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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
27/61

Rider

B.K.Bいちの機動力。バイクを華麗に乗りこなし、みんなの眼となり足となる男。

次の日、昼に目が覚めた俺が背伸びをして外に出ると、ライダーがブサを眺めてニヤニヤとしていた。

 

「よう、ニガー。嬉しそうだな」

 

「ん?おはよう、サム!俺は興奮しっぱなしだぜ!

まさかクリックがこんなデカいプレゼントをくれるとはな!」

 

ライダーはブサに跨がり、「ウォーン」と口でバイクの音を真似して出した。

 

早く走りたいのだろうが、このブサはパーツがところどころ抜けていて動かないのだ。

これからちょこちょこと直していかなければならないが、それも乗り物好きなライダーにとっては楽しみの一つだろう。

 

「スクーターとは大違いだからな」

 

俺は笑った。

どうやら『SUZUKI GSX1300 HAYABUSA』ってのがコイツの名前らしい。

 

ノーマルの状態で軽く300キロのスピードを叩き出すこの世界最強のスポーツバイクに、俺達は尊敬と親しみを込めて『ブサ』と呼ぶのだ。

 

日本でどう思われてるのかは知らないが、間違いなくB.K.Bのメンバー内では一番イカシタバイクだと思われていた。


「よく考えたらよ、クリックが泥だらけで帰ってきた時…アイツは一人でブサを押して帰ってこようとしたせいで、あぁなったんじゃないか?」

 

地面に座りこんで、タバコに火をつけたライダーが言う。

 

ここ何日も同じ格好をしているので、奴の自慢の編み込んだ髪もボロボロだ。

以前は小綺麗だった自慢のファッションも、今は見る影もない。

もっと金を稼いで、早くまだマシな生活に戻りたいものだ。

 

「そうだな。イイ奴じゃないか」

 

「あぁ。確かに嬉しかったんだが…何だかアイツに無理させちまった気がするんだよ、サム。

クリックは、自分が何でも仲間から受けっぱなしじゃいけない、甘えてばっかじゃいけない、と思ってるんじゃないか?こんなもんをわざわざ引っ張ってくるなんて」

 

「そうかもしれないが…アイツにだってプライドはある。

自分にだって何かできる、お荷物なんかじゃない、そう思うんだろうな。

もちろん俺達は誰一人そんな事考えないけどよ」

 

クリックはここ最近は落ち込んでいる様子も無かったし、奴に気を使わせたくも無かったので、俺はクリックの行動をそこまで重大視することは無かった。


「ビッチに連絡をとって、早速仕事ができる奴を探そうか?」

 

俺がそう言ったので、ライダーはスクーターのエンジンをかける。

俺が後ろに跨がるのを確認すると、奴はバイクを出した。

 

T.R.Gのテリトリー内で公衆電話を探す。

すぐに一つのボロボロの電話機を見つけたのでバイクを寄せて止める。T.R.Gのタグだらけの電話だ。随分可愛がられたらしい。

 

ライダーが女の連絡先を書いたメモを取り出して一人一人にかける。

デートをして口説いている暇も金もないのでストレートに「この前ビーチで声を掛けたライダーだ。売りをやらないか?」と伝える。

 

結果はボチボチだった。

 

ガチャ…

 

受話器を下ろす。この日に俺達が手に入れた売女は五人だった。

適当なやり方を行なったわりには満足のいく結果だったのでよかった。

 

後は売女を送り迎えして、金持ちや女好きな奴等が遊びにくるような繁華街に女どもを立たせるだけだ。

 

「ライダー、ある程度のランクの高級車が必要だ。売女はバカなくせにプライドが高いからな。

あのボロバンで送り迎えしたらなめられるぜ」

 

「そうだな…よし、型落ちのタウンカーを狙おう」

 

俺達はバイクで車探しに出発する。

今夜までに盗まなくては。


だがこれはうまくいかなかった。

ライダーのブサのように壊れて動かないタウンカーは何台か見つかったが、すぐにでも使えそうな車は無かったのだ。

 

「さすがにリンカーンともなるとロングビーチで盗むには大仕事だぜ」

 

道端で一息ついている時に、ライダーが言った。タウンカーはリンカーンの高級セダンだ。

俺達の地元ならばともかく、この街で盗むのは少々無理があったようだ。

 

「仕方ない。アジトに戻ってホーミー達に相談しよう。四千ドルもありゃ型落ちのタウンカーがくる。

仕事の成功の為の買い物だ、みんなも納得してくれるだろう」

 

