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B.K.B 4 life  作者: 石丸優一
2/61

meets

こいつらみたいな仲間に出会えたことで、俺は何度救われただろうか。

クレイが中学校に出て行った二年後。

俺は五年生になっていた。

母ちゃんは相変わらず忙しくてあまり家でも顔は合わせなかった。

 

クレイは中学校でも上手くやっているみたいだったし、俺も友達に恵まれていた。

 

この頃になると俺の周りの友達は、みんな悪い事に手を出し始める。

店の商品を盗んだり自転車を盗んだりしては、はしゃいだ。

初めての酒やタバコ、クロニックにも手を出した。

 

 

仲間にも信頼のおける奴等がちらほら出てきた。

その内の一人のマークという奴は、体が縦にも横にもデカくて熊みたいな奴だ。

力もかなりあって、他の奴等とケンカする時にも必ず先陣を切って戦うような頼りになる男だ。

 

俺達は互いに「ニガー」だとか「ドッグ」と呼び合い、親密さは増していった。

 

 

ある日、いつものように自転車を盗み、俺は四、五人ほどの仲間達とたむろしていた。

 

すると白人の若い集団十人ほどが通りかかり、俺らを指差して笑い始めた。

見た感じ、イイ暮らしをしてそうな奴等。身なりはキレイに整っていて金には何不自由なく暮らしている連中だ。

 

「おい!あそこに臭そうな黒人ニガーどもがいるぜ」

 

再び大爆笑。

確かに俺達はみんな家庭が貧乏なので身なりが汚かった。




マークが吠える。

 

「ブッ殺すぞ!クソ白人が!」

 

俺達は服装をバカにされた事よりも、白人に「ニガー」と呼ばれた事に腹を立てた。

マークを先頭に俺達は一斉に突っ込む。

 

まずマークが悪口を言った白人を一撃の右ストレートで倒した。それに乗じて他の奴にも殴りかかる。しかし奴等もケンカ慣れしているのか、なかなか手強かった。仲間が一人、二人と倒されていく。

 

それを見たマークは完全に我を忘れて、メチャクチャに暴れ出してしまった。

 

 

その時。

どこからともなくサイレンが鳴り響き、一台の警察車両が走って来るのが見えた。

 

「うぉ!ヤバいな…!」

 

マークは我に帰り、倒れた仲間を担いで駆け出す。

白人達も散り散りに逃げている。

 

「覚えてろよ!クソったれ!」

 

そう俺は言い放って退散した。

おそらく相手は中学生くらいだろう。






 

『覚えてろよ』の言葉通り、再戦の時はやってきた。

 

二日後、同じ場所にまたアイツらがやってきたのだ。

よほど黒人が嫌いらしく『KKK』と書かれた旗を持っている。

 

「まったく…俺らが何をしたっていうんだよ」

 

俺は力なく言った。

白人達は人数が若干増えていて、十五人ほどいるようだ。

 

だがそれはこちらも同じだ。たまたまだが、この日は九人いた。

その中にはマークの他にもう一人、もっとも信頼のおける仲間で、尊敬している兄貴、クレイがいた。

 

偶然みんなで話している所にクレイが通りかかり、ちょうど仲間達に兄貴を紹介している最中だったのだ。

 

クレイは好んでケンカをする性格ではないが、仲間や兄弟がやられた時には戦うというスタンスはそのまま残っていた。

 

「…ん?サム、なんだアイツら?」

 

「おととい、ケンカを吹っ掛けてきた奴等だよクレイ。黒人をバカにするんだ」

 

「…嫌な奴等だな」

 

俺はクレイと一緒にケンカができると思うと、昔を思い出してワクワクしていた。


だが、クレイが出した答えは意外なものだった。

 

「サム、相手にするなよ。俺が話をつけてくる」

 

「なんだって?クレイ!危ないよ!」

 

しかしクレイは白人の方へスタスタと歩いて行った。

 

 

しばらく経ってクレイが戻ってくる。

 

「ケンカを吹っ掛けたのはお前達らしいじゃないか。

サム、やられた時だけやり返せばイイんだよ。言いたい奴には言わせておけばイイんだ」

 

俺達は納得がいかなかった。

しかしクレイに早く帰れと言われ、みんな渋々引き下がる。

 

 

「サム、お前の兄ちゃんはとんだ腰抜けだな!」

 

帰り道にそう言われた俺は、マークの腹に一発入れてやった。

 

「何か考えがあるはずだ!クレイは腰抜けじゃない!小さい頃からたった一人で俺を守ってくれた!」

 

家に帰り、ベッドに横になっていたが、クレイがその夜帰ってくる事は無かった。







次の日、俺はドアをノックする音で起こされた。ドアを開けると一人の白人警官が立っている。

 

「サム君かな?お母さん、いるかい?」

 

母ちゃんは仕事でいないと伝えると、今日は学校に行かなくてイイから車に乗れと言われた。

 

 

「お兄ちゃんが大怪我をして病院にいるんだよ」

 

「クレイが!?どうして?」

 

「昨日道端に倒れているのを近くの人が見つけてくれたんだよ」

 

