、着いたぜ」
シビックとアストロが周りをフェンスで囲まれた場所に入っていく。
車の残骸や廃タイヤがつまれているので、おそらくスクラップ置き場だ。
そこにはジミーとガイが立っていた。
「通行書を見せろ!」
わけの分からない事を言われ、俺はとっさにハンドサインを出した。
ジミーがプッと吹き出し笑いをして
「ようこそ、ホーミー達」
とハンドサインを出した。
俺達は車から降りて、十一人全員で歩きだす。
ジミーが「こっちだこっちだ」と、みんなを誘導する。
そこは、現在は使われていないスクラップ置き場だった。
土地の広さはけっこうなものだ。
その広大な土地のほとんどは車の残骸や廃タイヤだらけで、かなり入り組んでいた。
…
ようやく中心部にたどり着くと、そこには詰所として使われていたらしい小屋があった。
小屋と行っても二部屋くらいはありそうな大きさだ。
すぐ横にはフォークリフトやダンプ、クレーンなどの保管に使われていたらしい大きなシャッターつきのガレージがあった。普通車ならば軽く七、八台くらいは入るに違いない。
だが今は作業用車は一台もなくガランとしていた。
よく見るとなぜかライダーの愛車のカワサキが一台、停めてある。
「すげえ!こんなとこ見つけたのか!」
俺は叫んだ。マークの部屋に泊まっていた俺達五人組は次々に感嘆の声を上げる。
残りのウィザードの家に行っていた六人組は、全員ニヤニヤしながら俺達の反応を見ていた。
「実はな、ニガー。俺達昨日の夜、ずっと探し回ってたんだよ。どうしても早く落ち着けるアジトが欲しくてな。でもなかなか見つからなくて断念しかけてた。
ライダーだけはバイクで別行動をとってたんだが、偶然ここを見つけてすぐに俺達に合流したんだ。そんで朝までに小屋とガレージの掃除をしてお前達を驚かせようって事になったんだ」
ウィザードは意気揚々と経緯を話してくれた。
俺達が酒を飲んだり寝たりしてる間に奴等はここまで仕上げてくれたのだ。
「近くの子供から聞いた話じゃ三年くらい使われてないらしいぜ、サム!ちなみに当然電気は使えなかったけど、俺が一番近くの家の外についてる配線から引っ張って来たぜー!
庭にある外灯用の線だったみたいだからおそらく当分はバレる事はないさ!」
ジミーが嬉しそうに説明している。
「部屋のガラスが二枚割れてたからあっちにあるボロな酒屋の便所ガラスを窓枠ごとかっぱらってきたぜ。もちろんサイズはあってる。ついでに店内のビールもちょうだいしてきた」
シャドウが小屋に三か所ある窓を指差して言った。
「俺は何にも出来ないけど窓やら酒やら運ぶ為に車を一台いただいてきた。あと片付けの時に出たゴミも運んだよ」
コリーがぼそぼそと言った。
「何言ってんだコリー、お前はよく働いたぞ。ライダーはここを見つけた張本人な上にガレージの片付けまでやってたしな。何にもしてないのは俺だけだ」
ガイが言った。
しかしウィザード達が口々に「なにいってんだガイ」とぼやいている。
「ガイはずっと見張りに立ってくれてたんだ。
作業中に一度、パトカーがフェンスの前を通りかかったんだよ。中まで入っては来なかったからこの小屋の方は見えてなかったが、俺達は気付かずに騒がしく作業を続けていた。
すぐにガイがそれを伝えてくれた。あのまま騒いでたら確実に不法侵入がバレてたな」
ウィザードが言ったがガイは、見張りくらい誰にでもできるだろうと言って首をふっている。
何にしろ、奴等は見事なチームワークと手際で俺達のアジトを完成させてくれたのだ。
俺はガイ達みんなに感謝した。
…
俺達は乗ってきた二台の車をガレージに入れて早速小屋に入った。
十一人が一部屋に入ると多少窮屈だったが、もう一部屋あるので、別れてくつろげばイイだろう。
十一人が集まっている部屋には四人くらい座れるソファが二つと四角いテーブルが一つ。そして小さなテレビが部屋の角の天井ちかくにあるだけだ。テレビは動くのかとジミーにきくと「もちろん」と返ってきた。
もう一部屋も似たような感じで、違いはテレビがなく、代わりにテーブルの上に電池式のラジカセが置いてあることくらいだ。
