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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
39/61

red bandana

俺達のトレードマーク。

偽ってしか近付けなかった。それも、もう必要ない。

マークは両膝を地面につき、拳で土を叩いて泣き叫んでいた。

 

「マーク、もういいだろ。死んだホーミーもお前のせいだなんて思ってないさ、ニガー」

 

一時間程みんな黙って待っていたが、マークが落ち着きを取り戻す様子もなかったので俺が話し掛けた。

 

「ニガー、俺は誰も死なせちゃならなかったんだ」

 

マークはようやく立ち上がって振り向いた。

 

「いや、お前はよくやった」

 

「サム!どこを見て『よくやった』なんてぬかしてやがる!失敗だ!作戦は成功しても俺にとっちゃぁ失敗なんだよ!」

 

ドカッ!

 

「な…」

 

マークは驚いた表情をしている。

突然ガイが、横から奴の顔にパンチをブチ込んだのだ。

もちろんマークは揺るぎもしない。

 

「なにしやがるクソったれ!」

 

バコッ!

 

ガイはマークからの反撃を食らい、よろめいた。

だが奴をキツく睨み付けて一言放った。

 

「仲間が死んだのは確かに辛い。

だがな…仲間が命をかけてやり遂げた事自体が失敗だってのはどういう事だ?」

 

みんなシンとして聞き入っていた。

さらに奴が続ける。

 

「仲間の命をバカにしてんのかぁ!!」

 

ドカッ!

 

さらなるガイのパンチでマークは仰向けに倒れ込んだ。


「マジかよ!マークが倒れた!」

 

ジミーがはやし立てている。

 

「ガイのヤロウ、いつの間にこんな力を…」

 

シャドウも腕を組み、感心したように言った。

 

「俺は…俺は、仲間が死んだのが失敗だって言ってんだ」

 

マークが天を仰いだままの体勢でつぶやいた。

 

「お前は心のどこかで『命を二つ無駄にしてしまった』と思ってる。

それが間違いだ。

奴等は自分達の死を乗り越えて先に進むホーミー達の姿を嬉しく思ってたに違いないぜ。

犬死なんかじゃねぇ。

アイツらも…これまでに散っていった奴等もみんな、B.K.Bの…『誇り』だ」

 

マークはガイの力で倒されたわけではなく、奴の想いに倒されたのだと俺は知った。

 

「だからと言ってこれ以上の犠牲は必要ない。

俺達はこれまですでに多くの誇りを背負ってきてるからな」

 

「…じゃあよ、一つ俺から提案があるぜ」

 

マークが立ち上がった。

 

「こんなところでチマチマ生きずによ、一秒でも早く堂々と胸張ってウチに帰ろうぜ」

 

奴がガハハと笑う。

俺はマークのくせのある笑い声が大好きだ。

 

奴が言ったのは当たり前の事。

これまでに何度も言ってきた。

いつの間にか自然とみんなが笑い始めた。


「そうと決まればすぐに行動だー!」

 

ジミーが張り切って言った。

 

「車は変えないと戻れないぜ」

 

ブラックホールが意見を出した。

 

「そうだな…いつまでもあの目立つ車をこんなところに置いとくのもな」

 

俺はパトカーを指差した。

いまB.K.Bの手元にある車はすべて使えない。

それに、このままここに置いたままにしておくのも様々な危険が考えられる。

ロングビーチの警察も連絡を受けて動き出している可能性もある。

 

「早く手を打とう。特にこのパトカーはL.A.P.D.の文字が目立ちすぎる」

 

「それはイイが、どう処理するんだ、B?」

 

ライダーがたずねた。

 

「タウンカーとシェビーはナンバーを盗んですり替える。

残りは紺色の服、パトカー、マーク達が持って帰ってきた車…全部まとめて燃やす」

 

奴から分かった、と返事があった。

 

「捨てるものを全部かき集めよう」

 

アジトに入ろうとすると、ガイが俺を呼び止めた。

 

「サム、どこで燃やすんだ?」

 

「ん?決まってるだろ?このアジトごと燃やすんだよ」


「そんなことしたら、戻ってこれなくなるぞ。

それに今すぐに出なきゃならなくなる。まだ俺達の地元にいるギャングスタクリップは全滅したわけじゃないのに」

 

