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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
34/61

Do or Die

殺るか殺られるか。

ただ、それだけだ。

「よう。周りをよく見ろよ。

一人たりとも見逃すな…」

 

俺はトラックの中の二人につぶやいた。

奴等が頷いて返事をする。

 

徐々に見慣れた町並みになってくる。

俺達みんなが生まれ育った町…

 

地元に誇りを持つ俺達ギャングスタにとって、無くてはならないもの。

誰にだって当たり前のように存在しているもの。

 

「おい!見ろ、ニガー!」

 

シャドウが指差す。

様子がおかしい。

ただ単にギャングスタクリップを見つけたわけではないようだ。

 

シャドウの指す先には、数台のパトカーと黒いバンが二台。

 

「いったい何の騒ぎだ?」

 

ブラックホールがある程度の距離を置いてトラックを停車させる。

後ろのバンもそれに習った。

 

 

パァン!パァン!

 

…!

 

銃声。

 

パトカーとバンを挟んで、道の両側には警察官とギャングスタクリップの連中が見える。

 

「アイツら…!」

 

シャドウがイライラとつぶやく。

地元に戻ってまず出迎えてくれたのは、なんといきなりの銃撃戦だったのだ。


「ざまぁみやがれ!マザーファッキンクリップスめ!」

 

興奮してハンドルを叩いているブラックホールに反して、俺とシャドウは静かに怒りをつのらせた。

 

「クソ!俺達B.K.Bの土地で派手に好き勝手やりやがって…」

 

「警察相手に銃撃戦だと?なめた真似しやがる。サム、どうする?」

 

シャドウが俺にきいてきた。

すでに銃のセーフティロックを解除してバンダナで口を覆い、攻撃準備は整っている。

 

「悔しいが、今ここで派手には暴れられない。

皆殺しとは言っても、ここで撃てばすぐにおまわりと鬼ごっこになるからな。他を探すぞ」

 

俺の言葉に「確かにそうだな」と二人から返事があった。

 

「よし、近くにまだ奴等の仲間がいるはずだ。

この騒ぎに気付いて駆けつけてくるだろうから、ソイツらを仕留めるぞ。ブラックホール、車を出してくれ」

 

「了解。そんじゃあ、いよいよ狩りの始まりだな」

 

すぐにジミーにも電話連絡を取り、警察と撃ちあっているギャングスタクリップの奴等だけは無視するように伝えた。

 

ジミーは少し不満そうだったが、途中でマークの「任せろ、B。俺達はお前についていく」という声が聞こえた。

どうやら横から携帯電話をジミーから取ったらしい。


俺達は車を二台、ピタリとつけて町を走った。

だが案外、先程の銃撃戦を繰り広げていた奴等以外の敵は現場近くでは見当たらない。

 

仕方がないので、俺達のホームタウンへと車を走らせる。

深夜のセントラルパークやマックなど、懐かしい光景が広がる。

 

トラックのライトが照らす先、道の両側の住宅の壁にタグが見え始めた。

 

『B.K.B』の上から×印をつけられ、『Gangsta Crip』の文字が紺色のスプレーで記されている。

 

「やっぱりこうなっちまったんだな…」

 

シャドウが残念だ、というような声で言った。

 

この時の地元の様子は、ブラックホールを迎えにいったライダーぐらいしか知らなかった。

だがあの時は奴もかなりのスピードで駆け抜けたに違いないのだから、あまり覚えてはいないだろう。

 

ブラックホールが帰ってきた時、俺達は奴の帰りばかりに気を取られて地元の様子を知ろうとしなかった。

 

ライダーに様子を探るような指示も出して無かった。

もちろん仲間の命が最優先だったからだが、その理由もあって俺達にはまったく情報が無いという事だ。


地元の中でもさらに地元。

俺達が暮らしていた居住区に入った。

 

もはや何軒か、ホーミー達の家も見えている。

そのホーミー達はみんな、家に入って家族と会いたいに違いないが、まだそれは許されない事だ。

 

そこら中にある家はどれも電気がついていて、人が生活している様子はあった。

ギャングスタクリップが俺達のアジトに住み着いてからも、特に住民達は問題なく暮らしているらしい。

 

それだけは間違いないと確認できたので、ひとまず俺は安心した。

 

「いたぞ」

 

だが、それも束の間。

ブラックホールの声で俺はハッとした。

 

道の脇にある歩道を、紺色の服を着たギャングスタクリップの連中が三人、歩いていたのだ。

 

車内には一気に緊張の糸が張り詰める。

ブラックホールが車のスピードをゆるめて、右側の窓を開けた。

 

「サム?」

 

助手席に座っているシャドウが言った。

俺はこの時、真ん中の席に座っていたので車内からは撃てない。

 

「サム?ドライブバイでイイのか?

