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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
24/61

hood less

俺達はさまよう。

光の無い道。目の前に見えるのは地獄よりも深い闇。

俺達は途方に暮れていた。行くあてもない。知り合いもいない。

一体どうやって暮らしていけばイイのか…

 

「とにかく、少し離れた場所で力を蓄えるべきだ。ファンキーの言うように『腰抜け』だと言われてもな。

いつか必ずやり返す事を夢見て…ギャングスタクリップの目が届かないような場所へ」

 

これはシャドウだ。みんなは他にイイ意見も浮かばなかったので仕方なく同調したが、ギャングスタクリップの目の届かない場所などあるのだろうか。

 

「いっその事、N.Y.とかアトランタ辺りまで飛ぶか?バカげてるよなぁ…」

 

ライダーが言った。悪い意見だとは言わないが、カリフォルニアから離れてしまっては後々地元に戻るのが難しくなる。

 

「よう、ホーミー達。南に下ろうぜ!」

 

これはジミーだ。

奴はさすがに立ち直りが早い。新しい生活に目を輝かせているように見える。

本当に…コイツだけはどんな逆境にも挫けるという事を知らない。さすがにコイツも、落ち込まない事はないのだが、他のメンバーに比べると極端に回数は少ないし、立ち直りも圧倒的に早い。

 

この時はみんな暗くなっていたのだが、さすがはジミー。B.K.Bいちのムードメーカーだ。


 

俺達のあてもない旅が始まった。

 

近くのガソリンスタンドで給油し、南を目指す。

運転は俺が引き受けた。

 

「それにしても狭いな!十一人も一緒に乗ってたら窒息しちまうぜ!」

 

マークがキツそうに言った。

確かに狭い。

 

「すまねぇなぁ…」

 

マークの言葉にクリックが申し訳なさそうに答えた。車椅子がさらにスペースを取っているからだ。

 

俺達の中でもこの頃、クリックは一番落ち込んでいた。

無理も無い。もう二度と自分の足で歩く事ができないのだから。

 

「おい、そういう意味じゃないぜ、ドッグ。気を使わせて悪かったな」

 

マークが慌てて言う。

 

俺達はクリックの事を不憫に思っていた。

 

『変われるものなら自分が変わってやりたい…』

 

誰もがそう思っていたはずだ。

 

だから、奴の体が不自由ならば全員が協力して手を貸すだけの事。

決して「面倒」などという言葉は生まれてこない。俺達はホーミーであると同時に家族同然なのだ。

 

クリックはこの先、ケンカに参加するのは無理だろう。

だが、誰もそれを責めはしない。

かわりに『奴にしかできない何か』をみんなで考えればイイだけの事だ。


「よう、確かに辛いだろうな…だが俺達はお前の事を迷惑だなんて、これっぽっちも思ってないぜー!」

 

ジミーがクリックを励ます。

 

「ありがとよ…」

 

やっぱり簡単に元気は出ないな。

少しずつ時間をかけて、奴の心を取り戻していくしかない。

 

また元の陽気なクリックに戻って欲しかった。

クロニックでいつもイカれているのは玉に傷だが…それでもこんなにまで落ち込んでいる仲間を見るのは辛い。

 

「クリック、気にするな。気にして落ち込んでるお前を見る方が俺達にとって迷惑だぜ!

多くの仲間やアジトを失った…そんな中でお前だけは自分の足で悩むのか?みんなはこれからの事で頭がいっぱいなのに、お前だけ自分の事か!

 

歩けねぇからなんだ!そんなに動く足が欲しけりゃ、俺の足を二本ともお前にやる!」

 

ジャックが叫んだ。

 

クリックはその言葉に突然泣き出し、そして謝っている。

 

「悪かった…許してくれぇ…ありがとよぉ…ジャック」

 

「…おう。これからは俺がお前の足になってやる。いつでも言ってくれよな」

 

車内にはクリックのすすり泣きだけが響いた。


 

そしてコンプトンから南へ向かった俺達の車は、海の見える町へとたどり着いた。

 

ロサンゼルス郡の中でL.A.に次いで第二の人口を誇る大都市『Long Beachロングビーチ』。

海にブチ当たったので、しばらくは東に進む。

 

「なかなかキレイな町じゃねぇか」

 

マークが感心したように言う。

海岸沿いの砂浜には多くの人がいた。

 

大きなビルと整備された道が通る、キレイな町並みだ。

 