難点はいくつかあったが、一番困るのはソファが四つしかないので四人しか横になって寝れない事だった。
あとでホームセンターに四、五枚のハンモックを買いに行く事にした。
「そんなことは全部後にして、飲もうぜ、ホーミー!」
ブライズが盗んできたビールをたくさん裏から持ってきた。
俺が音頭をとる。
「アジトに!」
みんなが次々に「アジトに!」と叫び、缶や瓶がぶつかり合う。
朝っぱらから俺達のアジト完成の祝杯が上がった。
ひとしきり飲むと、ウィザード達六人組の方は、一晩中働いたせいで眠気がピークにきていたらしく、みんな床やソファで眠ってしまった。
マークの家に泊まった俺達五人はハンモックなどを買いに行くためにウィザード達を残してアストロに乗り込んだ。
運転は俺だ。
ホームセンターに着くと、みんなでハンモックや釘、服をかけるハンガー、ビールを冷やす為の小型の冷蔵庫などを買った。
「これでとりあえずはアジトで寝泊りできるな」
レジを通し、手分けしてアストロへ積み込む。
…
アジトへ戻る途中の道のりで助手席からマークが叫んだ。
「ヘイ、ニガー!クリップスだ!またタグを書き替えてやがる!」
俺が見ると、俺達のタグを青いスプレーで書き消しているクリップスの三人組がいた。
近くに車が止まっていて、その中にも一人いる。
「クソが!ブッ殺せ!」
俺は車を奴等の真横に止めて叫んだ。
「おらぁ!」
マークとスノウマン、そしてジャックが車から飛び出した。
まずマークが車に待機していた一人を車から引きずり下ろして殴り倒した。
スノウマンとジャックはスプレーを持っている三人の中に突っ込んで揉み合いになっている。
俺は後部座席からバットを探して見つけると、ようやくアストロから降りた。
クリックはクロニックでキマッていたらしく、もたもたしている。
マークが運転手一人を倒したのでスノウマン達の所へ加勢に入った。
俺も加わり、すかさずバットで一人の頭を殴ってやった。
奴は当然崩れ落ちる。その時だ。
パアン!
渇いた音がして、俺の右腕に激痛が走った。
残りの二人のウチの一人が俺を撃ちやがったのだ。
「サム!おい、マーク!サムが撃たれた!」
スノウマンが駆け寄ってくる。
パアン!パアン!パアン!
また銃声がした。
すると、残っていたクリップス二人が倒れた。
いつの間にか車から出てきていたクリックが奴等の腹を撃ち抜いたのだ。
どうやらマリファナでキマッた頭でも、敵の発砲音と仲間が撃たれた怒りは感じるらしい。
「くたばれや~、クリップスのマザーファッカーどもが~!」
「さっさとずらかるぞ!ついに殺しちまった!」
スノウマンが叫びながら俺を担いで車に飛び込んだ。
続いてマークが運転席に座り、ジャックも隣りに乗る。
「クリック!ぐずぐずすんな!」
マークが怒号を上げると撃ち殺した二人をじっと見下ろしていたクリックはハッとなり、すぐに車に乗った。
アストロはタイヤを鳴かせて発進する。
クリックが撃った二人と、俺がバットで頭の骨を砕いた奴はもちろん死んでいたし、マークが車から引きずり下ろしてボコボコにした奴も、アスファルトの地面に何回も叩きつけられて、頭からかなりの出血があったので、死んでいたに違いない。
どこかでサイレンが唸っている。
俺達はアジトに直行した。
「おい!誰か度数の高い酒を持って来い!サムの傷口にかけるんだ!」
スノウマンが担いで俺をソファに寝せてくれて、叫んでいる。
マークがテキーラを持ってきて、俺の腕に吹き付けた。
「ぐぁぁ!いてぇ!」
俺は気を失いそうだった。
さらにマークは酒を吹き付けて、傷口を見ている。
「サム!頑張れ!弾を抜き取るぞ!」
俺は冗談じゃないぜ、と思ってなぜか笑いが出てきた。
すぐに騒ぎをききつけた六人も飛び起きてきた。
「どうしたんだ?」
ライダーがきいたが、誰も答えないので、自ら近寄ってくる。
そして俺の様子を見るなり「マジかよ!」と叫んだ。
他に起きてきた奴等も口々に騒ぎだす。
「誰かピンセットを持って来い!それからガーゼだ!血が止まらねえ!」