ガイは冷静に言った。

また勢いに任せるのは得策ではないと言いたいのだろう。

 

「いや、もうここには戻らなくてイイ。それにギャングスタクリップは派手に動けない。直接ランドが動かしてないギャングスタクリップなんか敵じゃないぜ」

 

俺は一息おいてタバコに火をつけた。

俺とガイ以外の仲間達はすでに必要なものとそうでないものを分けている。

 

ライダーはもちろんファイアボールを地元に持ち帰るつもりらしく、エンジンを起こして調子を確かめていた。

スクーターは捨てるようだ。

 

「このクリックの残した落書きが見れなくなるのは寂しいけどな」

 

俺は壁一面に描かれたタグを指差した。

 

「でも、ここには四人の仲間が眠ってる」

 

「そうだな。墓参りの時だけは帰って来ないとな」

 

俺はガイの肩をポンと叩いた。


 

「おーい!サム!燃やす準備ができたよ!」

 

「分かった!そんじゃ何人かで二台分のナンバーを盗んできてくれないか!?」

 

俺は遠くから呼び掛けてきたコリーにそう言った。

すぐにオッケーという返事とハンドサインが返ってくる。

 

奴が新入りを数人つれて走っていくと、ガイが話を戻した。

 

「それと、なんでパトカー以外のC.K.Gの車を燃やすんだ?今から地元への帰りに使えるだろ」

 

「そうだな…そうしてもイイが、またぞろぞろ連なって行くのも、大量にナンバーを偽造するのもどうかと思ったんだよ。なるだけ車は減らしたい」

 

「じゃあ車に乗れない残りの仲間はどうする?」

 

確かに車二台とバイク一台ではほとんどの仲間が置きざりになってしまう。

 

「バス…かな」

 

「マジかよ、ニガー。そりゃ…悪くはないけどよ…」

 

「いや、ガイ。普通にバスに乗って帰るんじゃねぇぞ。バスを一台もらうんだ」

 

俺の言葉にガイが笑った。

 

「バスジャックかよ?」

 

「バカヤロウ。それじゃ目立つ。停めてあるバスをいただこうぜ」

 

その後、俺達がブラックホールをすぐに呼び戻したのは言うまでもない。


目立たないバスを一台ちょうだいし、出発の準備が万端に調ったところでようやく俺達は火を放った。

すぐに少し離れた場所に移動する。

 

アジトの周りをグルリと捨てる車で囲み、部屋の中にはいらない物を入れ込んでいる。

すべての車のガソリンタンクには穴を空けて燃えやすいように工夫した。

 

 

ドォン!という大きな爆発音がいくつか聞こえた後、大きな炎が立ち上がった。

 

「キレイだな…」

 

燃え盛る炎を見ながらライダーがつぶやいた。

みんな車からは降りて横一列に並んでいる。

 

「これでロングビーチとは本当におさらばだ。まず地元に到着したら、ギャングスタクリップや警察に睨まれる前にみんな一旦家に帰れ」

 

ようやく家族と対面できる。

みんな幸せだろうと思った。

だが俺がそう言うとすぐにガイが質問してきた。

 

「家がない奴は?まあ俺とサムだけだがな…あっちのアジトは…つまりお前の家は使えないと思うぜ」

 

「そうだな。まだ監視の手があるだろうからな…」

 

「俺が泊めてやろうか?それに他の奴の家でもイイだろうし」

 

優しいライダーがそう言ってくれた。


「いや、あそこを使おう」

 

「どこだ?」

 

ライダーが不思議そうに俺にたずねる。

 

「覚えてるか?一番始めに使ってたアジトだ。ウィザード達と一緒にお前が見つけてきたじゃねぇか」

 

「あぁ…あのスクラップ置き場か?悪くないけど、今はどうなってるか分からないな」

 

ライダーは心配そうな表情を浮かべて言った。

 

「確かに今は特に監視されたりはしてないとは思う。でも取り壊されてるかもしれないぞ」

 

ガイが反対してきた。

 

「その時は仕方ないからホーミーの誰かに泊めてもらうまでだ」

 

