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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
22/61

21

ついに俺達はその年を迎える。

辿りつかずに逝った仲間達の魂と共に。

ギャングスタクリップとの抗争が始まり、大敗を喫するまでの間に、俺達E.T.のほとんどはついに二十一歳になっていた。

つまり成人した。と言う事だ。

 

州によっても違うがカリフォルニアでは満二十一歳で成人だと定められている。

つまり罪を犯した時の罰が重くなる。これはかなり痛い。

 

そしてギャングスタクリップは相変わらず俺達へ何か仕掛けるわけでもなく、あれ以来ずっと沈黙を守っていた。

だが俺達にとっては、かえって不気味だ。

 

 

この日、ジミーの部屋には俺、ジミー、シャドウ、そしてライダーがいた。

ショーンからの仕入れが途切れたので、ブツの仕入れルートを話し合っているのだ。

 

ショーンからはもう二度と仕入れる事は不可能だろう。地下室も警察にバレた。奴はおそらく退院したらすぐにムショ行きだ。

レイクも死んだ為、まったくアテが無い。

 

「とにかく、今頼れるとしたらファンキーか、あるいは無理してラットに話してみるか?」

 

俺が言ったが、みんな「ラットは無理だな」と返す。

 

「ファンキーなら他のルートを知ってる可能性もあるな」

 

とりあえずそういう結論に至った。


一時間後。

コンプトンへは俺とライダーの2人で向かう事になった。ライダーのカワサキを使う。

 

「おい、あんまり飛ばすなよ?ニガー」

 

「はいよ。そんじゃあ行きますか」

 

ウォン!

 

ジミーとシャドウが見送る。言ったそばからウィリーしながらの発進。

まったくどうしようもない奴だ。

 

ライダーは道行く車を左右にスイスイとかわして運転した。

おかげですぐに目的地に着いたのだが、ケツに乗っていた俺はクタクタに疲れてしまった。

 

「着いたぜ」

 

バイクを停める。いつもより人通りは少ない。

だがギャングメンバーはちらほらといたのでファンキーの居場所を聞いて、すぐにそっちへとバイクで向かった。

 

 

「よう、ブラザー」

 

「ん?サムじゃねぇか。どうした?」

 

ファンキーは道端にイスを出して座り、一人で日光浴をしていた。

 

上半身は裸だ。大きなその体には無数のキズ痕とタトゥーがある。さすがはOGのドンだ。迫力がある。

 

ファンキーは立ち上がって俺とライダーにハグをしてくれた。


俺はブツの仕入れの事、ショーンが撃たれた事など、とにかく商売上がったりだと言うことを精一杯伝えた。

ファンキーは黙って聞いてくれていた。

 

「それで、ファンキーなら誰か頼れる人間を知ってるかと思って…」

 

「…そうか。レイクの奴、俺に黙ってそんな形でB.K.Bを助けてたのか。

まあイイ。ショーンは俺も知ってる。残念だったな、確かに奴の作るクロニックは悪くなかった」

 

俺とライダーはファンキーの次の言葉を待った。

 

「だが…俺は力になってやれそうにないぜ。ウチのセット内でブツを回すだけでも手一杯だ。それ以上の知り合いもいない」

 

「そうか…」

 

俺はガッカリした。

別れの言葉をかけてバイクに二人でまたがる。

 

「それじゃな。ファンキー」

 

「あぁ、すまねぇな。サム、どうしてもブツが手に入らないならまた来いよ。一緒に探してやる」

 

「ありがとう」

 

ウォン!

 

ファンキーは本当にデカイ男だ。優しいだけじゃなく、無理な事は無理だとハッキリ言う。

 

俺達は地元へと戻った。


俺達はジミーの家にではなく、アジトに戻った。俺を先に下ろしてライダーがシャドウとジミーに結果を伝えに行くつもりだったのだが…

予定は変わった。

 

アジトに全員集合している。一体どうしたというのだろうか。

 

「サム、ライダー、戻ったか!今連絡しようとしてたトコだぜ!」

 

シャドウが緊迫した様子で近付いてくる。

俺達はバイクからおりた。

 

「B…さっき伝わった情報なんだが…」

 

「どうした?」

 

俺がたずねる。ライダーもシャドウの話が気になっている様子だ。

 

