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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
20/61

dream

俺は夢を見る。

 

そして、悪夢を生きる。

「どうした、マーク?」

 

「俺達E.T.が生きているのは何でだと思う」

 

唐突な質問だ。

 

「…ホーミー達のおかげだろ?」

 

「確かにそうだ。俺達をかばって、多くのホーミーは死んだ…あの日、奴等の最期の言葉を知ってるか?」

 

みんな黙って聞いている。

 

「いや…知らない」

 

「アイツら…みんな揃って口にするのは…

 

『E.T.を守れ!』

『E.T.を先に逃がせ!』

『E.T.だけが俺達の希望だ!』

『早く行け!E.T.!』

 

みんな…そんなことばっかり言いやがって!

俺達はそこまでして守ってもらう価値があったのか…?同じ仲間だろうが!」

 

マークは涙で言葉に詰まった。

俺の目からもいつの間にかボタボタと溢れ出る。

 

そんな。俺達はたまたま逃げ切れたわけではなく、生かされたというのか。

他のホーミー達は、俺達イレブントップを逃がす為に、進んで犠牲になったというのか…!

 

俺が逃げている時に犠牲になったのはスノウマンだったが、それ以外にも俺が逃げる為に人知れずホーミーが警官に立ちはだかったのかもしれない。

俺は胸が苦しくなった。


 

「そうだったのか…」

 

ひとしきり泣いた後、俺はようやく口を開いた。

マークが頷く。

 

「みんな。聞いてくれ。マークが言ったように、俺達は多くのホーミー達によって生かされた。この命をムダにはできない」

 

おう!とみんなから声が上がる。

 

「俺達は多くのホーミーの魂を背負って、何としてもこの地元を守り抜く!俺達は負けない!死にはしない!」

 

大きく息を吸い込んで言葉を吐き出す。

 

「B.K.B 4 life!!」

 

「B.K.B 4 life!!」

 

みんなからも大声が上がった。

高くハンドサインをかかげ、いつまでも繰り返して叫ぶ。

 

B.K.B 4 life…

 

俺達の合言葉。

 

E.T.以外のホーミーの背中に刻まれた誇り。

 

E.T.にはクレイへの祈りの言葉が刻まれている。

 

『R.I.P. Kray』

 

ジャックの背中にはもう、名前を刻むスペースがないほどに、仲間を失った。

 

次は俺が引き継ぐ。俺は仲間によって生かされてきた大きな存在…E.T.の名前を彫った。

 

ウィザード、スノウマン。

 

 

俺達は叫び疲れて眠った。


「サム。起きろ」

 

「ん…」

 

マークが俺を起こした。

ぼんやりしたまま俺は奴を見つめる。

 

「遊びにいこうぜ」

 

「はぁ?何言ってんだよ、ニガー。こんな時に…」

 

「こんな時?まあ行こうぜ」

 

マークは俺を連れ出した。

行き先はセントラルパークのようだ。

 

公園にはジミーとライダーとシャドウがいた。奴等はダイスゲームをしている。ジミーが勝っているらしく、かなり上機嫌だ。

 

みんな何をしてるんだ。今は遊んでる場合じゃない。

 

「よう、サム、マーク。お前らもやるか!」

 

ジミーが手招きをする。イイ天気だ。

なんだか悲しい事もわすれてしまいそうなほどに…吸い込まれそうな空。

 

五人でのダイスゲームが始まろうとしたが、途中誰かの大声で邪魔されてしまった。

 

「おーい!何やってんだ、ホーミー!」

 

あれは…ジャックだ。

もう一人誰かいるみたいだ。

徐々に近付いてくる。

 

みんなハンドサインを出して奴を迎えた。

 

「ダイスか~?俺達もまぜてくれよ」

 

なんとジャックの横にいたのはクリックだった。


そうか…出てきたんだな。

気を取り直し、ゲームがまた始まろうとした。

しかし再び誰かの声で中断する。

 

「よう。ホーミー達」

 

…!!

 

声の主はガイだった。

俺はたまらず驚いた。みんなは俺が飛び上がったのを不思議そうに見ている。

 

「サム、なにやってんだ…?早く座れよ。ガイ、お前もやるだろ?」

 

マークが言った。

 

「おう、ひと勝負といこうか。ん?おい、見ろよ」

 

また一人、セントラルパークに走ってくる。

みんなは大笑いしている。

 

「アイツ、金の匂いを嗅ぎ付けてきやがったな!」

 

ライダーが言った。

 

「おーい!待ってくれぇ!仲間はずれだなんてひどいよ、ホーミー!」

 

息を荒げながら全力で走ってくる。

見覚えのある顔、コリーだ。

 

いったいどうなっている。

どうしてみんな驚かない。記憶を無くしたのか…

それとも俺がおかしくなってしまったのか。

 

「コリー!なんで出てきてるんだよ!?」

 

「出てきた?なにが?」

 

どうやら後者だったようだ。

俺の問い掛けにコリーはキョトンとしている。


みんなは何も気にせずダイスゲームを再開しようとしている。

俺はみんなに一つ質問をしてみた。

 

「おい、まだ誰か足りないんじゃないか?」

 

「あぁ、そういやそうだな。ま、すぐにやって来るさ」

 

マークが当たり前のように答えた。

するとまたまたタイミングよく二人の男が現われた。

 

「ほら、来た」

 

…!