俺が言った。

夜までに必ず車がいる。

買うのは初めてだが、危険性は薄い。金さえあればその場で乗って帰る事もできるし、車屋は保険屋とは違って免許証がどうのこうのと細かい事は言ってこないので心配ないだろう。

 

ライダーは頷いた。

 

「さぁ、帰るか」

 

ライダーがスクーターを発進させる。

タグだらけの俺達のアジトに到着し、中へと入った。


アジトにはジミーとクリック、ジャックしかいなかった。

なぜかラジカセが置いてあり、古いヒップホップが流れている。

 

「よう、B、ライダー。どこに行ってたんだ?」

 

ジャックが話し掛けてくる。

 

「ビッチに電話をかけに行ってたんだ。五人だけは売女にできたぜ。みんなは?」

 

俺が言う。

 

「そうか!そりゃよかったなー!それより見ろよ。このラジカセ!俺が直したんだぜ、サム!」

 

「ま、後でイイじゃねぇか、ジミー。

サム、みんなはこの辺りにタグを書いて周ってるぜ。何か話があるなら集めようか?」

 

「あぁ。頼む、ジャック。ちょっとビジネスに関係のある話なんだ」

 

ジャックがライダーのスクーターに乗って行ってしまうと、ジミーは俺とライダーにラジカセを拾った時の話を自慢げに話し始めた。

 

なんてことはない普通の内容だが、コイツの話の進め方には毎回楽しませてもらっている。

ムードメーカーだけあって何でもないような話をおもしろおかしく話すのだ。

 

ジャックがみんなを連れて帰ってくるまでの間、俺とライダーとクリックは笑いっぱなしだった。


 

「クリックの考えた新しいB.K.Bのハンドサインを書いてきたぜ!」

 

マークがそう言いながら入ってくる。みんな帰ってきたようだ。

 

アジトの中はホーミー達であふれた。

口にバンダナを巻いて、手に手に赤いラッカーの缶を持っている。

 

「マジか~!嬉しいぜ~!」

 

クリックはハンドサインを出した。

 

「それで?話ってなんだよ、サム、ライダー?」

 

シャドウが口のバンダナを外して言った。

タバコに火をつけている。

 

「売女の送り迎えの為に高級車が一台欲しいんだが…型落ちのタウンカーを今夜までに買いたいんだ。

さすがにあのバンじゃあ売女も逃げちまうんじゃないかと思ってな。どう思う、ホーミー達?」

 

俺はきいた。

 

「ん…型落ちならそんなに高くないからイイんじゃないか?盗めなかったんだろ?」

 

シャドウが言うとみんなも賛同してくれた。

特に異存はないようだ。

盗めなかった事を当てられたのには驚いたが。

 

そういうわけで、俺とライダーはいくらかの金をアジトから持ち出し、二人乗りしたスクーターで中古車屋へと向かった。


 

予定通り車を購入する。

白いタウンカーだ。これならビッチの送り迎えにも問題ないだろう。

 

送り迎え自体は俺とライダーで行なうが、仕事の間は常に距離を置いてホーミー達がバンでついてくる。

 

よその町で仕事をしていれば必ず地元の売人と揉める。

その売人達からブツの出どこを聞き出して、仕入れる為の道を作るのだ。

 

一旦、タウンカーとスクーターでアジトへと戻る。

これで俺達の乗り物はスクーター、ボロのバン、タウンカー、動かないブサの四台になったわけだ。十一人しかいない俺達にとっては充分だろう。

 

「戻ってきたか」

 

外にいたシャドウが言った。

みんなもアジトの中から出てくる。

 

年式の割にはキレイに手入れされたタウンカーだ。

窓ガラスにはフィルムが張られている。

 

「おいおい!どこのマフィアだよー!こんなおっかねぇ車乗ってきたのは!

…うん。こりゃ送迎にはもってこいだな!」

 

ジミーが冗談まじりに言う。

 

「さて、仕事を始めようぜ」

 

俺が言い、タウンカーにライダーと乗り込む。

クリックを含めたみんなもバンに乗った。


 

繁華街、この日の仕事は特に問題なく進んだ。

 

すべての女達を売った後、ライダーと二人でぶらぶらしていたが、地元のヤクの売人とは出くわさない。

 

「売女は少しはいるみたいだが…ヤクの売人はいないな」

 

ライダーが歩きながら言った。

ホーミー達が少し離れた場所でバンに待機しているのが見える。

 

「ん?おい、サム。T.R.Gだぜ」

 

「マジか?」

 

俺が見るとT.R.Gのハスラーらしき連中が二人、裏手で商売をしていた。

そっちへと向かう。

 

「よう、B.K.Bじゃないか。ハッパが欲しいのか?