早く指示を出せ!通り過ぎるぞ!」

 

シャドウが焦って俺の体を揺する。

 

「あぁ、いよいよ狩りの始まりだ!」

 

俺の答えと同時に銃声が轟いた。


「うぉぉ!死ね!クリップスのクソったれが!」

 

ダダダダ!とマシンガンの重たい金属音がしてシャドウの銃から弾丸が連続ではじき出される。

 

振り返ると後ろのバンからも、右側の窓からマシンガンの銃身が突き出して銃口が光っている。

つまり発砲しているという事だ。

 

そんな仲間達の戦いぶりを尻目に、俺はコリーとシャドウとの間で黙っていた。

 

「B.K.Bが帰ってきたぞ!マザーファッカーが!」

 

シャドウがハンドサインをかかげる。

奴等三人が倒れ込んだのを確認すると、すかさずブラックホールがトラックを発進させる。

 

「殺ってやったぜ!」

 

「あぁ!見事だな、ニガー!」

 

シャドウとブラックホールが叫ぶ。

 

久し振りの大きな抗争で俺の体は小刻みに震えていた。

 

ギャングスタクリップとの抗争での大敗が頭の中にフラッシュバックしてきたのだ。

多くの仲間の死が思い出され、また誰かが死ぬんじゃないかという恐怖にかられていた。


「大丈夫かドッグ」

 

そんな俺の様子に気付いたのか、運転席のブラックホールが声を掛けてきた。

 

その時…

 

バァン!

 

どこからか大きな音がして車内は大きく揺れた。

突然の出来事に俺が叫ぶ。

 

「なっ!?どうしたんだ!コリー!」

 

「クソ!やられた!左前輪だ!ハンドルが重てぇ!」

 

トラックは左右に蛇行しながら、キィキィと嫌な音を立てた。

パンクのせいでホイールが直に道路に接地しているせいだろう。

後ろのバンが俺達の右側につけてきた。

 

「大丈夫か!?火花が出てるぞ!!」

 

シェビーバンの運転席からライダーが叫ぶ。

 

「ダメだ!こんなんじゃ走れ…うわっ!アイツらだ!」

 

ブラックホールの言葉が途切れる。

別のギャングスタクリップの連中が、離れた道路わきからこちらに向けて発砲していたのだ。

恐らくパンクの原因は奴等の銃弾だろう。

ついに俺達に気付いたのだ。

 

「アイツら!…クソ!」

 

ライダーがバンの車体でトラックをかばうように走る。

バンの中のホーミー達は怒号を上げながら一斉に車内から放射した。

 

やがてトラックは縁石にぶつかって停車し、そのせいで俺達全員はその場での銃撃戦を避けられなくなった。


 

俺達は動かなくなったトラックとバンの陰に隠れて奴等と対峙した。

ギャングスタクリップ達は拳銃でけん制しながら、ジリジリとこっちに近付いてきているようだ。

 

「やべぇぞ!奴等の人数は何人だ!」

 

マークが叫ぶ。

 

「五…いや六人だ!大丈夫だ!あのくらいなら殺れるぞ!」

 

ホーミーの一人がそれに返事をした。

 

俺達十人は狭いスペースに身を寄せあっていたが、マークがまず怒号を上げながらマシンガンを乱射して突っ込んだ。

 

「うぉらぁ!てめぇら皆殺しだ、マザーファッカー!」

 

ダダダダ!

 

それに続いて俺も飛び出し、多くの仲間も続々と突撃を開始した。

 

「さっさと片付けてバンに全員乗り込め!きっと応援がくる!」

 

シャドウの声が後ろから聞こえた。

奴はバンのそばから仲間を援護しているようだ。

そのすきにライダーがバンの運転席に再び乗り込んで車を回す準備にとりかかった。

 

 

…当然の結果となった。

火力の差がものを言い、俺達は圧倒的な力で奴等を全員仕留めたのだ。

 

そして一台のバンにぎゅうぎゅう詰めに全員が乗り込んで、再び出発した。


「そろそろまずいぜ。こんな感じで簡単に少人数を殺れないはずだ。

奴等も連携をとってくるに違いない。大人数に囲まれるかもな」

 