「クレンショウブラッドが…ギャングスタクリップに潰された…ラットも死んだらしい」

 

「なに!?確かか!?」

 

「マジだ」

 

シャドウが言った。つまり抗争にクレンショウブラッドが加勢していたのがバレていたのだ。

それで俺達より先に、奴等のテリトリーのすぐそばにあるクレンショウブラッドを叩いたという事らしい。

さすがにコンプトンブラッズとやり合おうとはしないはずだが、次は間違いなく…俺達の番だ。

俺は全身に鳥肌が立った。


とにかく今はブツの仕入れやアテネパークの奴等の問題は後回しだ。稼ぎはしばらく売春だけでやり繰りしていく他ない。

 

アジト前に全員集まっているようなので、そのままギャングスタクリップへの対応を考える事になった。

 

「どうする?クレンショウブラッドの奴等がどれだけギャングスタクリップにダメージを与えたのかが気になるな」

 

これはライダーだ。

確かに今の敵の戦力は知りたい。

 

百五十人のギャングなら、ウォーリアーだけでも最低八十人近くはいるはずだ。

問題はソイツらが残りどのくらいいるのか。

もし、かなり減っているとしたらすぐには俺達に仕掛けて来ないに違いない。

 

「ここに攻めてくるまでの期間が開いたら、数が少ないということだ」

 

これはシャドウだ。さすがだな。

 

「それまでは常に地元を警戒して、奴等が現れ次第、すぐに連絡を回して戦うしかないな」

 

もし、すぐに俺達を攻めてくるようならば、俺達にはかなり苦しい戦いになる。

だが攻めてこなければ、弱っている敵を今度こそ逆に奇襲で倒せるはずだ。

 

俺達はクレンショウブラッドが奴等に痛手を負わせてくれた事を神に祈るしか無かった。


 

次の日からウォーリアーは総出で地元をパトロールして回った。

怪しい車はすべて止めて、中を調べる事までもしたらしい。

 

その間、俺達ハスラーは売春の仕事に力を入れた。だがそれだけではハスラーの人間があまる。

それで、ソイツらにはサウスセントラルまでスパイとして度々行ってもらった。もちろん一般人のフリをしてだ。

 

それとなく、サウスセントラルの一般住民達からギャングスタクリップが現在どうなっているのかを聞き込みしてもらった。

なかなか有力な情報は得られない。しかしいくら一般人に変装しているとは言え、直接クリップスに接触するのは危険だ。

 

ある意味、情報戦だった。次第に、どうするにも動く事ができない理由からイライラがホーミー達につのっていく。

 

「もう充分待ったぜ。確かに奴等の情報は少ないが、攻めるなら今がチャンスなんじゃないか?」

 

一週間ほど経ったある日、ついにしびれを切らしたシャドウから声が上がった。

だが俺はOKを出さなかった。

なぜならあと一週間まてば…

 

 

 

 

ついにクリックと数人のホーミー達が出てくるからだ。


だがそうは言ったものの、ここで俺の頭をよぎるものがあった。

ウィザードならどうする?

ガイならどうする?

 

『クリック達を待つのもイイ。だが手遅れにならないように、よく考えて行動しろ、サム。お前はチームの大事なリーダーだ。セットの事を第一に考えて行動しろよ』

 

そんなウィザードの声が聞こえてきそうだ。

 

『今は絶対に動くな。必ず敵の手の内が読めた上で考えろ。焦りは禁物だぜ、ホーミー』

 

続いてガイの顔が浮かぶ。

 

仮にも一度俺達を見事に作戦にハメて打ち倒した奴等だ。

まだ様子を見た方がイイだろう。

俺は今シャドウに答えたとおり、まだ待つ指示をみんなに出した。

だがホーミー達も気がたっているのでいつまでも押さえ込む事はできない。

どう頑張って待たせても、来週クリック達が帰ってくるまでが限界だと俺は予測していた。

 

それにしてもギャングスタクリップの現在の人数、そしてクレンショウブラッドを倒した時の細かい戦略がどうしても知りたい。まさか真正面からぶつかって総力戦で戦うような武闘派だとは、どうにも考えられないからだ。


そう思っていたら、ある一人のハスラー(つまりスパイだが)からついに情報が入った。

その連絡を受けてみんなをアジトに集合させる。

 