それともまさか、お前達もココで仕事する気じゃないだろうな?」

 

一人が声を掛けてくる。

俺はドキッとした。

そうだ。売人がいないと思ったらココはT.R.Gのテリトリーじゃないか。

このまま商売を続けたら奴等と揉めてしまう。

 

「いや…たまたま通っただけだ。そういや、お前達の仕入れはどこからなんだ?」

 

俺は慌てて聞いた。

 

「はぁ?そりゃ教えてやりたいが…さすがに無理だぜ」

 

奴は笑った。

 

「そうだよな…」

 

そして俺達は奴等と別れてタウンカーに戻った。


次の日、アジトでは新しい売り場所を探す話題が上がっていた。

 

「T.R.Gのテリトリーで住まわせてもらっている以上、商売はできないな」

 

俺が言った。

みんな頷く。

 

「じゃあ繁華街より売上は落ちるが…ビーチでやるか?

でも、あそこは素人のピックアップスポットだし…金で女を買う奴はそうはいないと思う」

 

シャドウがため息をつきながら言った。

 

ビーチは女を引っ掛けるのには使えるが、売るのにはあまり適しているとは言えない。

確かにギャングの姿はなく、若い奴等が集まってはいるのだが、金を持ってそうな人間は期待できない。

 

ビーチでは裏通りでヤクの売人を探したりはしてないので、これは表だけを見た感想ではあるのだが。

 

「とにかく今夜は仕事は中止だな。

繁華街での売りはもうできないから、ビーチの裏手で良さそうな場所を今夜、探して回ろう。運がよけりゃギャング以外のヤクの売人にも会えるかもしれない」

 

マークの言葉に全員が了承した。


夜まではしばらく時間があるので、俺とライダーとシャドウはブサのパーツを歩いて探しに行く事にした。

とはいえそんなに簡単に見つかるわけもないので、部品探しとは名ばかりのただの散歩だ。

 

「この辺は本当にのどかな場所だよな」

 

シャドウが言う。

アジトの周りは、家の数も少ない上に道路もほとんどが砂利道だ。

街灯もなく、店屋も近所にはないので必ず車かバイク、あるいは最低でも自転車が必要だ。

 

だがほとんど人がいないのをイイ事に、道端から少し反れれば家電や不動車などが多く捨てられている。

治安はイイと聞いているので、地元住民のマナーが悪いと言うよりは他の土地の奴等がゴミを持ってきて、この辺りに捨てているのだろう。

 

クリックがブサを拾ってきたのはこの辺りではないが、バイクも多く捨てられているので、運が良ければ使えそうな部品が見つかるかもしれない。

 

「ゴミさえなければ『のどか』だろ」

 

俺が笑った。

 

「だがこのゴミから宝が見つかるかもしれないぜ」

 

ライダーが壊れたバイクを一つ一つ調べ始めたのでシャドウと俺もそれに習った。


さすがにブサは捨てられてはいなかったが、適当に他のバイクから使えそうな部品を外せるものだけ外していく。

工具は持ってきていなかったので、力づくで取れない物はまた今度拾いに来なければいけない。

 

「ん!このバー使えそうだな!」

 

「このメーター移植できそうじゃないか?」

 

シャドウとライダーが、あぁでもないこうでもないと騒ぎながらバイクの部品を吟味している。

オリジナルの状態にはできないだろうが、ライダーだけのブサが出来上がりそうな予感がした。

 

コイツらときたら、傍から見ればゴミをあさっているようにしか見えないのに、目をギラギラと輝かせている。

俺はというと、そんな二人を尻目に、捨ててある家電を見渡していた。

もしかしたら掘り出し物があるかもしれないからだ。

 

特にガソリン式の発電機が欲しい。そうすればテレビに冷蔵庫、灯やオーディオも使える。

 

俺は『ジミーを連れてくるべきだったな』と少し後悔した。

奴は発電機よりもどこからか配線を引っ張ってくるように仕組むかもしれないが。

 

「よし、戻ってブサにつけてみよう。工具はバンに乗ってたはずだ」

 

ライダーが言い、俺達は両手に部品を抱えてアジトに帰った。


数日後、バイクのパーツを探してはブサに取り付けるという作業は未だ続いていた。

ライダーは楽しそうだ。

 

