Black hole
待ちに待った。
B.K.Bを立て直す事が出来ると信じて。
ブラックホールが出て来るまで一ヵ月を切ったくらいだったと思う。
俺達九人は近くのビーチの砂浜に座っていた。
「コリーが入ってるのは地元のムショだ。迎えに行ったところをギャングスタクリップに狙われやしないか?」
これは俺だ。
みんなからの意見を待つ。
シャドウから返答があった。
「いや、そうとも限らないぜ」
「なんでだ?」
一人だけ寝そべっているマークがきいた。
砂を掴んでは自分の腹にもっている。何がしたいんだろう。
「ムショの前だからな。面白がって挑発してくるかもしれないが、攻撃はないだろう」
「後をつけられて攻撃されるかもしれない」
俺がシャドウに言った。
「サム…コリーを見捨てるのか?奴は何も知らずに家や昔のアジトに戻るぞ」
「それはないが。うーん…」
俺がうなっていると、ライダーが急に手を上げた。
「俺がブサで迎えに行けばイイだろう」
みんなが奴を見た。
確かに悪い意見ではないのだが心配だ。
「任せろ。俺がクリップスにつけられるわけねぇだろ。必ず奴を連れ帰る」
ライダーがハンドサインをかかげた。
「ライダー…俺達がタウンカーで護衛したほうが」
「いや、必要ない。大丈夫だ」
シャドウの申し出を、ライダーがすぐに断る。
「確かにバイクは逃げやすいが…弾を受けちまったら終わりだぜ?」
マークが言った。
腹の上の砂はかなりの量になっていて、それ以上砂を乗せるのをやめていた。
元々の奴の大きな腹がさらに大きく見える。
よく見るとジミーがこっそりマークの腹の砂山でトンネルを作ろうとしている。
マークは気付いていない。
「だが、バンやタウンカーが追い込まれておしゃかになる方が痛手だろ?俺のブサには銃弾も追いつけないぜ」
もちろんそんなわけはないのだが「絶対にヘマはしない」というライダーの意気込みは伝わってくる。
「分かった。ここまで言うんだ、奴を信じよう!
みんな、ブラックホールの迎えはライダーに任せるぞ。いいな?」
俺がそう言ったので、みんなは仕方なくといった感じではあったが了解してくれた。
「よし帰るか」
俺は立ち上がった。
マークも立ち上がり、ジミーのギャーという悲鳴が聞こえた。
…
アジトに戻るとマークとジミーの意味不明な言い争いが始まった。
みんなはそれを無視してテーブルを囲みドミノを広げる。
ライダーとシャドウは外にいるようなので、バイクの調子を見ているのだろう。
「人の腹でトンネルを作るなんてよ!」
「じゃあなんで砂を腹に乗せてたんだ!?普通作るだろ!」
「あったかいから腹に乗せてたんだよ!トンネルのせいで腹が冷えちまったぜ」
まったく理解はできなかったが、二人とも笑っていたのでケンカしているわけではないようだ。
俺はソファに寝転がりラジカセのスイッチを入れた。
「この曲…」
生前にクリックが手本としていたラッパー『DJ-Quik』の曲だ。
しばらくするといつの間にやら部屋の中は静まり返っていた。
みんな聞き入っているのだ。
「おいおい!辛気臭いぜみんな!」
場の空気に耐えれなくなったのか、ジミーが言った。
そのまま曲に合わせてライムする。
クリックに比べてジミーのラップは上手かった。
だが、今となっては奴の下手クソなラップが聞けなくて寂しい。
「…クリックとの約束を思い出した」
突然ピタリとラップをやめてジミーが言った。
「B、覚えてるか?クリックのラップと俺のWalkでいつか世界をとるって話」
「なに!?」
ジミーが突然そんな冗談じみた事を言い出したので俺は驚いた。
みんなはジミーの言葉に大笑いしている。
「確かに覚えてるが、本気だったのかよ!?」
「あぁ!クリックがいなくなった以上、俺が両方をやらなきゃいけねぇ!ラップしながらWalkも踏める、最強のギャングスタラッパーになってやるぜ!」
ギャング出身のラッパーは確かに存在するが、曲が売れる奴なんてのはほんの一握りだ。
