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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
36/61

Saga

奴が戻る。

今も語り継がれるB.K.B最強の知略の持ち主が。

俺達はギャングスタクリップに変装して車数台に乗り込んだ。

悔しいがまた一度地元を離れてロングビーチのアジトに戻らなくてはならない。

 

「なるほどな。ロングビーチで暮らしてたのか」

 

「あぁ。お前もまさかクリップスに紛れてたなんて。

しかもこんなにも仲間を…」

 

「B.K.Bも、これで人数が増えるな。みんなに会うのが楽しみだぜ」

 

車内では俺とガイの会話だけが響いていた。

今生きているメンバー、そしてガイが知らない間に死んでいった仲間達の話を詳しくする。

 

「…スノウマンが逝ったか…それにジャックとクリックも…

R.I.P.…

コリーは出てきてるんだな?」

 

「あぁ。相変わらず車の事ばっかり考えてるよ」

 

「そうか。そういや俺が旅立った時、空港での下手なみんなの芝居を思い出すと笑いが出るぜ」

 

死んだ仲間の為に胸で十字をきるとガイが言った。

やはりみんなと顔を合わせるのが楽しみなようだ。

 

にせクリップスを積んだ車は南下する。


地元を出ると、途中で一度車を停めてみんな服を着替えた。

さすがにこの格好でB.K.Bのアジトに近付いては危ない。

 

俺とガイは赤い服に着替えたが、C.K.Gのメンバー達は自重して普段着になる。

まだ正式にB.K.Bに迎えていないからだ。

アジトについた後に一人一人を仲間として認めるつもりだった。

 

「さぁ、行こうか。お前達みんなをOG達に紹介しないとな」

 

ガイが仲間に言った。

 

誇りを持ってあこがれていた地元ギャング『B.K.B』に合流できる事に感激したのか、あるいは俺が長く連れ添ってきたE.T.達を『OG』と認識した上でビビったのかは分からないが、C.K.Gの奴等は「おぉ…」という何とも言えない声を上げていた。

 

「なんだ?もっと元気出せよ!てめぇらの目の前にいるのはOG-B。Big.Kray.Bloodのドン、サムだぜ!

元気のない奴はサムに掘られるぞ!しっかりケツをふさいで気をつけとけよ!」

 

ガイが軽いジョークを飛ばすと車内には大きな笑い声が上がった。

 

「おい、ガイ!俺がそんなことするかよ!」

 

俺も笑いながら『コイツらなら、仲間として頼もしいな』と思った。


 

アジトに到着するまでの間、若い奴等にB.K.Bの歴史を短く話してやった。

 

もちろん車は数台あるので若い奴等全員ではなく、話を聞けたのは俺とガイのいる車に乗り合わせた奴等だけだ。

目を輝かせて真剣に聞いてくれたので俺も気分がよかった。

 

ここ最近の話になると、ガイも知らない部分が多く、時折質問をぶつけてくる。

 

「T.R.Gってのは?」

 

「ロングビーチのアジアンギャングだ。気のイイ奴等で俺は好きだぜ」

 

「それにビリーって売人も気になるな。お前達の装備は『軍』そのものだったぜ。正直驚いたからな」

 

ガイが笑った。

 

俺は少し話題を変える。

 

「ニガー。俺が撃たれた時に駆け付けたのは偶然か?」

 

「…いや。最初からいた。だが紛れ込んでいる身だ…奴等がとどめをさそうとするのを止めるだけで精一杯だった。『コイツはもう死ぬから大丈夫だ』ってな…」

 

なるほど。ギャングスタクリップから怪しまれないように攻撃には参加していたのか。

賢い選択だ。

ガイがいてくれて助かった。


しばらくすると海が見えてきた。

まさかまたここに戻ってくるとは。

 

だが、ギャングスタクリップを攻撃したことで得たものは大きかった。

ガイとの再会、C.K.Gとの出会い。

 

しかし、地元を取り戻す事には失敗した。

 

今回、ランドはイーストL.A.にはいなかったので、おそらくサウスセントラルにいるはずだ。

 

次に俺達が戻る時には、ランドも何かしら手をうってくるに違いないと俺は思っていた。

 