シャドウが言った。

みんな汗ばんでいて車内は異様な匂いだ。

人を殺す時、殺した後に感じる独特な緊張感と興奮からくる汗だった。

 

「何か今の俺達は…何て言うかソルジャーみたいだよな。そこらのギャングとは比べられない装備に信頼。

今からでもベトナムに行くか?きっと間に合うよ」

 

ブラックホールがジョークを飛ばし、みんなからは小さな笑いが起きた。

 

すぐに、パァン!パァン!パァン!と銃声が聞こえて緊張した状態に戻る。

 

「ほらほら…続々と出てきたぜ。ざっと十人くらいか」

 

運転していたニックが言う。

 

いち早く敵の位置を確認し、バンが道の中央線にある植林に隠れて奴等が安易に銃弾を当てれないように車線を逆走させている。

さすがはライダーだ。

 

俺からはまだ奴等がいる場所もよく見えていなかったのだが。

 

「いくぜ」

 

ガシャン!

 

突然中央線の木を倒してライダーは元の車線に戻った。

 

そこは…

 

奴等の目の前。

 

俺達は窓から一斉に銃を構えた。


パァン!パァン!

 

俺達の突然の接近に驚きながらも、奴等は二、三発撃ち込んできた。

 

だが、やはり連射もきかずに安定性も低い拳銃だ。

おまけに驚いて手元が狂っている。

銃弾はバンのボディに当たって、カチンカチンと音を立てただけにすぎなかった。

すぐに俺達が応戦する。

 

「おらぁ!B.K.Bだ!帰ってきてやったぜ!」

 

ホーミーが叫んでいる。

マシンガンの音が鳴り響き、熱くなった空薬莢がそこら中に飛び散った。

 

バタバタと奴等が一人ずつ吹っ飛んで倒れていく。

 

「殺った!」

 

ジミーが銃を片手に大はしゃぎしている。

 

だが全員死んだと思っていたギャングスタクリップの連中の二人が立ち上がり、腕を押さえながら走って逃げ始めた。

 

「いや…見ろ!逃げるぞ!」

 

俺が指差して怒鳴った。

 

パァンパァン!

 

パァン!

 

ライダーが運転席から身を乗り出し、なんと片手で拳銃の弾を数発奴等の背中に撃ち込んで倒した。

 

これにはホーミー達のテンションも上がる。

うぉぉ!という歓声と「B.K.B!」の掛け声が上がった。

 

「イケる!これならイケるぞ!」

 

シャドウがついにそう言った。


ライダーがバンを発進させる。

 

一度俺達の居住区から多少離れてしまっていたが、道を戻してアジトの方へと近付いていく。

 

またホーミー達の家がちらほら見え始めた。

 

「懐かしい景色だ…」

 

俺の口からそんな言葉が出てきた。

 

「ウィザード…ガイ…」

 

家の前を通りすぎる度に、仲間達の名前を呼んでみる。

 

「何をブツブツ言ってんだ、B?」

 

マークが俺の顔を見ている。

バンダナで口を覆ったまま小声で話しているのだから、当然何を言ってるのか分からないのだろう。

 

「俺達には仲間がいる。アイツらがきっと守ってくれるって言ったのさ」

 

「はぁ?」

 

「だから…」

 

キィ…

 

突然バンが停車した。

 

「簡単には入らせてくれないようだぜ」

 

これはライダーの声だ。

 

車はこの時、アジトの目と鼻の先までたどり着いていたが、停車を余儀なくされた。

 

 

 

アジトの前の道端は紺色に染まっていた。

百…いや二百か。

 

ギャングスタクリップのメンバー達が集結して、こちらを睨んでいたのだから。


「さて、いっちょやるか?」

 

ジミーがバンダナを口から外してニヤリと笑い、俺に話し掛ける。

まったく…コイツだけはどんな苦境でも楽しむ事を忘れない奴だ。

 

「そうだな。

おいライダー、いつでも離脱できるように車は回したままにしておいてくれ」

 

「俺だけドンパチはおあずけかよ」

 

ライダーが残念そうに首をふる。

 

「まぁそう言うなよ。仲間の命が第一だ」

 

「チッ…」

 

渋々ライダーから了解を取ると、俺はみんなに語りかけた。

 

「武器があるとはいえ、こっちにとっては圧倒的に不利な状況である事に変わりはない!