どんな世界よりも音楽でメシを食っていく事は厳しい。
まぁ、こんな世界の底辺のような生活を送っている俺が言うのもおかしな話ではあるのだが。
「お前のその夢を咎めはしないけどよ…『絶対上手くいく』だとか、『頑張れ』だなんて言ってやれないぜ」
「まあ見てなサム!俺の才能は凡人とは違うからな」
どこからその自信が湧いてくるのかは知らないが、ジミーはやる気満々だ。
みんなからはまた大きな笑いが起きていた。
…
その後、ジミーの懸命の修理で携帯電話二台が使えるようになり、契約も済ませた。
まず俺はコリーの実家に電話をかける。
ブラックホール出所の細かな日取り、時間を聞くためだ。
電話に出たのはコリーのまだ幼い妹で、快く教えてくれた。
今思うと親御さんが電話に出ていたら切られていたかもしれない。
そしてその日から、俺とシャドウ、ライダーの三人でコリーの救出作戦会議が始まった。
シャドウがどこからか地図を持って来た。
「ここを通って行くのはどうだ?」
「いや、挟まれるかもしれない」
これは俺とシャドウのやりとりだ。
ギャングスタクリップから上手く逃げれるルートを地図をなぞりながら探す。
「どんだけ道を考えてたって、不測の事態ってもんがあるぜ。あの辺は地元だし、庭みたいなもんだろ?
どうにだって逃げれる。運転するのは俺なんだ、心配はないさ」
ライダーは地図なんか見たくもないというような仕草をしてみせた。
それもそうだな、と地図をたたむシャドウ。
二人ともバイクの改造と整備に時間を費やしたいらしい。
アジトの外に出た。
ライダーとシャドウはすぐにブサに近付いていく。
「タイヤがかなり減ってる。換えておかないと思ったように走れないんじゃないか、ニック?」
「そうだな、まだ絶好調なわけじゃないんだ。できれば一度エンジンもバラして中を見てみたい。それにタイヤよりもブレーキパッドを変えるのが先だ」
俺は地面に座り込んでそれを眺める。
「パッド?ブレーキが効いてもタイヤがこれじゃあケツが滑るぞ」
「分かってねぇな、ブライズ!ケツが滑る方がカッコよくターンできるだろ!」
「マザーファッカー!カッコなんざ気にしてられるか!転倒したら二人とも殺られるかもしれねぇだろうが!」
ライダーの言葉にシャドウが奴の胸ぐらを掴んだ。
ライダーは両手をあげている。
「OK、ニガー。タイヤも交換しよう。だからその手を放して落ち着けよ」
「お前がふざけるからだろ!ウィリーやジャックナイフみたいな危ない運転もコリーを乗せてる間はやめておけよ。
ジミーのアホとは違うからな。落として帰ってきてもらっても困るぜ」
シャドウはライダーから手を放した。
「サム、ちょっと手伝ってくれ!タイヤをはずしたい!あとエンジンも下ろすからよ!」
突然シャドウが座り込んでいた俺に声を掛けてきた。
腰を上げてそちらへ向かう。
「タイヤ…後輪か?ジャッキはどうする」
ブサにはセンタースタンドがないので人力でケツを浮かせる事はできない。
「そんなもんねぇよ。そこに落ちてるコンクリートのブロックを噛ませるからその間は持ち上げててくれ」
ライダーが当たり前のように言った。
手元にあるのはモンキーやドライバーみたいな簡単な工具だけだ。
持ち上げるって…車ではなくバイクであるとはいえ二百キロはあるのだが。
「マークを呼んでこようか?」
「おい、サム!なにビビってんだよ!バイクくらい二人いりゃ持ち上がるだろ」
シャドウが笑いながら言ったので俺はため息をついた。
仕方ない。手伝ってやるとするか。
「数分くらいでイイからよ。そのくらいあれば後輪は外せる」
「そりゃ長いな…それよりまず換えのタイヤを拾ってこいよ」
俺が言うと二人は目を見合わせて笑った。
「そういえばそうだな!!」
ライダーの言葉に俺は今度は安堵のため息をついた。
…
コリー出所前日。
俺の目の前にはブリンブリンにいじくり回されたブサが鎮座していた。