「そうか…分かった」

 

ガイが渋々そう言った。

 

「じゃあそろそろ行こうぜ!すぐに消防と警察がここにくるぜ」

 

「よっしゃあ!いよいよ本当に帰れるんだな!」

 

ジミーが叫び、マークが笑った。

 

全員、真っ赤な服に身を包んで俺を見ていた。

 

「よし!いくぞ、ホーミー達!B.K.B 4 life!」

 

俺はタウンカーのドアを開けて乗り込んだ。


 

 

「…懐かしいな」

 

俺とガイは立っていた。

これは奴の第一声だ。

 

仲間達はみんな家に戻っていた。

家族との再会に喜びあって抱き合う奴、親からこっぴどく叱られている奴、死んでいると思われていて涙を流す家族もいた。

 

しかし、クリックやジャック、死んだ仲間の家族は…

俺もこの時は彼らの顔を見ていないのでハッキリとは分からなかったが、さぞかし悲しいに違いないだろう。

 

『近所の悪ガキ達が帰ってきた。だがウチの息子は帰ってきてない』

 

そのくらい気付かないはずはなかった。

 

「B、とにかくハンモックだけは残っててよかったな?」

 

「ん?…あ、あぁそうだな」

 

アジトの中を見回したが、やはりほとんどの物は無くなっていた。

唯一、ほこりだらけのハンモックがぶら下がっているだけだ。

 

「寝れるだけマシだと思おうぜ」

 

「確かにな。明日からはこのアジトを復活させる作業の始まりだ。そしていずれは俺の家も復活させる」

 

「二つのアジトを持つって事か?」

 

「それも悪くないだろ」

 

俺達は汚いハンモックに横になった。


車はブラックホールの実家のガレージ、バイクはライダーが家に乗って帰った。唯一バスだけは仕方ないので、この広いスクラップ置き場の敷地内に隠している。

 

ジミーの携帯電話はマークから無事返されたらしい。

どうやらあの時、俺とマークとの電話連絡が途絶えたのは、単に奴の携帯電話の充電が切れたのが理由だったようだ。

 

「サム…起きてるか?」

 

「あぁ」

 

「みんなはさっき地元に戻れて大喜びしてたが…実際お前はどうなんだよ」

 

奴は唐突にこんな事をきいてきた。

 

「どうしてそんなこときくんだよ?家族はいなくても俺には仲間がいる。この地元を愛してる。

俺達の生き方はそういうもんだろ。お前は違うのか?」

 

「もちろん違わない。だが俺達はみんなとは違うからな。家族がいない俺達には仲間がすべてだ」

 

「俺にはまだ『帰ってきたんだ』っていう実感が湧かないぜ」

 

 

そして俺達はいつの間にか眠っていた。

 

だがその眠りも長くは続かなかった。

 

ピリリ…

 

ピリリ…

 

「よう…なんだ…?どうした、ジミー…」

 

「サム!ギャングスタクリップだ!俺達の帰りに気付いてやがった!早く来い!」

 

「なに!?」

 

ガイもその声に飛び起きた。


「どの辺りだ!?」

 

ガイが俺にきいたが、返事はできなかった。

俺が勢いに任せて飛び出したせいで、あるいはジミーが詳しい状況を話さなかった事も関係して細かな場所が特定できていなかった。

冷静に考えれば電話をかけなおせばイイだけの事なのだが。

 

二人で走る。

長らく車にばかり頼っていたので、こんなにも足がちぎれそうなほどの全力疾走は久し振りだった。

 

「はあ!はあ…!…B、あれじゃないか!?」

 

ガイが指差した先はセントラルパークだった。

 

「セントラルパークか…!」

 

俺は少し前にきちんと新入りの手から戻ってきたクリックの形見…グロックを腰のベルトから抜いた。

 

セントラルパーク内ではすでに殴り合いの乱闘が始まっていた。

 

B.K.Bのホーミーはジミーとシャドウ、それから新入りが三、四人いるだけだ。

それをギャングスタクリップが二十人近い人数で囲んでいる。

 

「なるほどな。ジミー達…家に待機するように言ったのに外に出てやがったな!」

 

「はぁ…!はぁ…おい、ガイ!そういう事は後からだ!とにかく助けるぞ!」

 

俺がガイに言った。


「はぁ…!おらぁ!クリップスのクソったれ!!」

 

パァン!

