ganxta team
一つの力には一つの力を。
頼りとしていたコンプトン・マフィア・クリップが協力してくれないとなると、俺達の同志集めが難航する事は目に見えていた。
シャドウの情報量を持ってしても、ランド率いるギャングスタクリップの総数は計り知れないらしいので協力者は何人いても多すぎる事などなく、むしろそれでも全然足りないくらいの状況だった。
「さて、どうしようか」
シャドウが大きなあくびをして俺にきいてきた。
後ろからはギャングスタクリップのメンバーが黙ってついてきている。
「ガイやライダーみたいに行き当たりばったりで押しかけてみるか?
案外上手くいくかもしれないぜ、サム」
俺が返事をしないので、そのままシャドウが言った。
コンプトン市内でツテがあるのはマフィアクリップだけだった。
俺達が彼等の元へと向かったので、仕方なくガイやライダーは他の見知らぬセットへ行っているのだ。
他の古株のギャングスタクリップのメンバー達も同様だが、彼等は『ギャングスタクリップ』であるという事実から、コンプトンのギャング達を説得するのはかなり難しいのではと俺は感じていた。
「なぁ、サム。黙ってないで何とか言えよ?どうするんだよ」
「うるせぇなぁ…俺だって今考えてるんだよ」
時間がない。早くしなければ。
俺の頭の中ではその事がグルグルと回っていた。
「そうなのか?それよりマーク達は武器の調達、上手くやってくれてるかな」
「あぁ。アイツらなら大丈夫だ。武器は確実に揃えて待っていてくれるはずさ」
「すごい信頼だな、ニガー」
「当たり前だ。信頼できない人間なんて、俺達B.K.Bの中には一人もいないぜ、ホーミー。今更こんな事言わせるなよな」
俺が冷たく言うと、シャドウは「へいへい」と呆れたような声を出した。
「だがな、シャドウ。
武器は確実に手に入れてくれている、としてだ。俺はアイツらが一生懸命やりすぎて何か面倒を起こさないかってのが心配だ」
「そりゃ言えてるな!バカみたいにガンショップや警察の武器庫、軍の基地なんか襲ってなきゃイイけどよ!」
大笑いしながらシャドウが言った。
さすがに警察などは無いだろうが、銃器を取り扱う店くらいは有り得る…そう思うと俺は少しも笑えなかった。
…
そうこうしている間に俺達は歩き疲れてしまった。
「さすがに他のセットを周るにしても、このまま歩いて行くってわけにもいかねぇよな…」
額に脂汗をべっとりとかいたシャドウが言った。
頭に巻いたバンダナはびっしょりと水分を含んでいる。
「そうだな、とりあえず何かアシになる物を探そう。いいか?」
俺がそう言うと、シャドウとギャングスタクリップのメンバーは「分かった」と返した。
辺りを見渡す。
少し大きな通りで、外灯もきちんとついていた。
少し盗みをするには目立ちすぎると思った俺達は、まずその通りから少し道をそれて人が通らないような道へと入る。
まだコンプトン・マフィア・クリップのテリトリーから出てはいなかったので悪い事をするのは気がひけたが仕方ない。
近くに停まっていた車に近付いた。
「これ…何か見た事あるな?」
シャドウが頭をかきながら言った。
目の前には白いボロボロのクライスラー・ネオン。
そう。昔、ブラックホールが盗んできた、あのネオンだった。
シャドウが車の周りをグルリと一周して笑った。
「サム!コイツにしよう!これなら俺達が使ったって悪く言われる筋合いはないぜ」
「あぁ、そうだな」
確かにブラックホールが盗んできた車なのだからマフィアクリップからはどうこうと言われはしない。
もしこの車を買ったオーナーに文句を言われるのであれば仕方ない事だが、それはまずないだろう。
「カギは?」
「ついてるぜ!いただき!」
シャドウが運転席に乗り込もうとした。
「待て」
「ん?」
クリップスがシャドウを止めた。
なかなか口を開かない無口な奴だと思っていたが、そうでもなかったらしい。
「運転は俺が引き受けよう」
前向きに被っていた紺色のベースボールキャップを後ろ向きにずらして、ソイツが運転席に乗り込んだ。
シャドウが両手を上げて俺を見る。
「どうした?運転くらいさせてやれよ。ただついて来るだけじゃ退屈なんだろうさ」
そして俺達二人は後部座席に乗った。
「さて、どこへ向かおうか?」
俺がドアを閉めると、クリップスが振り向いて言った。
「特に決まってないが、他の仲間達が周ってるセットは避けよう。把握してるか?」
「だいたいならな。じゃあどちらかというと協力をしてくれそうなセットでイイか?」
「いや、そういうわけにもいかないだろう」
俺がそう返事をすると、クリップスは目を細めた。
「じゃあどうするんだ?」
