Street
俺達はリアルストリートの凄まじさを知る。今まさに結束を強める時。
クレイが死んで一年が経とうとしていた。
しばらく落ち込んで陰気になっていた仲間にも活気が戻ってくる。
全員の中学校生活も終了した。
とはいってもトニー、ジャック、コリーの三人以外は行っていないのも同然だったが。
とにかく全員で集まる機会が増える。俺達の仲間で高校に通う奴は一人もいなかったのだ。
トニーは相変わらず商品を仕入れてはみんなの資金を養っていた。
ケンカの時はマークやショーティという奴が活躍した。
ショーティはマークにも劣らないほどの巨漢で、相手に対しては情け容赦しない奴だ。
その冷酷なケンカっぷりから『冷たい心を持つ男』として知られ、みんなにスノウマンと呼ばれた。
だがそんな性格とは裏腹に、仲間に対してはメシを作ってくれたりする意外と家庭的な面白い男だった。
…
そんなスノウマンがある日道端で、拳銃に撃たれたという情報がウィザードから回ってきた。
連絡の取れたメンバー全員はすぐに病院へ向かう。
しかしそこではピンピンしているスノウマンが、看護婦を部屋に連れ込んでイチャついていた。
「ショーティ!てめぇ!」
「心配かけやがって…」
「何やってんだスノウマン!」
みんなが口々に叫んだ。看護婦はそそくさと部屋を出て行く。
「なんだよみんな。俺はスノウマン(雪男)だぜ。銃弾じゃ死なねえよ」
バカヤロー!と言って今回集まっていた6人みんなが、笑いながら奴に殴りかかった。
「いてて…てめぇら俺はケガ人だぞ!?丁寧に扱え!なんとかしてくれサム!」
「あはは!やだね!マジで心配したんだぜ、ニガー」
そう言って俺は笑い転げた。
みんなにジャレつかれて困っているショーティなど滅多に見られないからだ。
ひとしきりそんなやり取りがあった後、本題に入った。
「スノウマン、誰にやられた?」
「…多分クリップスだ。二人いた。車から二発。一発は外れ、もう一発がこの通りよ!」
足の包帯をさすりながらショーティは叫んだ。
クリップスやブラッズはこの街にはいない。やったんなら隣り街の奴だろう。
俺は横にいたウィザードに言った。
「ウィズ、拳銃を十丁用意してくれ。カチ込むぞ!」
全員が病室で雄叫びを上げた。
俺達はウィザードの行動の素早さに驚かされた。
わずか三時間で拳銃を十丁、本当に仕入れて来たのだ。
「サム、いまからお前の家に持って行く。それまでに全員集合させろよ」
すでにウィザードからの電話が入った時には、動けないスノウマン以外は全員揃っていた。
車は二台、ジャックが親父に借りてきたサバーバンと、ライダーとコリーが二人でさっき盗んできたラムトラックだ。
コリーは車の盗みに長けていた。というのも、実家が整備工場なので小さい頃から車に触れている時間があったのだ。
乗り物バカのライダーと整備工場育ちのコリーは、そのせいもあってかとても仲がいいのだ。
そこにポンコツのシビックでウィザードがやってきた。
「みんないるな?よし、みんな一つずつだ!」
ウィザードはリボルバーを六丁とオートマチックを四丁持ってきていた。
十人全員が三台の車にバラバラと乗り込み、俺達は出発する。
「B.K.Bの恐ろしさを思い知らせてやれ!」
俺はみんなに叫んだ。
ジャックが運転する車内では、ルークが上機嫌で歌っていた。
サバーバンの中にはジャック、俺、マーク、ルークの四人だ。
「俺らB.K.B、かますぜ一発、バンギン オン ザ ストリート」
「おい!このヘタレラッパーをつまみ出してくれマーク!」
ジャックがイライラと怒鳴った。確かにヒドいラップだ。
「なんだよ~!せっかく盛り上げてやろうとしてんのに~!」
ルークはとぼけたようなゆるいしゃべり方をする。
いつもクロニックの吸い過ぎで頭がイカれているからだ。
「にっくきクリップスの野郎の頭をコイツで一発ブチのめしてやら~!な?ジャック、サム、マーク!な~?」
正直ちょっとうっとおしかった。しかし気を取り直して俺は言った。
「みんな…無事で帰ろうぜ。なぁ、ホーミー」
ニヤついていたルークの顔つきが変わる。
