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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
30/61

tears

怒り、悲しみ、感情がとめどなく流れ出す。

俺は記憶喪失に陥った気分だった。

気付けばアジト。

 

クリックが倒れた後どうなったのか覚えていないのだ。

ホーミー達がここまでどうにか連れて来たのだろうか。

 

もちろん放心状態の俺も運ばれたのかもしれない。

とにかくあの後、数日の間の事を俺は何も思い出せない。

 

みんなは俺がおかしくなるのも無理はないと気をきかせてくれていたようで、誰一人として俺にクリックの話をしてこないのだ。

 

一つだけヒントがあった。

 

「これは…」

 

アジトの裏手にある十字架が二つに増えていた。

 

ホーミー達がクリックを許して墓を作ってくれたのだと思うと俺は感きわまった。

みんなが奴を許さずにほったらかしていたら、今頃カラスにでも啄まれていたかもしれないのだから。

 

「R.I.P.…Click」

 

俺は胸で十字を切った。

数日後には俺の背中に奴の名前も刻まれる事になる。

 

 

しばらくして、仲間達がクリックを埋葬した事を俺に話してくれると、ようやく奴の死を確信できた。

 

それに、当然あの日以来クリックと会う事は無かった。


 

この頃のB.K.Bのアジトの中は、今まででも一番の落ち込みようだった。

これまでも仲間を失ったり、地元を追い出されたりと色んな悪い出来事が起こったが、今回は事情が違う。

 

大切な仲間を一番あってはならない形で二人も亡くしてしまった。

後悔してもしきれなかった。

 

どうしてクリックを助けてやる事ができなかったのか。

どうしてジャックを一人で行かせたのか。

どうしてヤクの管理をきちんと俺が行わなかったのか。

どうしてクリックをアジトに置いてきたのか。

 

 

どうして…二人も仲間を殺してしまったのか。

 

クリックもジャックも…俺が殺したようなものだ。

守ってやることができなかった…

 

「どうした、サム」

 

タウンカーのボンネットでボーッとしていた俺の横に誰かいた。

 

「あぁ…やっぱりお前か、ニガー」

 

B.K.Bいちの巨漢、マークだ。

 

「元気を出せとは言えないけどよ。お前の事だ。また一人で考え込んじまってるだろうと思ってな」

 

マークがビール瓶を一本俺に手渡した。

なんだか何度も経験した事のあるような光景に俺の気持ちは少し楽になった。


「前にもこんなことあったっけな」

 

俺はビールを受け取って一口飲んだ。

 

…ぬるい。

 

だがいつだって、仲間と飲む安ビールがどんな飲み物よりもうまかった。

もっとも、この時だけはさすがにただ苦いだけだったのだが。

 

悲しい事が多すぎた。

 

「マーク。今まで色んな事があったけどよ、今回ばかりはB.K.Bも…」

 

マークは黙ってビール瓶をあおっている。

 

「E.T.だって残りはたったの五人だ。こんなこと言いたくないけどな。B.K.Bは終わりかもしれな…」

 

ドカッ!

 

言い終わる前にマークが俺の腹を殴った。

ビールが口から噴き出して奴にかかる。

 

「十一人…だろ、B?みんな心の中で生きてる。それにコリーやガイを頭数から外してるのも気に食わねぇな!

コリーが出てきた時に迎えてやらねぇ気か?」

 

「ぐ…いてぇ…」

 

マークは瓶を投げ捨てた。

 

確かにコリーは長い刑期を経て、あと少しで出所するところだ。

 

奴が戻れば車ドロ、ガラクタを修理してアシにしたりと地元へ戻る為の下準備は確実に進む。

金、車、人数のウチ一つの問題は解決するのだ。


「いつだってお前は仲間が死ぬ度に気落ちしすぎる。

悲しいのはお前だけじゃねぇんだぜ?それでも先の事をみんな見てる。

『次はどうすればイイ、サム?』

みんなそう思ってんだ。みんなを引っ張らなきゃいけない人間が誰よりも出遅れてどうするんだ?」

 

マークはドンとボンネットに腰掛けた。

 

「もう終わりだなんて、みんなが聞いたらどう思う?

