dream
俺は夢を見る。
そして、悪夢を生きる。
「どうした、マーク?」
「俺達E.T.が生きているのは何でだと思う」
唐突な質問だ。
「…ホーミー達のおかげだろ?」
「確かにそうだ。俺達をかばって、多くのホーミーは死んだ…あの日、奴等の最期の言葉を知ってるか?」
みんな黙って聞いている。
「いや…知らない」
「アイツら…みんな揃って口にするのは…
『E.T.を守れ!』
『E.T.を先に逃がせ!』
『E.T.だけが俺達の希望だ!』
『早く行け!E.T.!』
みんな…そんなことばっかり言いやがって!
俺達はそこまでして守ってもらう価値があったのか…?同じ仲間だろうが!」
マークは涙で言葉に詰まった。
俺の目からもいつの間にかボタボタと溢れ出る。
そんな。俺達はたまたま逃げ切れたわけではなく、生かされたというのか。
他のホーミー達は、俺達イレブントップを逃がす為に、進んで犠牲になったというのか…!
俺が逃げている時に犠牲になったのはスノウマンだったが、それ以外にも俺が逃げる為に人知れずホーミーが警官に立ちはだかったのかもしれない。
俺は胸が苦しくなった。
…
「そうだったのか…」
ひとしきり泣いた後、俺はようやく口を開いた。
マークが頷く。
「みんな。聞いてくれ。マークが言ったように、俺達は多くのホーミー達によって生かされた。この命をムダにはできない」
おう!とみんなから声が上がる。
「俺達は多くのホーミーの魂を背負って、何としてもこの地元を守り抜く!俺達は負けない!死にはしない!」
大きく息を吸い込んで言葉を吐き出す。
「B.K.B 4 life!!」
「B.K.B 4 life!!」
みんなからも大声が上がった。
高くハンドサインをかかげ、いつまでも繰り返して叫ぶ。
B.K.B 4 life…
俺達の合言葉。
E.T.以外のホーミーの背中に刻まれた誇り。
E.T.にはクレイへの祈りの言葉が刻まれている。
『R.I.P. Kray』
ジャックの背中にはもう、名前を刻むスペースがないほどに、仲間を失った。
次は俺が引き継ぐ。俺は仲間によって生かされてきた大きな存在…E.T.の名前を彫った。
ウィザード、スノウマン。
…
俺達は叫び疲れて眠った。
「サム。起きろ」
「ん…」
マークが俺を起こした。
ぼんやりしたまま俺は奴を見つめる。
「遊びにいこうぜ」
「はぁ?何言ってんだよ、ニガー。こんな時に…」
「こんな時?まあ行こうぜ」
マークは俺を連れ出した。
行き先はセントラルパークのようだ。
公園にはジミーとライダーとシャドウがいた。奴等はダイスゲームをしている。ジミーが勝っているらしく、かなり上機嫌だ。
みんな何をしてるんだ。今は遊んでる場合じゃない。
「よう、サム、マーク。お前らもやるか!」
ジミーが手招きをする。イイ天気だ。
なんだか悲しい事もわすれてしまいそうなほどに…吸い込まれそうな空。
五人でのダイスゲームが始まろうとしたが、途中誰かの大声で邪魔されてしまった。
「おーい!何やってんだ、ホーミー!」
あれは…ジャックだ。
もう一人誰かいるみたいだ。
徐々に近付いてくる。
みんなハンドサインを出して奴を迎えた。
「ダイスか~?俺達もまぜてくれよ」
なんとジャックの横にいたのはクリックだった。
そうか…出てきたんだな。
気を取り直し、ゲームがまた始まろうとした。
しかし再び誰かの声で中断する。
「よう。ホーミー達」
…!!
声の主はガイだった。
俺はたまらず驚いた。みんなは俺が飛び上がったのを不思議そうに見ている。
「サム、なにやってんだ…?早く座れよ。ガイ、お前もやるだろ?」
マークが言った。
「おう、ひと勝負といこうか。ん?おい、見ろよ」
また一人、セントラルパークに走ってくる。
みんなは大笑いしている。
「アイツ、金の匂いを嗅ぎ付けてきやがったな!」
ライダーが言った。
「おーい!待ってくれぇ!仲間はずれだなんてひどいよ、ホーミー!」
息を荒げながら全力で走ってくる。
見覚えのある顔、コリーだ。
いったいどうなっている。
どうしてみんな驚かない。記憶を無くしたのか…
それとも俺がおかしくなってしまったのか。
「コリー!なんで出てきてるんだよ!?」
「出てきた?なにが?」
どうやら後者だったようだ。
俺の問い掛けにコリーはキョトンとしている。
みんなは何も気にせずダイスゲームを再開しようとしている。
俺はみんなに一つ質問をしてみた。
「おい、まだ誰か足りないんじゃないか?」
「あぁ、そういやそうだな。ま、すぐにやって来るさ」
マークが当たり前のように答えた。
するとまたまたタイミングよく二人の男が現われた。
「ほら、来た」
…!