 

俺ができる限りの大声で叫びながら発砲すると、奴等の視線はこちらに向いた。

 

「サム!きてくれたか!」

 

ジミーが叫んでいる。

どうやらみんな大したケガはしていない様子だ。

だが俺達もこんな息を切らしているような状態だ。

奴等が銃を持っている様子は無かったが、形勢逆転とまではいかない。

 

「はぁ…!はぁ…!ジミーのバカが…」

 

ガイが言った。

俺はジミー達が外に出ている事を怒っているのだろうと思った。

 

 

しかし違った。

 

「なに!?サムだって!?」

 

「おい!OG-Bだ!」

 

ギャングスタクリップの奴等が口々に叫び出した。

これはまずい。

 

「みんなやっちまえ!」

 

「おう!ランドも喜ぶだろうぜ!」

 

うぉぉ!という声を上げながらクリップス達が一斉に俺とガイに向かって走ってきた。

だが、二人の内どちらがOG-Bなのかは分かっていないのか、俺達を両方狙っているようだ。

 

だが、ガイが信じられない言葉を叫んだ。

 

「おい!ガイ!しっかり俺を守れよ!」

 

そう言うとガイは振り返って奴等から逃げるように駆け出した。


「な!?」

 

俺は耳を疑った。

クリップスの奴等はガイの言葉に騙されたのか、奴一人に標的を絞って追いかけ始める。

 

ガイはどんどん小さくなり、クリップスも全員それに続いて行った。

 

B.K.Bのホーミー達はポツンとその場に突っ立ったままだ。

もちろん俺も例外ではない。

 

「…くっ!おい!ジミー!仲間を集めてくれ!」

 

俺はその台詞だけを残すと慌てて駆け出した。

 

 

「クソ!おとりだなんて!無理しやがって!はぁ…はぁ…」

 

すでに息が上がっていた俺はどんどん奴等から離されていき、ついにガイもクリップスも見失ってしまった。

 

ウォン!

 

目の前で聞こえたバイクの音。

 

ボォォ…

 

停車して俺を手招きする。

俺は心躍った。

 

「ほら!ケツに乗れよ、ニガー!」

 

「助かったぜ、ライダー…」

 

思ったよりも早く駆けつけてくれたこのハンサムに俺は感謝した。

すぐに発進する。

 

「よう。それで、ガイはどの辺にいるんだ?」

 

「まだ遠くには行ってないはずだ。近くを探そう」

 

ファイアボールは直進した。


 

バイクでの捜索を開始すると、アッと言う間に奴等に追いついた。

 

「いたぞ!」

 

ライダーが叫ぶ。

場所は住宅の裏で、明かりもないような場所だった。

俺は嫌な予感がした。

 

奴等はバイクのライトに気付き、こちらを見ている。

 

「いくぞ、B!つかまってろよ!」

 

ライダーはそう言うと奴等にそのまま突っ込み、ジャックナイフをしながらターンした。

 

バコッ!

 

「ぐあぁ!」

 

「うあっ!」

 

なんと、ライダーは宙に浮いたリアタイヤを奴等にヒットさせて数人を吹き飛ばしたのだ。

それも俺をケツに乗せたままだ。

 

「おい!B.K.Bの仲間だ!みんなやっちまえ!」

 

ギャングスタクリップの連中も反撃しようと襲いかかってきたが、ライダーが急発進、そしてターンを繰り返すせいでバイクに近付くだけで吹き飛ばされていく。

 

「おらぁ!」

 

一人が真後ろから、俺達をブサから引きずり下ろそうと襲ってきた。

 

「ライダー!あぶねぇ!」

 

パァン!