そう。ルークも悟ったのだ。俺達は遊びに行ってるんじゃない。
『人を殺しに行ってるんだ』と。
すぐに隣り街に着いた。
クリップスはどこだろうかとキョロキョロしていると、意外とすぐに道端に車を止めてたむろしている二人の青い服を着た男達を見つけた。
「おい!お前らか俺らの仲間をやったのは!」
後部座席のまどを開けたマークが凄まじい怒号をあげている。
クリップスは、何の事だ?という顔をしていたが、すぐに
「あー、さっきの赤いバンダナぶら下げたデクのぼうの事か!」
と笑いとばしてきた。ビンゴ。俺達は一発でスノウマンのカタキを見つけたのだ。
しかし、俺が仲間に発砲の号令をかける前に奴等は撃ってきやがった。
カチンカチンとボディに銃弾が当たる音がする。映画やテレビでよく見る光景が、今まさにリアルに起こったのだ。
「クソッ!」
ジャックは急発進してなんとか二人から離れた。
だが後ろについていたライダーとコリーのラムトラックと、ウィザードの運転するシビックはその場に止どまり、銃撃戦を始めた。
俺は叫んだ。
「ジャック!引き返せ!仲間を守るんだ!」
サバーバンは急旋回して、何とクリップスと仲間の銃弾の飛び交う間に割って入り、停車した。
ヤバイ。こんな近距離じゃ、先に殺られる。
そう思った時、幸運にも奴等は弾が切れかけていたらしく、止めてある車に乗り込もうと走り出していた。
その時。
パアン!パアン!パアン!
三発の銃声が響きクリップスは二人とも倒れ込んだ。
なんとおちゃらけルークがサバーバンから発砲し、三発とも命中させたのだ。
「殺った!」
ルークが叫んだが、二人ともよろよろと立ち上がろうとしていた。
「いや、死んでない!」
俺とマークとジャックが飛び出し、ボコボコに殴ってやった。
どうやら銃弾は足や腕をかすめているだけだ。
ある程度食らわせた所で俺は攻撃をやめる指示を出した。
「コイツらは生かして帰そう。俺らの初勝利を知らしめてやるんだ」
…
「聞けクリップスのカスども!俺達はB.K.B!逃げも隠れもしない!二度と俺達の仲間とシマに手を出すな!」
そう言い放つと、俺達はすぐに車に乗り込んで発進した。
帰り道の車内では笑いが絶えず、みんなでルークの手柄を称えた。
ルークのニックネームがクリック(拳銃)になるのに、それほど時間はかからなかった。
俺達は次の日から町中の壁に赤色のカラースプレーで『B.K.B』のタグを書いてまわった。
俺達はいつの間にか地元ではもっとも有名なワルの集団になっていた。
近所では俺に対して昔よりもヒドい噂が流れているようだったが、仲間達の事を思えば何とも無かった。
…
この頃、俺に初めてのガールフレンドができた。リリーという同い年の子で、とても可愛かった。
そんな俺達二人の交際を仲間達は一番に喜んでくれたし、何より温かく接してくれた。
俺以外にも、ライダーとジャックには彼女がいた。
…
ある日ウィザードからの電話で起こされた。
何やら事件らしい。
「サム大変だ!俺達のタグが上から塗り替えて消されてる!この間のクリップスの連中だ!」
「なに!?またアイツらか!毎回しかけてきやがって…!」
この時、俺の部屋には退院したスノウマンとガイという仲間が泊まっていたので、二人を起こした。
しばらくすると町中で消されているタグに気がついたらしく、ライダーとマークが二人乗りをしたバイクでやってきた。
すぐにウィザードも合流して六人での話し合いが始まった。
「どうするホーミー?」
俺はみんなに聞いた。
「やっちまおう!」
マークとスノウマンが叫んだ。
しかしガイが割って入る。
「待て待て。落ち着け、ホーミー。とにかく今はまた上から塗り替えてしまおう。
それでもやってくるってんなら奇襲だ」
このガイという男は、常に冷静沈着だった。
よく周りを見て行動し、常に相手の出方を伺う戦略家だ。
下準備を怠らず、報復の時にも決して自分からは無茶をしない。
ある意味クレイに似た性格の持ち主だ。
もし、俺以外にリーダーを立てるとしたら、間違いなくコイツが適任だろうと俺は踏んでいた。