「よし、みんな集まったか!奴等の今のウォーリアーの数がついに分かったぜ!」

 

俺がそう言うと、マジか!と何人からか声が上がる。

 

「あぁ。よく聞け。奴等のウォーリアーは今…二十人程度だ!」

 

今度はみんなから歓喜の声が上がった。しかし、奴等にはハスラーが残っている。

 

「まだ喜ぶのは早いぞホーミー達!ハスラーがいるはずだ!」

 

「その情報は確かなのか?」

 

手をあげてライダーがたずねると俺の近くにいた、スパイとして情報を仕入れてきたホーミーが

「ウォーリアーが残り二十人だというのは確かだと思う。俺も見たわけじゃない。信じる信じないはアンタらに任せるぜ」

と答えた。

直接、人数を数えたというよりは、誰かに聞いた情報なのでそういう言い方をしたのだろう。

 

攻める攻めないは別にして、相手の数が分かった事で俺達には大きな前進となった。


だが、その晩。予測していなかった事態が起こった。

 

 

地元を警戒していたB.K.Bのウォーリアーから連絡が入る。

 

「奴等がきたぞ!二十人くらいだ」

 

なんとウォーリアーの数が少ないまま、奴等は攻めてきたのだ。

 

すぐにB.K.B全員に連絡が周り、アジト付近の道路脇の茂みで待ち構える。

人数が少ないならそのままアジトに突っ込んでくるに違いない。

 

「よう。ついに思い切り仕返ししてやれるぜ」

 

横にいるマークが笑った。

みんなも意気込んでいるようだ。

 

「来たぞ!」

 

ジミーが言った。ライトバンが三台。ゆっくり走ってくる。

だがこの道は通れない。ホーミーが少し先にトラックを二台停めて道をふさいだのだ。

ついにかかったな、クリップス。

 

三台が俺達の隠れている茂みの前を通りかかる。

 

「今だ!ブッ殺せ!」

 

マークの号令で全員が飛び出した。

バットでガラスを破る。

 

奴等はスピードを上げて三台ともUターンした。

逃げる気だ。

 

パアン!パアン!

 

車の中から撃ってきた。ホーミー達が少しひるむ。

 

「逃がすな!撃て!」

 

マークが頭に血管を浮かばせながら吠えた。


ガシャアン!

 

一台がコントロールを失ったらしく電柱に激突して止まった。

すぐにホーミー達が駆け寄って中にいる奴等を引きずり出す。

 

「くたばれ!」

 

ジャックが叫んだ。

バットでめった打ちにしている。

その車に乗っていたのは七人のギャングスタクリップだったが、全員動かなくなるまでボコボコにしてやった。

残りの二台は逃げてしまったようだ。

 

「ちっ!逃がしたか!よし、全員ずらかるぞ!急げ!」

 

俺達はこの時二十五人ほどだったが、道をふさぐために停めていたトラックの荷台に乗り込む事で全員乗車できた。

そして警察が来るよりも圧倒的に早くその場を後にしたのだ。

 

「完璧だったな」

 

トラックの荷台で揺られながら俺はシャドウに話し掛ける。

 

「あぁ。奴等に残るは十数人のウォーリアーだけだ。ハスラーの数は分からないが」

 

「クレンショウブラッドにも感謝しないとな…ここまで奴等を減らしてくれてよ」

 

アジトに到着すると、留守番だった四、五人のホーミー達と合流し、その夜は盛大に騒ぐ事になった。


サウスセントラルで俺達が焼け死にそうになった時、奴等のアジトは燃えたわけだが、そうなるとあの時は奴等は百五十人全員で動いていた事になる。

 

理由は簡単。アジトを空にするにはハスラーも動かさないとダメだからだ。

つまり奴等のハスラーは俺達B.K.Bのハスラーと同じように、ケンカができる連中だと考えておいた方がイイ。

 

なのでウォーリアーが十数人になっていたとしても、奴等のハスラーと合わせるとまだまだ七、八十人くらいはいてもおかしくない。

 

 

「ライダー。クリック達が出てきた後、攻めるのは構わないが…厳しいと思わないか?」

 

次の朝、俺とライダーはガレージで話していた。

インパラの下にもぐっていたライダーが顔を出す。少し、車の調子を見てもらっているのだ。

 