「この辺りがアジアンギャングの奴等の居住区だ。ここを過ぎて左に入れ。アジトが見えてくる」

 

途中、T.R.Gのテリトリーを通過する。

奴等は数人道端に出ていて、こちらを睨んでいた。

 

窓を開けてハンドサインをかかげると、俺だと気付いて手を上げてくれた。

 

 

真っ赤なタグだらけのボロ小屋が見えてきた。

クリックの残した落書きキャンパスだ。

 

車を停めて下りる。

 

B.K.Bのメンバー達は全員外に出ている。

実は俺がすでにジミーに電話を入れて帰りを伝えていたからだ。

どうやらみんな元気でいてくれたらしい。

 

B.K.BとC.K.Gは全員向かい合って並び、初めて顔を合わせた。


「サム。ジミーから今日帰ると聞いた」

 

まずシャドウが口を開いた。

 

「ライダーから詳しい話も聞いたぜ。Bがケガをした事も、ガイがいるから安全だって事もな」

 

これはマークだ。

 

「あぁ、みんな…心配かけたな…すまん」

 

俺はみんなに謝った。

ジミーが一歩前に出る。

 

「もうイイだろ?そんな話はよ。それより重要な事があるだろうが!」

 

「それもそうだな」

 

シャドウが笑った。

 

「…さぁ!!よく戻ったな、サム!!そしてガイ!!しかもこんなに仲間を引き連れて!」

 

続けてマークが叫んだ。

B.K.Bから歓声が上がる。

 

「俺達がB.K.Bだ!ガイの仲間達!お前らを歓迎するぜ、ホーミー!」

 

ジミーがはしゃぎながら言った。

B.K.Bのホーミー達は、C.K.Gはガイが引き連れてきたイーストL.A.の人間だと知っていたらしい。

ライダーが聞いたのだろう。

それですぐにでも彼等を歓迎する姿勢を見せた。

 

「さぁ、やるか!覚悟は出来てるな!?」

 

マークがガハハと笑った。

手荒な歓迎をやるのかと思ったが、ビールが大量に運ばれてきた。

そういう事か。

新入りは覚悟を決めないといけないな、と俺は笑った。


みんなで適当に地べたに座り込んで乾杯することになった。

 

久し振りに俺が音頭を取る。

 

「新しい仲間達に!そして帰ってきた俺達の親友ガイに!」

 

おぉ!と歓声が上がり、みんな復唱した。

缶ビールがあちらこちらでガツガツとぶつかり合う。

総勢四十人近くの大宴会だ。

俺はこんなに大勢で飲む事を懐かしく思っていた。

 

「しかしよく帰ってきたな!」

 

俺はガイの隣で飲んでいたのだが、ライダーがその間に入ってきて言った。

ガイに拳をぶつけて挨拶している。

 

「ありがとうライダー。お前達なら裏切り者の俺をあたたかく歓迎してくれると信じてたさ」

 

「ははは!お前だって分かってんだろ?出て行く時に臭い芝居しやがって」

 

「ばれてたか」

 

ガイとライダーが大笑いした。

それに乗じて俺も笑う。

 

笑い声につられたのか、それからは続々とE.T.のメンバー達がガイの近くに集まってきた。

 

「ガイ!もう俺はお前を放さねぇ!」

 

ひどく酔ったマークがガイに抱きついて頬にキスをしている。

 

「な!?ガイは俺のもんだぜ!」

 

ムードメーカーのジミーが真似してガイに抱きつき、俺達もガイも大笑いした。


それからは、ほとんどが初対面であるにも関わらずみんな乱れて騒ぎ、飲みまくった。

 

相変わらずジミーがウォークを踏んでいる。

だが、ラップも取り入れた新しいスタイルだ。

マジでレコードデビューを狙っているらしく、その腕前はなかなかのものだった。

ライダーはここぞとばかりにファイアボール(ブサ)でスタント走行やバーンアウトを披露してくれたし、酔ったマークは何と大声で歌を唄っていた。

なかなか見る事のできない光景に新入りはもちろん、B.K.Bのホーミー達も大いに沸いた。

 