 

それまでは後ろに乗ってライダーにしがみついていただけの俺だったが、こればかりは必死の思いで発砲した。


ゴォォ…

 

裏路地には強風が吹き込む音が響いていた。

 

ボロボロになってしまったファイアボール。

その近くに立つ、真っ赤な服に身を包んだ俺とライダー。

周りには撃たれて、あるいは轢かれて倒れこんでいる紺色のギャングスタクリップ達。

 

ソイツらから時折「うぅ…」「いてぇ…」といったうめき声が聞こえた。

奴等のほとんどは生きていたが、ライダーはたった一台のバイクで奴等を倒したのだ。

 

「おい…せっかくのバイクが」

 

「いいんだよ。仲間の命には代えられないからな」

 

「そうか…お前は銃よりも乗り物を使った方が敵を倒せるな」

 

俺は笑った。

その時。

 

「ぐっ…お…い…」

 

少し離れた場所から声がした。

そっちを見ると赤い服を着た奴が倒れていた。

 

「ガイ!?」

 

ライダーが駆け寄る。

俺も走った。

 

すでに奴等に追いつかれて攻撃を受けていたのだ。

俺達がもう少し遅れていたら…ガイは殺されていたかもしれない。

 

「助かっ…た…ぜ…ホーミー」

 

「マザーファッカー!お前がバカな事をするから…!」

 

俺の目は安心から涙でいっぱいになった。


「おーい!大丈夫かぁ!?」

 

のしのしとマークが歩いてきた。

その後ろからはホーミー達も続々と集まってくる。

 

B.K.B全員集合だ。

無事に集まる事ができてよかった。

 

「あちゃあー!ニック!ひどいなそりゃ」

 

ジミーがファイアボールを指差して苦笑いしている。

 

「いいんだよ。また直せば」

 

ライダーはそう言いながらガイに手を貸して引き起こした。

ガイが、うっ…と小さくうめく。

 

「ジミー!シャドウ!元はと言えばお前達が外に出たりするからコイツがこんな目にあったんだぞ!」

 

俺は怒鳴った。

奴等がシュンと縮まる。

 

「それよりも…コイツら…どうするんだ?」

 

ブラックホールがそこら中に倒れてうめいているクリップスを見ている。

 

「殺ろう」

 

マークが言った。

みんなもそうだそうだと口々に発している。

だが俺は拒否した。

 

「いや、殺しても意味がない。

 

…おい!クリップス!もう俺達の町から出て行ってくれ」

 

「なに!?甘いぜ、ニガー!」

 

マークが反発した。


「俺達は、地元でバカやって暮らしていくのが望みだ。

ギャングスタクリップに恨みがないわけじゃねぇ。だが冷静になって考えればギャングスタクリップを全滅させる事が目的じゃないだろ?物理的にも無理な話だ。仲間の犠牲も嫌でも増える。

それに…コイツらがすべて悪いんじゃない。一番悪いのはランド、ただ一人だ。

コイツらだって奴の命令さえなけりゃ今もサウスセントラルにいたはずだ」

 

「だが仲間が何人もコイツらから殺られてる!スノウマンがいたら今頃コイツらの脳天はブチ抜かれてるぜ!

お前の銃は飾りか!?そんなことじゃクリックのヤロウもあの世で泣いてるぜ」

 

「そりゃ当然俺もムカついてる!抗争の時は命張って戦う!

だがこうして地元に俺達は戻ってきた!もし復讐を終わらせるならランドの首で十分だろ!」

 

俺は息を荒げてマークに言った。

 

「それは間違いじゃねぇけどよ…今逃がしたら、いずれコイツらだってまた俺達とぶつかるぜ。ランドと接触すらできねぇ」

 

マークが悔しそうに地面を蹴ってつぶやいた。


するとシャドウが横から言った。

 

「今のギャングスタクリップはよ、ランドがすべてを動かしてる。

奴は俺達のサムのようなリーダーなんてもんじゃない。奴はギャングスタクリップの『ボス』だ。

そして奴は仲間をホーミーではなく『手駒』『部下』…そんな風にしか見てない。

だからコイツらは…仲間の暖かさを知らないんだ。可哀相によ。ギャングとして生きる事は命令を忠実にこなす事だと勘違いしてる。

本当のギャングスタの生き様ってのは仲間、家族、地元を愛して生きていく事だと知らずに…」

 

「…かつてのギャングスタクリップはそうだった」

 

みんな一斉に振り向いた。

クリップスの一人が半身、壁にもたれ掛かかって起きていたのだ。

奴は続けた。

 