スノウマンが指示を出している。
すぐにライダーが「俺が近くのドラッグストアで全部揃えてくる!」と言ってバイクで飛び出して行った。
マークはTシャツを破り、俺の傷口よりも高いところを縛って止血しようとしている。
他のみんなは俺に励ましの言葉をかけてくれた。
「サム!頑張れ!」
「死にやしねぇよ!」
「俺達がついてる!」
「ニガー!しっかりしろ!」
その一つ一つが心に染みた。
痛みはもう感じないくらい頭がぼーっとしてきた。
俺はついに気を失った。
…
俺が目を覚ましたのは腕の激痛からだった。
「ぐ…!!」
「おぉ、サム!気がついたか!」
コリーが俺の顔を覗き見ている。
俺はアジトのソファに寝かされているようだった。
「弾はウィザードが取り出したよ。傷口がまだ痛むだろうけど、ライダーが買ってきた薬と包帯でとりあえず処置は施した。あんまり腕は使うなよ。何かほしけりゃ持ってきてやるから」
コリーは優しく声をかけてくれ、そして水の入ったコップを差し出して飲ませてくれた。
確かに俺は喉がカラカラだったので、一気にそれを飲み干す。
「それから傷の痛みで熱が出たり頭が痛くなったりするかもしれないらしいよ。もしそう感じた時はすぐに呼んでくれ」
そう言うとコリーは対面にあるソファにどかっと座ってタバコに火をつけ、テレビの電源を入れた。
バスケの試合が放送されている。
「おいおい!またレイカーズは負けてんのかよ!」
ブツブツと試合内容に文句をたれている。
「みんなは?」
「…ん?みんなは兵隊を集めるとか言って出て行ったよ」
俺は飛び起きた。
「なんだって!?」
「サム!落ち着け!何も今日の今日に戦争するわけじゃないんだ!
話によるとお前達は四人も殺したらしいじゃないか?いよいよ奴等も本腰入れて攻め込んでくるかもしれない。
シャドウの闇情報によると、隣り街のクリップスの構成員数は50~60人。全員で来る事はないだろうけど、どう考えても分が悪い。
そんで地元の若い奴等で俺達の仲間になりたい奴に手分けしてみんなで声かけて回ってるんだよ」
確かにB.K.Bは結成してから数年、「入れてくれ」と声をかけてくる奴らは、実は両手で数えられない程いたのだ。
「そんでギャング式の手荒な歓迎に耐えれた奴だけを引き抜くってマークが言ってたよ」
ギャング式の手荒な歓迎とは…仲間に入りたい奴をみんなで数分間殺さない程度にボコボコに殴る。
もちろん一人対数人だが、それでも立ち上がってきた奴はその瞬間から仲間となり、全員から祝福のハグを受けて、そのまま背中にタトゥーを入れる、というものだ。
俺達十一人は結成当時からのメンバーなので、ギャング式の手荒な歓迎で仲間を入れるのは初めての事だ。
しばらくするとコリーは「バーガーキングで何か買ってくる」と出ていった。
車が遠ざかって行く音が聞こえる。
腕の痛みは多少マシになっていたので気晴らしになればと思って俺は一人でアジトの敷地内をゆっくり散歩することにした。
車とタイヤがつまれて本当に迷路のようだ。ギャングメンバーですら道を間違えてしまう事がある。
非常にバレにくく、また守りやすい地形になっている。
いろんなガラクタがそこら中に転がっているので、バリケードもすぐに作れるし、道をきちんと覚えてさえしまえば逃げ道は何通りもある。
警察だろうがクリップスだろうが、このアジトに一歩踏み込めば俺達と対等にやりあうのは難しいはずだ。
…
二十分ほどすると、コリーがメシを買って帰ってきたので、俺は部屋に戻った。
「サム!早くケガ治るようにたくさん食えよ!」
満面の笑みでビッグサイズのハンバーガーを渡してくれる。
俺は左手でバーガーを持って食らいついた。
意外と食欲はある。この調子ならすぐにケガなんて治ってしまうだろうと思った。
再びコリーはテレビの電源を入れた。
今度はMLBの試合を見ている。
応援しているのはもちろんドジャースだ。
「おしっ!いいぞやっちまえ!」
コリーは俺達の仲間内でも特に、地元の三大チームを応援する熱狂的スポーツファンだ。