「ガイの意見を詳しく聞こうぜ。頼む、ニガー」
「まず、奴等の狙いは間違いなく俺達が怒り狂って攻め込んで行く事だ。
じゃないならこんなチマチマした嫌がらせするか?」
確かに、とみんなは唸った。
「そして突っ込んできた所をバン!だよ。詳しくは分からんが、数では圧倒的にまけてるに違いない。
敵はそれを見越して全面抗争に持ち込もうとしてるんだよ。分かったか、マザーファッカーども?」
みんなが絶句する。見事な読みだった。
「よし、それじゃあとりあえずガイの言う通りタグだけは再び上から塗り替えてしまおう。今ここに来てない五人はどうしたんだ?」
「クリックは分からねえが、ジャックとコリーは今日一日、短期の仕事らしいぜ。なんでもちょっとした車の解体屋だとか」
俺の質問にウィザードが答えてくれた。
「そうか。アイツら金に困ってるんなら仲間に相談すりゃイイものを…だいたいなんでカタギの仕事なんだよ?俺達はギャングだぞ!」
「それがコリーの親父の知り合いの頼みなんだとよ。サム、アイツらだって充分ギャングスタだと自覚してるよ。でも家族を助けるのも大切だろう?」
確かにギャングは地元を何より大切にし、家族を誰よりも愛する考えを持っている。
「そうだったのか…じゃあ仕方ないな。それなら、シャドウとジミーは誰か知らないか?」
その時、俺の家の電話が鳴り響いた。
「よう、ニガー!ジミーだ!今シャドウとクリックと一緒に街にいるんだけど、ウィザードやマークの家にかけても誰も出ないからさー!もしかしたらみんな集まってるのかと思って連絡したんだ」
すぐにジミー、シャドウ、クリックの三人は俺達に合流してくれた。
電話をくれたジミーは非常に明るい性格で、誰とでも気さくに話ができる男だ。
派手なアフロヘアーと赤色のハウスシューズがトレードマークのチーム1のムードメーカーだった。
電子機器が趣味という意外な一面もある。
シャドウと呼ばれている奴の本名はブライズと言い、ライトスキンが多い俺達B.K.Bの中で唯一のネイティブアフリカン系の真っ黒な肌の持ち主。
しかしシャドウというニックネームは真っ黒なその肌からではなく、やたらと闇の集団、つまりギャングやマフィアの構成員や組織図、テリトリーに詳しい事からきていた。
闇の情報通、そこからシャドウ(影)と呼ばれる事になったのだ。
俺達は仲間にニックネームをつける時、決して見掛けだけで安易なものをつけたりしない。
必ずソイツの得意な物や長所を生かして、常にリスペクトできるような物をつけた。仲間同志お互いを尊敬しあっている証拠だった。
…
早速タグ事件の事やガイの作戦を三人に話した。
そして俺達九人はタグの塗り替えにかかる。
消されているのは全部で四か所。俺達は二人以上の編成で分かれてタグを書き替えて行った。
作業は順調に進み、一時間もしないうちに全員が俺の家に戻ってきていた。
最後に俺とクリックが到着した時、俺は目を疑った。
家が燃えていた。
家の前には消防車が駆け付けて急いで消火に当たっている。
チラリと消防車や消防隊の隙間から家の前にある道路に、青いカラースプレーで書かれた
『cripz iz street king』
の文字が確かに見えた。
これが、リアルストリート。俺達は最高にヤバイ世界に足を踏み入れた事を思い知らされた。
「とにかく今はみんなの安全が第一だ」と言ったガイを信じて人目に着かない場所に移動する。
車を隠してようやく一息つくことができた。
見張りにクリック一人を立てて俺達は話し始める。
なぜ俺達が家から出た事が分かったのだろう。
その疑問が俺の頭から離れなかった。
「敵は俺達の動きを完全に読んでいた。どこかに偵察が隠れていたとしか考えられないな」
ガイの意見にみんな賛成しかけた。しかしウィザードが答える。
「俺達の中に裏切り者がいる可能性はないか?」
「バカな!背中のタトゥーは何の為にある?飾りか!?俺達はこの地元とクレイを一番大事に思っているはずだ!」
俺はアツくなって言い返した。
「しかし…こうもキレイに行動を見透かされたらな…」
「じゃあ何の理由があって裏切るんだよ!」