「他の奴等が周ってると把握してるなら、その辺りは避ける。
だが協力してくれそうか、そうじゃないかは関係ない。
今日中にすべてのコンプトンのギャングに話をしなきゃならないからな」
「なるほどな」
俺とクリップスの会話にシャドウは特に何も言わずに黙っている。
「なるだけ時間が短縮できるように、近い順番って事さ。頼めるか?」
「手前から順序よく周る事だけが近道じゃないと思うけどな…」
「…?」
クリップスが何か意味深な言葉を発した。
「名前を…聞いてもいいか?」
「エミルだ。よろしく、OG-B」
後ろ向きに被ったキャップを軽く持ち上げ、ギャングスタクリップのOG『エミル』は無表情な顔でそう言った。
「エミルか。イイ名前だ。
ところで今、言ってた話…詳しく教えてくれないか。近場から周る以外に、協力者を集める近道があるのか?」
俺はエミルの話が気になって仕方なかったのでそう言った。
シャドウはというと、案外どうでもイイのか大きなあくびをして窓からツバを吐いている。
「例えば、協力してくれそうなセットを先に周って味方につけたとする。
そしてソイツらが友好的な付き合いをしてるセットをソイツら自身に周ってもらう。
そしたらどうだ?嫌われ者の俺達が直接出向くよりも効果的じゃないか。
もちろん俺達古株のギャングスタクリップの存在やB.K.Bが指揮をとってる事も伝えてもらう」
驚いた。
そんな考え方は思いつきもしなかったからだ。
俺はB.K.Bやギャングスタクリップの古株達がすべてのセットを周ってしまわなければならないとばかり思っていた。
「それはイイ考えだ。いくつか思い当たるセットがあるんだよな、エミル?」
「もちろんだ。じゃないとこんな事言わない」
エミルは変わらず無表情で答えた。
「じゃあ決まりだ。周り方は任せる」
「分かった」
エミルは前を向いてハンドルを握った。
しっかりとシートベルトを閉めてルームミラーの調整までしている。
几帳面な性格というよりは様々な経験をしてきたOGらしい行動だ。
シートベルトなどで下手に警察に止められて銃や薬物の所持が発覚する事を避けるのには効果的だろう。
それを理解していない若いギャングスタや、コンプトンブラッズみたいなイケイケの連中にはシートベルトをしていない者もいるし、最近ではフィルムを窓ガラスに貼る事で室内を見えなくしている奴等もいる。
だが返って『何か隠しているのではないか』という疑いの目で見られる事もあるので危険だという意見もあった。
さらに、いざと言う時の危険な運転に身体がついていくためにはシートベルトは必要不可欠なものだ。
B.K.B内では車の乗り方に関して決まりがあるわけでは無かったし、他のセットでもそうだろう。
だがこうして何気ない行動や癖を一つ取っても、OG達からは『いくつもの死線や境地をくぐり抜けてきた』という事を感じ取る事ができた。
「サム」
「ん?」
セット間の移動中、ぼんやりと窓の外を見ていた俺にシャドウが話しかけてきた。
「マーク達に連絡したいところ…
よう!ビッチ!何してんだー!?」
「…おい」
真面目に話をしてきたかと思ったら、道端を歩いていた女に声を掛けている。
当然車は走っているので、むなしくも女から俺達は離れて行く。
「あぁ、すまんすまん。マーク達の話だ」
俺の冷たい視線に、笑いながらシャドウが言った。
「それに、エミルが言った『他のセットを巻き込んでの協力者集め』って作戦をガイとライダー、他のギャングスタクリップの連中にも提案してみたらどうだろうか?
さらに仕事が早くなるんじゃねぇか、ニガー?」
「驚いたな。まったく、どうしてそんなイイ話を思いつくんだよ?」
「天才だからな」
ツルツルの頭を撫でながらシャドウが言った。
真っ黒な肌が時折、外灯に照らされてテカテカと光っている。
「はは!冗談キツいぜ、シャドウ」
「うるせぇ」
「エミル!公衆電話があったら停めてくれ!仲間と連絡がとりたい」
分かった、という静かな声が返ってきた。
マーク達とはすぐに連絡を取る事ができなかった。
もちろんウォーリアーとクレンショウブラッドは全員合同で、武器を調達するために出払っているからだ。
ガイは俺の携帯電話を持っているので、電話はすぐに繋がった。
「もしもし」
「よう俺だ、ホーミー。調子はどうだ?」
「その声はBか?順調さ。
どうしたんだ?」
ガイは俺から何か用事がある事をすぐに察してくれた。
「順調か、それなら良かった。実は提案があるんだが」
「あぁ。きこう」
「順調なら、もうすでにいくつかのセットを説得できたんだよな?」
俺は小銭をさらに一枚、公衆電話に入れ込んだ。
「あぁ。二つだ」
「そうか!さすがに仕事が早いな!