「そうだな。でもやるしかないだろ?イイ手を考えようぜ」

 

ライダーは立ち上がって、ボンネットに置いていたコーラを飲んでいる。

 

奴等の新しいアジトの場所もよく分からないし、なかなか考えが浮かばなかった。


そんな悩みを持ったままではあったが、ライダーが

「せっかく車を診てやったんだから、たまには少しでもハニーと遊んでこい」

と言って俺を押し出した。悩みすぎている俺を見兼ねたのだろうか。

 

俺はリリーの家へと向かった。

 

「…え?サム…」

 

ドアから顔をだした彼女はなんだが複雑な表情だ。

俺がリリーを放っておきすぎたから愛想をつかされたのだろう。

 

「来ちゃまずかったか?」

 

「そういうわけじゃ…嬉しいよ。もう会えないと思ってた。最近すごい争いが続いてるみたいで怖くて…

生きてるか死んでるかを知るのも怖くて連絡できなかったんだよ」

 

彼女は泣きそうな顔だ。なんてイイ女だ。

この時初めて、リリーとならずっと一緒にいたいと思った。

 

それと同時に俺がどれだけ身勝手な行動をしていたのかも思い知らされた。これだけ想ってくれる人がいるのに俺は…

 

「リリー。この争いが終わったら…結婚してくれないか?」

 

俺は自分で言っておきながらハッとなる。一体何を言ってるんだと思った。

 

彼女は困ったような表情を浮かべている。


「やっぱり今のは聞かなかった事にしてくれ。じゃあまた…」

 

俺は慌てて言い直した。

くるりと振り向いてインパラへと乗り込む。

 

彼女はただうつむいていた。

やっぱりこんな危ない生活を送る俺と一緒になろうなんて奴はいないだろう。

 

「考えておく!」

 

キーを回そうとしていた俺はその大声に驚いた。

 

「本当に、平和な町になったらね!」

 

そう言うと彼女は手を振ってドアを閉めた。

参ったな。自分から言っておきながらも、この町から争いがなくなる事なんて、いつの事だか分からない。

 

俺はエンジンをかけた。

 

その足で次に刑務所へと向かうことにした。クリックや他のホーミー達に会う為にではない。

 

手続きを済ませ、しばらく待つ。

二十分ほどボーっとしていたら面会室へと通された。

 

オレンジの囚人服を着て、奴がガラス越しの対面の部屋へと入ってくる。イスに座った。

 

「よう、ホーミー。久し振りだな!来てくれたのか!嬉しいよ!」

 

満面の笑みだ。昔の小柄な体系とは違い、体格がかなりイカツクなっている。

ムショではする事がないので鍛えているのだろう。

 

「久し振りだな、コリー」

 

俺も自然と笑ってしまった。


「誰も来てくれないんで寂しかったぜー!インパラは仕上がったのか?クレンショウはどうだった?」

 

「あぁ。最高な車に仕上げたぜ。ありがとよ、ドッグ。

なかなか来れなくてすまない。外は外で今かなり大変なんだ。ホーミー達も半分以上死んじまった…」

 

俺の言葉にコリーが、嘘だろ!と詰め寄る。奴はガラスに頭をぶつけた。

 

「おいおい…大丈夫か、ドッグ?

今デカイ抗争が起きてるんだ。それでかなり犠牲者が出てる。

スノウマンは死んだ…

それにガイは事情があって、家族の為に泣く泣くN.Y.に引っ越した。

あと、クリックや数人のホーミーが今ココに捕まってる。

アイツらは銃の不法所持やらクロニックの所持だから、お前とは違ってもうすぐ出て来るけどな。会わなかったか?」

 

「クリックとか?分からない。軽犯罪者とは別の棟だからね。

ガイの事情ってのはよく分からないけど、まぁ…アイツなりに考えがあるんだろ?」

 

コリーは一息おいた。

 

「サム。それより、スノウマンが逝ったのか…」

 

「あぁ…」

 

「そうか…R.I.P.…Snowman…」

 

奴は静かに胸で十字を切った。


「…そろそろ時間だな。また来るぜ、ブラックホール」

 

「ん…?なんだ…そりゃ」

 