ロングビーチは治安が悪いイメージが強いが、ハッキリいってそこまで腐った街ではない。

海外からも多く観光客が訪れるような人気のスポットなのだ。

 

繁華街を通り過ぎ、俺達は住宅地のような場所に入った。

十字路にさしかかる。

 

一台のアコードが猛スピードで俺達の目の前を横切った。

 

「あぶねぇ!」

 

灰色のバンダナを巻いた二人の男が乗っているように見えた。

どこにでもバカはいるもんだ。

 

俺が慌ててブレーキを踏んだので、車は十字路のど真ん中で停まった。

 

するとすぐに、アコードを追っていたらしいパトカーが、俺達の車のせいで通れなくなってしまった。


「どいてくれ!」

 

拡声器から声が聞こえた。

俺はすぐに車を前進させて、パトカーを通す。

 

再びパトカーはサイレンを回しながらアコードを追いかけて行った。

 

「おい、ホーミー達!あの車が警察から上手く逃げ切れるか賭けないか?」

 

マークが言った。

 

「のった!『逃げ切る』に1ドルだ!」

 

ジミーが叫びながら金をマークに渡している。

ライダーもすぐに言った。

 

「いいや、逃げ切れないな。1ドル賭けるぜ」

 

「はぁ?逃げ切れたかどうかなんて、どうやって確認するんだよ」

 

シャドウが笑いながら言う。

俺もそう思った。

 

だが誰かの「じゃあ見に行こうぜ」という言葉のせいで、俺は車をUターンさせ、アコードが逃げた方へ向かう事になってしまった。

 

 

「もう追いつけるはずねぇだろ…」

 

俺がため息をつきながら運転していると、さっきのパトカーが引き返してきているのが見えた。

ジミーは大喜びだ。

 

「ほら見ろ!上手く巻いたんだよ!やるじゃねぇかアイツら!」

 

俺達がパトカーとすれ違った少し先で、アコードがひょっこりと道の脇から出てきた。

どうやら身を潜めていたらしい。


アコードはそのまま俺達のバンを停車させるように車を横につけてきた。

 

やはり灰色のバンダナを口に巻いた連中だ。

窓が開き、中から一人が声を掛けてくる。

 

「よう、アンタら!パトカーを止めてくれてマジで助かったぜ!」

 

バンダナをはずす。アジア系の人間だ。

 

「おう、イイって事よ。お前らギャングだな?」

 

俺は言った。

ソイツは俺の格好をじっと見るなり、驚いたように答えた。

 

「あぁ、そうだ!俺達はT.R.Gだ。

なんだ!よく見りゃブラッズか!どこのセットだ?」

 

「イーストL.A.だ。ちょっとわけ有りで今、住む所を探してる」

 

「そうなのか?大変だな。じゃあ縁があったらまた会おうぜ!」

 

そう言うとすぐにソイツらは消えていった。

 

なかなかイイ奴等だ。わざわざ俺達を止めてまで礼を言うなんて、アジア人らしい。

 

ロングビーチの貧困街はアジア系ギャングが比較的多い。

ロサンゼルス郡の三大貧困区域のサウスセントラル、コンプトン、イーストL.A.はほとんどが黒人かメキシカンで、特に俺達の地元はメキシカンの割合が99%以上なのだ。

そのせいでアジア系ギャングを目にする事は少なかった。


「T.R.Gはアジア系の最大ギャングセットの一つだぜ」

 

車を広い駐車場に止め、一息ついていた俺にシャドウが言った。

 

ほとんどのメンバーは車を下りて外に座っていたが、クリックなどは車内で残りすくないクロニックを吸っている。

これで早くクリックが元気になればよいのだが。

 

「そうなのか?」

 

ジャックが言った。当然、奴は外に出ている。

 

「あぁ、灰色の服装がトレードカラーだ。カンボジア系の奴等が多い」

 

「L.A.のダウンタウンにいる奴等と同じような感じか?」

 

これは俺だ。

 

「そうだな。だがダウンタウンはどちらかと言うとマフィアが多いな。

アジアンギャングはやっぱロングビーチが主流だぜ。初めてアジア系ギャングが出来た場所だからな。

それとT.R.GはA.B.Zっていうアジアンギャングと対立してる。A.B.Zはギャングスタクリップと繋がっててな、紺色がチームカラーだ。

つまり、俺達にとっても敵だな」

 