「ランド…あの男が現れて変わったんだ。俺達は統率され、自由は失われた。まるで軍隊のようにな…」

 

「興味深いな」

 

シャドウが言った。

 

「俺達の中でも、若い奴等以外の古くからギャングスタだった奴等は、ほとんどがランドを恨んでるのさ…」


「反抗しなかったのか?」

 

俺は片膝をついて奴に問い掛ける。

 

ゆっくりと、ソイツはすべてを話してくれた。

 

「もちろん始めの内はあったさ。何様だ、てめぇ!ってな…

ところが奴の力で兵隊の数が増えていくにつれて、俺のような古い人間も奴に従うしかなくなっていったんだ…今となってはほとんどが奴に忠誠を誓ってる。

実はこのイーストL.A.に送り込まれてる仲間達は元々は俺みたいな古株が多い。

捨て駒なんだよ。わざわざお前達B.K.Bを生かして、戻ってきた時には俺達とぶつからせる。

それでB.K.Bが無くなろうが、俺達古株のギャングスタクリップが全滅しようがそれはそれでよし…

そういう考えなんだよ。だから奴がいるサウスセントラルからは俺達に何の手助けも無かっただろ?」

 

「なんて奴だ…俺達の這い上がる姿が見たいなんてだけでも腹が立つのに、それは嘘で…俺達といらない仲間をぶつからせるつもりだっただと!?ふざけやがって!」

 

俺は吠えた。

 

「俺達へのランドからの命令を教えてやるよ。

『B.K.Bを殺せ。そしてサウスセントラルには戻らず、一生イーストL.A.にとどまれ』

俺達は…帰れない」

 

奴は俺に笑顔を見せたが瞳からはポロポロと涙が流れた。


「まったく、なんて奴だ…敵に同情するってのもおかしな話だが、お前達の事は気の毒に思うぜ」

 

俺はそのクリップスの肩に手をかけた。

勢いづいていたマークもこの時は黙って奴等を見下ろしていた。

 

 

ガイの作戦により、奴は地元まで見事に俺達を帰還させた。

だがガイはそれだけでは終わらせなかった。

 

「よう…」

 

ガイがライダーにしがみついたまま声を出した。

みんなボロボロになったガイを見る。

奴のケガはひどかった。

しかし命に別状はないようだ。

 

「ギャングスタクリップを…内部崩壊させてみないか」

 

「どういう事だ?」

 

俺が聞き返す。

 

「昔のギャングスタクリップに戻すって意味だ。どちらにしろコイツらはサウスセントラルには帰れない。

だったら俺達の地元にいるクリップスをランド達から引き離せばイイ」

 

「それでもサウスセントラルには帰れないだろ。殺されるだけだ」

 

俺とガイのやり取りをB.K.Bのホーミーもギャングスタクリップの連中も黙って聞いていた。


「古株の奴等でサウスセントラルに残ってる奴はいないのか?」

 

ガイが座り込んでいたクリップスにたずねた。

 

「…少ないが、いる」

 

「そうか。だったらソイツらと連携する。それに新しい兵隊の中にもランドに反感を持っている人間が少しはいるだろう」

 

「そんなもの、信用ならないぜ。どのくらいの戦力になるか分からないしな」

 

俺が首を振って言った。

 

「人数の問題じゃないんだよ…上手くいけば無限に仲間は増える。

昔言ったじゃねぇか?ランドと俺の…知恵比べだ。

クレンショウブラッドを思い出せ。今度は…奴が仲間から裏切られる番だ」

 

ガイはケガの痛みからか、ひきつった笑みを浮かべて続けた。

 

「だが、肝心なのは…クリップス、お前達がやるかやらないかだ。ランドはお互いにとって邪魔な人間だろ?やるなら少しは手助けしてやれるぞ…」

 

「もう…俺達に帰る場所はない…

…やらせてもらう」

 

「決まりだな」

 

ガイはふらつきながら歩き、そのクリップスの左腰から紺色のバンダナを引き抜いた。

そして自分の右腰からは赤いバンダナを抜く。

 

そしてその二枚をガッチリと結んだ。

それは同盟の証、そして俺達の地元の安全を意味していた。

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