MLBはロサンゼルス・ドジャース。
NBAはロサンゼルス・レイカーズ。
NFLはオークランド・レイダース。
昔から車をイジる以外の時間、暇さえあればテレビにかじりついて応援していた。
やたらとチームや選手に詳しく、ベンチ入りの奴等の名前や特徴まで覚えているくらいだ。
「ゴキゲンだな、ニガー。勝ってるのか?」
「あぁ!この試合はもらったぜ!」
コリーははしゃいで机をバンバン叩いている。
ビールを冷蔵庫から取ってきて飲み始めた。
「そういや、みんなはいつ帰ってくるんだ?」
「みんなバラバラだから、一緒には帰ってこないけど、夕方までにはおそらく全員帰ってくると思うよ」
コリーは缶をつぶしてクズかごに投げ入れた。
…
夕方。十一人のメンバー全員と共に、見慣れない顔が六つあった。
初日にして新メンバー大量収穫だったようだ。六人とも顔は腫れ上がっているが、みんなイイ目をしている。
「コイツらは全員、地元と、その地元を余所者から荒らされるのを守るB.K.Bに誇りを持って力になると誓ってくれた。そして見事に手荒な歓迎に耐え抜いた」
マークが腕組みをしたまま言った。
「リーダーに合わせるのは当然だと思ってそのまま連れてきた。気に入らないなら拒否してくれて構わねぇぜ」
ウィザードがどっかりとソファに座って言った。
俺は六人を一人一人見回した。みんな若い。十四、五歳くらいだろう。
「ジャック、始めろ」
「あいよ、ホーミー」
ジャックは新入りども全員の上着を脱がした。
後ろを向かせ、一人一人にタトゥーをいれ始める。
見事な手際で一人一人に作業が完了した。
新入りは彫られている間も誰一人顔色を変えなかった。
『B.K.B 4 life』
新入りの背中にはそう刻まれた。
俺達初期メンバーの
『R.I.P.Kray』とは、あえて差別化をはかった。
「ようこそB.K.Bへ、ホーミー達」
俺はニヤリと笑った。
メンバーが全部で十七人になった。
俺は大所帯を抱え込む事になってしまったわけだ。
前にも増して資金がかかるので、ウィザードに相談することにした。
…
ウィザードの部屋のイスに俺達二人は座っていた。
アジトは基本的に出入りは自由だ。しかし必ず一人か二人はアジトに常に待機するというルールになっている。
確かスノウマンと新入り二人がアジトにいたはずだ。
…
俺は話を切り出した。
「このままじゃ金が足りない。何か良い方法はないか?」
「ブツの仕入れの数は増やせない。理由は言えないが、上手く高い値段で売りさばいていく他は無いぜ」
そしてウィザードはクロニックに火を点して言った。
「俺達にもきちんとしたハスラーが必要だな」
ハスラーとは、戦闘にはほとんど参加せず、主に『売り、仕入れ』などのクスリや武器、女の取引を専門的に行うギャングスタの事だ。
逆にケンカ専門の戦闘要員はウォーリアーという。
大きなギャング集団になると、必ずウォーリアーとハスラーにきちんと役割分担されているものだ。
「もう、一人一人にブツを渡して小遣い稼ぎさせてる場合じゃねぇって事だな」
「仕入れは一括して今まで通り俺が一人でやる。混乱が生じる危険性があるからな。それを売りさばく奴を、全員じゃなくて何人かに絞るんだ」
ウィザードが火を消して言った。
「つまり俺達の仲間をウォーリアーとハスラーに分けるんだな?」
「そうだ。十七人を養う為には、俺を含めてハスラーが四人か五人は欲しい。いちおう、俺が考えたハスラー向きの奴等のリストを渡しておく」
「分かった。B.K.Bの為だ。みんなで話し合おう」
俺はメモを受け取ると、ウィザードの部屋の窓から何気なく外をながめた。
丸い月が出ている。
「ハスラーは頭のキレる奴にしか務まらないぜ、サム」
「あぁ、分かってる…ん?」
前の通りを走っていく四台のバンやトラックの中に、青い服を着た奴等が何人も乗っているのが見えた。
口にはペイズリー柄の青バンダナ。
手には…銃。
ゆっくり通りすぎていく。
「…!!ウィザード!クリップスの奴等が報復にきやがった!全員アジトに集合させろ!