そして俺は適当なドラム缶の上に立ち、帰ってきた伝説の男と、地元の為に立ち上がった勇気ある若者達を称えた。

みんなも応え、歓迎の宴は大盛り上がりで幕を下ろした。

 

 

 

 

夜だが暖かく、天気もよかったのでみんなはその場で眠りこんだ。

 

 

夜明け頃、俺は目を覚ました。

みんなはまだ眠っている。

 

「サム」

 

急に声を掛けられる。

振り向くと、ガイが起きていた。

 

そのまま二人で少し酔い覚ましにビーチまで歩く事になった。


俺達はゆっくりとビーチまでの道のりを歩いた。

 

「変わらずにそこにあるって思ってたものが、ここまで形を変えてたとは驚いたぜ」

 

途中、古びたリキュール店でコカコーラを二本買いながらガイが言った。

レジを通して外に出ると、一本を俺に渡してくれる。

 

「ありがとう、ニガー」

 

プシュッ、と音を立てて缶が開く。

 

「まぁ…変わった事だけじゃねぇんだけどな。お前達は変わらずにいてくれた」

 

「あぁ…」

 

ビーチに到着したので砂浜に腰を下ろした。

空になっていた缶を海に投げ捨てる。

 

「ガイ。俺の方こそ、お前とこうしてまた会えるなんて思っても無かった。

確かにB.K.Bは色んな意味で変わったが、お前が今言ったように俺達自体は何にも変わってないつもりだ。

仲間を想い、家族を愛し、地元を誇る…それが本当のギャングスタのあるべき姿だと信じてる。

他のセットがどうこうってのは関係ない。俺達は俺達だ」

 

「そうだな。嬉しいよ」

 

「今も昔も変わらない。お前は俺達の一員なんだからな」

 

俺の言葉にガイは頷き、持っていた缶を俺と同じように海に放り投げた。


「ところで、ドッグ?何か今の状況を覆すイイ方法はないか?

恥ずかしい話だが、俺はお前がいなくなってから、何度『こんな時にガイがいてくれたら…』と思った事か分からないぜ」

 

俺はギャングスタクリップとの争いを終わらせる方法をガイにたずねてみた。

奴は宴会の間に今のB.K.Bの周りの状況をすべて把握し終わっていたようで、もはや事細かな質問はしなかった。

 

宴を楽しみながらもE.T.達からしっかりと聞く事は聞いていたということだ。

俺はコイツとウィザードの行動にだけは、昔から感心させられてばかりだ。

 

「力じゃ勝てないのは分かってる。

だったら頭を使うしかないな。

だが…ランドって奴もなかなかのキレ者らしいな?俺かランドか…どっちが上か試させてもらうぜ」

 

ガイはそう答えて鼻で笑った。

 

「で?どんな手が?」

 

「まぁ、焦るなよ。今考えてる。

…イーストL.A.にいるギャングスタクリップの事はだいたい分かる。ただ数が多いだけだし、簡単にハメれる。

問題はサウスセントラルの奴等が絡んできた時なんだよな…」

 

ガイは腕を組んで何かを考え込んでいるようだった。


 

そのままアジトに戻ると、まだ寝ていた仲間も叩き起こして、室内で久し振りにE.T.だけの話し合いが始まった。

他の新入り達は外で、元からいたE.T.以外のホーミーからロングビーチでの仕事を教わっているようだ。

 

「ガイが戻ってきた。それも仲間をたくさん引き連れてな。

この前は失敗したが、幸いなことに死者は出てない」

 

俺が言った。

そのまま続ける。

 

「神が見てたのかもな?