バカが。修理していく内に、いらない改造まで取り入れている。
ライダーは分かるが、奴の胸ぐらを掴んで叱っていたシャドウの心にも乗り物好きの火がついたらしい。
ハンドル周り、ホイール、フォークはかっちりクロームアップされ、ファットサイズのタイヤ、ボディに真っ赤なフレイムペイント、灯火類は当時まだ少なかった発光ダイオード、サイレンサーはレアな日本製…
ブサを見ないと思ったら、ちゃっかり二人のポケットマネーでイカしたクラッチロケットに仕上げやがった。
後から聞いた話ではジミーも金を出したらしい。
「どうだ。名付けてファイア・ボールだ!」
ライダーが自慢げにみんなに見せつける。
ホーミー達からは歓声が上がっている。
「こりゃたまげたな…こんだけ仕上げちまったら無傷で帰ってこないと話にならないぜ」
「任せとけ、サム!明日の今頃はこのブサとブラックホールを囲んでの大宴会で間違いなしだ!」
ライダーがウォン!とエンジンをふかした。
…
気が気ではなかった。
ブラックホールの出所当日、ライダーが地元へと旅立って一時間あまり。
みんなはただ黙ってアジトで待っていた。
「俺、外で待つわ」
ジミーが席を立ち、バタンと扉を閉める。
「少し心配だな…」
ホーミーの一人が言った。
「ライダーは必ず帰ってくる。信じて待とう」
マークがうつむいたまま言う。
しかし、足が小刻みに貧乏ゆすりを起こしている事をみるとやはり心の中は穏やかではないようだ。
「静かすぎるのも何だか落ち着かないもんだな。音楽をかけても?」
シャドウが言う。
俺は立ち上がってラジカセのスイッチを入れてやった。
…
2Pacが流れてきた。
新曲のようだ。
「お?こりゃ初めて聞くな、ニガー」
「ジミーがレコード店から借りてくるんだ。アイツは流行に敏感だからな」
俺の言葉にシャドウが答えてくれた。
その時。
バン!
扉が勢いよく開いて、ジミーが入ってきた。
「帰ってきたぞ!」
「本当か!」
みんなは立ち上がって外に出る。
遠くからボォォと言う音を立てながら走ってくる一台のバイクが見えた。
バイクがどんどんアジトに近付いてくる。
それは最後にジャックナイフをして停車した。
…
「…ただいま…ホーミー達…」
ケツから降りたコリーの第一声はそれだった。
ライダーもエンジンを切って地に立つ。
みんなは一瞬静まり返る。
そして…
「うぉぉ!!ブラックホール!!よく戻ってきたなぁぁ!」
「コリー!俺達はお前の出所をずっと待ってたぜ!!」
「お帰り!ドッグ!イカつくなったなぁ!」
全員が一斉に叫び始める。
みんなは手を取り合って喜んだ。こんなに嬉しい事は久し振りだ。
泣きながら一人ずつコリーにハグをする。
当の本人だけは照れくさいようで苦笑いをしていた。
体はしっかりと筋肉質になっている。
「無事で何よりだ」
俺はポツンとブサのそばに立っていたライダーと拳をぶつけた。
「あぁ。サム、やっぱり奴等は追いかけてきたぜ。
俺にとっちゃ、なんてことは無い退屈な鬼ごっこだったけどな」
「マジか?とにかく中へ!みんなにお前の武勇伝を話してくれよ、ニガー!」
俺が言うとライダーは当たり前だぜ、と笑った。
みんなはワイワイと騒ぎ始める。
本当にコリーが帰ってきてくれて嬉しい。
もちろん今夜の主役はブラックホールとライダーだ。
しかし、コリーは今のB.K.Bの状態に戸惑っているようだ。
「スノウマンにジャックにクリック…本当に逝ったんだな…それにガイにも会いたかったよ。
空気を壊すようで悪いけど、やっぱり俺は長く塀の中にいすぎた…」
「そうだよな。俺も仲間の最期の時に会えないってのは辛いと思う。
外の様子が知りたかったはずなのに、手紙も出せなくてすまなかった」
「いや。いいんだ、マーク。外も大変だったんだろ?捕まった俺も悪い。
それにしても…地元やホーミー達の命、インパラ、シビック…奪い取るなんて許せない!