「あぁそうか。知らないんだな。お前にみんながつけたニックネームだ」

 

コリーの顔に喜びの光がさしたのが分かった。

 

「俺に…?ニックネームを?おぉ…嬉しいぜぇぇ…」

 

だが逆に嬉しくて泣かせてしまった。

俺はそれがおかしくて、笑ってコリーにハンドサインを出した。奴も泣き笑いしながらもハンドサインを返した。忙しい奴だ。

 

俺は刑務所を後にした。だが、二十四時間後には再び刑務所前にいた。

 

 

ジャックのサバーバンには俺とジャックの二人だけ。だがすぐにこの車の中は騒がしくなる事だろう。

 

「えーと…まだか、ジャック?」

 

「知らねぇよ。いきなり今、出たから迎えに来いだなんて、ふざけやがって。なのに来てみりゃまだいねぇ!」

 

釈放されてからすぐにクリックから電話を受け取ったらしい。

ジャックはイライラとガムを噛んでいる。

 

「来たぜ」

 

数人の男達が建物から出てきて、そのまま乗り込んでくる。

 

「サム!ハッパをくれよ~」

 

車内が煙たくなると同時にジャックが俺とクリックに怒鳴ったのは言うまでも無い。


 

クリック達を迎え入れた俺達は、その夜サウスセントラルにいた。

そう。留守番を何人か残して、たった三十人ほどで俺達は殴り込みを決行したのだ。

 

作戦も何もない。奴等が俺達に気付いて集まる前に、見つけた奴等を少しずつ潰していく。ヤバくなれば固まってすぐに逃げる。ただそれだけだ。

 

まず俺達は奴等のテリトリーから少し離れた林に車を隠した。

逃げる時はここまで走ってくる事になる。車ごとやられてしまってはこの前のように帰る手段がなくなってしまうからだ。

 

「よし、行くぞ!」

 

マークがみんなに気合いを入れている。

 

みんなで奴等のテリトリーへと入った。

 

しばらく歩く。ギャングはおろか、一般人すらもいない。

何人かのホーミーは途中で見つけた奴等(GangstaCrip)のタグの上にB.K.Bのタグを書き込んでいる。ざまぁみろ。

 

「おい!いたぞ!」

 

見つけた。紺色のバンダナを下げた二人のクリップスだ。俺達の方を見ていた。

俺達はだんだんと奴等に近付く。だがクリップスは動こうとしない。


「B.K.B…会いたかったぜ」

 

何とそのウチの一人が話し掛けてきた。

 

俺達は二人を目の前にして立ち止まる。フードを深く被って顔は見えないが、なんだか聞いた事のあるような声だ。

 

「OG-Bってのはどいつだ?」

 

もう一人の方が言った。コイツは顔をあらわにしていた。背丈は高くてかなり痩せている。全身紺色のディッキーズだ。左腰には紺色のバンダナ。首筋には『blood Killa(ブラッズ殺し)』の文字が彫り込まれ、眼にかなり威圧感がある男だった。

 

「ランド、その正面にいるのがOG-B…サムだぜ」

 

最初に話し掛けてきた男が言った。

ランドと呼ばれた男が俺をじっと見つめる。何と、コイツがギャングスタクリップのリーダー、ランドだというのか。これは奴をブチ殺す絶好のチャンスだ。

そう思った時だった。奴は俺の心を見透かしたかのように言葉を発した。

 

「おい、俺を殺ろうなんざ百年早いぜ。なぁ…bj?」

 

…!!

 

フードを被っていたクリップスが顔を見せた。

 

「bj…てめぇ!なんで…」

 

そう。ソイツはクレンショウブラッドのピヨピヨのニュージャック…『bj』だった。


「おいおい、知り合いだったか」

 

ランドがおかしそうに笑っている。

だがすぐに元の鋭い顔つきに戻った。

 

「悪い。冗談だよ。bjは今やクリップの人間だ」

 

「ふざけやがって!」

 

俺は叫んだ。

気にせずランドはすべてを語り始めた。

 

「まあそうカッカすんなよB.K.B。話くらい聞いてくれるだろ?