…そしたらよ。そのセットにも働いてもらえば、ソイツらが仲良くしてきた他のギャング連中も引き入れる事ができるんじゃないかと思ってな。
それをどんどん繰り返していけば時間もかからない」
「ははは、サム!そんなこと言われなくてもやってるさ」
ガイが笑った。
すでに奴はそこまで手を回していたのだ。
「そりゃ助かるぜ。さすがだ。
ところで、ガイ。もう一つ話があるんだ。ウォーリアーの事なんだがよ…」
俺は話題を変えた。
「あぁー。心配なのか?
武器を派手に集めてる可能性があるな」
「その通りだ」
「いよいよ決着がつくかもしれないって戦いだ。
アイツらが勢いに乗ってるって事までは予測がつく」
ガイはため息まじりに答えた。
「さすがに警察署に乗り込んだりはしないだろうが…警備が厳重なガンショップなんかを平気で襲ったりしてないかが心配なんだ。
それで捕まったりしたら、ランドに一発撃ち込んでやるどころじゃなくなる。
ガイ、時間を置いてウォーリアー達の家に何度か連絡を入れてみてくれないか?」
「…分かった、引き受けよう。一時間か二時間くらいしたら、また俺の携帯電話に連絡してくれ。その時に状況を伝える。
こっちからはお前に連絡できないからな」
ガイは了承してくれた。
頭もキレるし、頼りになる奴だ。
「助かるよ。じゃあまたな、ドッグ」
「あぁ」
俺は受話器を乱暴に戻して、二人の待つ車に戻った。
…
その後はエミルが言ったように、協力してくれそうなセットを先に周った。
もちろんすべての連中を引き入れる事はできなかったが、半数以上のセットを説得する事に成功した。
そして彼等に他のセットを周ってもらう事で輪は広がり、さらには俺達自身では一度説得に失敗したセットをも引き入れる事ができた。
これは大きな成果だと言える。
だが、同じセットの中であろうと『協力する』『協力しない』といった個人の考えもある。
だから一つのギャングが協力してくれたからと言って、そのすべてのメンバーが加勢してくれるとは限らない。
むしろメンバー全員でサポートしてくれる連中の方が少なかった。
それでも二時間くらいの時間が経って、再びガイに俺から連絡を入れた時には、協力してくれる人間は驚く程の数に膨れ上がっていた。
「よう、ガイ!こっちは絶好調だぜ!そっちはどうだ?」
「サムか?特に変わらず順調だ。
マーク達と連絡がついたぞ」
ガイが言った。
「そうか!どうだった?アイツら大丈夫なのか?」
俺は興奮して受話器に怒鳴るような声で言った。
「あぁ。普通に考えれば連絡がついた時点で大丈夫だろ?おかしな事を言うぜ」
ガイが笑った。
確かに大丈夫じゃないなら連絡などつくはずもない。
「そりゃそうだな!それでどうなんだ?武器の調達は」
「俺が話したのはブラックホールなんだが『ある程度の数は集まった』としか言って無かったな」
「なんだそりゃ?どういう意味か気になるな…」
俺はタバコに火をつけて深く息を吸った。
「これは俺の勝手な憶測だが、奴が言ったのは『B.K.Bの武器だけは集まった』って事だと思う。他のセットにも武器を配るつもりなんだろうな」
協力してくれるセットも、全員が武器を持っているとは限らない。
全員が武装していない状態では、いくら人数が揃っても意味がないのだ。
「そうか…じゃあまだ終わったわけじゃないんだな、ガイ」
「あぁ、電話を切ったらまたすぐに出て行くつもりだったみたいだしな。
コリーの奴は、たまたま家に寄ってたんだろ」
『今のところ大丈夫』というだけで、まだ心配が消えたわけではないのだ。俺は深いため息をついた。
「ところでよ、B」
「ん?ちょっと待て…
どうした?」
俺は電話を切ろうとしていたのだが、ガイが突然そんなことを言うものだから慌てて小銭を電話機に投入した。
「今日中に人数集めを終わらせて、明日攻め込むって話だったよな?」
「あぁ。それがどうした?」
「お前、いつ休むんだ?寝ずにランドと対峙するつもりか?」
俺は一瞬、キョトンとしてしまった。
そんな事か、と正直思った。
「ガイ、そりゃお前もだろ。それにB.K.Bの他のホーミー達も全員だ」
「違うな。俺とライダーはちゃんと交代で説得を続けてる。夜も更けてきたし、片方は車で仮眠してるんだぞ?