俺も全力で頑張るから、みんなで必ず帰ろう!俺達の町に!」
みんなビール瓶をかかげる。
「ブラックホールに!そしてイーストL.A.に!」
俺の掛け声にみんな答えてくれ、それからは暗い話は無かった。
そしてジミーがはやし立てて、ようやくライダーの武勇伝が語られ始めた。
奴がみんなの中心に躍出て、またジミーがみんなに叫ぶ。
「さぁさぁ!ライダーの話を聞こうぜ、ホーミー!」
「ありがとう、ジミー。
…まず、俺が到着した時…ギャングスタクリップの奴等は三台の車で刑務所前に張ってやがった!」
「マジか!それから!?」
ジミーがいちいち反応している。
本当に面白い奴だ。
「俺がコリーを乗せて発進すると同時に追いかけて来たんだ!
予想通り奴等はブラックホールの出所の情報をどこからか手に入れて、俺達と合流させないつもりだったみたいだ」
「敵ながらやりやがるな」
これはシャドウだ。
ライダーが話を続ける。
「だが、奴等は俺達の迎えのアシがバイクだって事は予測できてなかったらしい!
もし車だったら間違いなく逃げれなくなってたな!
だが俺達が一枚ウワテだった。俺のブサに追いつける四輪なんてありはしねぇ!」
「さすがはライダーだぜ!」
「ありがとう、ドッグ!もちろん五秒後には奴等はサイドミラーの彼方だ!銃を撃つ暇すら無かったみたいだぜ、ざまぁみやがれ!」
もちろんこれを聞いたみんなからは、ライダーへの大きな歓声が上がる。
「ガハハ!見事だぜ、ライダー!コイツの働きにも乾杯しようぜ、ホーミー達!」
ほろ酔い気分のマークがライダーに肩を組んで言った。
よし!とみんなも同調する。
「ライダーに!」
「ライダーに!!」
再び瓶がぶつかり合う。
この晩はB.K.Bがロングビーチに追い込まれてから後では最大の宴になった。
ジミーが歌い、マークが豪快に笑い、シャドウが叫び、ライダーが腹をかかえて笑い転げ、コリーは久し振りに仲間と過ごす時間をかみしめていた。
もちろんホーミー達も俺も、ハメを外してアジトの中がめちゃくちゃになるぐらい騒いだ。
「ガハハ!こりゃぁ絶対に片付け役は押しつけられたくないな!」
マークが新たなビール瓶を床に転がして言った。
「間違いねぇ!おい、コリー!ライダー!この騒ぎはお前達のせいなんだから片付けろよー!」
ジミーがこんな調子のイイ事を言うもんだから、みんなから大爆笑が起こる。
「そりゃないぜ、ホーミー!」
コリーの叫びがアジトに響いた。
騒ぎすぎたホーミー達は一人また一人と疲れて眠り始める。
最後まで起きていたのはコリーと俺だけだった。
「寝起きで片付けってのもダルいからなぁ。今の内にやっちゃうか…」
コリーが独り言をつぶやきながら大きなボロ袋を引っ張ってきて、空き瓶やスナックの袋を片付け始めた。
俺も眠い目をこすり立ち上がる。
「ん、B?起きてたのか?一人でやるから寝てなよ」
「主役だけにやらせるわけにはいかないぜ、ブラックホール」
「そうか」
コリーは素っ気無い返事をすると、再びゴミを拾う。
俺が加わったので十分ほどで片付けは終わった。
「サム」
「ん?」
ソファに戻ってそそくさと眠ろうとしていた俺にブラックホールが声をかけた。
「…車を運転したい」
「はは!やっぱ変わってねぇな、コリー!いいぜ、タウンカーがあるからそれでドライブしよう」
俺達はアジトを出た。
コリーが運転席に座り、ドアを閉める。ハンドルを握ったまま、奴はしばらく固まっていた。