信じられなかった。

どうやらあの後、白人達にやられたらしい。

 

 

病院に着くと、すぐさま俺はクレイの元に走った。

 

「…!」

 

そこには…意識が戻らず、静かに眠っている兄貴の姿があった。

 

「誰かにやられたみたいだけど、犯人は分かっていないんだ」

 

俺の後から病室に入ってきた警官が言った。

 

「犯人は白人だよ!中学生くらいの!『KKK』って旗を持ってた!」

 

「全力で捜査にあたるよ」

 

そう言った警官の口がニヤリと吊り上がる。

 

「…!」

 

コイツは…分かってて捕まえようとしていない。人種差別は警察にまで浸透しているのか、と俺は怒りを覚えた。







次の日。俺は学校に行き、仲間達にすべてを伝えた。

 

風の噂で聞いたところによると、真相はこうだ。

 

クレイは、俺達に対して『白人達からは二度と近付かない事』を条件に自分だけの犠牲で終わりにするよう頼んだ。すべては、まだ小学生である自分の弟と、その仲間達を守る為にやった事だった。その事実を知った仲間達は子供ながらに感動し、みんな涙を流していた。



マークは俺を抱き締めて

 

「お前の兄貴は腰抜けじゃない。もっとも尊敬するべき男だ」

 

と言って号泣した。


 

その瞬間、みんなの気持ちは一つに決まったのだ。

 

『クレイのカタキを討つ』


 




 

俺達はそれから毎日、あの白人の集団の情報を手当たり次第に探し回った。

 

学校帰りにはみんなで俺の部屋に集まり、情報を交換し合う。仲間の一人のトニーという奴は俺らの為にたった一人で武器を調達して来た。近所のホームセンターでバットやナイフを盗んできたり、一番驚いたのは他人の家に忍び込んで銃を仕入れて来た事だ。小柄で、すばしっこいトニーは盗みが一番得意だった。


 

のちにトニーは、ブツの調達の才能からウィザード(魔術師)のあだ名で呼ばれる事になる。





ある日、俺達はついに奴等の居場所をつき止めた。

予想通り奴等は中学生だったが、驚いた事にクレイと同じ学校の生徒だったのだ。

 

その晩、俺達のテンションは最高潮に上がり、みんなで俺の部屋でビールを飲んだ。

俺達は酔いつぶれてしまわないウチに作戦を考えることにした。

 

クレイの為に戦う事を誓ってくれたのは全部で十一人。

全員すべてクレイの大好きな赤色のバンダナを口に巻き、右腰にベルトから下げる。当時から問題となっていたギャング、クリップスとブラッズの内、同じ赤色をシンボルカラーとしているブラッズにあやかって『B.K.B』と名乗る事になった。

 

これは、Big.Kray.Bloodの頭文字をとってマークが名付けた。

『ビッグクレイ』というのは尊敬するべきクレイにみんながつけてくれたニックネームだ。

 

子供ながらに考えた幼稚な名前だが、みんな誇りを持ってその名を受け入れた。



作戦はこうだ。

 

まず、下校時間に一人が校門の近くで見張る。

顔はだいたい覚えているので、そいつらの集団を見つけたらみんながバラバラに後をつける。

誰もいないような場所に二、三人が声をかけて奴等をおびき寄せる。

そこで十一人が合流し、一気に叩き伏せる。単純でちんけな作戦だが、俺達は勝利を確信したかのように盛り上がった。

 

決行は三日後の放課後。

みんなそれぞれ、頭の中で勝利のシュミレーションをしたり、筋トレに励んだりして三日間を過ごした。


 

俺は毎日クレイの見舞いに行った。

 

「クレイ…カタキは討ってあげるからね」

 

クレイは相変わらず昏睡状態で、意識は戻らなかった。



 

そして、いよいよその日がきた。

 

俺達は中学校へと向かった。中学校ではまだ最後の授業が行われていた。


作戦は順調に進んだ。すぐにやつらを見つけたトニーが追跡し、挑発しながら予定場所に誘い込む事に成功する。

 

だが一つ問題があった。下校途中だった事もあり、この間来ていた連中の他にも生徒がついてきてしまったのだ。ざっと二十四、五人はいるように見える。

 

だが俺達は誰一人として怯まなかった。

それどころか十一人全員が口々に相手を侮辱するような言葉を叫びだしたのだ。

俺は、これほどに仲間とは頼もしいものなのかと思った。

 

 

しかし白人達は言い返してくるどころか、なぜか怖じ気付いているようだ。

 

「やべぇよ…見ろよ…アイツらギャングの構成員だったなんて…」

 

「ブラッズだ…殺されるぞ…」

 

口々につぶやいている。だが俺達はクレイのカタキを討つために容赦はしなかった。


 

「行くぜー!」


 

やはりマークが声を上げて真っ先に突っ込んで行った。

バットを振り回して雄叫びを上げている。

 

全員が突っ込み、相手を殴り、蹴りつけてボコボコにした。白人達は一切抵抗せずに、その場に倒れ込む者、逃げ出す者、さまざまだ。


 

辺りには仲間達の「B.K.B!」の叫び声がこだました。


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