ウォーリアー達も武器調達さえ終われば朝までしばらく休めるが…お前はどうだ?すべてのセット周りが終わっても、次は全員の召集、サウスセントラルへの移動、クレンショウでは細かい指示…
お前にはまだまだ色んな仕事が待ってる。
これだけのブラッズとクリップスが入り乱れてる集団を一人でまとめるのは楽じゃないぜ?俺達全員の命をお前に預けるんだからな。
その為には少しくらい休むんだ。いざって時にリーダーが弱ってちゃ話にならねぇ」
ガイの言葉は冷たいようで温かかった。
「分かった、お前がそこまで言うなら。
シャドウと交代で続けてみるよ」
「必ずだぞ。そろそろこっちは終わりそうだがお前はどうだ?」
「こっちもさ。もう少しだと思うぜ。
ギャングスタクリップの『エミル』ってのがいるんだが、なかなか上手く周ってくれてるから助かってる」
俺はチラリと車で待機しているエミルとシャドウを見て言った。
何やら二人で話している。
「そうか。あの紺色のキャップを被ってたOGだよな?」
「あぁ。頼りになる男だ」
なんとガイはエミルの事を知っていた。
セット周りに出発する前に、俺とシャドウについていくエミルの姿を少し見ただけのはずなのだが。
「連絡はこれで最後にするぞ、ガイ。
コンプトンのギャング達は古株のギャングスタクリップのアジトに集めて、俺達は一度イーストL.A.に戻ってウォーリアーと合流だ。
そこでまた新しい指示をする」
「分かった」
俺はようやく車に戻った。
「楽しそうじゃないか、お前達?」
ドアを閉めてシャドウの横に腰を下ろすと、俺はそう言った。
「よう。終わったか?エラく長電話してたみたいだが、まさかリリーじゃねぇだろうな」
シャドウは俺の質問には答えず、ニヤニヤしながら冗談を言った。
「アスホールが…そんなことしてないぜ。
ガイと話してたんだぞ、マザーファッカー」
俺がシャドウに文句を言っている間に、エミルが車を出した。
「そういや、今エミルと話してたんだがよ」
「だから先に俺はそれをきいただろうが」
「そうだったか?」
そう言って笑うシャドウを見ながら、まったく困った奴だと俺は思った。
「サム。お前さ…少し休めよ」
…!!
「…な…!?」
「『な…!?』じゃなくて寝ろっつうの。お前は明日は大忙しだし、今夜中に残りのセットは俺とエミルでなんとかするからよ。
もうすでに協力を頼んだギャング達も動いてるんだから大丈夫だろ?
今から24-7に寄るからそこでメシを食ったら寝ろ」
俺は返す言葉も見当たらなかった。
シャドウが言った通り、車は近くにあった24-7(コンビニエンスストアの総称)に入っていった。
明るい照明に照らされて防犯カメラなどの設備が整った店内は、俺達みたいなゴロツキがよく訪れるようなリキュールストアとは違った雰囲気を醸し出している。
昔はあまり見なかったが、最近ではこんな風に7日間の24時間営業をしてくれる店が増えてきているのだ。
「さてさて…おい!サム!何にする?」
そう言いながらシャドウが指差しているのは、やはり酒の並んだ棚だった。
狭い店内なのに大声で叫ぶものだから店員がジッと俺達を見ていた。
ヒゲを生やした四十代くらいの白人の男だ。
さらに俺達は明らかにギャングスタの格好をしている。
つまり店内には二人のブラッズと一人のクリップス。
店員が俺達を見ながら右手をレジカウンターの下に潜り込ませているのはそういうわけだ。
撃たれない事だけを祈ろう、などと俺は考えていた。
「ニガー!メシを買うんだろ?酒なんかいらねぇよ!すべてが終わるまでおあずけだ!」
この後シャドウが俺に悪態をついたのは言うまでもない。
ガイに催促された通り、俺とシャドウは交代で休んだ。
その二、三時間くらいの内に一時間程度は寝る事ができたので思ったほどの疲れはなかった。
そしてようやく古株のギャングスタクリップのアジトの前に戻ったのは夜が明ける寸前だった。
「帰ってきたか」
そう言いながら歩み寄ってきたガイとハグをする。
もちろんまだ、コンプトンのギャング達は集まってきていない。
だが朝になれば俺達の呼び掛けに呼応してくれた勇敢な男達がここへやってくるのだ。そう思うと俺の心は踊った。
「さぁ、うかうかしてられないぜ。すぐにウォーリアー達と合流だ。
シャドウ、ライダー、ガイ!」
名前を呼ぶと三人は俺を見た。
「地元に戻るぞ」
「それはいいが、サム。車はどうする?」
ライダーが自らの長い編み込んだ髪をなでながら言った。
「あぁ、一台あるからそれを使おう。少し前にブラックホールが盗んできた車だ。話せば長くなるが、感動の再会があってな」
俺がネオンを指差して言った。
…
俺達は特に問題なくウォーリアー達の待つ地元へと戻ることができた。
ハンドルを握っていたライダーが俺の家へと車を進める。
バタン!