…bjはクレンショウブラッドを裏切って、俺達に売ったんだよ。人数やらアジトやら、とにかく潰す為に必要な情報をな。

アイツらはB.K.Bに加勢したり、まあ…元々目障りだったから消した。

だが、俺達に睨まれちゃヤバイって思うお友達はたくさんいたみたいでよ?bj以外にもたーくさんこっちに寝返る人間が出てきたんだなぁ、これが。そんでどうしたと思う…?」

 

ランドはまたおかしそうに笑っている。

だがまたすぐに元の顔に戻る。どうやらクセらしい。

 

「同士討ちだよ。クレンショウブラッドのラット側とbj率いる裏切り側でな」

 

奴の眼がさらに鋭く輝いた。bjもニヤニヤしている。


「クソが…bj!てめぇにブラッズの誇りは無いのか!」

 

俺は再び叫んだが、ランドがすぐにまた返した。

 

「サム!まだ話は終わってないぜ!ケンカなら話が終わってゆっくりやろうや。面白い話だからよ!

…イイか?それで、クレンショウブラッドは内部崩壊した。で、次はB.K.Bなんだが…俺が本当に欲しいのはお前達の命でもテリトリーでも何でもないんだな、これが」

 

B.K.Bのホーミー達も相手が二人ならいつでも殺れるから、と話を最後まで聞こうとしている。

当然周りに奴等の仲間がいないかどうか、きちんと警戒しながら。

 

話が終わった時が奴等の命の終わりだ。

俺はランドにたずねた。

 

「じゃあ何が狙いだ?」

 

「よく聞いてくれたな、サム!お前とは仲良くなれそうだ。

俺の狙いは、コンプトンを潰す事だぜ。その為にこのサウスセントラルとお前達の地元、イーストL.A.の二か所から挟み撃ちにする。だからお前達が邪魔なんだよ」

 

コイツは何を言ってるんだと思った。コンプトンを潰す?有り得ない。一体何の為に。


「何でコンプトンを潰したいんだよ?」

 

「何でって…地図を思い浮かべれば分るだろ?

コンプトンにも俺達のテリトリーが出来れば、サウスセントラル、イーストL.A.、コンプトンをつないでデッカイ三角形が出来る。

そしたらその範囲内に入るサウスL.A.、サウスイーストL.A.、セントラルシティ、セントラルイースト、ウェストレイク、ワッツ…ぜーんぶ俺のもんになる」

 

とてつもない野望だった。これが高々いちギャングのリーダーが考える発想かと思った。だが、確かに奴等は少しずつ前に進んでいる。

 

「大した野郎だぜ」

 

俺は呆れながらも感心してそう返した。

 

「だろ?だからもうイイじゃねぇか。俺達の下につけよ、B.K.B。もうお前らの兵隊が残り少ないってのも分かってるんだからよ?」

 

俺はさらに驚いた。ホーミー達もさすがにこれにはブチ切れて怒号を上げている。

 

「ふざけんな!俺達はお前をブッ殺す!」

 

俺はツバを吐いてそう返した。


奴の眼が鋭さを増す。しかも尋常じゃない。

 

「残念だな。お前は賢いリーダーだと聞いてたから期待してたのによ…そんなに血を流したいか!」

 

「バカか、てめぇ!死ぬのはお前らだ!ランド!bj!」

 

ホーミー達が一斉に武器を構える。同時にランドは鼻で笑った。

 

「忘れたか?クレンショウブラッドは同士討ちさせて潰したんだぜ?じゃあギャングスタクリップは?」

 

B.K.Bのホーミー達が騒ぎ出す。いつの間にか周りには百…いや百五十近いギャングスタクリップの奴等が俺達を囲んでいた。

そうか。ウォーリアーが残り二十人だと言う情報を流した事も、わざわざ二十人くらいで俺達の地元に攻めてきた事も…

 

 

すべて…罠だった。

 

パアン!パアン!

 

「ぐあっ…!」

「うっ!クソ…」

 

ランドとbjが胸を抑えて倒れる。クリックが撃ちやがった。

やるじゃないか。やられる前にリーダーくらいは殺しとかないといけない。

 

「は!ざまぁみろ~!ベラベラ喋りやがって~!」

 

「難しい話はどうでもイイんだよ!みんな!やっちまおうぜ!!」

 

クリックとマークが叫び、ホーミー達は360度俺達を囲んだクリップスにぶつかっていった。

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