お前が下りるなんてほざいたら、俺達はお前をB.K.Bから叩き出して、自分達だけでも地元を取り戻して見せるぜ、マザーファッカー」

 

「マーク…」

 

「ジャックとクリックの事、ギャングスタクリップやT.R.Gの問題なんかも色々あったけどよ、そろそろ昔みたいにバカやって毎日酒飲んで騒いでた頃のB.K.Bに戻ろうぜ」

 

マークが俺の顔を見ている。

 

「マーク…俺は大事なことを忘れてたのかもな。

B.K.BはイーストL.A.に戻るまでは何度でも立ち上がる…

そしてランドのトライアングルを止めて、一発アイツの顔に銃弾を撃ち込んでやるとするか!」

 

「…ほらよ」

 

マークがニヤリと笑って俺に銃を渡した。

なんとクリックのグロックだった。

 

「その銃で仕留めてやろうぜ、サム」

 

俺達は立ち上がった。


 

「ふーん…マークが言う事も分かるけど、サムはサムらしくしててイイと思うけどな」

 

ホーミー全員によるアジトでの話し合いの中、タバコをくわえたライダーが言った。

コリーが帰って来る日も近い。

 

今まではロングビーチで生活しているだけだったが、いよいよ本格的に地元を取り戻す為に動きださなければならない、という話をみんなとしていたところだ。

 

「俺は人一倍仲間を思ってくれるサムは好きだが、立ち直りが遅いって言いたいんだぜ」

 

マークが言い返した。

なるほど。納得できる意見だ。

 

「いや、今回はさすがに俺も響いた。事が事だけにな」

 

シャドウがライダーに同調している。

マークはそうかもな、と手をふった。

 

「よし。みんな、クリックとジャックの為にも力を合わせて一秒でも早く俺達の場所を取り返すぞ」

 

俺が言うと、全員から「おう」と力強い声が上がり全員立ち上がった。

瓶ビールを持ち高く掲げる。

 

「先に逝った誇り高き仲間達と、B.K.Bに!」

 

ガツン、と全員のビール瓶が輪の中心に集まった。


何の問題もなく準備は進んだ。

仕事の売上は上々で、そのほとんどを使ってしまう事なく貯め込んだ。

 

金を貯めるのに使ったのは三百キロほどはあろうかという巨大な金庫で、これはジミーが近くの民家の庭先にあるのを発見した。

丁寧にカギも置いてあったが、中は当然からっぽ。

 

コイツを夜中に六人がかりでアジトまで運んだのだ。

カギは俺が持ち、他の人間は決して開けれない。

 

後々この金で強力な銃火器を揃える予定だ。

地元に戻ってギャングスタクリップと戦う時、決定的な違いは何か。

それは人数的な戦力。

その差を補うには強力な武器で、俺達一人一人が数人の敵を倒さなければならないのは確実だ。

 

スナイパーライフルやアサルトライフル、マシンガン、ショットガン。

そういった武器で、卑怯だと言われようが距離をおいて確実に仕留めていく。

ここまでは決まっていた。

 

あとは武器調達のルート。

前科持ちの人間は合法のガンショップで銃を買うにはかなり面倒な手続きが必要で、しかも購入できる確率が限り無く低い。

 

どちらにせよ、B.K.Bのホーミー達は前科持ちでなくとも身分証明ができないので購入は不可能だった。


「そういやシャドウ。T.R.GとA.B.Zは最近どうなってるか知ってるか?」

 

ビッチの送迎用タウンカーを洗車していた俺とシャドウ。

他のみんなはアジトでゆっくりしている。

ライダーだけは少し離れた所でブサをいじってはいたが。

 

ふと抗争の事を思い出した俺はシャドウにきいてみたのだ。

 

「膠着…そういった感じだな。互いににらみ合ってはいるが、終結するほどのデカイ戦争にはならないと思うぜ。

ずっとそんな感じで奴等の関係は続いていくだろうな。

分かりやすく言えば…何にも変わってないって事だ」

 