ちなみにT.R.GはTiny Raskal gangタイニーラスカルギャング、A.B.ZはAsian BoyZアジアンボーイズの略らしい。


「他には…黒がチームカラーのベトナム系ギャング『ベトナミーズボーイズ(Vietnamese Boyz)』、赤がチームカラーの中国系ギャング『華青(Wah Ching)』なんてのもいる。

これにT.R.GとA.B.Zを入れた四チームが最大のアジアンギャングだな」

 

「詳しいな、ニガー。アジア系の奴等なんてチンクだろうがジャップだろうが、みんな一緒に見えるぜ」

 

ジャックが唾を吐きながら言った。

 

チンクは中国人や中国系アメリカ人への、ジャップは日本系の奴等への軽蔑語だ。

この時、ジャックは別に見下して使ったというより、深い意味はなく言ったようだ。

 

確かにアジア系の奴等は顔が似ていて、国籍の違いがあまり分からない。

 

「とにかくA.B.Zってな奴等とは関わりたくないな。ギャングスタクリップがバックについてるんじゃ、シャレにならない」

 

俺はタバコに火をつけた。

 

「サム、だが逆にT.R.Gとは仲良くなっておいて損はないぜ。

ギャングスタクリップはT.R.Gと間接的に敵対してる事になる。

さっき、奴等に出会えたのも運命かもな」

 

シャドウが上機嫌で言った。


マークが提案する。

 

「どうする?予定もない旅だ。T.R.Gの奴等と少し話してみるか、ホーミー?」

 

「そうだな…シャドウ、奴等の居場所は分かるか?」

 

俺がシャドウにたずねた。奴が立ち上がって答える。

 

「あぁ。だいたい分かる。

でも、さっきの二人がいなかったら少し揉める事になるかもしれないぜ?」

 

確かにその可能性もある。だがそれよりも嫌なのはA.B.Zに出くわす事だ。

俺も立ち上がった。

 

「構わねぇさ。すぐに撃ってくる連中でもないんだろ?」

 

「そりゃこの辺りは俺達の地元やサウスセントラル、コンプトンほど治安はひどくないからな。怒らせない限り殺されはしないだろうが…」

 

「じゃあ行ってみようぜ」

 

ジャックが言うと、車の外に出ていた奴等は全員立ち上がった。

運転席へとシャドウを押し込む。

 

「おい!俺が運転かよ!」

 

「たまには運転しろよ。最近あんまりやらないだろ、ニガー?」

 

俺はニヤリと笑った。

シャドウがあんまり車を自分で動かさないのは事実だが、それよりも場所を知っているなら任せようと思ったのだ。

 

「分かったよ。乗れ、ホーミー達!」

 

シャドウはバンを発進させた。


十一人のブラッズを乗せたバンが、奴等の居住区へと進入する。

 

「この辺りだ」

 

ハンドルを握るシャドウが言った。

 

ゆっくりと車を走らせる。

 

一軒家が立ち並ぶ貧困街で、壁や看板にはタグだらけ。

俺達の地元とさほど変わりはない町並みだった。

 

ただ、路上に止まっている車は日本車が多い。アジアンの誇りなのだろうか。

 

さっきのアコードもある。

どうやら帰ってきているようだが、T.R.Gのメンバー達はいない。

 

「ん?いないな」

 

マークが言う。

 

しばらく車を走らせて、路地裏に入った。

 

…!

 

「見ろ!」

 

俺は叫んだ。

 

そこでは灰色の集団と紺色の集団が集まって騒いでいたのだ。

どうやら最悪のタイミングだったらしい。

 

互いにバットやクラブを持ち、睨み合っている。

 

「どうする、B?T.R.Gを助けるか?」

 

ジミーが言った。

ワクワクしているようだ。

 

そうこうしている内に、ついに二つのギャングは衝突した。

どちらも人数は二十人くらいだろう。

 

「仕方ないな…どうなっても知らないからな!」

 

俺達はスライドドアを開けて飛び出した。


「おらぁ!」

 

マークがT.R.Gのメンバーをかき分けてA.B.Zに突っ込む。当然俺達は武器を持っていないので素手だ。

 

マークは一人を殴り倒すと、バットを奪って雄叫びを上げている。

 

すぐさまジャックとジミーが突っ込んだ。

B.K.Bのホーミー達も次々に続く。

 

アジアン達は両者共に突然の客に驚いているようだ。

 

クリックは車椅子に乗って外に出たが、バンからは離れない。

俺はクリックについている。

 

「お前達!?さっきの!」

 

T.R.Gの一人が俺に言った。

 

「よう、メン。ドライブ途中でよ。たまたま面白そうなイベント見つけたんで参加させてもらってるぜ」

 