赤い物はアジトに着くまで身に付けるな!殺られるぞ!」
「なに!?分かった!」
その返事が聞こえるよりも早く、俺は部屋を飛び出していた。
右腕はもうほとんど痛まない。
俺は落ちていた自転車に乗り、アジトへと急いだ。
バラバラと静かにアジトへと集まり、俺達十七人は無事に顔を合わせた。
「みんないるな?奴等はどうやら俺達のアジトの場所を知らないようだ。ここに来ない事からして、まだ街をうろついてるらしい」
俺はひそひそと諭すように話した。
みんなは静かに聞いている。いつもの陽気で騒がしい俺の仲間達とは思えないほどピリピリしている。
全員口を真っ赤なバンダナで隠し、右腰のベルトにはもちろん赤色のバンダナをぶら下げている。
「作戦を考えよう。奴等は車が四台、おそらく人数は二十人以下だ。俺が見た時は四台で揃って行動していた」
「ニガー、俺がさっきアジトに向かう途中に見た時も四台だったぞ」
ガイが言った。
「そうか。じゃあ多分今も四台で動いてるはずだな…」
「全員で行動しよう。奴等も全員で動いてる」
またガイが言った。
「サム、俺達は常に狭い道を使った方がいい。どこで奴等と出くわしても、先頭車両を集中攻撃しちまえば動きを止めれるからな。
それにこの街の裏道は俺達の庭みたいなもんだ。逃げ隠れするのに問題はないだろ」
ガイの作戦に全員了承した。
…
作戦通り、俺達は全員で裏路地を歩いていた。
先頭は腕利きのクリック。
車はほとんど通らない。だが、俺達を探している人間がもしいたら絶対通るという確信があった。
みんなの手には拳銃。
ウィザードだけは新しく仕入れたらしいAK-47を構えている。コイツは威力があるので活躍しそうだ。
…
誰一人しゃべらない。
これが俺達の初めて経験するデカい戦争になることが誰の目にも明らかだったからだ。
新入りどもはいきなりの大仕事でさぞかし驚いたことだろう。
その時、前に車のライトが小さく見えた。
みんなが銃を構えて、一気に緊張が走る。
「…誰だ。クリップスか…?」
誰かがつぶやく。
だんだん車が近付いて俺達に向かってくる。
チラッと見えたが、後ろにも何台かいるようだ。数は…
四台。
「きやがった!みんな撃て~!!」
クリックが叫んだ。
パアン!パアン!パアン!
という俺達の銃声の轟音が起きる。
すぐに奴等も車を停め、ドアを盾に反撃してきた。
しかし後ろの三台は予想通り、思うように攻撃に参加できずに困っているようだ。
銃撃戦はかなり激しいものだったが、俺達が早めに仕掛けたせいで互いの距離はかなりあった。
「クソ!なかなかこの距離じゃ当たらねえよ~!」
クリックが物陰でマガジンを交換しながら嘆いている。
その時。
タタタン!タタタタン!
ウィザードのAK-47がソロで唸った。パリンパリンと音をたて、奴等の車のヘッドライトが割れたのが分かる。
さすがにアサルトライフルはすごい命中精度だ。
すると奴等は怖じ気付いたのか、車をバックさせて逃げ始めた。
「逃がすな!ブッ殺せ」
マークが叫び、追い討ちをかけようとしたが、奴等は猛スピードで逃げ去った。
奴等を追い返した喜びで、俺達の「B.K.B!」という叫び声が響く。それと同時に赤と青の回転灯がいくつか見えた。
「やべぇ!みんなバラバラに散れ!」
俺が叫ぶ。
そう。L.A.P.D.(ロサンゼルス警察)のお出ましだ。
クリップスは俺達の攻撃で逃げたのでは無かったのだ。
「全員動くな!」
拡声器からそう聞こえた時には、俺達はすでに夜の闇に消えていた。