ジミーも数日の間にライダーがバイクを直す様子に気付き、電化製品を拾って来ては直すようになった。

俺は、アジトに明かりが点る日も近いだろうと思った。

 

売春の仕事はというと、繁華街からビーチに場所を移してからというものあまりイイ成果は上げられなかった。

このビーチ付近はどこのギャングセットも進出してきていないようで特に他の売人と出くわす事もない。やはりビッチの売りに適してはいないと認識されているのだろうか。

そのせいでヤクはまだ取り扱えなかった。

 

だが少ないながらも収入はあるので、俺達は再び昔のように、好きな服やヘアスタイルを纏う事ができるようになった。

 

ブツが手に入らないなら、拾ってきた物を直して売ろうという意見もシャドウから出たが、それでは労力の割りには稼ぎが少なすぎて割に合わない。

この時、俺達は売春の元締めだけを仕事にして、時にはケチな盗みをして生きていくしかなかった。


 

それからしばらく俺達はそのまま何の変わりもなく生活していた。

 

この日、ついにライダーのブサが完成し、そしてジミーによってアジトに電気が届く。

もちろんどちらも俺を含めたホーミー達が時々手伝ってはいたのだが。

 

「やったな!」

 

アジトの中には全員集まっていて、マークがまず口を開いた。

この言葉はライダーとジミーの両方にあてた言葉だろう。

 

「よう、ジミー。やっぱ電気があると助かるぜ」

 

光を放つランプを見ながらジャックが言う。

大もとの電線はどこからか引っ張ってきているようだ。

 

「サム、電気のおかげでB.K.Bも活気がでてきたな!」

 

シャドウが言った。

 

「あぁ。みんなのおかげだ。

それにライダーのブサも走るようになった。地元の様子もコイツでなら偵察にいけるかもしれない。なぁ、ライダー?」

 

「もちろんだぜ、B。エンジンなんかはオリジナルのまんまだ。

この化け物ならギャングスタクリップのクソったれどもに見つかっても確実に逃げ切れるぜ!」

 

ライダーが胸を叩いてニヤリと笑った。


もちろん早速ライダーはタウンカーから燃料を抜き取り、ブサの試運転に出掛ける。

ジミーが後ろに飛び乗る。

 

キュルル…

 

ボォン!

 

ちくはぐの部品でできたブサに命が吹き込まれた。

歓声が上がる。

 

「よっしゃ、ちょいとウロウロしてくるぜ!」

 

「行こうぜ、ホーミー!ぶっ飛ばしてくれよ!」

 

ライダーとジミーのテンションは最高潮だ。

 

「おい、あんまり危ない運転するなよ」

 

シャドウがたしなめる。

 

ボォォォ…

 

俺達はアジトの外から手をふって二人を見送った。

 

「A.B.Zのエリアに近付いたりするんじゃねぇか?」

 

「そうだな…アイツらなら、ふざけてやるかもしれない」

 

ジャックの問いにシャドウが答えた。

 

「まぁ、アイツらなら逃げ切れるさ~」

 

クリックが気楽に言う。

それはもちろんそうだろうが、それよりもシャドウはあまりアイツらが…特にジミーが挑発や攻撃をやりすぎてA.B.Zと抗争に発展したりしないかを心配しているのだ。


 

俺達がタウンカーとバンのエンジンを回して準備をしていると、二人はご機嫌で帰ってきた。

なんとか仕事には間に合う時間だ。

 

「やっぱイイぜ!最高なマシンだぜコイツは!」

 

ライダーが上機嫌で笑いかけてくる。

 

「危ない場所には近付かなかっただろうな、ニガー」

 

「もちろんだぜ、サム。A.B.Zのエリアには入ってない」

 

ライダーが答える。

 

「それよりよ!聞いてくれよ、ホーミー!ライダーときたらよ、この化け物をまるで自転車みたいに…とにかくすげぇんだ!バイクをギリギリまで倒してトレーラーの下をくぐり抜けた時は死んだ気がしたぜー!」

 

ジミーも興奮した様子でみんなに叫ぶ。

 

「ライダー!お前そんな事したのか!?まったく…いかれてやがるぜ!」

 

マークが腕組みをしたままガハハと笑った。

 

「よし、みんな仕事だ。ライダー、あんまり無茶な運転はするんじゃねぇぞ。ホーミー達がみんな心配するだろ」

 

「そうだな。すまねぇ、B。それじゃ仕事に行こうぜ、ホーミー」

 

ライダーはこれから後、ブサの機動力を最大限に引き出し、B.K.Bの足となり、眼として活躍するのだった。

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