俺が答えた。

奴は少し不満なようだ。

 

「どうしてだよ、メン!これは俺達のケンカだぜ!そこまでしてもらう理由が分からねぇ」

 

「俺達が地元を追い出されたのは『ギャングスタクリップ』の連中のおかげでな。だからA.B.Zは俺らにとっちゃ敵なわけよ」

 

「なんだって!マジかよ…分かった、加勢に感謝するぜ!」

 

俺達の援護もあり、見事A.B.Zを敗走させた。

 

辺りには久し振りに「B.K.B!」の雄叫びが響きわたった。


 

「もう一本どうだ、OG-B?」

 

「あぁもらうよ。ありがとう、ロブ」

 

俺はビールを受け取った。

 

ここは奴等がよくアジトとして使っている場所。

メンバーの内の一人の家だ。

 

ロブとは、最初に俺達が助けたアコードに乗っていた奴だ。

 

T.R.Gは、はじめ俺達を警戒していたが、ロブ達を警察から逃がした事、ギャングスタクリップと対立しているためにA.B.Zとのケンカに加わった事などを話すと理解してくれた。

それでこうして宴の席に俺達B.K.Bを招いてくれたわけだ。

 

俺達にとっても、奴等にとっても、人種の壁を越えてこうして分かり合えた事は初めての経験だった。

 

「イイぞ~やれやれ~!」

 

クリックが叫んでいる。

ジミーがB-walkを披露しているのだ。

 

クリックは酒に酔って陽気になっているみたいだった。

少しずつ元気を取り戻しているのかもしれない。

 

「本当に面白い奴等だな」

 

ロブが笑っている。他のT.R.GのメンバーもB.K.Bと打ち解けているようだ。

 

「あぁ。最高のホーミー達だ。コイツらの為なら死んでも惜しくない」

 

俺はビールを一口飲んだ。


「ロブ。ロングビーチに、どこか身を潜めて力を蓄えれるイイ場所はないか?」

 

俺はついに本題に入った。

ロブがすぐに答えてくれる。

 

「そうだなぁ…今いる、この地区の隣の地域なら、治安もイイし住民も少ない。充分落ち着けると思うぜ」

 

「マジか?そりゃイイな」

 

「小さいボロ小屋でもみつけたらどうだ?アジトになる。

一応、俺達のテリトリーに入ってるんだが…滅多に行かないからな。

なにせ本当に何にもない所なんだ。家も数軒だけで、年寄りくらいしかいない」

 

その後もロブは詳しく説明してくれた。

T.R.Gのテリトリー内ではあるが、B.K.Bの十一人が住むくらいは別に構わないそうだ。

 

なんてイイ奴等だろう。

よそ者でも人種が違っても、一度知り合ってしまえば仲間だと言ってくれた。

 

 

翌朝、俺達は早速出発することにした。

 

T.R.Gが見送ってくれる。

 

「ありがとう。助かったぜ、T.R.G」

 

俺が代表して挨拶する。

 

「俺達こそ、お前達と知り合えてよかったぜ。

隣町だからいつでも遊びに来いよ。こっちからもたまには行くからな!」

 

ロブは笑って手を振った。


 

「なんてラッキーなんだ」

 

車内、ライダーがタバコを吸いながらふいに言った。

 

「ラッキーかどうかはまだ分からないぜ。A.B.Zがいる。ロングビーチにいる以上はギャングスタクリップの監視からは逃れられない」

 

シャドウが言う。

 

確かにそうだ。

俺達がどうしているのかは、じきにギャングスタクリップにも伝わる。

だが奴等がここまで押し寄せて潰しに来るだろうか。

 

ランドが再び立ち上がってはい上がって来る俺達を見たいのだとしたら、俺達が地元を取り戻すために攻め込むまでは一切手を出してこないのではないかと俺は考えていた。

 

それはそれで俺達が奴に甘えているようで苛立つ。

だがわざと生かされた時点でそれは飲み込むしかない。

昔や今のままでは絶対に勝てない。どうにかして地元を取り戻し、奴等を見返してやるほどの力をつけなければならない。

 

だが、この時の俺にはどうすればいいのか分からなかった。

 

「この辺りじゃないか?」

 

マークが言う。

 

そこは本当に、草木だけで建物もほとんどない場所だった。

ギャングが生活するには厳しいかもしれない。

 

俺は、ここからB.K.Bが新しいスタートを切るのかと思うと少し不安になった。

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