 

俺は駆け出した。

そのままソイツら二人に勢いよくぶつかる。

二人のウチ、デカイほうが支えてくれた。

 

「おっと!サム、どうしたんだよいきなり」

 

「お前たち…!」

 

俺はスノウマンの腕の中でわんわん泣いた。

ウィザードが不思議そうに見ている。

他の仲間も近付いてきた。

 

「なんだ?変な奴だな」

 

変わらない呆れた口調で、ウィザードが言った。

 

「B.K.B 4 life…」

 

俺がつぶやいた。

みんな訳が分からないという顔をしていたが、すぐに返してくれた。

 

「B.K.B 4 life!」

 

まったく変なヤロウだぜ!とみんなは俺を笑っていた。


 

「サム。おい、サム」

 

マークの声がする。

俺は目を開けた。

アジトの中…やはり夢だったか。

 

「どうした、マーク」

 

「どうもこうも、みんな集まってるぜ。これからどうするか決めないと」

 

「あぁ…そうか。分かった」

 

ゆっくりと体を起こして立ち上がった。

 

「みんなは外だ。早くしろよ」

 

アジトからマークが出て行く。

俺はそばにあったドジャースのキャップを被って後に続いた。

 

 

外にはマークの言った通りホーミー達が集合していた。

みんな黙っている。無理もない。あの悪夢からそんなに時間が経っていないのだ。

 

「ホーミー達!今は辛いだろう!B.K.B始まって以来の大ピンチだ!だが俺はあきらめないぞ!ここから再びのし上がる!」

 

みんなしんとしている。まったく勢いが感じられない。

 

「クソ…なんだお前達!仲間の死をムダにするのか?」

 

まだ誰も反応しない。

マークが俺の肩に手を置く。

 

「夜が明けてから、ずっとこの調子なんだ…」

 

「マーク…俺はどうすれば…」

 

そうしている間にバラバラとホーミー達が帰りはじめてしまった。


「おい!待てよ!」

 

俺が叫ぶ。

自分も辛い中で下手な励まししかできなかったが、みんなには伝わらなかったようだ。

俺はマークと二人きりでポツンとアジトに残されてしまった。

 

「アイツらもB.K.Bを裏切る気はないんだろうが…

叫び疲れて眠った後、朝起きてから何だか胸にポッカリ穴が開いたみたいでよ。それでみんな元気がないんだ」

 

マークが地べたに座り込んで言った。俺も隣りに座る。

 

「みんな…クソ!俺はどうすれば…」

 

「ほら」

 

マークがタバコを取り出して俺に一本くれた。

火をつけてゆっくりと吸い込む。

 

「ありがとう」

 

思えば、マークは兄貴のビッグクレイを除けば一番古い友達だ。

 

他のE.T.もみんなイイ奴等ばかりだが、中でもマークはわずかな差ではあるがE.T.で一番早く俺と仲良しになった。

マークと二人きりで何もせず、ゆっくりする時間だなんて、ここ何年も忘れてしまっていた。

 

「サム、仲間が死んだり、色々あったけど…俺達よくここまで来たよな」

 

「あぁ…マーク、俺とホーミーになってくれてありがとうな…」

 

ふいにこぼれた言葉に俺の目からは不思議と涙が流れた。


「なんだよいきなり!照れるじゃねぇか」

 

「ははは、わりぃわりぃ。

しかし、まったく…夜とは打って変わって勢いがなくなっちまったんだな。あんなに叫んでたのに」

 

俺は話を戻した。

マークもうーん、と考え込んでいる。

 

「マーク、どうやったらアイツら元気になるかな?」

 

「分からねぇ」

 

「じゃあ…もし今、ギャングスタクリップからの攻撃が再びあったとしたら?」

 

考えられない事もなかった。奴等は計算に計算を重ねて俺達を打ち倒したキレ者だ。

今弱っている俺達を叩く事も充分予測の範疇に入った。

 

「そりゃマズいぜ…」

 

「だよな…」

 

二人でため息をついた。

だがすぐに俺はイイ考えを思いついた。

バッと立ち上がる。

 

「マーク、それだ!」

 

「うぉ!びびった!何だ?」

 

「敵が来たらどうするんだ?って呼び掛けるんだよ!それでホーミー達にも勢いが戻るはずだぜ!」

 

「おぉ!そうか!あえて敵の話を出して奴等の気持ちを復活させるんだな!」

 

マークも立ち上がった。

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