SooWoo!
ブラッズ。
すべてを赤く染め上げる者達。
「こんなに集まってくれたのか」
思わず俺の口からそうこぼれる。
二百人…いや三百人かとも思える数のギャングスタ達が、可哀相なくらい狭い敷地内に押し込められているのだ。
これだけのギャングスタが集まっていても警察が動いていないのは、通報が一つも入っていないせいだろう。
さすがコンプトンのゲットーエリアだ。地域住民も肝が座っている。
それとも、ランドが最終決着に向けてわざと邪魔者が入らないようにコンプトン警察に手を回しているのだろうか。
協力者を集めている間にも、ランドの主力であるサウスセントラルのギャングスタクリップから直接の迫害は無かった。
奴がリルクレイをさらって俺達にケンカを仕掛けてきた以上、B.K.Bの動きには細心の注意を払っているはず。
わざわざ俺達が人数を集めて、力をつけるのを見すごすとは考えにくかったが…
あの変態ヤロウの事だ、俺達が必死になっている姿を見て笑っているのかもしれない。
もしそれが真実なら、ランドには相当の力と策があるということだ。
この時、俺は自分の勝手な考えで、一人で勝手にイライラしてしまっていた。
「サム!」
「うわっ!」
シャドウが突然がっしりと肩を組んできたので俺は驚いた。
かなり興奮している様子だ。
「なんだよいきなり!どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもあるか!何でそんなに冷静でいられるんだよ!みんなもテンション上がってるぜ」
シャドウはギャング達を指差して言った。
確かにB.K.Bのメンバー以外はどいつもこいつもなぜだか所々で騒いでいる。俺は決戦前に浮かれる事がイイとは思えなかったが。
「メンツがすげぇのさ!みんな互いのセット同士の力は分かりきってるから、一緒にケンカができるとなると楽しみでしょうがねぇんだよ!
見ろよ。イースト・コンプトン・ブラッド、ホーリー・フッド、ネイバー・フッド・パイル、151ブラッズ!
さらにイーストとウェストサイドパイルが両方きてる!」
「そりゃすげぇな」
みんな赤い格好だし、この時の俺には全くちんぷんかんぷんだったが、奴の様子からしてすごいセット達なのだろう。
「すげぇのさ!お前は大変な事をやらかしちまったぜ、ニガー!」
シャドウはバンバンと俺の背中を叩いた。
「トゥリー・トップのブラッズも来てるな」
俺は辛うじて確認できたセットの名前を言った。
「あぁ!ジミーがここにいたらどれだけ興奮したか分からねぇな!」
「お前も充分興奮してるじゃねぇか」
「うるせぇ!」
トゥリー・トップはDJ-QuikやHi-Cなどの有名ラッパーを多く出した名門セットで、ブラッズ出身のラッパー達の先駆けとなったセットなのだ。それくらいは俺も知っていた。
ジミーはしきりに「トゥリー・トップに行ってみたい」と口にしていたようだ。
「おい、B。見ろ…ビショップだ」
ずっと騒いでいたシャドウが声のトーンを落として言った。
「ビショップ!?嘘だろ!?」
俺はシャドウの目線を追った。
…
四人だけだったが、確かにそこには彼等がいた。
「すげぇ…」
さすがに俺も驚き、そして圧倒された。
彼等の腕にセット名が刻まれている…
『ビショップ(Bishop)』
五大ブラッズの一つ。
他の四つのセットと共に『ブラッズギャング』を造り上げた偉大なるセット。
俺ごときの呼び掛けで彼等が動くなどと、誰が予想できただろうか。
俺は震えが止まらなくなった。
俺達の視線に気付いたらしく、なんと彼等四人はこちらへ近付いてきた。
「よう。調子はどうだ、ブラザー?」
一人のOGが言った。
歳は三十半ばくらいだろう。黒いコンバースに赤色のファットな靴紐。上下グレー色のベン・デビィス、大きくゴツい金のチェーンネックレス。頭は赤いバンダナで覆い、前結びしている。
これが最初のブラッズ達なのか…俺はそう思った。
他の三人もすべて作業着に身を包み、ビショップのハンドサインを出しながら「soowoo!」「bloood!」と口々に言っている。
どちらもブラッズ共通の掛け声だ。
彼等は特に威圧的だったわけでもなく、どちらかといえば気楽に声を掛けてくれた感じだった。
「決戦前で不安は色々あるが、調子はイイよ。それよりアンタ達を見て驚いてたところさ」
俺は苦笑いしながらそう答えた。
「OG-B…話はきいた事があったが、思ったより若いな」
「あぁ。しかしよくきてくれたな、ビショップ。歓迎するよ」
俺達はがっしりと握手をした。