俺は駆け出した。
そのままソイツら二人に勢いよくぶつかる。
二人のウチ、デカイほうが支えてくれた。
「おっと!サム、どうしたんだよいきなり」
「お前たち…!」
俺はスノウマンの腕の中でわんわん泣いた。
ウィザードが不思議そうに見ている。
他の仲間も近付いてきた。
「なんだ?変な奴だな」
変わらない呆れた口調で、ウィザードが言った。
「B.K.B 4 life…」
俺がつぶやいた。
みんな訳が分からないという顔をしていたが、すぐに返してくれた。
「B.K.B 4 life!」
まったく変なヤロウだぜ!とみんなは俺を笑っていた。
…
「サム。おい、サム」
マークの声がする。
俺は目を開けた。
アジトの中…やはり夢だったか。
「どうした、マーク」
「どうもこうも、みんな集まってるぜ。これからどうするか決めないと」
「あぁ…そうか。分かった」
ゆっくりと体を起こして立ち上がった。
「みんなは外だ。早くしろよ」
アジトからマークが出て行く。
俺はそばにあったドジャースのキャップを被って後に続いた。
…
外にはマークの言った通りホーミー達が集合していた。
みんな黙っている。無理もない。あの悪夢からそんなに時間が経っていないのだ。
「ホーミー達!今は辛いだろう!B.K.B始まって以来の大ピンチだ!だが俺はあきらめないぞ!ここから再びのし上がる!」
みんなしんとしている。まったく勢いが感じられない。
「クソ…なんだお前達!仲間の死をムダにするのか?」
まだ誰も反応しない。
マークが俺の肩に手を置く。
「夜が明けてから、ずっとこの調子なんだ…」
「マーク…俺はどうすれば…」
そうしている間にバラバラとホーミー達が帰りはじめてしまった。
「おい!待てよ!」
俺が叫ぶ。
自分も辛い中で下手な励まししかできなかったが、みんなには伝わらなかったようだ。
俺はマークと二人きりでポツンとアジトに残されてしまった。
「アイツらもB.K.Bを裏切る気はないんだろうが…
叫び疲れて眠った後、朝起きてから何だか胸にポッカリ穴が開いたみたいでよ。それでみんな元気がないんだ」
マークが地べたに座り込んで言った。俺も隣りに座る。
「みんな…クソ!俺はどうすれば…」
「ほら」
マークがタバコを取り出して俺に一本くれた。
火をつけてゆっくりと吸い込む。
「ありがとう」
思えば、マークは兄貴のビッグクレイを除けば一番古い友達だ。
他のE.T.もみんなイイ奴等ばかりだが、中でもマークはわずかな差ではあるがE.T.で一番早く俺と仲良しになった。
マークと二人きりで何もせず、ゆっくりする時間だなんて、ここ何年も忘れてしまっていた。
「サム、仲間が死んだり、色々あったけど…俺達よくここまで来たよな」
「あぁ…マーク、俺とホーミーになってくれてありがとうな…」
ふいにこぼれた言葉に俺の目からは不思議と涙が流れた。
「なんだよいきなり!照れるじゃねぇか」
「ははは、わりぃわりぃ。
しかし、まったく…夜とは打って変わって勢いがなくなっちまったんだな。あんなに叫んでたのに」
俺は話を戻した。
マークもうーん、と考え込んでいる。
「マーク、どうやったらアイツら元気になるかな?」
「分からねぇ」
「じゃあ…もし今、ギャングスタクリップからの攻撃が再びあったとしたら?」
考えられない事もなかった。奴等は計算に計算を重ねて俺達を打ち倒したキレ者だ。
今弱っている俺達を叩く事も充分予測の範疇に入った。
「そりゃマズいぜ…」
「だよな…」
二人でため息をついた。
だがすぐに俺はイイ考えを思いついた。
バッと立ち上がる。
「マーク、それだ!」
「うぉ!びびった!何だ?」
「敵が来たらどうするんだ?って呼び掛けるんだよ!それでホーミー達にも勢いが戻るはずだぜ!」
「おぉ!そうか!あえて敵の話を出して奴等の気持ちを復活させるんだな!」
マークも立ち上がった。