「サム!そんなことを俺が知るわけないだろ!」
しばらく沈黙が続いた。
とにかく今は仲間達の心がバラバラになってはいけない。
夜になるとジャックとコリーも呼び出して全員で話す事になった。
見張りはマークがクリックと交替したようだ。
ジャックとコリーは今日起こった事を聞くと、二人とも当然、かなり驚いた様子だった。
「こういう作戦なんじゃねぇか?」
ジャックが言った。
「俺達の中に裏切り者がいるんじゃねぇかという疑いを持たせる。そして内面的に壊す。
実際には裏切り者なんていねぇのに、常に偵察を置く事で行動を把握して、あたかも誰かが情報を流しているかのように見せるんだよ」
「どうやってそれを証明する?」
ライダーがきいた。
そこで俺はある作戦を思いついた。
とりあえず作戦の詳細は明日話す事にして解散させる。
家が焼けたので今日はクリックのウチに泊めてもらうことにした。
母ちゃんはというと、火事現場で見掛けた時…
「しばらくモーテルに泊まるから。家なんてまた建てればイイのよ。ママは大丈夫だけど、サムはどうするの?」
と、俺の心配だけをしていた。本当に強い人だと思う。
クリックの家につき、奴が眠るなり、俺は他のメンバーの一人一人に電話をする。
クリックが夜に弱い事を知っていた俺は、あえてコイツの家に泊まりに行ったのだ。
実はここからが作戦の始まりだった。
まず俺はメンバーの一人一人に、二十分おきに別の場所を集合場所に指定した。
時間も場所も一人一人バラバラだ。
さらに、この内容は他のメンバーに話すな。明日は一切他の仲間と接触してはいけない。お前を見込んで、リーダーである俺と二人きりの作戦だ。と一人一人に念をおした。
これで明日はメンバーは誰一人互いに連絡は取り合わない。もし取る奴がいたら真っ先にソイツを疑うことになる。
そして、それぞれの集合場所はわざと見通しの良い広場ばかりを選んだ。
もし裏切り者がいた場合、二人きりの作戦だと知れば必ずクリップスに連絡を取って攻撃をしかけてくるはず。
だからいち早く敵に気付く為に広場を選んだのだ。
逆にこちらも丸見えになるが、遠距離から銃でしかけて終わらせるような連中じゃないと感じた。だから充分に逃げるスペースを考えていた。
つまり俺がクリップスに襲われた場合、その場所で待ち合わせだと伝えていた仲間こそが裏切り者だと言う事になる。
俺はかなり危険性が高い事を承知でこの作戦に賭けた。
作戦当日、朝早くから俺はクリックの家を一人で出た。
俺はクリックの家に泊まっていたため、唯一メモで作戦を伝えたクリックとの集合場所へ向かった。
朝九時、クリックが頭をかきながらやってきた。
「サム~、作戦ってなに~?」
まだ寝ぼけているのだろうか。クリックは木に向かって話かけていた。
俺はクリックは白だと確信した。
「作戦はなクリック、いまから帰って寝る事だよ」
「なんだよそれ~んじゃおやすみ~」
その場で寝ようとしたルークを叩き起こし、作戦に同行させた。
もし他のメンバーの場所に敵がいた時頼りになる。
次にマークとの集合場所へ歩いて行った。
クリックを物陰に待機させて、一人でマークを待つ。
九時二十分。マークは時間ぴったりにやってきた。
「おう!サム!なんだよ作戦ってのは?」
辺りにクリップスの姿はない…
マークも当然白だった。
事情を説明し、マークにも同行を頼む。
「なるほど…一人ずつ洗っていく作戦か。分かった、力になるぜ」
こうして三人で次のライダーとの待ち合わせ場所へ向かった。
ライダーとの待ち合わせ場所に近くなると、バイクのアイドリング音が聞こえてきた。
早めに到着したようだ。
再びツレ二人を物陰に待機させてライダーの元へ一人で向かう。
「ようサム!朝早くからバイクに乗るってのも気持ちがイイもんだぜ!」
俺は周りをしばらく見渡したが誰もいなかった。
ライダーも白だった。
九時四十分になった。
ライダーにも事情を説明して仲間に加えた。
次はコリーだ。
コリーも少し前に着いたらしく、一人で広場にポツンと立ってそわそわしていた。