奴にとっては数年ぶりの車だ。
「出すぜ」
エンジンが静かに始動した。
「道が分からない。適当に指示してくれないか?」
「分かった」
タウンカーはゆっくりと海岸沿いを走っていく。
車内は音楽をかける事もなく、静かだ。
心地よいくらいの小さな振動と、安定したエンジン音だけがドライブミュージックだ。
「サム…俺はこうして、またみんなと過ごせる事を嬉しく思うよ」
「それは俺も同じだ。またお前に会えて嬉しいぜ、ドッグ」
ブラックホールはなんだか悲しそうな目をして笑った。
「ギャングスタってのは…仲間の死を乗り越えて生きていくしかないんだな…みんな、勝手に先に逝きやがって」
コリーの言うように、奴がムショに入っている間に逝ったホーミーの数は想像を絶するものだ。
後からシャドウに聞いた話によると、ギャングの構成員の平均寿命は十代後半から二十代前半らしい。
ほとんどの死因が抗争での戦死。
そのギャングの中でも俺達黒人ギャングを凌いでメキシカンの『チョロ』と呼ばれる奴等や、『マラサルバトルーチャ』なんてエルサルバドル人系の奴等は半数が二十歳前に死んでしまうらしい。
それだけ俺達の世界は厳しい。
決してB.K.Bの死者数が異常だとも言い切れないのだ。
コリーが車を路肩に寄せて停めた。
弱い雨が降っていて月は見えない。
「よくこんな慣れない土地で生活できたな。やっぱり地元があってこそのB.K.Bだろ」
「あぁ、必ず戻ろう」
「イイ手はあるのか?」
コリーの質問に対して俺は武器と資金の調達の話をした。
奴の車ドロの才能が必要だという事も。
「この人数だ。銃火器や車で戦力の差が縮むとは思えないな…
どこかのセットと協力しないと難しいと思うよ」
ブラックホールが言った。
状況を詳しく知らないコリーに、俺はコンプトンブラッズ、クレンショウブラッド、タイニーラスカルギャングの話やギャングスタクリップとの大抗争の話をする。
「…すごい大変な思いをしてきたんだな。何とか自分達だけでやるしかないのかぁ」
「そういう事だ。まったく進めない状況だろ?」
「うーん…他に仲間がいなくて協力が無理なら第三者を利用するしかないよ。
明らかに人数が少なすぎる。それが帰ってきた俺からの最初の感想だ」
この時に何気なく俺の耳に入ってきたブラックホールの言葉が大きな前進につながるとは、この時の俺は思ってもいなかった。
「さて、帰ろうか」
そう俺が言ったと同時だった。
ピリリ…ピリリ…
俺の携帯電話が鳴った。
コリーが助手席の俺を見る。
「ん?ハムか?すごいな、このタウンカー」
「いいや。違うぜ、ブラックホール。これだよ、携帯電話だ」
ケツのポケットからゴツイ携帯電話を出す。
「マジか!?」
俺は興奮するコリーを手で制して電話に出た。
ジミーだった。
奴しか俺の番号は知らないので当然ではあるのだが。
「あぁ、コリーとビーチで話してた。じきに帰る、じゃあまたな」
ピッ。
ジミーが俺達二人がいない事に気付いて電話してくれたのだ。
ちなみにハムとは車載電話の事だ。
「みんなの所に戻ろう、サム」
『みんなの所に戻ろう』…こんな簡単な言葉でさえもブラックホールは何年も言う事ができなかったのかと俺は思った。
「あぁ…帰ろう『ホーミーの待つアジト』にな!」
俺の返事にコリーが頷いてエンジンをかける。
雨は止み、朝焼けの日差しがかすかに見え始めた頃だった。