 

みんな…次こそは…地元に必ず戻るぞ」

 

部屋の中心、テーブルを囲むようにB.K.BのOG達が座っている。

 

マークを筆頭に、コリー、ライダー、シャドウ、ジミー、そしてガイ。

 

マークはバリバリとプリングルスを食べている。

 

コリーはあくびをしていた。

 

ライダーは編み込んだ髪をいじっていた。

 

シャドウはまた朝からビールを飲んでいる。

 

おしゃぶりをくわえていたジミーは、俺の話の中に神が出てきたからだろうか。ふざけた格好だが右手で十字をきり「アーメン」と唱えている。

 

そしてガイは腕を組んで黙っていた。

 

みんなバラバラな事をしている。


 

だが…

 

全員、目だけは真直ぐ俺を見ていた。


「で?何か方法はあるのか?」

 

マークがプリングルスの箱を床に転がして言った。

すぐに缶ジュースを一口あおってタバコに火をつけている。

 

「C.K.Gを上手く使ってギャングスタクリップを内部から壊すのがイイと思うぜ」

 

これはライダーだ。

なかなかの意見だったのでみんなは賛成だ、と手を上げた。

 

「そりゃイイな。混乱するに違いないぜ。なんで仲間が撃ってくるんだ!ってな」

 

シャドウがテーブルに足を乗せて言った。

 

次にガイが口を開く。

 

「それじゃダメだ。人数を覆せるほどの効果はない」

 

「まだ仲間が足りないってことだね」

 

コリーがガッカリしたようにテーブルを叩いた。

 

「確かに仲間は足りないが、仲間を増やさなくても敵を減らせばイイ。

…手が見つかったぜ」

 

一瞬ガイの言っている意味が分からず、その場がシンとなった。

さらに奴が続ける。

 

「C.K.Gが攻撃する相手はギャングスタクリップじゃない」

 

「じゃあ誰を?」

 

「警察だ」

 

なるほど。そしてC.K.Gは隠れ、ギャングスタクリップと警察をぶつけるわけか。

コリーが前に言った「第三者を利用する」話が形となるわけだ。

 

みんなから感嘆の声が上がった。


「さすがだな」

 

俺が言うと、ガイはチラリとこっちを向いて親指を立てた。

 

「C.K.Gはクリップスに紛れて暮らすっていうただの隠れ蓑として存在していたわけじゃない。

いざ奴等とぶつかる時には切り札にするつもりだったんだよ。

だが、一度こうして抜け出したC.K.Gを奴等が仲間だと認識するかは怪しい。それに裏切り者、つまりB.K.Bの差し金だとバレてしまっている危険性もある。

でも警察にとっちゃクリップスもC.K.Gも関係ない。紺色の服を着て警察を襲撃し続ければクリップスにやられたと思い込む。

本格的に警察の『クリップス掃討』が始まるだろうな…」

 

ガイがつぶやくように話した。

 

「そうすりゃ後は俺達が地元に戻るだけだな!」

 

ジミーが笑っている。

続いてシャドウが言った。

 

「自分達の手を汚す事なく…か」

 

「なんだかなぁ。納得いかねぇな。

自分達は何もしないで警察に潰させるなんてよ」

 

マークが空き缶を片手で潰している。

確かに奴の性格からすると退屈な作戦かもしれなかったが、確実に地元に戻るには我慢してもらうしかなかった。


「じゃあ早速行動に移そうか」

 

俺は立ち上がって外にいるC.K.Gを呼び集めようとした。

だがマークに引き止められる。

 

「待て、サム。

C.K.Gのピヨピヨなニュージャック達に全部任せるつもりか?E.T.の誰かが奴等をひき連れて行った方がイイだろ?」

 

「ん?そうだな…」

 

「じゃあ俺にやらせてくれよ、B!俺は自分が誇り高きB.K.Bのウォーリアーだった事も忘れかけちまってるぜ!」

 

マークが太い指をバキバキと鳴らした。

力が有り余っているということか。

 

「それなら普通はガイに頼むところだぜ」

 

シャドウが退屈そうに言った。

ガイは俺を見ている。

俺もチラリと奴を見たが、すぐにマークの方を向いて言った。

 

「…分かった。今回はマークに任せる。頼んだぞ」

 

「よっしゃあ!じゃあ早速準備だ!俺に合う紺色の服を探さないとな!」

 

B.K.Bいちのウォーリアーは意気揚々とアジトをあとにした。

 

ガイはただ頷いていた。

奴もマークに任せる事に異存はないらしい。

 

のちに…ガイはこの作戦の功績を始めとして、様々な策略から『Sagaサーガ』…伝説の男とうたわれる事になる。

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