シャドウが窓を拭きながら答えた。

なるほど。宿命…といったところか。

 

俺達とギャングスタクリップもそうだが、俺達はいつまでもにらみ合っているのではなく、必ず決着をつけたい。

 

「よし!ピカピカだ」

 

シャドウが言い、タウンカーの洗車が終わった。

こうやって車を磨いていると、インパラの事を思い出す。

 

コリーがインパラを取られたと知れば、きっと残念がるだろう。


この日にジミーがすごい物を持ってきた。

 

洗車を終えてアジトに入る。

ライダーもすでに中にいた。

 

だが、ジミーの姿だけが見当たらない。

 

「おい、ジミーの奴はどこに行った?そろそろ今夜の仕事にとりかからねぇと」

 

テーブルに広げられたドミノをかたづけながらマークが言った。

 

アジトにはカードやダイス、ドミノなど、ビデオゲームのような高価なおもちゃでなければ一通り娯楽用品はそろっている。

すべてショッピングモールで盗んできたものだが。

 

「一時間くらい前に出ていったのは見掛けたぜ?お、ほら帰ってきた」

 

シャドウが答えているとちょうどジミーが扉を開けて帰ってきた。

顔がにやけて両手を後ろに回して何かを隠している。

 

ジミーがこんな様子の時は、何かを見つけてきたという事だ。

 

「何を隠してる?」

 

俺はいつもみたいにわけの分からないガラクタだろうと思い、何気なくたずねた。

 

「サム。見てびびんなよ?これだ!」

 

ジミーが後ろに隠していたのは、なんと携帯電話だった。

 

こんな掘り出し物は滅多に手に入らない。

みんなから「うぉぉ!」と歓声が上がったのは言うまでもない。


ジミーが持ってきた携帯電話は二つ。

両方とも見た目にはキレイだが、本人いわく「修理が必要」らしい。

 

携帯電話が直ったら、俺とジミーが持ち歩くという事に決まった。

 

「いつもお前はとんでもない物を見つけてくるよなぁ、ニガー」

 

シャドウが携帯電話のボタンを押しながら言った。

ジミーが得意げに返す。

 

「俺はお前達とは目の付けどころが違うからなー!恐れいったか!」

 

ジミーは機嫌よくB-Walkのステップを踏み始めた。

最近は見ていなかったが、いつ見ても上手い。

 

奴は持ち前の明るさで暗い事件の過去など無かったかのように振る舞っている。

見ていてこっちも嫌な事が吹っ飛んでしまいそうなほどだ。

 

「だいたいはガラクタだけどな」

 

俺が言うと、みんなからの「違いねぇ」という笑い声、そしてジミーの「うるせーぞ!」という反撃がアジト内に響いた。

 

 

携帯電話が手に入った。

もし全員が携帯電話を所持できるようになったら…そう思った。

 

連絡が容易になり、抗争、仕事、あらゆる状況で連携がとれるのでこれ以上に便利な物はない。


 

ジミーの掘り出し物で一旦盛り上がった後、俺は一人でアジトの裏手の墓場へと向かった。

 

「やっと…イーストL.A.に戻る準備ができ始めたぜ…」

 

俺はぬるいビールをクリックの墓前にこぼした。

 

「ジャック…クリック…お前達が無念の死を遂げたのも、俺と…ギャングスタクリップのせいだ…」

 

次はジャックの墓にコーラを缶ごと置いた。

座り込んでタバコに火をつける。

 

「ふー…じきにブラックホールが戻る。奴の力が今のB.K.Bにとって大きなものになると思う」

 

ウィザードのように墓から出てきて話し掛けてくるのを期待したが、二人からの返事は無かった。

天国でも昔のように仲良くやっているだろうか…

 

「ジャック、ルーク…。トニーとショーティ、多くのホーミー達…それから…母ちゃん…クレイ…」

 

タバコをくわえたまま、俺は空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いてぇよぉ…」

 

 

涙が頬をつたって流れ落ちた。

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