ライダーが「コリーは絶対白だろうに」とつぶやいている。
十時になったので俺はまた一人でコリーに近付いた。
コリーは俺を見るなり走ってくる。
「サム!なんだよ一人で待たせるなんて!クリップスに俺がやられちまってもイイのかよチクショー!」
「悪い悪い、コリー。誰かにつけられてないか?」
「こ、怖い事言うなよ!たった二人の時にやられちまったら、ひとたまりもないだろうが!」
そう言ってコリーは腰のベルトから抜いた銃を広場の周りへ向けていた。
コリーは…白だ。
コリーにもすべてを話し、奴も仲間に加わる。俺を含めて五人になった。
次はジャックだ。
ジャックは十時二十分ちょうどにやってきた。
辺りを警戒しているようだ。その手には銃が握られている。
俺が近付くとジャックは安心したのか銃をしまった。
周りには誰もいない。白だった。
俺は仲間達が増えていくたびに嬉しくなってきた。
十時四十分。シャドウとの待ち合わせ場所に着いた。
二分遅れてシャドウがやってきた。
「すまねえサム!ちょいと遅れちまった」
脂汗でベットリの額を見ると、待ち伏せして様子を伺っていたわけではなく、本当に走ってきていて遅れたようだ。
シャドウも白だろう。
事情を話すと奴は納得してくれた。「見上げた考えだな!たいしたもんだぜサム」と言って笑った。
仲間は七人になった。
次は十一時ちょうどにスノウマンと待ち合わせだ。
ショーティは早くやってきていた。
ベンチに腰掛けて空を見上げている。
仲間を再び物陰に隠れさせた。
「ようスノウマン!調子はどうだ?」
そういってハンドサインを出すと、奴もハンドサインを返してきた。
「俺はいつだってB.K.Bの為に体張る覚悟だぜ!」
そう言って、強すぎる力でハグをしてくれた。
心強い仲間がまた一人増えた。作戦の全貌を知るとさすがに驚いていたが、ついて来ると言って笑った。
次は十一時二十分にジミーと待ち合わせだ。
ジミーは公園の真ん中で堂々とB-walkを踏んでいた。
その瞬間俺達はジミーは白だと断言できた。
クリップスに手を貸しているような生半可な奴に踏めるステップではないからだった。
そうは言ったが、俺は念のために仲間を待機させて、ジミーと一緒にステップを踏んだ。
「下手くそ~!」
ジミーは笑いながら軽々と跳んでみせた。
「bloods 4 life!」
俺達は互いに拳をぶつけてガッチリと握手をした。
残すは二人だ。
十一時四十分。
俺達九人はウィザードとの待ち合わせ場所にきていた。
もちろん俺以外の仲間は全員隠れている。
ウィザードは若干遅れてやってきた。
「サム!待たせたな!特別な作戦だと聞かされて妙に慎重になってな。
つけられてないかと何回も立ち止まって周りを見渡してたらこんな時間だ!」
「そうか、気を使わせてしまって悪かったな」
俺は辺りを見渡したがやはり誰もいなかった。
ウィザードも当然白。すべてを打ち明け、残すは十二時に待ち合わせのガイだけだ。
ガイは早く到着していた。
じっと地面を見つめてそのまま止まっている。
俺が近付いていくとゆっくりと奴は顔を上げた。
「よう、ニガー。こりゃオトリ作戦だな?だが安心しろ。俺はクリップスのカスどもと繋がっちゃいないからな」
俺の心臓は高鳴った。さすがにガイは感づいていたのだ。
もし奴がクリップスと繋がっていたら、作戦を逆手に取られていたかもしれなかった。
「なぜなら俺は…親父をクリップスの連中に殺された過去があるからな」
俺は二度目の衝撃をうけた。
初耳だった。
「だから俺はB.K.Bを裏切る気なんかないし、例え俺が最後の生き残りになったとしても奴等と戦う」
ガイはそう言うと上半身の服を脱いで俺に背中を見せた。
その背中には『R.I.P.Kray』の他に、いつの間にか『CK』の文字がデカデカと鎮座していた。
CKとはCrip Killerを表し、全面的にクリップスに敵対している事を表す。
俺達の信頼はジャックが言ったように崩れ去ることは無かった。
それどころか俺達の絆は強まる一方で、これから先もどんな敵が表れようと戦い続ける事になるだろう。