みんな気を引き締めて必ず生き延びろ!」

 

「サム。俺達はもうすでに一度は死んでるはずの命だ。俺はここで散ってもイイと思ってる」

 

このホーミーの一人の返事に俺は驚かされた。

 

「ダメだ!死んでも生きろ!」

 

 

車内が急にシンとした。

 

徐々に小さな笑いが起き、ホーミー全員での大爆笑へとなる。

俺は一人キョトンとしていた。

 

 

「『死んでも生きろ』か…お前らしいな。メチャクチャな命令だぜ」

 

マークが俺の両肩をがっしり掴んで豪快に笑った。

 

 

死んでも生きろ…

俺もようやく笑った。


クリップスの奴等はこちらを睨んだままピクリとも動かない。

周りの住民達もどうして奴等がこんなに集結しているのかと不思議に思ったのか、窓やドアから顔を出している者もいた。

その中にはB.K.Bのメンバーの家族も何人か確認できた。

 

「行くか」

 

ジミーがタバコに火をつけてスライドドアを開け放った。

 

クリップスが一斉に銃を構える。

拳銃や散弾銃が主な武器のようだ。

 

次々と仲間が飛び出していく。

俺は最後まで車内に残った。

そしてライダーと拳をぶつけ、しばしの別れの挨拶をかわした。

 

「サム。必ず全員このバンに戻してくれ。俺は寂しがり屋なもんでよ」

 

「分かった。約束する。死んでも生きてやる」

 

ハッとライダーが鼻で笑った。

すぐに俺は車から飛び出し、ドアを閉める。

ライダーがバンを発進させた。

少し離れた場所に停車して安全を確保している。

俺は叫んだ。

 

「B.K.B 4 life!」

 

「B.K.B Ⅳ life!!」

 

仲間が応える。

地元の住民達の驚いた顔が見えたが、それを無視して俺達はハンドサインをかかげ、銃を天高く突き上げた。


「くたばれ、クリップス!俺達はB.K.Bだ!容赦しねぇぞ!」

 

マークの雄叫びを皮きりに、全員が発砲しながら突撃した。

 

「行け行け!みんな進め!」

 

ジミーが手を回しながら叫んで仲間を誘導している。

戦争映画に出てくる兵隊の真似事だろうか。

 

仲間は徐々に後ろ以外の三方に広がる。

路地にある電柱や家の陰など、様々な物で身を守りながら確実に敵を仕留めていく。

 

だが、固まっていたクリップスの奴等もすぐに散らばって、俺達を包み込むように広がり始めた。

 

「まずいな。退路を経たれちまう」

 

唯一、俺の近くにいたコリーが言った。

 

「よし、ブラックホール。お前はライダーが待つ車までの道を守れ。できるか?」

 

「…あぁ、分かった。じゃあまた後で」

 

コリーが銃を乱射しながらバンのそばまで退いていく。

ライダーと連携を取れば恐らく簡単に敵は近付けないはずだ。

 

パァン!パァン!

 

…!!

 

俺は驚いて振り向き、身をかがめた。

近くにクリップスが数人いたのだ。

 

「クソ!」

 

発砲しながら物陰に隠れる。

 

「さてどうするか…」

 

俺はマガジンを交換してつぶやいた。


パァン!パァン!

 

容赦なく奴等からの銃弾が俺の近くをかすめた。

物陰に隠れているとはいえ、殺られるのは時間の問題か。

 

ダダダダ!

 

俺も顔を少し出して撃ち返す。

だがこんな状況では当たるものも当たらない。

クリップスの奴等の怒号が聞こえる。

チラリと見ると人数が少し増えていた。

 

 

やがて持っていたマガジンが底をついた。

近くにはホーミーの姿もない。

 

「マジでやべぇ…殺られちまう」

 

俺はマシンガンを投げ捨て、グロックを腰から抜いた。

 

「早く出てきやがれ、B.K.B!殺してやるぜ!」

 

奴等の一人が叫ぶ。

同時に俺は飛び出した。

 

殺るか殺られるか。

 

だが…

 

 

 

俺は『死んでも生きる』。

 

 

 

 

「うぉぉぉ!!」

 

パァン!パァン!パァン!パァン!

 

クリックの形見、グロックが火をふいた。

 

パァン!パァン!

 

「ぐっ…!」

 

急に足が前に出なくなった。

そのまま肩から崩れ落ちる。

 

こんな時に…

そう思っていたら、腹の辺りが何だかアツくなり、何かで湿っているのを感じた。

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