ドアを閉めて俺達四人が下り立つと、家の前に集合していたウォーリアー達から雄叫びが上がった。
特に指示を出していたわけでもないが、やはり奴等も俺達も「ここが集合場所だ」という気持ちだったのだ。
セントラルパークでも、スクラップ置き場の方のアジトでもない。
『ここはB.K.Bのすべてが始まった場所』
小学生の頃に俺の家がまだ焼け落ちる前、ここに集まってふざけあった日々が思い出される。
「マザーファッキン、B!」
マークが大声で叫ぶ。
「武器は揃った!手に入れられるだけ盗んできた!」
マークの声は腹に響くような力強い声だった。
よく見ると奴等は車も数台、きちんと用意している。
「やれるだけの事はやった!あとはお前に任せるぜ!サム!」
「おう!みんな、絶対に勝つぞ!
生きてこの地元を…それに他のセットの自由も完全に取り返す!」
俺は深く息を吸い込んだ。
「全員ついて来い!俺がお前達をどこまでも連れて行く!
B.K.B 4 life!」
いくつもの声が雷のように轟いた。
すぐさま俺達はコンプトンへと戻る。
朝までもう時間がない。やはり休んでおいて正解だった。
コンプトンですべての協力してくれるギャングが集結したら、俺達と一緒に行動しているクレンショウブラッドの三人に彼等のアジトまで誘導してもらう。
そこまでは俺の頭の中で出来上がっている。
しかし具体的にどうやって戦うか、という事はどうにもイイ案が思い浮かばないでいた。
ましてやあのランドが相手だ。その辺りの話はガイと共にもっと考える必要がある。
「サム。少しなら眠れそうだな?」
再びライダーがハンドルを握っていたネオンに揺られながら、一人考え込んでいた俺にシャドウが言った。
ガイがいびきをかきながら助手席で眠っているのを見たからだろう。
「そうだな。だが、向こうについてガイが起きてしまうまでに少し考えておきたい事があってな。
俺は休まなくてイイさ」
「そうなのか?」
「あぁ。気にせずお前は寝てくれ」
俺がそう返すと、シャドウは黙って目を閉じた。
車内にはライダーが眠気覚ましに噛んでいるガムの香りが漂っていた。
…
何の考えも浮かばないまま、俺達は古株ギャングスタクリップ達の待つアジトへと到着した。
ガイとシャドウを起こして車から下りる。
次々と狭い路地にB.K.Bの車が到着してメンバーが出て来た。
「意外と早かったな」
これはエミルだ。
他の古株のギャングスタクリップ達も全員玄関先で出迎えてくれる。
「そうか?それより、他のセットの奴等は?まだ来てないのか?」
俺が言った。
辺りを見回すが、彼等以外にギャングスタの姿は見えない。
もう夜は明けていた。もし誰も来ていないのならば、俺達だけでもリルクレイを助け出してランドを倒さなければならない。
「お待ちかねさ」
エミルがそう言って、歩き始めた。
するとギャングスタクリップは全員移動し始める。
俺がそれに続くと、ホーミー達も黙ってついてきた。
すぐに到着した場所は、ブロックやガラスのクズが落ちている空き地。多分、元は家だったのだろう。
「うぉぉぉ!!!」
突然、凄まじい雄叫びがいくつも上がった。
なんとそこには驚くべき数のギャングスタ達が所狭しとひしめいていたのだ。
こうしていくつものブラッズ、クリップスのセットからなる『ギャングスタ・チーム』が結成された。




